第十四話・20

 ──朝。

 私は、楓を起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、着ていた寝間着をその場で脱いだ。

 私は寝る時に下着などは一切着用しないので、寝間着を脱ぐと完全に全裸になる。

 私は、そのままの格好で窓の前に行き、カーテンを開けた。

 途端、気持ちがいいほどの朝日が差し込んでくる。

 全身に朝日を浴びるのは、やっぱり気持ちがいい。

 母からはよく


『盗撮される危険があるからやめなさい』


 とか言われてしまうけど、やっぱりこれはやめられない。

 私は、自然体が一番好きなのだから。


「う、う~ん……」


 しばらくそうしていると、私のベッドから楓の声が聞こえてくる。

 これは、もう少しで起きるよっていうサインかな。

 もう少しだけ朝日を浴びたかったけど、これ以上は無理か。仕方ない。

 私は、軽快な足取りで下着類が入っているタンスのある方に行き、下着類を取り出した。

 今日は、せっかくだから可愛いのにしよう。

 そう思い、ピンク色の下着を選んだけど。楓は気に入ってくれるかな。

 私は、わざとゆっくりとした動作で下着を着用し始めた。

 楓になら、見られても平気だと思ったんだけど……。

 しかし楓は、まったく起きる様子はなかった。


 楓が起きた時には、私は制服に着替えていた時だった。

 楓は、ゆっくりとベッドから起き上がり挨拶をしてくる。


「おはよう、香奈姉ちゃん。今日も、早いね」

「おはよう、楓。私のベッドの寝心地は、どうだった?」


 私は、微笑を浮かべ制服のスカートを直す。

 スカートが短いから、ちょっと裾が翻っただけでも、下着が見えてしまうのがこの制服の欠点だ。

 まぁ、女子しかいないから、そんなに気にはならないけれど。


「あ、いや、その……」


 楓は、慌てた様子で起き上がりベッドから出る。

 あんなに安眠してたら、怒る気はないんだけどね。


「楓ったら、とっても気持ちよさそうに眠っていたけど。普段は、そんなに眠れていなかったの?」

「いや……。そんなことはないけど……」

「そっか。それじゃ、私のおっぱいに顔を埋めて眠っていたのって、何なのかな?」


 私は、胸元に手を添えてそう言っていた。

 私のおっぱいに顔を埋めてきたのに、気持ちよくなかったっていうのは、なんか割に合わない。

 私なりのご奉仕のつもりなのに……。


「え⁉︎ 僕、そんなことしてた?」


 楓は、驚いた様子でそう訊いていた。

 私は、楓の顔にそっと手を添えて言う。


「寝てるときの楓は、結構、大胆なことをしてきたんだけどなぁ。それに──」

「それに?」


 楓は、思案げな表情で私を見てくる。

 どうやら楓は、真夜中にどんなことをしてきたかわかっていないらしい。

 わかっていないのなら、仕方ない。


「やっぱり、や~めた。楓には、言わない」


 私は、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。

 恥ずかしさをそれで隠さないと、楓の顔をまともに見れる気がしなかったのだ。

 そのままキスしてあげようかなって思ったけど、楓のそんな顔を見ていたら、それをするのも憚られるような気もするし。

 楓は、呆然とした表情を浮かべて自分の頭をボリボリと掻いていた。


 花音は、観察するような視線で私たちを見ていた。

 中学生の制服は、セーラー服になっており、紺のスカートは若干短めだ。

 だけど花音は、それを見事に着こなしている。

 服装の乱れはどこにもない。

 さすが風紀委員長と言ったところか。


「ねぇ、楓」

「何?」


 楓は、緊張した面持ちで花音を見る。

 見てわかるとおり、花音は真面目で気難しい性格をしているため、何を言われてしまうかわからないのだ。

 普段どおりにしていても、花音は絶対に何かを言ってくる。

 今回は、楓に何を言うつもりなんだろうか。

 さすがの私も、緊張しちゃうよ。

 花音は、口を開く。


「制服の襟元が緩んでるよ。そんなんでも、私より年上なんだから、しっかりしてよね」

「あ、うん。ありがとう」


 楓は、お礼を言うと襟元を直し始めた。

 なんだ、そんなことか。

 私は、内心でホッと一息吐く。

 花音は、頬を赤く染めて楓のことを見ている。

 楓に恋心を抱いたらダメだって、あれほど言ったのに……。

 奈緒ちゃんだけじゃなく、花音まで楓のことを狙っているのか。

 これは、ジッとしていられないな。

 ちゃんと楓のことを見張っていないと。


 登校する時間になり、いつもどおりに家を出ようと玄関先に行くと、そこには花音が立っていて、私たちを待っていた様だった。


「あれ? 先に行ったんじゃないの?」


 玄関先に立っている花音にそう言ったのは、楓だ。

 楓は、思案げな表情で花音を見ている。

 それについては、私も同感だった。

 花音は、さっさと朝食を食べ終えて、先に玄関に向かっていったはずだ。

 てっきり、先に家を出たものと考えていたのだが。

 たしかに私の家から中学校までは、そんなに距離はない。

 だから、多少遅れていったとしても、遅刻はしないはずだ。

 花音は、楓の腕にしがみついてきて、言った。


「途中まででいいから、一緒に行こう」


 花音のこの言葉に対して、私と楓は呆然となり


「「え?」」


 と声をもらす。

 私も、いきなりのことに思考の処理が追いつかない。

 花音は、そんな楓を見てチャンスと思ったのか、そのまま腕を引っ張ろうとする。


「楓は、途中まで私と一緒に学校に行くの。…別にいいでしょ?」

「ちょっと待って。何で、僕が花音と一緒に行かないといけないの? 今までは、一人で学校に行ってたよね?」


 楓は、焦り気味にそう言っていた。

 楓の言葉だけでは押しが弱いので、私もすかさず花音に言う。


「そ、そうだよ。楓は、私と一緒に学校に行くの! 花音には、友達だっているでしょ? なにも、無理して楓と学校に行く必要はないんだよ」

「無理なんてしてないもん! お姉ちゃんこそ、無理してるんじゃないの?」


 花音は、私に対抗するようにしてそう言ってくる。

 別に無理なんてしてないんだけどなぁ。

 そう言っても、花音は腕を離しそうにないし。

 さて、どうしたものか。

 そうやって悩んでいると、楓が口を開く。


「それなら花音の言うとおり、途中まで一緒に行こうか?」

「さすが楓。物わかりがいいじゃない」


 花音は、嬉しそうな表情になる。

 私は楓に近づいて、花音に聞こえないように耳元で言った。


「ちょっと、楓。…いいの? 遅刻したりしない?」

「今日くらい、遅刻したって大丈夫だよ。それよりも、花音が不機嫌になると、さすがの僕でも手がつけられなくなるから、そっちの方が後々深刻になってくると思うんだ」

「それも、そうだけど……」

「だから、今日くらいは…ね」

「楓がそういうのなら、仕方ないか……」


 私は、軽くため息を吐く。

 仕方ないから、今日くらいは花音に付き合ってあげようかな。

 花音は、楓の腕を引っ張り、そのまま外に出る。


「そういうことだから、途中まで一緒に行こう」

「うん。…途中までだよ」


 楓は、微笑を浮かべてそう言っていた。

 花音がこういう行動にでるのには、必ず裏がある。

 私と楓との仲を引き裂こうとしてるのは、花音の行動を見ればまるわかりだし。

 だからといって、花音を諌めることもできない。

 今の私にできるのは、なるべく楓と一緒にいることくらいだ。

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