電脳悪魔式

第3話 なぜパソコンの苦手な人は「何もしてないのに壊れた」と言うのか

「おい、柳!」

「なんですか京さん」

「俺なんもしてないのにパソコンが壊れた」

「うん。パソコンできない人はみんなそう言うんですよね……でも確実に何かしてるんですよ……」


 まだ自前の教会のない二人は、通いの司祭だけがいて、夜は無人になる教会の司祭館に居候している。


 いや、そもそも専業エクソシストが教会を持てる日が来るんだろうか、と柳谷はときどき悩むが、それはあまり考えないようにしていた。

 それよりも、それほど広くはない司祭館で京町と同居していることの方が問題だ。


 とにかく京町はうるさい。


 聖書や使途行伝を読んでさえいれば幸せな柳谷にとって、突然叫んだりプロレスの技をかけてきたりする京町は信仰の邪魔でしかない。

 寝室が一緒なのにかけては論外だ。

 京町は寝言がひどい。なぜああも眠りながら流暢に喋れるのか感心するくらいに。はじめに聞いたときは悪魔憑きかと思って聖句を唱えたくらいだ。


「あーやっぱり変なとこいじってる。まあすぐ直るからちょっと待っててください」

「俺、変なことなんかしてない」

「したからフリーズしてるんです。……え、電脳悪魔式……?」


 聞いたことのないSNSの画面には、堕ちた天使ルシファーを現す明の明星のデザインと一緒に『電脳悪魔式』という穏やかでない言葉が並んでいた。


「最近さ、若い奴らの悪魔憑きがやたら多いじゃん?だから俺ちょっとダークネットに潜ってみたんだよ。したらここにたどり着いた」

「京さん、意外な才能があったんですね」

「うるせえ殴るぞ。おまえのほうが古代人すぎるんだよ」

「そうですか。夕食抜き」

「ごめんなさい」

「素直に謝ったから許します。主もそれを望まれていることでしょう」

「どういう意味?」

「汝の敵を愛せよ」

「え、俺、柳の敵なの?」

「いまのところは敵ではありません」

「なんかこえーなーおまえ。そんで、ここアクセスしてみ?これ、ただのオカルトSNSに見えるけど、引きずられる人間は引きずられるぞ」

「確かに……信仰に揺らぎのある人間は……いえ、これは我が主を信じていない人間でも引きずられる可能性がありますね。

 主の教えだけではないものが混じっている」

「そういうのは柳の方が得意だな。俺はぶちのめすことしかできねえ。何が混じってる?」

「日本古来の因習。……って京さん、大学の神学部で何を習ってきたんです?」

「……神学」

「つまり寝てたんですね、興味のない教科は」

「はい……」

「正直でよろしい。でもこれは本山に連絡した方がいい物件です。モニター越しでも強烈な悪意を感じます」

「もしかしてベルゼブブ?!」


 京町が嬉しそうに体を起こすのを抑えて、柳谷はため息をつく。


「いえ、もっと複雑なものです。もしかしたらこれは、人の手で作ったものかもしれませんね……」


 そう言いながら柳谷はさっそく電話を手にし、ヴァチカンへの国際電話をかけ始めていた。




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