アブノーマルでも普通のお嫁さんになれますか?

赤ての

第1章

♯1

1-1 嫁に縛られるのは好きですか?


「うん…………ん?」


 朝、目が覚めると俺はいつものベッドに寝て──────いなかった。


「え、ちょっ何だよこれ!?」


 毎晩体を預けているものではなく、それよりも二回りくらい大きなふかふかのダブルベッド。その上にベルトのようなもので身体をガッチリ固定されていた。


 いやいやいや、突然すぎるだろ。

 だって昨日は休日だったから、普通に家で過ごしてそのまま寝ただけだぞ? 強いて言うなら、いつものように幼なじみが飯を食いに来たってことくらいだ。

 人に恨まれるようなことなんて、少なくとも身に覚えはない。


 誘拐? いやそれは無いか。どこの世界に人質の自宅に立てこもって身代金を要求する奴がいる。

 じゃあ監禁事件? それなら今の状況に十分合致するが、少なくとも俺は人に恨まれるようなことを最近した覚えはない。


 そんなことを考えている時、俺は部屋そのものの異変に気がついた。

 壁紙がカラフルすぎる。カーテンを閉め切った暗い部屋の中では、模様替えでもしたのかなと思っていたのだが、もちろんそんなことしていない。


 では何故そんな勘違いをしたのか。

 目を凝らして見れば答えは簡単、壁全体に俺の写真が張り巡らされていたからだ。

 寝顔や食事風景など、家の中で撮られたようなものばかり。


「いったいどういうことだよ……!」


 様々な角度から撮られた自分の姿。

 どこからどう見ても盗撮に間違いないが、俺にそんなことをするような相手は思い当たらない。


 そんなふうに突然の監禁状況でパニックになっていると、不意にドアの向こうから階段を上る足音が聞こえた。


「……ハル。起きたの?」


 部屋のすぐ外から聞き覚えのある落ち着いた声。

 間違いない。隣の家に住んでる幼なじみが俺を起こしに、すぐそこまで来たんだ!


「来るな恋白こはく! すぐに階段降りて逃げろ!」


「……なんでそんなこと言うの」


 しかし恋白は俺の言うことが理解出来ないのか、迷いなくドアノブを捻った。

 まだ俺を監禁した犯人も分からないのに、このままじゃ彼女まで酷い目に遭わされるかもしれない。


「来るなっつってんだろ! 何でか知らんが、今ベッドに──────」


「だから何を言ってるの……?」


 俺の必死の叫びもいざ知らず、彼女は普段通り部屋に入ってきた。

 白銀の髪に不健康なほど真っ白な肌。幼げな見た目と、何よりあの感情の読めない無表情は、紛うことなき俺の幼なじみの佐倉恋白さくら こはくだ。

 しかしその姿を見て、俺は思わず言葉を失った。


「おま、それ……」


「……なに。おかゆがどうしたの」


 そう、おかゆ

 いつもなら恋白は俺を起こしに来るだけで、朝食は1階の食卓で妹と3人で食べる。

 世話焼きの幼なじみが甲斐甲斐しく、朝にお粥を部屋まで持ってくる…………そんなこと、病気でもないのにあるわけがない。

 まるで俺がベッドに拘束されていることが分かっているみたいな行動だ。


 そして、違和感を感じたのはそこだけではない。


「そのエプロンは?」


「……2人で買いに行ったの、忘れた?」


「それを俺が一緒に?」


 こくっ、と頷く。

 そんな大きなハートが飾り付けられたエプロンを、俺が? そんなの新婚夫婦くらいしか持ってないやつだろ。

 少なくとも俺と恋白はそんな仲じゃない。


「ひどい…………浮気だけじゃなくて、嫁との思い出まで忘れるなんて……」

「恋白が俺の嫁? お前何言ってんだ!?」


 俺がそう言うと、恋白はエプロンのポケットに手を入れ、ベッドに2枚の写真を置いた。

 タキシード姿の俺と、花嫁衣裳の恋白が式場で撮ったような1枚。それと、俺が女性らしき人影と街を歩いている写真だ。黒ペンで顔を潰されていて、相手が誰か分からないのが普通に怖い。


 まさか、本当に結婚した……? いやでもそんな記憶ないし、間違いなく昨日まで高校生だった。

 なんでポケットからそんな写真がホイホイ出るのかは、多分聞いたら負けだから聞かないでおく。


「……ハル、何だかおかしい…………でもだいじょぶ。今日のは何も入れてないから、安心して」


「前の俺は何を食わされたんですか!?」


 恋白の目に光が見えない。

 これは絶対やばいやつ。見た目こそ普通だが、鼻を近づけると食べ物にあるまじき刺激臭がする。

 嘘つけ、絶対何か入れてるって!


「あーん……」


 必死に首を振って抵抗するも、拘束されている身には限界がある。

 近づくスプーンが口元に送られる。涙目になりながらもそれを受け入れざるを得なくなったとき────────突然、意識が途絶えた。



───────────────────

新作投稿!

ずっと書きたかったラブコメをついに書き始めました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます