第6話 エデン再興教団

「本山から連絡が来ましたよ!」


 柳谷がベッドに寝そべって格闘技雑誌を読んでいた京町に向かってにっこり笑う。


「お、マジ?なんだって?」


 京町もがばっと顔をあげた。

 とにかく主に関してだけは真面目な男なのだ。


「日本が本拠地で気になる新興宗教団体があったそうです。名前はエデン再興教団」

「アンチキリストか?」

「いえ、それに関してはだいぶ歯切れの悪い返事が……本山が言うには悪魔を自在に呼べると公言しながら、あくまで信仰してるのは原初の神だと。総務課もビデオゲームが好きな日本人らしい遊びだとそれほど重視していなかったそうです。なので教義や主催者もこれから詳しく調べてまた連絡してくれます」


 架空の神を信じる架空の新興宗教団体のホームページまでありますからねえ、この国は。不可解ですよ。と柳谷が首を振った。


「関係ないけど総務課ってダセーよな。特務機関殲滅課とかにすりゃいいのに」

「京さんはアニメの見過ぎです。今のヴァチカンは悪魔とアンチキリスト以外には平和な宗教団体ですよ。とりあえず話を進めてもいいですか?」

「おう」

「そういうわけで総務課も監視リストの安全ランクDに載せていたそうです。Dの意味はわかっていますね?」

「子供の遊び」

「……ほぼ無害。場合によっては要注目、です」

「こまけーし」

「おやつ抜き。今日のおやつはチョコプリンです」

「ごめんなさい」

「なので話を戻すと、本山にもあまり情報がないのでホームページの解析を急いで進めているそうなんです。情報開示やなんやもそれなりに時間がかかりますし、司教様たちの霊的な分析にはもっと時間がかかるでしょうから。

 あ、生命の木についての仮説は本山も僕と同じでした。偶然かもしれないが、けして完成させないように、と。今後は本山も僕たちの全活動をバックアップしてくれます」


 一息でそこまで言い切った柳谷に、京町が不意に真剣な声で尋ねた。


「……なあ、柳、俺も聞きてえことがある」

「なんですか?」

「俺たちは主を敬い、唯一としているから、エデンとか原初の神とか言われたら主しか思い浮かばねえ。本山の連中もそうだろうな。でもさ、そいつらのいう最初の神が主とは全然違うものだったらどうする?」

「何を言っているんです!最初にして最後の神は我らが主……」


 はっと柳谷が口を押えた。

 京町の意見が正鵠を得ているのが自分の発言で証明されてしまったからだ。


「な?」


 京町はそんな柳谷をからかうでもなく、めずらしく厳しい表情で見つめていた。


「俺たちや本山は悪魔がらみで神の名が出るとどうしても主を想像しちまう。そこにエデン再興なんて言葉が加わりゃなおさらだ。でもこの国の奴らは俺たちの常識以上にイカれてるぜ?仏と主が同居してる漫画なんてこの国以外じゃ許されねえ」


 個人的にあの漫画は好きだけどな、と付け加えて、京町は柳谷の答えを待つようにその顔をじっと見据えた。


「確かに……今回は京さんの言う通りです。総務課にその意見を伝えておきます」

「チョコプリン二個」

「はいはい。僕の分をあげますよ。今日の件は京さんのお手柄です」




     

                       ※※※





 モニターに浮かび上がる『電脳悪魔式』の文字をのぞき込み、二人の男がのんびりした声を上げた。


「ああ、確かに式が打たれてますなあ」

「なにしろ電脳悪魔式ですからなあ」

「悪魔ちゅうことは洋風さんもいらっしゃる」

「でしょうなあ。悪魔は洋風さんの好物ですわ」

「俺らは苦手ですからなあ」

「正直に手も足も出んと言いなさい」

「頭くらいなら……」

「漫才しに来たんとちゃいます」

「いやすんません」

「あちらさんのご本山に連絡しましょうか」

「ああ、それはこっちの本庁でしたそうで。あれに勝てそうなのは今の日本には二人だけとご紹介いただきました」

「そしたらお会いに行きましょか」

「俺たちが行かされるってことは、こちらも勝てそうなのは俺たちだけということになりますか」

「そらそうですわ」

「……因果な商売、選びましたなあ、俺ら」

「親父もその親父もそうなんだからそら仕方ないですわ。それに俺、この商売以外できる気しません」

「あ、それは俺もです。コンビニなんぞ勤めたら客殴って」

「「クビ」」


 物騒な言葉を同時に口にした男たちは、顔を見合わせてケラケラと笑った。

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