田舎でのんびり...できない生活

第13話 到着

首都圏郊外から高速で6時間以上運転したが、ひさびさの外のドライブは楽しかった。


もう、1歳と10ヶ月になるが極力外出を控えてきたので、真実まみにとっては始めての遠出だ。

見るものすべてが新鮮に映る。


高速道路はそれなりに快適だった。

平日だし、連休でもないので渋滞はない。

サービスエリアも空いていたので、お腹が空いたりトイレを使いたいタイミングですんなりと駐車できたのがありがたかった。


朝出発して高速を降りたのはまだ午後の明るいうちだった。

下道になってからは進むにつれて田舎度が加速度的に上昇したが、最後の30分以外は一応国道なのでガソリンスタンドやコンビニは、上野町かみのちょうの一つ手前の町までは見つけることができた。


国道から外れるともう聞く人も見当たらないような田舎道になったため少し迷ったが、新居の近くを通ると弁護士の先生が出迎えてくれたため、思った以上にスムーズに到着することができた。


「ようこそ、杉本さま。はじめまして、三好と申します」

「あ、ありがとうございます。すいません、少し迷ってお待たせしてしまいました」

弁護士の先生が私達に新居の鍵を渡すため待っていてくれたのだ。

「全然、お気になさらずに...」


鍵を渡し終わった後も、先生は興味深そうに良夫のことを見ている。

「あの、どうかしましたか」

「いえ、すいません。なんというか、思っていたのとイメージが違ったもので」


指摘すると少し慌てていたが、おかげで「弁護士の先生」といった堅いイメージが崩れ可愛らしい表情を見せてくれた。


訊くとどうやら先生は私のことを凄腕ビジネスマンだと想像していたようだ。

高い田舎の家を買ったり、弁護士へ気前の良い報酬を払ったりする財力を持っているからだろう。

「なんか、スイマセン」

「いえ、その、思っていたより話しやすい方でよかっったです。長旅で疲れているでしょうから、簡単な案内だけにしておきますね」


先生から渡された鍵を使い玄関を開けて入ると、先生がどこにトイレがあり、どこがお風呂で、給湯器のスイッチはどこで、リビングは注文通りフローリングに変えたことや、キッチンも対面に変えたことを教えてくれた。


到着したらすぐに使えるよう、冷蔵庫にはすでに電源が入っていたし、ちょっとした食べ物と飲み物も用意しておいてくれていた。

先生からの引越し祝いだそうだ。


引き渡しの書類にサインをすると、疲れているだろうから工場の方は明日案内すると言って先生は帰っていった。

先生が住んでいるのはこの小さな町ではなく、車で30分以上かかる近隣の中核都市だ。ここでは弁護士の需要が十分にないのだろう。


先生の言っていた工場というのは家に隣接した木材加工場のことだ。

以前は商売をしていたようだが跡継ぎがいないので廃業したらしく家とセットとなった物件だったのだ。


家の方はリノベーションでフローリングになり田舎に似合わないモダン造りだ。

広さも十分、仕事部屋もある。

娘と二人で暮らすには大きすぎるが、田舎はそういうものだと自分を納得させる。


まずネットが繋がることを確認し、得意先へ連絡を入れたら娘を抱いて家の外も見て回る。


流石に裏庭までは手が入っていないのであまり見ていてきれいなものではない。

庭の外は小さな裏山になっているので、それほど日当たりは良くないが涼しい。

いや、山に挟まれるように位置するこの町自体、都会と比べ何度か気温は低そうだ。


田舎基準なら隣の家はあるのだが、家と家の間隔が広く裏山の斜面で区切られているので都会基準でいうと周りに家がないように感じる。


家の前は細い道路と用水路を挟んで元は田んぼだったと思われる敷地になっている。

今は雑草畑だ。

どうやらきれいなのは家の中だけのようだ。

仕事も減ったので、空いた時間に庭や畑の手入れをしていこうと決意する。


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