第210話 呪札

創造結界内



江藤、チコ、合間、石田vsスキャットマン




摩訶般若波羅蜜多心経

観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得以無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多故心無罣礙無罣礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢



どこからともなく聞こえて来る大人数なお経の合唱



賛美されてるかのようにお経が響く中、スキャットマンは坐禅状態で宙に浮かび、降下してきた。



目を閉ざし、錫杖を上下に振る度シャンシャンと音を鳴らしながら…



そして瞑想を終えたのか…



あぐらを崩したスキャットマンがゆっくり目を開き、降臨、地へと足を着けた。



スキャットマンと対峙したチコ、合間はいつでも抜刀出来るよう鍔に親指を掛け、数センチ程刀身を剥き出した。



また顔をひきつらせる石田も89式自動小銃を向け



四刀流で刃物を持つ江藤も静かに構えた。



それから10秒程だろうか…



両者動かず、語らず、何もせず



ただじっと静観を交えた。



想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多是大神咒是大明咒是無上咒是無等等咒能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多咒即説咒曰掲諦掲諦波羅掲諦波羅僧掲諦菩提薩婆訶般若心経



その間 周囲から聞こえて来るお経や錫杖の音が耳障りに強調され、スキャットマンを鼓舞する唱和が永遠続く中



双方の静を破り、切り出したのはチコ



チコ「ねぇ そこのイケメンなお坊さん ちょっと聞きたいんだけど ここは一体どこなの?」



スキャットマン「…」



無表情とも言える顔つきで見据えたままチコの質問に応じないスキャットマン



チコ「嘘 シカト? 今の絶対聞こえたよね? ねぇ 合間 今の聞こえたはずだよね?」



合間「お嬢 よそ見はなりませぬ…」



今はチコに付き合う余裕が無い… っといった険しく難しい表情をする合間



合間「しかし… なんてよこしまな気勢を放っておるものか… あやつの心には人の持つ温かい感情が一切ないように感じられる」



石田「え? どうゆう事?」



合間「つまり冷酷… 赤子だろうと子供だろうと平気で殺(あや)める まるで人の面を被った邪鬼よ」



石田「ヒィ お… 鬼っすか」



江藤「ねぇ 確かにこんなおっかない所に連れてきといてシカトはないよね? そろそろなんか喋ってくれてもいいでしょ」



摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦如…



スキャットマン「…」



まだシカトかよ…



江藤が少々呆れ顔でチコに視線を向けた時だ



沈黙していたスキャットマンがついに口を開いた。



スキャットマン「蟲つきよ その取り巻きよ ここがどこだかそんなにも知り得たいか? そんなに知りたいなら教えてやろう ここは…」



シャンシャンシャンシャン



不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得無…



すると



カッっと目つきを鋭くさしたスキャットマンが手の内から出した複数の呪符をトランプのように広げた。



スキャットマン「言うまでもない … そなた等の死に場所に決まっておろう」



そしていきなりその符を放ってきた。



バラ撒かれた呪符が江藤等を囲み、クルクルと回りはじめた。



石田「うわぁ」



慌てふためき見渡す石田



チコや合間も険しい表情で旋回する札に目を向けた。



江藤「…」



そして江藤も…



さっき俺にやったやつか…



急速に旋回スピードを上げ、クルクル回転する札に各自目で追った。



みるみるスピードを増し、もう石田では目で捉える事が出来ない速度まで到達



更に速度があがり



チコ「早」



チコや合間でさえも困難な速さ、2人でも捕捉が難しい程最速でビュンビュン飛び回る奇っ怪な札に…



6枚か…



人間離れした動体視力で江藤のみがその動きをハッキリと視認、目で追っていた。



すると



超高速旋回する中 1枚の札がいきなり向きを変え、中に進路を変えてきた。



そして無防備な石田の背中に貼りつこうとした時



シュ



寸前で包丁が突き刺された。



石田が気付かぬ背後で触手が即座に反応し、繰り出ていたのだ



その包丁によって札が貫かれた。



だがその途端



包丁がみるみると腐蝕しはじめた。



赤サビが広がり、まるで何百年も経過したかのように一瞬にして錆びれていく



ボロボロになる包丁は劣化が加速、ポロポロと刃こぼれをおこした。



その腐蝕はとどまる事無く、勢いよく広がりを見せ、取っ手まで迫るやそれを放り投げた触手



捨てられた包丁は腐食が進み、空中でチリと化していった。



そして札と共に完全に消失されてしまった。



江藤「3人共 気をつけて この札変だ… 腐食の属性がある」



石田「気をつけろって言われてもな…」



目に見えない円周運動で飛行する札に戸惑いを見せる石田が一歩後退させた次の瞬間



今度は旋回の中から飛び出してきた2枚の札が再び石田に襲いかかってきた。



札は石田の右肘と小銃にピタリと貼りつき



江藤「しまった」



江藤がそう発したと同時に腐食がはじまった。



小銃が朽ち、肘から広がる腐食



石田の腕が火急的に腐っていった。



石田「わぁ~ なんだぁ~ これ ぐああぁ」



己の腕がみるみる腐っていくのを目にし叫び声をあげるや



シュパ



石田の肩と肘の丁度中間から斬り上げられた刃



石田の右腕が切断された。



跳ねあがり、宙に舞った腕の腐食化が進みサラサラと粉状になって消滅していく



また小銃も同時進行で跡形も無く消え去ってしまった。



石田が後ろを振り返ると刃を振り上げるチコの姿を目にした。



目を合わせたチコから



チコ「ごめんなさい こうするしかなかった…」



己の腕をぶったぎられた… でもああでもして貰わなければ今頃は全身まで…



石田が頷くと急に想像を絶する激痛が走り出してきた。



石田「うぐぐぐ あぁ~~」



顔を歪め、絶叫



また石田は切られた断面から大量の血を吹き出すのかと目を向けた。



しかし血はほとんど出てこない…



合間「ここを押さえてる限り一滴も血は出ませんぞ」



合間がいつの間にか脇部を両手で押さえ、圧迫していた。



合間「何か縛る物をお持ちか?」



石田が必死に痛みをこらえながらズボンのベルトを外し、合間がそれできつく縛りはじめた。



石田「はぁ はあ 気が遠くなるくらいに痛いよ…」



合間「腕を切られたのだそうだろ なぁ~に でも死にやせんよ 今痛みをやわらげる点穴を押してやる 頑張るんだ」



石田の応急処置を行う合間に新たに2枚の札が飛び込んでこようとした寸間



包丁が突き刺さり、2枚同時に横から刈り取られた。



自己判断で動いた触手が未然に2枚の符を串刺すや、それを投げ捨てる



またも消滅する包丁



江藤が手にする包丁を真上に投げ入れると触手がそれを空中でキャッチした。



江藤「それでラストだからね」



残る札は1枚…



江藤がサバイバルナイフを握り締め、高速回転するラス1な札を目で追った時だ



スキャットマン「フフフ」



目を閉じ、薄気味悪い笑い声をあげるスキャットマンに目を向けた。



江藤「何がおかしい訳?」



スキャットマン「札の効果は分かったようだな だが… 少々おしい それは単なる腐蝕などでは無い」



江藤「なら何? ってゆうかおまえもう完全許さんよ この札取っ払ったらマジやっつけっからさぁ そこでジッと待ってろよ」



怒りに満ちた顔で怒声を浴びせた江藤



すると冷静な表情でスキャットマンが会話を続けた。



スキャットマン「その札の属性は消滅 あらゆる人の怨毒が詰まった呪殺符よ この世に未練を残した怨念達が円周運動により増幅され、生をうらやみ、妬むが故 その強大な念が有無に関わらずあらゆる物質を無へと誘(いざなう)う」



江藤「…」



スキャットマン「…硬さ 大きさ 液体だろうが 有機物 無機物問わずに喰らう 生き物であるならば骨はおろか御魂までも何もかも… 生まれかわりも許さぬ完全なる無 この世に存在したあかしを抹消する呪怨の札よ」



チコ「…」



スキャットマン「そなた等はこの空間で人知れず無に帰すんだ」



江藤「やってみなよ ようは身体に触れなけばいいだけだ」



スキャットマン「フハハ 触れなければ? まさかこれで終わりと思っていないか」



スキャットマンが新たに大量の呪符を広げてきた。



チコ「追加?」



スキャットマン「浅はかな」



そして追加で投げ入れられ、10枚以上もの札が周回しだす



スキャットマン「一斉に向かって来る札は防ぎきれまい」



江藤「チッ」



江藤は即座に放たれた札を目で数えた。



円周で速度を上げる札の数は全部で15枚…



15枚… 流石に一気に襲われたら対処しきれない…



スキャットマン「怨念に侵され 滅殺するがいい」



そして錫杖を突き立て、中3本指を立てた欠字なる片手印を結んだスキャットマンがマントラを唱えようとした時だ



シュパ パス スパ



素早き太刀の振りで3枚の札が切られ、刀刃がスキャットマンに差し向けられた。



チコ「調子に乗るのもそこまでよ」



スキャットマン「…」



斬られた札は消滅、スキャットマンがマントラを中断し冷淡な眼差しでチコを見据えた。



処置を終えた合間も立ち上がり、チコの背後へ着けると抜刀する



チコ「戦国の世より御先祖様達が血のにじむような努力で剣を振るい、稽古にあけくれた末 編み出された我が抜刀術 その剣技伝承の中には人ならざる者を斬るすべもあるのよ… 戦乱のいくさでは多くの命が散り怨念が渦巻いていた 人とは思えぬものに憑依された者も数知れず そういったあやかしを斬るすべがある またそんな戦乱の世で多くの血を吸ったこの刀もまた妖刀 この子に認められ選ばれたあたしだからこそ平気だけど ひとたび他人が手にとれば呪いと恨みで命を落とす、そんな曰く付きな一本…」



スキャットマン「…」



合間「我が愛刀鬼切羽もまたしかり… その呪符が呪いの毒ならこちらもまた猛毒よ 毒の深さなら引けはとらん… 」



チコ「そう… 浅はかはどちらかしら 年季の違いを見せてやる」



スキャットマンがカッと目を見開かせ、呪符で一斉に攻撃しようとした時だ



チコ、合間共に心内で必殺剣技を唱えていた。



チコ「…裏式一刀…」



合間「…破戒の心得…」



チコ、合間「……煉獄……」



踏み出された一歩と共に繰り出された斬撃



シュパ



周回スピードが最速へ到達する前に真っ二つに札が裂かれた。



次いで縦斬り、横斬り、斜め斬りと目にも止まらぬ小振りで次々と符が斬られ、また同時に突きの連射で次々と札が串刺されていった。



それを目にしたスキャットマン



馬鹿な… あらゆる物を消滅させる御札を…



あの2本の日本刀に腐蝕が見られぬとは…



また チコ、合間が札を切り捨てていく中



援護で江藤も加わり、飛行する札を触手が貫いた。



札を貫いた途端触手が腐食しはじめると、包丁によって切り落としされた。



切り落とされた触手の一部が札と一緒に消え去ると同時に



とかげの尻尾が如く生えてきた触手



3者による速攻な迎撃で旋回する呪符がすべて消え去っていった。



そしてあっという間に掃除を終えた3人がギロリとスキャットマンへ睨みつけた時だ



江藤の目が見開かれた。



スキャットマンの背後で宙に浮かぶ無数の札



その札1枚1枚がまばゆい円の光に包まれ、サンスクリットの悉曇(しったん 梵字)文字が浮かぶや円が回り、何やら発動しようとしていた。



スキャットマン「たわけ なまくら共がぁ」

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