1-3 これは普通のお話(恋白視点)

 陽斗が夢を見ている時の、恋白視点です。

 この小説は話ごとに、同じ時系列でコロコロ視点変わります。


 ───────────────────



『幼なじみは報われない敗北属性』




 それは、私が中学生のときに見た雑誌の記事に書いてあった言葉だ。

 当時から幼なじみであるハルを好きだった私は、当時その言葉に強い衝撃を受けた。

 幼なじみこそ一番近くて、相手を1番知ってるはずなのに。

 そう思っていると、次にこんなことが書いてあった。


『一番よく知ってるというのは両刃の剣。異性として意識されない可能性が高い』


 図星だった。

 ずっと隣にいるはずなのに、ハルは私を女性として見ている節がない。私が無愛想で可愛くないというのはもちろん自覚しているが、それにしても度が過ぎる。

 なるほど。それは寧ろ知っていることが問題だったのかと、改めて考えた。

 一度は距離を置こうかとも考えた。


 それでも……


 それでも、やっぱり彼を知りたい。

 毎日一緒にいたいのに離れるなんて、そんなのは絶対嫌だ。

 両刃の剣ならとことん研いでやる。自分をいくら傷つけても、いつか彼に致命的な一撃を届かせられるまでは研ぎ続ける。

『情報』という武器を、私は捨てずに持っていよう。

 …………それが、中学1年生の私が行き着いた結論。その日から日常が大きく変化した。



 高校2年の春、私こと佐倉恋白さくら こはくはいつものように5時半に起床。

 すぐに身支度を整えて、窓から隣の家のベランダに侵入した。


「……よっ」


 ガラスに開けた微小の穴から針金を通し、窓の鍵を巧く開けた。

 昔はこの作業に10分かかったが、今は5秒もあれば彼の寝顔を想像しながらでも開けられる。


「………………」


 そうして音一つたてずにハルの部屋に侵入。まずはいつものチェックから行う。

 ゴミ箱よし、タンスよし、ベッドの下よし、引き出しの鍵もいつものところにあるよね。よしっ。

 昨日は、この前私に話してくれた漫画の新刊を買ったみたいだ。今日はそれを理由に夜も部屋に入れてもらおう。


 そうやって日課を済ませていると、寝息が耳に入ってきた。「すぅ、すぅ」と可愛らしい声だ。

 でも今日はいつもより0.3秒ほど早いかな? 呼吸が荒いってほどじゃないけど、ちょっと心配かも。


「……ハル…………」


 ダメだ我慢できない。

 ハルの寝息を聴いて我慢できなくなった私は、首にぶら下げているものを手に取った。

 そして顔を近づけていき────。


 パシャッ


 写真を撮った。

 カーテンを開けていて部屋は明るいので、心置き無くシャッターを切れる。

 前に寝顔の写真ばかり撮っていたら、それだけでメモリーカードがいっぱいになったので自重していたのだが、こうして我慢できなくなった時だけたくさん調達している。


 ああ、すごくいい……!

 いつも起きてる時はキリッとした目なんだけど、こうして寝てる時は穏やかで可愛らしいタイプになるのがいい。

 あ、そうだ寝息を持って帰らなくちゃ。前の分は吸ってたら無くなったから、そろそろこっちも補充しないと。


 私はポケットから袋を出して、彼の口に当てた。

 本当は密閉させてハル度100%がいいんだけど、流石にそれは苦しいだろうからダメ。お酒だって強いのは水で割ったりするらしいし、原理としてはそれと同じだ。

 100%なんて吸ったらハル中毒で死ぬ。


「…………ふふ、ふ」


 幸せすぎて、思わず笑みがこぼれる。

 こんなに近くで好きな人の成分を補給できるのなんて幼なじみだけ。

 幼なじみ、最強。


「う…………んん……」


「!?」


 即座に窓際へ避難。

 今日は写真と寝息補充を同時にやったから、何か少し違和感を感じたのかもしれない。

 ハルは普段は朴念仁だけど、変なところで敏感なのだ。

 時刻を確認すると、部屋に入ってから既に30分が経過していた。早く部屋に戻って今日の写真を保存しないと。


「……よっ」


 再びベランダから跳んで帰宅。

 すぐにPCを立ち上げて今日の画像をファイルに保存した。

 そろそろ机の下にあるUSBをしまう場所がなくなってきた。次からもう少し容量の大きなやつにしよう。


 諸々の作業を20分ほどで完遂。

 カメラやビニールを片付けて、闇に紛れるための黒コートも脱ぐ。

 あとは制服に着替えていつも通りハルの家に、堂々と正面から入るだけ…………なのだが、今日は何だか気持ちがたかぶってる。

 寝息の補充をしたからかな?


 気持ちを落ち着かせるため、私は行く前に押し入れの中に貼ってある激選写真を眺めた。

 ハルの寝顔、怒り顔、恥ずかしがってる顔……選びに選び抜いた最高の写真を展示している、私だけのプラネタリウムみたいなものだ。

 今日の寝顔も後で貼っておこう。


「…………よし」


 やっと落ち着いた。

 今日も怪しまれないように、全力で情報収集に勤しもう。

 私は家を出て、合鍵を使って四宮家に入ると台所にはエプロン姿の恵ちゃんがいた。


「あ、恋白ちゃんおはよー。今日は少し早めに始めちゃったから、先にハル兄起こしてきてくれる?」


「……うん」


 恵ちゃんは、ハルの妹である。

 今年から中学三年生でサイドテールが可愛らしいハル似の美少女で、運動部だからか性格は勝気なのだが、根はすごく優しい。

 恥ずかしがり屋で素直になれないから、ハルに冷たい態度をとっているだけだ。

 いつか義妹にしたいランキング断トツ1位。


 恵ちゃんの許可を得たので、ハルを起こしに2階へ上がり部屋に入る。

 さっき窓から侵入ばかりだけど、こうやって制服で堂々と起こしに行けるのは彼女っぽくていい。ふふふ。


 とても気持ちよさそうに寝てるハルを起こすのは心が痛むが、無視する訳にもいかない。

 そう思ってベッドに近づいて彼の身体を揺すろうとしたとき、


「……ハル。そろそろ────」


「うんん…………恋白が俺の嫁……?」


「!?」


 どうしたの!?

 も、もしかして夢の中で私がハルのお嫁さんになってるってこと!? どうしよう、急にそんなこと言われても心の準備が……!

 夢の中ではこ、子どももいるのかな? いたら名前は何だろう。

 というかそんな夢を見るってことはハルも私のことが、すすす好きってことでいいんだよね!?

 でも所詮は夢の話だし…………ああでも……!


 唐突な寝言によって頭の中がパニック状態に。

 結局『これは夢だから多分勘違い』という答えでクールダウンするのに20分もかかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます