第二十八話・3

 どうして楓は最後までやってくれないんだろう。

 別に中途半端っていうわけじゃないんだけど、なんとなく遠慮しているかのような感じを受けてしまうのは私の気のせいなのかな?

 スキンシップ中は、どうしてもそこだけは不満を覚えてしまう。

 今も、私とのデート中なのにもかかわらず、ずっと私のことを優先してる。

 私が先にショッピングモールのちょっと奥に行っても、気にした様子はない。


「こっちだよ、弟くん。はやく──」

「うん。今行くよ」


 楓は駆け足で、私のところに向かってくる。

 私を1人にしたらいけないって、感覚的にわかってしまうんだろうな。

 私としては普通に振る舞っているんだけど、まわりには違うように見えてしまっているのか、男の人たちの視線がなんとなく痛い。

 それは、楓のために可愛い服装を選んで着てきたせいなのかな。

 私は、どちらかというとロングスカートよりもミニスカートやショートパンツの方が好きだったりする。

 理由は動きやすいからだ。

 今回も、楓のためにミニスカートの方を選んだけど……。

 ちょっと意識しすぎたかもしれない。

 でも楓とのデートなんだから、このくらいはね。

 それにしても、まわりの視線が痛い。

 楓のことがあまりにも普通すぎて私と釣り合っていないことをまわりが気にしているのか?

 どちらにしても、私は楓と一緒に歩くことに躊躇いなんてない。


「香奈姉ちゃんは、ミニスカートとか好きなの?」

「ん? そんなことはないけど…いきなりどうしたの?」

「なんとなく──。僕と買い物に行く時、それが多いかなって思って……」


 楓は、私の姿をまじまじと見ながらそう言っていた。

 そういえば、そうかもしれない。

 ミニスカートはなんとなく気に入っているものだから、当たり前になっていたようだ。


「うん。弟くんの彼女である私としては、このくらいはね。当たり前だと思ってるから」


 楓とは、スキンシップのみならずセックスまでしてる仲だから、私のことを見ても飽きられないように服装やオシャレには気を遣っている。

 たぶん、奈緒ちゃんや美沙ちゃんよりも──

 おっといけない。

 理恵ちゃんも、密かに楓のことを狙っているんだった。

 最近、あまり聞かないが、千聖ちゃんとはどうなっているんだろう?

 やっぱりバイト仲間ということもあるから、話とかは普通にしてるのかな?


「当たり前か……。さっきからちらちらと見えてしまっているのは…僕としてはちょっと……」

「えっ。見えてるって……。さっきから? え?」


 私は、咄嗟にお尻側の方のミニスカートの裾を押さえてそう言っていた。

 たぶん、羞恥心で戸惑っていたんだと思う。

 さっきから見えていたって──

 気づいていたなら、はじめに言ってほしかったな。そういうことは──

 そしたら私も少しは気をつけて…ていうか、やっぱり無理か。

 ミニスカートだから、アングル次第で見えてしまうものは仕方がない。

 それは、楓にとっての眼福ってことにしておこう。だけど──

 恥ずかしいものは、やっぱり恥ずかしい。


「もう! 勝負下着じゃないんだから、あんまり見ないでよね!」

「うん……。ごめん……」


 素直に謝ってもらわれると、かえってこちらがよけいに恥ずかしい。

 下着…もうちょっと可愛いものにしとけばよかったかな?

 そんなことを思いながらも、楓とこうして歩けることにしあわせを感じてしまう私は、欲張りさんなんだろう。

 ミニスカートにしてる理由は、もう一つある。

 私は近くにあったベンチに腰掛けて、楓にも座るように促した。


「ちょっと休んでいこうよ。──ほら。遠慮しないで、弟くんも座りなよ」

「うん」


 楓は素直に私の隣に座る。

 そして、ぎこちない時間が流れる。

 こんな時に限って、お互いにスマホを見ることもない。

 このままだとダメなのは、言うまでもない。

 私は、思い切って楓に言ってみる。


「ねぇ、弟くん。膝枕…してあげよっか?」

「それって、普段からしてくれることじゃなかったっけ?」

「まぁ、そうなんだけど。──なんとなくかな。やっぱりパンツも脱いだ方がよかったりする?」


 私は、そう言いながらミニスカートの中にこっそり手を入れ、脱ぐような仕草をする。

 完全に脱いだわけじゃなくて、下着に指をかけて脱ぐフリだけをやったのだ。

 楓の返答次第によっては、覚悟しておかないと。


「ここではさすがに周囲の目があるし……。公園でならわかるけど……」


 楓は控えめにそう言う。

 公園ならオッケーなんだ。

 ロケーション的には、誰にも見られたりしないような場所だもんね。


「わかった。それなら、買い物が終わったら公園に行こう。あそこのベンチでなら──」

「やっぱり脱ぐつもりなの?」

「弟くんはどうなの? 私の下着…気になったりしないの?」

「それは……。僕は、香奈姉ちゃんが気になるっていうか、その──」


 楓は、私のことをまじまじと見つめてくる。

 その視線は、とてもエッチなものだ。

 誤魔化そうとしても、一目でわかる。

 やっぱり楓も男の子なんだと認識してしまう。


「そんなに気になるの?」

「うん。正直に言うと、かなり…気になるかも」

「さすがに正直すぎだよ。弟くん」


 私は、恥ずかしさのあまりミニスカートの裾を押さえてそう言っていた。

 私のことを好きになってくれている。

 それだけで嬉しい気持ちになる。

 これなら他の女の子を好きになったりはしないだろう。


「香奈姉ちゃんが積極的すぎるんだよ。そうじゃなかったら──」

「私は…いつもの私だよ。そんなに変わったりはしてないよ」

「そこは香奈姉ちゃんだからなぁ。油断はできないっていうか……」

「なによ? 私は、そこまでエッチな女の子じゃないぞ!」

「そうだけど……。なんとなく──」


 楓からは、私に対する警戒心が表に出ていた。

 なんにせよ、それが好意からくるものなら言うことはないんだけど。


「そっか。弟くんは、女の子の気持ちに懐疑的なんだね?」

「それはまぁ……。ないことはないけど……」

「心配しなくても大丈夫だよ。私の気持ちに嘘はないから」

「うん。ありがとう」

「──さて。十分に休んだし、そろそろ買い物の続きでも行こっか?」

「そうだね」

「それじゃ、さっそく──」


 楓の返事に、私はスッと立ち上がっていた。

 その時にヒラリと翻るミニスカート。おそらくだが、楓からのアングルだとしっかりと見えていたはずだ。

 しかし楓は、別のところを見ていたのか、なんの反応も見せなかった。

 誤魔化すにしたって、ちょっと無理があるような気がするんだけど……。

 もしかして見ないフリをしたのかな。

 ──どっちでもいい。

 楓が一緒なら私はとても安心できるのだから。

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