第205話 魔術

サタナキア とある一室



麻島等の突入の様子をモニター越しで観察する月島



脚を組み、キャスター付きの丸椅子に座りながら、5台並べられたノートパソコンでその様子を見物している。



そして麻島達の突入された様子を目にし、にやつかせた。



その背後では腕を組みながら佇む、万頭の姿もあった。



共に観賞し、無言で様子を伺っていると



扉の閉められた密室空間に…



2人しかいないその背後に…



ドアが開かれる事も無く どこからともなく現れたスキャットマン



シャンシャン



錫杖の金リングが鳴ると



月島「空羅か… ノックくらいしてちゃんと入口から入ってこいよ」



2人共振り返る事無く、月島がそう口にした。



スキャットマン「何故故(なぜゆえ)止めた?」



月島「短兵急接で勝手に殺してくれるなよ 折角用意した俺のゲームが台無しになるじゃねぇか」



スキャットマン「何を悠長な事を… 向こうにも人外なる者がいるんだ 遊び心では足元を掬われかねぬ、こっちの首が危うくなるぞ」



月島「知ってるよ 変異な野郎にガキの女剣士と大男だろ 軍では有名な奴等さ まぁ いいから先を急ぐんじゃねぇ こいつらは俺の大事な客なんだからよ シャシャらず少し黙って見ていろ」



スキャットマン「…」



月島「それよりこれ見てみろよ 屋敷でも動きがあったみたいだぞ おまえ等の頭が出張って向こうも面白くなりそうだ」



もう一台別のノートパソコンがスライドされその様子が2人に見せられた。



すると



万頭がそれを見るなりいきなり部屋から退出しようと動いた。



月島「おい どこ行く?お手洗いか?」



ドアノブを握った万頭が口にした。



万頭「ここはおまえ等2人にまかせる」



月島「はぁ? 折角楽しいゲームを用意したのにこの後参加しねぇのかよ どこ行く気だよ?」



万頭「俺も屋敷に行く」



スキャットマン「…」



月島「屋敷?」



万頭「まだやり残し途中の相手がいるんだ そいつらを片付けねば」



月島「誰だよそれ…」



ガチャ



そして万頭はそのまま部屋をあとにした。



多数の奴隷達が襲いかかる映像の隣りで…



屋敷の映像に映るエレナと美菜萌の横顔がクローズアップされた…



ーーーーーーーーーーーーーーーー




ーーーーーーーーーーーーーーーー



屋敷 地下ホール



御見内達vs山吹、彩羽、ゾンビ達vs巨大熊ミナグロ



「グオオオ~~」



熊手の一振りで周囲のゾンビ達が軽々と薙払われ、山吹に襲いかかった。



山吹「フッ」



すると



ボカッ



ぶっ太い拳が額に打ち込まれ、巨体が怯むや ドカッ



もう一発叩き込まれ



ドスン



巨大熊が数体のゾンビを巻き込んで倒れた。



「ゴオオォ」



下敷きになり潰されたゾンビの上でデカい犬歯を剥き出しに吠えた。



そして付近のゾンビにかぶりつき、振り回した。



それから吐き捨て、熊が起き上がると巨大で筋肉質な腕が熊の毛に掴みかかった。



山吹「神獣は私の最高傑作品にまかせるとして… そろそろこちらも始めるとしよう」



山吹が空中に素早く文字を描いた。



村田「あぁ はじめようぜ インキチマジシャン」



それから山吹が書物を開き、前方に手をかざすや



山吹「クア  イオア  モス クア  イオア  モス クア…」



呪文を唱えはじめた。



それを目にした村田が…



させるかよ…



引き金をひこうとした寸前



山吹がスゥーと指を横に動かした。



パス



弾かれた弾丸



だが… 弾丸はいきなり横から飛び出してきたゾンビによって阻止された。



山吹「フッ」



また指を動かす



身代わりで銃弾を受けたゾンビは山吹の前に立ち、また数体のゾンビも山吹の盾となり立ち塞がった。



村田「くっ まじか」



山吹「そこの兵士よ まぁ そう焦るな… パーラスス・ノードイル・フォーモーゼルハァスロゾリー・ブルーロ・デーモニーネーイ・バス・イーター…」



再び詠唱を再開させた山吹



村田「何か知らんが訳分からん呪文を唱えさせるな おまえ等も早く撃ちやが…」



だが…  発砲される事無く



村田が2人に振り向くと



村田「おい なに…」



固まる御見内、エレナ、美菜萌を目にした。



御見内「チッ 身体が言う事をきかないんだよ」



美菜萌「クッ 指一本動かせない」



村田「冗談だろ」



エレナ「前回 あいつにあった時もこれを受けた 金縛りよ」



村田以外の3人が動きを封じられていたのだ



山吹「フフフハ 気づくのが遅いぞ兵士 貴様以外は今悪霊の包容を一心に受け身動き1つかなわんよ」



山吹の背後から頭部に狙いを定めたまま引き金が引けない山口



また青木や臼井、吉田も金縛りに遭い、動けずにいた。



山口「どうなってるんだ?動けん」



吉田「何これ…」



臼井「うぐぅ… 駄目だ 動けない」



青木「これ代表の縛身術だよ」



山口「くっ… どうやって解くんだ?」



青木「自力じゃ無理だ」



吉田「マジ? こんな状態であのゾンビ達に襲われたら終わりじゃん」



青木「まじヤバいね まんまと術中にハマっちゃったよ 代表の一声で終わりだよ」



山口「クソ これが例の怪しげな術ってやつか」



青木、山口が山吹の後ろ姿を目にした。



村田が左右に目を向け、山吹へ向け、口にした。



村田「ペテン野郎が どんなトリック使ったか知らねえが さっさと金縛りを解除しやがれ 頭を撃ち抜くぞ」 



山吹「フッ トリック…? 愚かだな これを見てもまだそう言い張るか まぁよい 私が手品師かどうかその目でじっくり確かめるといい ただしこれにも少々難点があってな 力の強い魔術は強ければ強い程詠唱に時間を要してしまう…」



村田「ほざけ 何が魔術だ」



山吹「なら 俺を撃ち殺しに来てみろ おまえは動けるんだぞ さぁ」



山吹が額に指差し、村田を挑発した。



村田「テメェー そんなウォーカー如きの盾とったぐらいで調子にのるなよ」



山吹「なら 踏み出して来い」



村田「なめんなよ」



そして村田が近接発砲で前に出ようとした時だ



御見内「ストップ 罠だ 出るな 村田さん」



御見内によりそれが制された。



村田「あぁ? 何で止める 奴を撃ち殺してやる」



御見内「待て待て 何か企んでるにきまってる」



村田「止めるな」



御見内「駄目だ 止めろ」



凄い剣幕で口にした御見内を目にし、踏みとどまった村田



山吹「フッ… 来ないのか… じゃあ そこでじっとしてろ エイター・ナール・アイドール・ヘーブン・ン・ヘイル・ヘイメル イアイアンマイン…」



再度山吹の詠唱が続けられた。



村田「おい 何だか知んねぇーが このままじゃ奴が唱え終わっちまうぞ どうすんだ?」



エレナ「確かにヤバいよこれ… どうすんの?」



御見内「…くっ…」



山吹「…ダイオミギーザ  オージ グレモリー サブナック グラシャラボラス 999 デーモニアス 52 ア ヴァイファス 666 レトリーヌ」



室内の電灯がチカチカしはじめ



エレナが見上げると



暗くなる度 幾つもの影が無数浮遊してるように見えた。



錯覚か… 本物か…



ただ言える事は…



美菜萌「何これ… 影が飛んでる…」



それが見えるのは自分だけでは無いという事



エレナが美菜萌と共に見上げた。



そして山吹がバタンと書物を閉じた瞬間



多数の浮遊する影が一斉に山吹へと吸い込まれていった。



村田「これは夢か…」



我が目を疑い、驚嘆する村田



明るさが戻った室内に はっきりと吸引されていく影を一同目撃したのだ



山吹「フフハハハハ これでもまだ壮大なイリュージョンだと思うか」



村田「クソ やべえ もうかますぞ」



ジッと出来ず、村田が発砲に転じた。



パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパス



連射でパラベラム弾が撃ち込まれ、排莢されていく金属莢



山吹「ハハハハハ やけっぱちかぁ ハハハハハ」



盾となるゾンビ等はたちまち蜂の巣となるがそれでも倒れんとばかりに山吹の死守に徹していた。



パスパスパスパス



村田「何でこいつら倒れねぇ~んだよ」



すると



一体のゾンビの足が急に浮き上がり 一直線に飛んできた。



空中をストレートに飛んできたのだ



村田「うっ」



村田はかろうじてそれをかわした。



そして後ろへ目を向けると壁に激突し潰れたゾンビを目にした。



とても自力のダイヴとは思えぬストレートな飛行と飛距離



今… 弾丸のように突っ込んできた。



なっ…



そして前方に視線を戻した時



にやつく山吹がかざす手をゆっくり動かすや



一体のゾンビの足元がフワリと浮上



山吹「フッ ゾンビスピア(槍)だ くらえ」



そして村田に向け、手をかざした次の瞬間



槍の様にゾンビの身体が一直線に向かってきた。



村田「くっ」



先程よりも速いスピード



村田はこれも何とか紙一重で回避した。



グシャ



ゾンビはそのまま壁にブチ当たり、潰される。



村田「テメェー」



山吹「ほぉ~ ハハ いい反応だ… 上手に避けられたな」



村田「百歩譲ってそのクソ忌々しい魔術とかってのを信じてやるよ だがそれがどうした… これを頭に受ければそれまでだ」



村田が再びサブマシンガンを山吹に向けた。



山吹「果たしてそうかな…」



御見内「…」 エレナ「…」



村田「秩序が崩壊した今 テメェーのような奴等がウヨウヨわいてきやがる テメェー等みたいなのを何て言うか知ってるか? 暴徒だよ 俺達組織は何もゾンビ討伐だけがメインじゃない、それと平行してテメェー等のような荒くれた狼藉者を駆逐、取締りする事も重要な任務だ 従ってこれ以上好き勝手はさせねぇ~ぞ」



山吹「ほぉ~ 立派だな それが正義か」



村田「そんなカッコいいもんじゃねぇよ ただテメェー等みたいなのが簡単に人の命を奪うからゾンビの数が一向に減らねぇんだよ これ以上余計な仕事を増やすんじゃねえって事だ」



山吹「元通りの世界を取り戻そうと日々奮闘か… ご苦労だな しかし そう願わぬ者もいる 新しい世の中をつくろうとする者もいる」



村田「いいか 勘違いすんなよ 俺達からしたらおまえもただの暴徒にすぎないんだよ たかが暴徒の集団が大それた理想を夢見てんじゃねえって話しだ おまえ等なんかただの駆逐の対象でしかねぇんだよ ゾンビ同様テメェー等も一匹残らず排除してやるからよ」



山吹「ほぉ~ ハハ 言うなぁ~ なるほど… だが大口叩くのはおまえ等も同じ… じゃないか? 兵士よ… まぁ いい その勇ましさに免じて少し遊んでやろうか…」



山吹が空中に文字を刻むや



山吹「縛りを解いてやったぞ」



すると御見内、山口等の身体が自由となった。



山吹「果たして大口叩くだけの力量があるのか… この私に見せてみろ」



山吹が右の掌を天にかざした。



次の瞬間



ブチ ブチュ ブチ ブチ



突如 周囲のゾンビの首が引きちぎれ、空中に浮き上がった。



彩羽vs超大熊 ミナグロ



「グォオオオ」



咆哮と共に熊ビンタが振るわれたが、ピンポイントで合わされた巨大な腕のフックに跳ね返され



その間 熊の背後へスルリと周り込んだ彩羽



そして触手が熊の首と胴部へ巻きつかせ



次に巨大な腕が熊の首根っこを掴むや推定700~800キロはあるだろう巨体を投げ飛ばした。



ドカァー



ヘビー級な巨躯は浮き上がり、壁に激突される。



「グフゥ」



鼻息を荒げ、起き上がる神獣が目にする先には



2本の触手と1本の腕を生やした小さくも か弱き少女



彩羽がゆっくり近づいて来るのを目にした。



そんな彩羽と神獣のバトルが行われる一方



エレナ達の縛りの術が取れたと同時に多数の生首が宙を舞っていた。



そんなありえない光景を御見内、エレナ、美菜萌、村田 また逆サイに位置する山口、青木、吉田、榊原、臼井達が見上げていた。



各人絶句し、言葉に出ない表情で見上げていると浮遊する首だけゾンビの目がギロリとこちらに向けられ、ガチガチ歯を鳴らしはじめた。



御見内「エレナ ちなみに幾つある?」



エレナ「77よ」



御見内と共に厳しい表情で銃口を向けるエレナ



山口等も一斉に銃器を構えた。



首が取れたゾンビ達の胴体は倒れる事無く山吹を囲みだし、円陣を組みはじめた。



そんなガッチリ守備を固められた山吹から…



山吹「クククク 揃いも揃っておったまげた面しおって… この私の専門分野を忘れたか?ネクロマンシストとしてこれくらい造作も無い事」



村田「御見内… 信じたくは無いが… こいつマジもんなのかもしんない」



御見内「…」



エレナ「この生首を使って私達をどうする気よ?」



山吹「どうする? どうするもこうするも…」



山吹が人差し指を動かすや



1本の生首が突然エレナに襲いかかってきた。



ハッとさせたエレナはガチガチ歯を鳴らしながら飛んで来る生首に銃口を合わせ



トリガーを引いた。



パスパスパスパス



銃弾が連射され



ブシャャ~



空中で弾け飛ぶ生首



迎撃に成功し、撃ち落とした生首の肉片がボトボト落下する中



山吹「こいつら死者の最も脅威な所は噛まれればたちまたち感染者に変貌してしまうという所 つまりこいつらの口が… 歯が脅威の全てと言う事になるな 噛まれればお終い…って事になるなだろう…」  



美菜萌「…」



山吹「フフ こいつら早くおまえ達のお肉にかじりつきたいとウズウズしてる」



山口「仕掛けて来るぞ 各個 的確に狙えよ」



吉田が慌てておぶさる榊原の身体を一旦下ろし、SMGを構えた。



臼井「まじかよ…まじかよ」



山吹「それに我が身に入り込んだ悪霊共も早くやれやれと急かすもんでな まずはほんの小手調べだ 私を楽しませてくれ」



青木「チッ」



キリッと鋭い目つきに変え、美菜萌が木刀を構えた。



村田「クソ」



山吹「やれ」



そして山吹が指令を下し



浮遊する生首が一斉に襲いかかってきた。


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