第35話 解体工、家を買う
家を見てから決めて良いと言われたが、一人で行くにはかなり不便な場所にある家だった。
特に車を所有していない
そこで取り壊しの際に見つけて取り除けておいたボロ自転車にまたがり田舎道を走ること半時間、ようやくお目当ての家にたどり着く。
写真の通りなので見てすぐにわかった。
「ごめんくださーい」
鍵を預かっているが念のため敷地に入る前に声をかけておく。
当然返事はないので鍵を開けようとするが、鍵を開けたはずの扉が開かない。
扉の隙間をのぞくと、ボルトは外れているので立て付けが悪いだけのようだ。しばらくガタガタ揺らしていると少しずつ開いてくれた。
こう言う古い家の扱いには慣れている。
中に入るとなんだか空気が悪い。
すえたニオイがするので窓と鎧戸を開けて換気を行う。
これも家を解体する時と同じだ。
外からの明かりが十分に入ると、室内の確認を始める。
壁にはシミ。
天井にも雨シミ。
床は緩くなっている箇所が数カ所。
階段はギシギシ鳴っている。
割れている窓はなし。
キレイに掃除をすれば別にこのままでも住めなくはない。
色々と修理をするにしても、住みながら出来るなら効率的だ。
想定外だったのは、蔵まであったことだ。
しかも中は空ではなく色々入ったままだ。
何だか空き巣になった気分だが、中を探ると、食器などまだ使えそうなものもある。
段ボール箱に入っているものはさすがに開けてまでチェックはしないが、古い洗濯機など大きなものはビニールをかぶせてあるだけなので透けて見える。
まさか、気が付いていないと言うことはないはずなので、役場に戻ったら置いてある荷物について訊く必要があるだろう。
じっくり家中を見て回って思ったのは、色々とリフォームしがいがある家だということだ。
亮平は建物を壊す仕事をしているので修理する方はまったくの素人だが、それでも電動工具くらいは使える。
修理に必要な木材はいくらでも手に入る。
廃材としても手に入るし、この町は林業が盛んなので買ってもいい。
それに、リフォームに必要な他の資材や家具も廃材として手に入れられるだろう。
もちろんすぐに手に入るわけではないが、急ぎではなければ、家で使うだいたいの物は誰かが捨てるのでいつかはてに入る。まあデザインや個数はバラバラになるが。
タイルや畳はつねに捨てられているし、窓ガラスや玄関の扉、アルミサッシなども丁寧に外す機会があれば簡単に手に入る。
便器もあるけどこれは正直リサイクルしたくない。
誰かがリサイクルしてくれるなら買うが、自分でするのはいやだ。
手間だし、臭いし、汚れる。
ウォシュレットの便座だけはいいものがあればリサイクルしよう。
風呂やキッチン用品はステンレス物が多いから、会社に掛け合って金属の重量分の金額に少し色を付ければ買い取れるはずだ。
これから行うであろうリフォームについて考え始めると、知らぬ間に楽しくなり具体的なプランを色々と頭の中で作り上げていることに気が付く。
まだ、家を買うと決まったわけでもないのに。
しかし、買わない理由もあまりない。
正社員になった今となってはたかが10万円でマイホーム持ちだと見栄を張れるなら買って損はない気がするのだ。
どちらかと言うと、自力リフォームをするための工具類を買い揃える方が高くつくだろう。
一回か二回しか使わないような専門性の高い工具まで買うくらいなら工務店に任せた方が安くついてしまう。
地図を見ると近所には木工店があるようなので難しい加工は頼んでもいいだろう。
確か「真実工房」ってところだな、家を買ったら挨拶がてら寄ってみるか、そんな夢を膨らませながら亮平は戸締りをして家を後にした。
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