第5話 生命の木




「なにやってんの柳ー柳ー」


 退屈が苦手な京町にからまれて、パソコンに向かっていた柳谷が振り返る。


「静かにしててください。分析してるんです」

「なにを?」

「最近の悪魔の動向です。似たような方向に祓いに行っていることが多い気がして。本山も例のサイトを解析していますが僕の方でもやれることはやろうかと」

「ふーん。腹減った。夕飯」

「……鍋の中に肉じゃが、冷蔵庫に高野豆腐の射込み煮、炊飯器にはご飯、味噌汁はインスタントで」

「ぃよっし!サンキュな!柳のメシはうまい!」

「食事をしているときだけは京さんは静かですからね……」

「え?」

「なんでもありません……」





                  ※※※





「そんでどーなんだよ」


 ぱくぱくとおいしそうに高野豆腐を口に運びながら京町が尋ねる。


「出現地点を点で表すと何かのシンボルの形になるような気がするんですが、うまく思考がつながらなくて困ってます。……あ、何度も言いますが肉じゃがにマヨネーズかけないで!」

「なんで?うまいじゃん」

「……合わせだしから作ってるのに……」

「カレーに納豆かけるヤツに言われたくねーし」

「あれは植物性タンパク質と動物性タンパク質を併せ持った完全食品なんです!

 ……あ」

「どーした?納豆カレーやめんの?」

「違う!完全……王国……もしかしたら……」


 柳谷はテーブルを離れ、またパソコンに向かう。


「悪魔の出現地点を繋いでいくと……三角形の下に直線……最初にあの不可解な悪魔が現れたのはその三角形の左端……これ、思ったよりまずいかもしれません、京さん」

「納豆カレーより?」

「そういう意味じゃありませんよ。これは神に近づく道ですよ、僕が考えるに」


 カタカタ、と柳谷が何事かを検索し、左右対称の図式をモニターに表示する。


「ああ、これ生命の木……か?」

「ええ。命の実がアダムとイブの手に渡らないよう、燃える天使様が守るエデンの園の中にある木を図式化したものです。見てください。僕の推測が当たっていれば、最初に悪魔が現れたのはすべての母のビナーの位置です。次がケテル、王、それからコクマー、知恵。母から始めることを知っているということは、これはただのオカルトマニアのいたずらじゃなさそうです」

「そうだな。それでビナーからケテルを経由してコクマーに通じる三角形……倫理の三角が完成しちまってる」

「それだけじゃないです。ビナーの下はゲプラー。このまま線が伸び続ければ栄光のホドに達して、畏怖の柱が形成されてしまいます」

「クソッ、悪魔を作って主の楽園を再現するつもりかよ。最低の主の穢し方じゃねえか。許さねえ!」


 神に関してだけは真面目な京町が声を荒げる。

 それを柳谷が柔らかく押し留めた。


「落ち着いて。まだ決まったわけじゃありませんから。とにかく本山に相談して、僕たちは悪魔をゲプラーの位置で食い止められるよう努力しましょう。司祭様にお話をすれば、教区以外の教徒の方々も協力してくれるはずです」

「俺、そういうの苦手だから、柳、頼むな」

「はい。京さんはくれぐれも体を大事に。それにしても……誰がこんな不敬なことを……」


 柳町はため息をついた。

 夕食を食べることなど、もう忘れてしまったようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます