第40話 外国人、仕事を見つける
「それで、いつから始められますか?」
緊張して挑んだ面接で名前や略歴を述べるルーティーンを終わらせたミーシャへの最初の質問がこれだった。
「えっ、あ、ハイ。8月末に契約が終了いたしますなので、その後、引越しいたしますので...」
「もしよろしければ、こちらで契約させていただいているアパートを格安でお使いいただくこともできますよ」
ホテルの支配人はそう言うと資料を取り出しミーシャに渡してくれた。
「まだ、ホテルも出来たばかりですし、そのアパートも新築ですのでこの町の中ではこれ以上のものは中々ないかと思いますよ」
資料に載っているアパートの条件や写真を見ても何も問題は見当たらない。いや、むしろ良すぎる。
だいたい、まだ面接などろくにしていないにも関わらずすでに雇う前提でアパートの世話までしてくれるなどありえない。
「いえ、えっと、残念ではございますが、私は田舎の古民家に興味がございますので、新築はご遠慮さしあげます」
虫の良い話には何か裏があるのではないかと勘ぐってしまい適当な言い訳をする。
「ああ、なるほど。それなら町役場に行くといいですよ。空き家になった格安物件を紹介してもらえますから」
簡単に引き下がった支配人の自然な対応に、疑ったことが少し恥ずかしくなるが、礼を言うと、気にかかっていたことを質問してみる。
「あの、それでこれは内定ってことでよろしいのでしょうか?」
「はい、そうなります。こちらの条件で問題ないようでしたらぜひ上野町ホテルで働いていただきたいと思っております。入社は10月にされますか?それとももう少し先がよろしいですか?」
「えっと、よく考えると有給も残っておりますので、9月の初めからでも大丈夫だと思います」
結局、古民家を整えるためには少しは時間に余裕を見た方がよいだろうと諭され、9月半ばからスタートすることとなった。
今までさまざまな所に履歴書を送りつけてなしのつぶてだったのに、この町に来た途端、急に運気が上がり、最初の面接でいきなりの内定。
ビザの申請もしてくれる上に、給料もALT時代の1.5倍はある。
採用を決めてくれた支配人に対する感謝の気持ちと少し疑ってしまったバツの悪さから、ミーシャはそのまま町役場へと向かう。
先ほど適当に古民家に興味があると言った手前、仕事を始めてから古民家以外に住んでいると気まずいからだ。
見るだけでも見ておかないと、小さな町では噂が広がるのが早いというし、自分はただでさえ目立つ黒い肌をしているのだから。
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