第70話 鬼 3回目

審議も着々と進み3日目に入った。


金田一

「いよいよ審議も3日目に入ったな」


司会

「はい。動物たちも素晴らしい裁きに、かなり喜んでいると思いますよ」


金田一

「さて早速だが、今日のトップバッターは誰かな?」


司会

「今朝は早くから来てます鬼さんですね。どうぞ鬼さん、早いですね」


「いや、昨日いろいろ考えてたら寝れなかったんじゃ」


司会

「鬼さんが寝れないほどの事があるのですか?」


「そうじゃ。今日はどうしても附に落ちないことを提訴しに来た」


司会

「どのことわざですか?」


「やはり『渡る世間に鬼はなし』だな」


司会

「一般には『世の中には無慈悲な人ばかりではなく、親切な人もいる』ということですよね。これが何かご不満ですか?」


「テレビ番組で『渡る世間は鬼ばかり』というのを知っているか?」


司会

「はい、橋田壽賀子さんのドラマですね。全く意味の反対語と言うことで作ったタイトルと聞きました」


「やはり造語だな」


司会

「はい。造語で番組名です、間違いありません。これが何か?」


「最近は本家よりも造語のほうが有名になっているのだ」


司会

「たしかにうちの娘もよく使っていますね」


「若い世代の鬼は『鬼はなし』なのか『鬼ばかり』なのか判断に苦しんでいる。要するに我々鬼は人間にとって、いた方がいいのか、いない方がいいのかをこの際ハッキリさせて欲しい」


司会

「なるほど。意味が二律背反してるということですね。わかりました、金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「テレビ番組から出た言葉がことわざになると言う事は珍しくありません。例えば「豚もおだてりゃ木に登る』と言うのは30年ほど前のアニメから出た言葉です」


司会

「なるほど、テレビ番組などの造語からことわざができる訳ですね」


金田一

「鬼さんの主張は理解します。確かに180度全然違う命令を出されたら、さすがの鬼さんも困るのはよくわかります」


「そうだろうが。人間たちも『これをしろ』と言う命令と『これはするな』と言う2つの命令を出されたらどうするんだ?困るだろうが?」


司会

「そうですねー、困りますね。ただうちのカミさんはその日の気分次第で私によくやりますよ」


金田一

「それでは落としどころを作りましょう。明日からはこうしませんか?鬼さんは1年のうち2月と8月だけ出てきてください。それ以外はいなくて結構です」


司会

「いきなり理由がわからない判決ですね」


金田一

「はい、説明します。商売の世界では『ニッパチが1番厳しい』といいます。つまり2月と8月は売り上げがダウンすると言う事なんですね。そういう不景気な時だけに現れてください」


司会

「なるほど、商売人からは不景気だから『鬼ばかり』になるのですね」


「と言う事はワシらは1年のうちに2ヶ月間だけ働けばいいと言うことだな。節分で出番があるのも2月だからちようどいいな」


司会

「これは楽じゃないですか。鬼さんよかったですね」


「おう満足したよ。また次会う時は2月が8月だな」

と言った後に鬼はスッキリした顔で帰っていった。

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