第58話 砂糖が欲しいだけなのに。


 お砂糖は、一番身近な甘味料。

 お値段だって庶民的で、どこでも買える。

 昔は、日本でも貴重品で、薬と同じ扱いだった時代もあるみたいだけど。

 少なくとも、お砂糖が原因で、争うなんて話は聞いたことがないよね。


 ところが、帝竜国では、[砂糖派]と[竜糖派]が、対立してるんだって。

 歴史と宗教と政治が絡み合っていて、一筋縄ではいかない大問題らしい。

 砂糖を買うのも、容易じゃなくて、下手をすると、命がけになりそうなのよ。

 


「三ノ宮国より、御親書ごしんしょが届きましたので、お持ちいたしました、ショコラ様。それから、こちらの二通は、ユーレカ様宛のお手紙でございます」


 パメリーナが、ユーレカの母国からの手紙を持ってきたのは、ちょうど、ユーレカと二人して、『文書』のお勉強をしているときだった。

 普通なら、パメリーナも授業の邪魔はしないけど、王族間の手紙は、ノンストップで届けるものらしい。

 親書というなら、差出人は、国王なんだろうし、外交上、最優先されるのも当然かな。国王と言っても、ユーレカの父親なので、内実は、私信なんだけどね。


「わたくしが、ご挨拶状を出したのは、10日でしょう。まだ、5日しか経ってないのに……。もう御返書をいただけたの?」

 

 ユーレカとサルトーロと雇用契約を結んだ日、わたしは、姉弟の父王宛てに挨拶状を送っておいたの。

 何しろ、ユーレカは、まだ未成年だし、名目上は、三ノ宮国の王女。

 サルトーロが傷害事件を連発したせいで、資金援助を打ち切られたわけだけど、それは、サルトーロを誓神殿に入れて、ユーレカの帰国を促すための非常手段だったようで、管財人宛てに、毎月、帰国費用は送られてきているんだって。


 二度と帰国しないというユーレカの意志は強いし、法的に弟の保護者となった八か月前に、父王には、その意志を伝えてあるというんだけど、それで、親の情や関心が消えるものじゃないでしょ。

 雇用主としては、一応、ご挨拶くらいはしておくべきかと思って。ユーレカより年下の幼女から、「ご姉弟の面倒をみますので、どうぞ、ご心配なく」と言われたって、安心できるかは疑問だけどさ。二人が就職できて、生活に困らなくなったことくらいは伝えておかないとね。


 それに、もうひとつ重要なことがあるの。三ノ宮国が、砂糖の産地だっていうヒールの情報よ。

 契約のときに、ユーレカに確認したら、確かに、砂糖が輸出品目に入っていた。更に素晴らしいことには、ミルクやバターなんかの乳製品もあるってこと。

 聞いたときには、感動ぶっちぎりで、竜気がぐるぐる駆け巡って、ひとり増幅しちゃったわよ。制御力を身につけたおかげで、力場破裂症にはならなかったけど。


 こりゃもう、絶対に、取り引きするしかないでしょ! 

 わたしは、その場で、マルガネッタに、個人輸入の方法について、レクチャーを受け、ユーレカに、国王宛ての手紙を代筆してもらった。

 最初は、ユーレカを三ノ宮国語の教官として雇うつもりだったんだけど、急遽きゅうきょ、顧問官(対三ノ宮国貿易担当)に格上げすることにしたの。商売に関係する翻訳や通訳もしてもらう条件で、お給料もアップしたんだわ。


 マルガネッタは、わたしの爆上げテンションに引いていたけど、ユーレカの方は、やる気に満ち満ちて嬉しそうだった。「三ノ宮国と売買するのでしたら、多少はお役にたてると存じます」って。

 そう言えば、ユーレカは、財務関係の英才教育を受けていたんだよね。三ノ宮国の商法や相場には精通してるだろうし、計算能力も高いし、適材適所じゃない? ついでに、値引き交渉も頑張ってやって欲しいな。


「ショコラ様が、お急ぎと言われましたので、今回は、恵神殿に、瞬動者便しゅんどうしゃびんを往復で依頼しました。幸い、三ノ宮国にも、恵神殿がございますから、お手紙や書類程度の小さいものでしたら、片道、二、三日で送ることができるのでございます」

 

 瞬動者便というのは、文字通り、瞬動力者を使った便ということで、小型飛行機をチャーターして、手紙を運ばせるような超高級運送らしい。

 確かに、最速だけど、シチャメチャ高額。それで、どうせ飛ばすなら、戻ってくるついでに、返書を受け取ってもらってくる方が、無駄もなく、先方の負担にもならないので、『往復』依頼にしたんだとか。

 返事をよこせと迫ってるみたいで、失礼な気がしたけど、外国の王家に宛てる場合は、この方が、礼を尽くしていることになるんだってさ。


「そう。便利なのね。封を開けてちょうだい、マルガネッタ。三ノ宮国語で書かれていたら、ユーレカに読んでもらいましょう」

「国外の王家から来る文書は、基本的に、帝竜国語で書かれておりますので、その必要はないと存じますが……」


 マルガネッタは、ペンナイフで開封すると、さっと目を通し、わたしとユーレカの二人が見えるように、テーブルの上に置いた。書式の説明から始めるのも、『文書』のお勉強をするときと一緒だった。

 難解な美辞麗句が延々と並んでいて、帝竜国語だとしても、ほとんど読めやしない。肝心な内容は、「使者を送らせていただきます」の一言ですむっていうのに、なんて、面倒くさいんだろうね。


「ご使者は、サエモンジョー公使こうし、か。公使って、どんな役職なの、ユーレカ?」


 ユーレカの竜気が、珍しく興奮して沸き立っているので、マルガネッタではなく、直接質問をしてみると、ユーレカは、紅潮させた頬を押さえながら話し始めた。


「公使は、他国の王族と交渉する際に送る使節団の団長のことでございます。外交官より選ぶ場合が多いのですけれど、サエモンジョーは、貿易を担当する文官あがりの元財相で、引退後は、わたくしの教官も務めてくれておりました。陛下は、砂糖に関する契約交渉を円滑に進めるため、わたくしにも受け入れやすく、交渉術に長けた人選をされたものと推察されます」


 教官を務めたってことは、サエモンジョーが、ユーレカに英才教育を施した人ってことだよね。しかも、貿易畑の超エリートで、大臣まで登りつめた専門家。

 それほどの大物をトップにして、使節団を組んで来るなんて、かなりの大事じゃないの。使者と書かれただけじゃ、そこまでわからないって。せいぜい、ユーレカとサルトーロの様子を確認しがてら、挨拶に来るのかな、くらいにしか思わなかったよ。


「使節団? それじゃ、サエモンジョー公使がお一人で来るわけじゃないのね?」

「恐らく、秘書官や儀仗兵ぎじょうへいを含めて、八名ほどかと。三ノ宮国にとって、砂糖は重要な輸出品目なのでございます。これまで、保守派勢力の強い帝竜国では、ほとんど輸入していただけておりませんので、ショコラ様の購入のお申し出は、大変ありがたいお話なのでございます。サエモンジョーは、有能で老獪ろうかいでございますから、この機会を最大限に利用するため、長期契約をお勧めしてくるものと思われます」


 あぁ、長期契約の方がお得ですよって、売り込むやつね。大幅値引きしたように見せかけて、お得感を演出する商法か。

 でも、砂糖に関しては、この先ずっと買うつもりなんだし、長期に契約を結ぶことで本当に割引してもらえるなら、その方がいいよね。ぼったくられるのは嫌だけど、適正価格なら問題ないし。


「ユーレカは、砂糖の相場を知ってるの?」

「一昨年までの数値でしたら。ただ、昨年は、ほとんど自然災害がなかったようでございますから、大きく変動はしていないのではないかと……」


 ユーレカの言葉を遮るように、マルガネッタが、口をはさんできた。そこには、予想外の情報まで、含まれていたの。


「いえ、ここ半年、砂糖相場は、下がり続けております。テレサ様――ショコラ様の母君でございますが――二年前に亡くなられてから、最大のパトロンを失った[砂糖派]の勢いが、年々衰えてきているようでございまして」

「え? テレサ様は、ショコラ様の母君でいらしたのですか?!」


 ユーレカは、驚いたように叫んだけど、わたしも驚いたよ。ショコラママは、[砂糖派]だったのか。知らなかったね。

でも、それなら、わたしが砂糖好きでも、不思議に思われないかも。パトロンの娘ってことなら、[砂糖派]にも、簡単に受け入れてもらえそうだし。

 うん、好都合だよ。知ってたことにしちゃおう。


「ユーレカは、お母様とお会いしたことがあったの?」

「はい、三年近く前になりますが、三ノ宮国へおいでいただいときに一度だけ。わたくしの母と同じお歳で、王寮がご一緒だったというお話を伺いました。母を訪ねて来られて、わたくしやサルトーロも、お土産をいただいたので、よく覚えております。実を申しますと、サルトーロが今も手放さない飛翔竜のぬいぐるみは、そのとき、テレサ様にいただいたものなのでございます」


 世間は狭いね。

 でも、そうか。ユーレカの母君は、帝竜国出身だったんだっけ。

 女性王族は人数も少ないし、同じ年だったら、知り合いでもおかしくはないか。


 その程度に、わたしは、軽く受け取ったんだけど、ユーレカは、感極かんきわまった様子で、両手の指を組み、頭の上で、両腕で円形を作って、頭を下げた。

 これは、栄マーヤに感謝を捧げる印だ。ユーレカは恵信徒なのに、祈りの所作が、綺麗で実に決まってる。


「ショコラ様とこうして巡り合わせて下さった、栄マーヤの御導きに、心より感謝いたします」

「本当に、なんと素晴らしいことでしょう。これこそ、まさしく、栄マーヤの御導きでございますね」

「栄マーヤの御導きをいただいたユーレカ様に、是非ともあやかりたいと存じます」


 ユーレカだけでなく、マルガネッタやパメリーナまでが、なにやら感動しているけど、わたしは、全然ついていけないよ。

 『栄マーヤの御導き』って、謝罪のときに使う言い回しだよね? 

 あっと、でも、そうか。栄マーヤは、迷い誤った道に入った者を御導きくださるわけだから、生活苦の道に入り込んでいたところをパトロンに巡り合わせてくれた、という解釈もできるのか。

 うーん。かなり苦しいこじつけだと思うけどな。


 そもそも、母親同士が友人で、娘同士も知り合ったからって、なんで、それが、いきなり『栄マーヤの御導き』ってことになるわけ? 

 そのへんの理屈も理解できないけど、ありがたがる感覚は、もっとわからない。

 『御導き』って、耳障りは良いけど、意図的に誘導されるってことでしょ。

 わたし、神様に、「合格しますように」って祈りたくなる気持ちはわかるけど、「合格するから、この高校を受けろ」と指示されたとしたら、感謝できないよ。だって、自分の意志を無視された気がするし、努力も意味がないものに感じられちゃうじゃないの。いったいどこに、感動できるような部分があるのよ。

 竜神教は難しい。あとで、ソラに説明してもらわないと。



<――というわけなのよ。みんな、なんで、そんなに感動したんだと思う?>


 その夜、早速、聞いてみたところ、ソラは、逆に問い返してきた。


<マリカの世界には、ご祖先様に守り導かれるって信仰はないの?>


 無神論者に、宗教関係の質問をされても困る。

 知識もなけりゃ、関心もないのだよ。

 それでも、今は、わずらわしいとも言っていられないので、真剣に考えてみる。


<えっと、亡くなった両親とか祖父母が、見守ってくれると感じる人もいるみたいだけど、導かれるってほどの積極的なものではないと思うな。だいたい、よっぽど由緒ある家系ならともかく、ほとんどの人は、大昔のご先祖のことなんか知らないし、調べようもないしさ。あ、でも、これは、わたしの生まれた国の話ね。世界には、いろんな宗教があるから、ご先祖を崇拝してる人たちもいるんじゃないかな>


<そう。マリカの国は、きっと平和なのね。竜眼族は、周りが敵だらけの中で、生き残りをかけて戦い続けてきた歴史があるでしょ。だから、頼りになるのは、同族だけという仲間意識が強いのよ。しかも、神通力自体は、時代を下るごとに、弱まってきているせいで、危機感は増していく一方なの。強くて負け知らずだった王祖四子を崇拝して、救いを求めるのも、神門クラスの王族を誉めそやすのも、その根底にあるのは、滅亡することへの恐怖じゃないかな。マリカが栄マーヤの再来と噂されてるのも同じ。みんな、希望を持ちたいの。ユーレカが、マリカと巡り遭えたことを感謝するのも似たようなものよ。よく、追いつめられている人ほど、祈りは深くなるっていうけど、困っている人ほど、願いが叶えられたときの喜びも大きいだろうし。ユーレカが、マリカに救われたと思っている以上、栄マーヤに傾倒けいとうしていくのは、自然な成り行きだと思うわ。マリカにとっては、迷惑かもしれないけど>


 説明してもらっても、わかったような、わかりたくないようなモヤモヤ感があるな。理解できないというより、共感できないって方が近いかも。敗戦国でも、滅亡せずに、平和な暮らしを送ってこられたせいかもしれないけど。

 もう、いいや。ここの宗教については、必要なものとして割り切ろう。

 とは言え、宗教がらみで、流せない問題もあるんだよねぇ。受け入れがたいというか、放置しきれないというか。


<ねぇ、ソラ。その、栄マーヤ再来説って、いったいどこまで広がってるの?>


 恐る恐る聞くと、ソラの象の鼻が、考え込むように、ゆらゆら揺れた。


<今現在についてはわからないけど……、来年の誕生日までには、王族、貴族クラスには、完全に広がることになるのは間違いないかな>


 まずいよ、それ。

 実物がこれなのに、イメージ先行で、周りの期待が高まっていくってことじゃないの。

 気が重い。ほんとに、うんざりしてくる。

 ネットで、勝手に情報が拡散していくのを止められないようなもので、どうにもならないけどさ。


<それじゃ、わたし、8歳の誕生日に、帝女を押しつけられることになるんじゃないの? 本当に、わたしが嫌だって言えば、それで、断りきれる話なの?>

<うん。帝家も王家も、志願制だもの。志願したって、挫折する人が多いのに、覚悟のない子供に、押しつけることなんてできるわけがないわ。もちろん、周囲の期待っていうプレッシャーは、かかってくるだろうけど。それも、16歳になる頃には、はねのけるのが大変なくらいの圧力になっちゃう気もするし……>


 やめやめ。そんな先のことまで、考えたってしょうがない。

 わたしは、思考を切り替えることにした。

 どうせなら、もっと楽しい未来を想像しよう。

 夢見ることまで、止められてたまるもんか。これは、わたしの人生なんだぞ。


<それまでには、甘味官になるための足固めをしておくわよ。近いうちに、砂糖が手に入る目星がついたんだもの。上手くすれば、ミルクや、バターもよ。そしたら、洋菓子だって作れるわ。あんたにも、砂糖で作った、美味しいお菓子を食べさせてあげるからね、ソラ>

<一番に、ヒールにあげないと駄目よ、マリカ。そう約束したんだから>


 そう、ヒールが一番。

 今では、ロムナンから、料理人に至るまで、我が宿舎の全員が、おかずもお菓子も貢ぎまくってるから、その約束を忘れる心配はないね。心配なのは、ヒールが太り過ぎて、飛べなくなったらどうしようってことくらいよ。


<もちろん、覚えてるって。[砂糖派]として、砂糖の普及に努める約束だって、ちゃんと果たすつもりだし。あ、それで思い出したけど、ショコラママって、[砂糖派]だったらしいのよ。あんた、知ってた?>


 わたしは、軽い気持ちで聞いただけで、別に、ソラを責めるつもりはなかったのよ。ただ、ソラが知らないはずがないし、話してくれなかったのには、何か理由があるんだろうと思っただけ。

 案の定、ソラが困ったように俯いた。象の鼻も、一瞬ぴくんと動いたあと、だらりと垂れさがってしまう。


<うん。マリカには、8歳になるまで話さないようにって、アドバイスされていたんだけど……。ユーレカが、テレサと知り合いだったとは聞いていなかったし>


 わたしが、『気にしてないよ』竜気を送ると、ソラが、弁解し始めた。


<アドバイスって、外帝陛下に?>


<ううん。竜の上司から。マリカが竜育園にいる間くらいは、政治に関わらせないでおきたかったの。ただでさえ、覚えることがいろいろあって大変なのに、余計にうんざりさせちゃうと思って……>

<つまり、うんざりするような話なわけね?>

<そう。それでも、聞きたい?>

<聞きたくない。それでも、聞かないわけにいかないでしょうが。もったいぶらずに、さっさと話してよ、相棒>


 わたしが、きっぱり頼むと、ソラも覚悟を決めたらしく、一気に言った。


<わかった。あのね。テレサは、事故死したことになってるけど、[竜糖派]に、暗殺された疑いが強いの。[砂糖派]の中心的な人だったせいで。マリカが、[砂糖派]になっても、暗殺される心配はないけど、[竜糖派]は、同族殺しも辞さないほど過激な狂信者が多いから、十分に注意して欲しいの。周りにいる人たちを巻き込む危険は高いし、四神殿の対立が悪化して、内乱に発展する恐れもあるから>


 うえー。突っ込みどころが多すぎて、何から聞いていいかわからないぞ、おい。


 ショコラママが、暗殺された? 

 そういや、ずいぶんと前に、テレサを死に追いやった政敵がいるとは聞いていたよね。そのときは、王族だからかと思っていたけど、[砂糖派]だから、[竜糖派]に邪魔者として排除されたってこと? 

 何てこった。ここの政党は、人殺しまでするのか。

 二、二六事件とか、桜田門外の変みたいな気迫で、竜眼を血走らせた過激派に、命を狙われちゃうなんて、怖っ! 怖すぎる。


 でも、わたしは、暗殺される心配はないって。

 これは、ソラがついてるから、大丈夫ってことかな。前に騒ぎたてたときも、そんな風に慰めてもらったし。

 誓ダルカスと対決されたあとも、断言してたよな。たしか、もう、わたしを直接狙うような命知らずは、いないとか何とか。

 ということは、竜気が強くて、手を出せないって意味なのかも。とにかく、わたしの身は、それほど危険じゃないということね。


 だとしても、周りを巻き込む危険はあるのか。

 ロムナンは、大丈夫な気がする。あの子は、竜たちに守られてるから。

 ユーレカやサルトーロは、ちょっと不安だな。王族とは言っても、わたしやロムナンみたいに竜気が強くないし。暗殺者に狙われたり、誘拐されたりするとまずい。二人にも、護衛をつけた方がいいかもね。引っ越ししてきたばかりで、前から雇っていた侍女と下働きがいるだけで、どっちにしても、人手を増やす必要があるし。

 あとは、パメリーナやマルガネッタに、使用人たちか。こっちは、オランダスとカズウェルに相談してみよう。


 残る問題は、四神殿の対立と内乱の怖れかぁ。

 残るというより、こいつが一番重要で、難問だろうけど。

 わたし、争いなんか望んでいないのに。

 ただ、お砂糖が欲しいだけで、美味しいお菓子が食べたいだけなんだよ。

 食欲は基本的欲求だし、別に贅沢言ってるわけじゃないでしょ? 

 ごくごく平凡で、ささやかな望みだと思わない? 

 それが、どうして、宗教対立だの、内乱だのという恐ろし気な話になっちゃうの。

 勘弁してよ、ほんとに、もう。

 凡人には、どうしたらいいか、わからないって。



 この日、わたくしは、[砂糖派]としての立場を貫き、砂糖の普及に尽力するというヒールとの約束が、極めて難しく重い問題をはらんでいると、初めて知ったのであります。

 

 もちろん、砂糖を熱望するわたくしは、その約束がなかったとしても、[砂糖派]に加わってはいたでしょう。


 ですが、ヒールの後押しがなければ、狂信的な[竜糖派]に立ち向かっていく覚悟を固めるのは、非常に難しかったと思うのでございます。

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