第十四話・16

 今日は真っ直ぐに自分の家に帰るつもりだったんだけど、香奈姉ちゃんに誘われてしまい、そのまま香奈姉ちゃんの家に向かうことになった。


「今日は、私の部屋で勉強しましょ」

「勉強だけなの?」

「勉強だけじゃ、足りない? それなら、一緒にお風呂に入ろっか?」


 香奈姉ちゃんは、魅惑的な笑みを浮かべてそう言ってくる。

 もちろん、そんな誘いに乗るような僕ではない。


「いや……。一緒にお風呂はさすがに……。練習とか、そういったことはしないのかなって」

「練習は、みんなが揃わないとできないかも……。でも、楓とのスキンシップなら、いつでもできるよ」

「それも、やっぱりやめておこうかな……」

「そっか。なんか残念だなぁ……。それなら一緒に勉強しますか」

「うん。そうだね」


 僕は、笑顔でそう言っていた。

 さすがにテストも近いからね。

 エッチなことをして楽しむ時じゃない。

 香奈姉ちゃんも、やっとそのことに気づいてくれたか。

 なんだか、よかった。


 やっぱり香奈姉ちゃんの部屋は、男である僕からしたら落ち着かない。

 なんというか、雰囲気的にも居心地があんまり良くないかも。

 そんな態度が体に出ていたんだろう。

 香奈姉ちゃんが、訊いてくる。


「どうしたの、楓? なんだか、ソワソワして落ち着かないみたいだけど」

「なんでもないよ。ちょっと、わからないところがあったから、考えてただけだよ」


 僕は、そう言って誤魔化す。


「わからないところって、どこなのよ?」


 しかし、それが本気と思ったのか香奈姉ちゃんは、そう言って体を乗り出してくる。

 その時に、香奈姉ちゃんのおっぱいがチラリと見えてしまう。ちなみに、今日のブラジャーの色は水色だ。

 本人はわざとではないんだろうけど、それでも刺激的な光景だ。


「ああ、いや……。えっと……。香奈姉ちゃんが気にすることじゃないよ。このくらい、自分でなんとか──」


 僕は、思わずノートの方に視線を落とす。


「ああ、もう! 遠慮する必要なんかないんだよ。私は、楓の恋人であると同時に、楓のお姉ちゃんなんだからね! わからないことがあるのなら、素直に訊いてくれないと」

「う、うん……。気持ちはありがたいんだけど……」

「変に気を遣われてしまうと、私の方が困ってしまうのよ。それに、一緒に勉強してるんだから遠慮なんてしないの。…どんどん私に聞きなさい」


 香奈姉ちゃんは、自信満々な表情を浮かべてそう言った。

 ずいっと迫ってくる香奈姉ちゃん。

 だから、その体勢で身を乗り出してこられたら、おっぱいがもろ見えなんだって。

 ただでさえ、ちょっと大きめなのに……。


「わ、わかったよ。わかったから、身を乗り出して言ってくるのはやめて。…胸が見えてるよ」


 僕は、それとなく言ってみた。


「胸?」


 香奈姉ちゃんは、自分の胸元に視線を落とす。

 そこには、ちゃんと映っていたはずだ。

 水色のブラジャーを身につけている状態の香奈姉ちゃんのおっぱいが……。


「きゃっ⁉︎」


 香奈姉ちゃんは、慌てて服の襟元を手で押さえ、座り直す。

 どうやら、恥ずかしかったみたいだ。

 普段、僕に見せても平気な態度を取る香奈姉ちゃんが、そんな仕草をするのはとても新鮮だった。


「香奈姉ちゃんらしくないね。いつもなら『平気だよ』って言って、見せびらかすのに……。今回のは、人に見せちゃダメな下着だった?」

「ううん、そういうことじゃないの。…今回のは、楓のために着用した勝負下着なの……」


 香奈姉ちゃんは、恥ずかしげに頬を赤く染め、そう言った。

 勝負下着って……。

 身につけてるブラジャーからでも、そうなるの?

 そう考えてしまうと、もはや勉強どころじゃなくなってしまう。

 僕は、誤魔化すかのように教科書に書かれている問題集の答えをノートに書き込んでいく。

 でたらめに書いているので、正解なのかどうかはわからないけど。

 香奈姉ちゃんは、何を思ったのか僕の傍に寄り添ってきて、僕がやっている勉強を見てくる。


「それ、間違ってるよ。正解は、こうやるんだよ」

「え……」


 僕が何か言う前に、香奈姉ちゃんは素早く問題を解いていく。

 たしかに間違っていた。

 誤魔化すようにやった問題なので、かなりテキトーになってしまったのは、否めない。


 香奈姉ちゃんの家にいてしばらくしない時に、香奈姉ちゃんから言われてしまう。


「ねぇ、楓。せっかく私の家に来たんだから、お風呂に入っていきなさいよ」

「それは、さすがに悪いよ……」


 僕は、遠慮がちにそう言った。

 やっぱり、そうきたか。

 香奈姉ちゃんが、僕を家に招く時って大抵、一緒にお風呂などに入りたいと思った時だ。

 今回は、タイミングがバッチリすぎて、かえって断りにくい。

 香奈姉ちゃんは、僕の手を取ってくる。


「何、遠慮なんてしてるのよ。私たちは、幼馴染でしょ。お風呂くらい、なんてことないじゃない」

「そうだけど……。まさか一緒に入るとかって言わないよね?」

「ん? 一緒に入ったら、何かまずいの?」


 一緒に入るつもりだったのか。

 僕は、思案げな顔をしている香奈姉ちゃんを見て、言った。


「大いにまずいと思うよ」

「どうして?」

「さすがに間違いが起きたら──」

「『間違い』って何かな?」


 香奈姉ちゃんは、悪戯っぽい笑みを浮かべて訊いてくる。

 あ……。これは、本人が一番よくわかっている感じだ。


「『間違い』は間違いだよ。ある程度、成長した男女が一緒にお風呂に入ったら、起こることだよ」

「そうなんだ。私、楓との間に起こる『間違い』なら…起きてもいいよ」


 そんなこと、頬を染めて言われてしまったら……。

 あきらかに香奈姉ちゃんは、そうなることを望んでいるとしか思えないよ。

 ──いやいや。

 さすがに、お風呂に入っている時にそれはないだろう。


「とりあえず。お風呂に入るなら、香奈姉ちゃんから先にどうぞ」

「いやいや……。この場合は、楓が先でしょ。少し後から、私が入るっていうね」

「やっぱり、乱入するつもりなんだね。香奈姉ちゃん」

「当たり前じゃない。一体、何のためにお風呂を沸かしに行ったと思っているのよ」


 香奈姉ちゃんは、ずいっと僕に迫ってきてそう言った。

 しばらく席を外していたかと思ったら、やっぱりお風呂を沸かしに行ってたのか。

 それにしたって──。

 またしても、おっぱいが丸見えなんだけど。

 しかも今度は、ブラジャーを身につけていない状態なため、おっぱいの先端まで見えてしまっている。


「香奈姉ちゃん⁉︎ 胸が──! 丸見えに⁉︎」

「面倒だったから、ブラジャーとかの下着類は外しちゃったよ」


 香奈姉ちゃんは、わざと体をくねらせてそう言った。

 よく見れば、着ている服もどちらかというと薄着の方で、おっぱいの先端がうっすらとわかるくらいだ。

 僕は、思わずミニスカートの方に視線が向く。

 下着類は外したと言っていたので、今は間違いなくノーパンだろう。

 香奈姉ちゃんは、僕の視線の先を見て何かを理解したのか、悪戯っぽい笑みを浮かべて言ってくる。


「スカートの中…見たい?」

「見たくない……」


 僕は、小声で囁くように答えた。

 たぶん、香奈姉ちゃんには聞こえたはずだ。

 しかし香奈姉ちゃんは、ただでさえ短いスカートの裾を少し持ち上げて言う。


「え? 今、なんて言ったの? よく聞こえなかったんだけど」


 こうなると、僕に対する挑発行為だ。

 香奈姉ちゃん自身が、僕に見せたいとしか思えない。

 何度もこんなことされたら、僕の純情が汚されてしまう。

 いつか本当に僕が香奈姉ちゃんを襲ってしまいそうだ。


「エッチの最中に何度も見てるから、今は見たくないよ。…そんなことより、お風呂は沸いてるの?」

「え、うん。お風呂なら、もう沸いてるけど……」

「それなら、香奈姉ちゃんが先に入ってきなよ」

「でも……。そういうのは、まず楓から……」

「香奈姉ちゃん。下着、脱いじゃってるでしょ?」

「うん。お風呂に入るならちょうどいいかと思って…ね」

「そういうことなら、香奈姉ちゃんが先だよ」


 僕は、そう言って香奈姉ちゃんの背を押してあげる。

 こうでもしないと、なかなかお風呂に入ってくれないだろう。

 香奈姉ちゃんは咄嗟に振り返り、僕の手を取って言ってきた。


「…ダメ。お風呂は、一緒に入るの。これは、決定事項だよ。楓に拒否権はないんだから」

「え……」


 僕は、あまりのことに呆然となる。

 こういう時の香奈姉ちゃんの行動はかなりはやい。

 すぐに浴室前の脱衣所に入るなり、服を脱ぎ始める。

 しかも僕の目の前でだ。

 恋人同士とはいえ、恥ずかしげもなく裸になるっていうのは、どうなんだろう。

 そうは言っても、香奈姉ちゃんのことだから絶対に聞かないんだろうな。


「そういうことなんだから、一緒に入ろう」


 香奈姉ちゃんは、そう言って手を差し出してくる。

 手で胸を隠してないから言うまでもなく丸見えだ。

 頼むからおっぱいの先端くらい隠してほしいんだけどな。

 それを見ていると、また指で弄りたくなっちゃうよ。

 ──とにかく。

 そこまで言われたら、僕も一緒に入らないといけないか。

 僕に拒否権はないみたいだし。

 僕は、迷いながらも服を脱ぎ始めた。

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