第4話 ビナーのはじまり

 今日も今日とてエクソシスト稼業に精を出す京町と柳谷。

 なにしろタダで司祭館に居候させてもらっている身だ。多少は主の御名に貢献しないとそこにも居づらい。

 ヴァチカンからは奉仕の礼としていくばくかの謝礼が送られてくるが、それは食費や生活費に消えていく。アパートなんか借りる余裕はない。

 柳谷はその穏やかな顔立ちと説教でそれなりに司祭に頼りにされているようだが、問題は京町だ。

 この前は「俺、格闘ジムでも開こうかなあ……」とつぶやいて「ヴァチカンの面汚しですね」と柳谷に夕食を抜かれていた。




                    ※※※




「くっそ、この下等悪魔!しぶてーんだよ!」


 京町の聖別済みブーツの蹴りを数発食らっても、その悪魔は「ギョッゲッ」と意味のない声を上げただけだった。


「悪魔なら悪魔らしくしやがれ!俺を呪うとか!柳を呪うとか!」

「さらっと僕をまぜないでください……」

「だってコイツ、イラつくんだよ!まともな口もきけねえからさっさと消えると思ったら全然消えねえ!」

「確かにそれは僕も変だと思うんですよ。この程度なら京さんの蹴りですぐに祓えると思ったんですが」

「だよな?!せめてなんか言え悪魔野郎!」


 京町のブーツの爪先が悪魔を蹴りあげ、主のシンボルが刻まれた手袋が空中の悪魔にアッパーを連打する。落ちないようにコントロールしながら両手で殴り続けるのは___柳谷に言わせると冒涜的な比喩だが___神業だ。

 そもそも、悪魔を殴れるという時点で神業なのだが。


「よし!手ごたえつかんだ!ムカつくてめえは特別待遇で消してやるよ!

 我は聖霊!我は教会!諸聖人の通効!その名において!アーメン!!」


 悪魔を掴んでつるし上げた京町が、その頭部らしき部分に思い切り正拳を入れる。悪魔は一瞬チカッと光り、それからいつものようにさらさらと消えていった。


「なんか主みたいな消え方をするのも気に食わねえ」


 京町が吐き捨てる。

 いろいろと方向が間違っている部分もあるが、これで京町も敬虔なカトリック教徒なのである。ある意味、柳谷よりも主に狂信的な。


「確かに変ですね。悪魔が悪魔らしい主張をしない。主への冒涜もほとんどしない。この程度の下等な悪魔なら、人間に憑いて影響を与えることはできないはずです」

「けど実際は憑いてる。しかも強え」

「強いというよりは耐久力があるだけ……?これだけ丈夫な悪魔なら京さんに反撃することもできたはずですよ」

「ああ、確かに俺にやられっぱなしだったな」

「そう考えると何もかもがおかしい。憑かれた方がした行動も暴れることと、一定の方向に進もうとすることだけです。しかもこの方は教徒ではない……ご近所に教徒の方がいて幸いでしたが……」


 悪魔祓いはうまくいったというのに、柳町は鼻の頭をこすりながら何事かを考え込んでいる。


 京町もめずらしく静かなままだ。


 そのとき、部屋のパソコンがブゥンと音を立てて立ち上がった。


「柳、俺、今度こそ何もしてないからな!勝手に動いたんだからな!」

「はい。今回の京さんは何もしてません。悪魔の最後のあがきでしょうか……注意をして……」


 柳谷の落ち着いた言葉は途中で途切れた。


 モニターに浮かび上がった文字は


  


                『電脳悪魔式』



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