第十一話・10
──真夜中。
僕は、お手洗いに行きたくなって目を覚ました。
香奈姉ちゃんは、寄り添うように僕の傍らで眠っている。
大きな胸をさらけ出したままで……。
あの後、結局セックスはせず、そのまま寝ることにしたんだけど。別にいいよね。
香奈姉ちゃんも、それで了承したわけだし。
それでも、一つだけ気がかりなことがある。
それは、言うまでもなく香奈姉ちゃんと兄のことだ。
香奈姉ちゃんは、兄のことをどう思っているんだろうか。
いくら僕のことが好きだと香奈姉ちゃんが言ったとしても、兄が香奈姉ちゃんのことを諦めるとは思えないのだ。
だから、何かしら香奈姉ちゃんにアプローチをしてくるに違いない。
「う~ん……。楓……」
香奈姉ちゃんは、何の躊躇いもなく僕に抱きついてくる。
眠っているから、躊躇いも何もないんだろうけど。
寝る時くらいは、せめて寝間着を着てほしいなって思うんだけど……。
今の香奈姉ちゃんの状態は、ほぼ全裸と言ってもいい。
こんな無防備な香奈姉ちゃんを襲う勇気は、僕にはない。
「さっさとトイレに行って、戻ってこようっと……」
独り言のようにそう言うと、僕は香奈姉ちゃんの拘束から難なく逃れ、自分の部屋を後にする。
みんなが寝ていると思うから、できる限り静かに部屋から出たのだが。
部屋から出ると、すぐそこに兄がいた。
それはまさに、バッタリ会ったっていうタイミングだ。
兄は僕の顔を見ると、なぜか不快そうな表情になり、こう訊いてくる。
「香奈が泊まりに来てるだろ?」
「うん。僕の部屋で寝てるけど。それが、どうかしたの?」
「そうか。やっぱりお前の部屋に香奈が……」
兄はそう言って複雑な表情を浮かべていたが、何をするでもなく自分の部屋に入っていった。
まぁ、玄関先に香奈姉ちゃんの靴があるから、訊いてこなくてもわかると思うんだけどな。
とにかく僕はお手洗いに行こう。
お手洗いから戻ると、今度は香奈姉ちゃんが起きていた。
「どこ行ってたの?」
そう訊いてくる香奈姉ちゃんの表情は、あきらかに不満そうだ。
これ以上香奈姉ちゃんのご機嫌を損ねるのは得策とは言えないので、ここは素直にどこに行ってたのか答えることにした。
「お手洗いに行ってたんだよ」
「お手洗い…ねぇ」
「どうしたの? やけに不満そうだけど」
「そんなことないわよ。ただ──」
香奈姉ちゃんは、何か言いたげな様子でこちらを見ている。
一体、どうしたんだろうか。
「何かあったの?」
「別に何もないわよ。どうして起こしてくれなかったのかなって思って」
「僕のお手洗いごときで他の人を起こすのはさすがに……」
「そっか……」
香奈姉ちゃんはゆっくりと立ち上がり、僕に近づいてくる。
下は穿いているけど、上は身につけていないので、胸がまる見えだ。
どうして、ちゃんと下着を身につけてくれないんだろう。
「どうかしたの?」
「ううん。なんでもないよ。またお手洗いに行きたいってことは…ないよね?」
「さすがにないかな」
「だよね……」
そんな落ち込まなくても……。
さっきお手洗いに行ったばかりだし。
二回目のお手洗いはしばらくないと思う。
「香奈姉ちゃんは? お手洗いとかはないの?」
「あると言えばあるけど……。楓が一緒じゃないから、その……」
香奈姉ちゃんは、困ったような表情を浮かべてそう言った。
「僕が一緒じゃないとダメなの?」
「そんなことはないんだけど……」
「だったら行って来ればいいよ。僕は──」
「一緒に来てくれるよね?」
「え……」
「私の知ってる楓だったら、問答無用で一緒に来てくれるよね?」
「僕が一緒に行くっていう前提なの? それって……」
「当たり前じゃない! 楓が一緒に来てくれないと、始まらないじゃない」
「………」
僕は、思わず絶句してしまう。
またアレをやるのか……。香奈姉ちゃんと二人っきりで。
「無言は、理解の証かな。そういうことだから、さっそくお手洗いに行きましょうか」
香奈姉ちゃんは、僕の手を掴むとそのまま僕の部屋から出ようとする。
だけど僕はそれを引き止めた。
「せめて、ブラジャーで胸を隠してよ。まる見えだよ」
「あら」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしげもなく自分のおっぱいを見る。普通なら恥ずかしそうに胸を隠すんだけどな。
この部屋には、僕と香奈姉ちゃんしかいないからなのだろうか。
普段からある羞恥心も鈍くなってしまうらしい。
香奈姉ちゃんは、ベッドの上に無造作に置かれているブラジャーを手に取ると、そのまま身につけ始めた。
「これでいいかな?」
「あ、うん……。さっきよりはマシだと思うよ」
本当なら、寝間着を着てほしいんだけどな。
そんな僕の思いなんて、香奈姉ちゃんには聞こえてはいないだろう。
「それならよかった。さぁ、はやく行きましょう」
「ちょっと待って、香奈姉ちゃん。せめて寝間着を着てから部屋を──」
「いいから早く」
香奈姉ちゃんはそう言って僕の手を取り、下着姿のまま部屋を出た。
こんな無防備な格好の香奈姉ちゃんを見て、何も感じないわけがない。
エッチなことを考えるなって言われても無理な話だ。
なんで香奈姉ちゃんは、下着姿で僕の家の中を平然と歩けるんだろうか。
今、兄の部屋には、ちゃんと兄がいるというのに。
そんなことを考えながらお手洗いの前で待っていると、香奈姉ちゃんがお手洗いの中から出てきた。
「おまたせ。はやく戻ろっか」
「うん」
僕は香奈姉ちゃんの手を取り、歩き出す。
ただ単に、自分の部屋に戻るだけだ。
そう思い二階へと続く階段を昇っていくと、その先に思わぬ人物が立っていた。兄だ。
なぜこのタイミングで兄が?
自分の部屋にいたんじゃないのか。
兄は、下着姿の香奈姉ちゃんに視線を向けると、羞恥に顔を真っ赤にして訊いていた。
「香奈……。何やってるんだ? そんな格好で」
「何って、お手洗いに行ってきただけだよ」
それに比べて香奈姉ちゃんは、キョトンとした様子で兄を見て、質問に答える。
兄は、下着姿の香奈姉ちゃんを見て、動揺してるのが見え見えだった。
「そんな格好でトイレに……。しかも楓も一緒って……」
「うん。一人だと心細いから、楓に一緒に来てもらったんだけど……。正解だったかな」
「そうか。心細かったのか。それをはやく言ってくれよ。そうすれば、俺が一緒に行ってやってもよかったのに」
「ありがとう。でも、隆一さんが心配するようなことじゃないから、大丈夫だよ」
香奈姉ちゃんは、笑顔でそう言うと僕の腕を絡めてきて、さらに言う。
「私には楓がいるから」
「香奈がそれでいいんだったら、俺から言うことは何もないな。──楓。しっかりと香奈をエスコートしてやるんだぞ」
「う、うん。わかってるよ」
僕は、そう答える。
兄は、僕に対してまだ何か言いたそうな感じだったが、香奈姉ちゃんがいるせいなのか閉口し、そのまま階段を降りていった。
しばらく立ち止まっていると香奈姉ちゃんが、僕の腕をぐいっと引っ張る。
「さぁ、楓の部屋に戻ろうよ」
「うん」
「そうだ。楓の部屋に戻ったら、エッチなことの続きでもしよっか? 私、いっぱいご奉仕しちゃうよ」
「いやいや。そういうことは、大事な時のためにとっておこうよ」
「大事な時だと思うから、今からするんだよ。こんな時でないと、できないからね」
香奈姉ちゃんは微笑を浮かべると、胸元に手を添えてそう言った。
どうやら、本気でエッチなことをするつもりだ。
下着姿のままなのは、チャンスがあれば僕とエッチなことをする気でいるから敢えてそうしていたのだろう。
「楓はどうなの? 私とエッチなことをするのは、嫌?」
「香奈姉ちゃんの据え膳なら……。嫌ではないけど……」
「嫌じゃないんだ。そういうことなら、また私とエッチができるね」
「先に言っておくけど、ゴム有りだからね。ゴム無しじゃ絶対にやらないからね」
「わかってるって」
香奈姉ちゃんは、嬉しそうにそう言って僕の腕にそのまましがみついてきた。
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