第181話 退陣

瞳孔の開いた目が更に開き、前倒れした奴隷



「があぁぁぁ」



餅つき杵を振り上げ



臼井「うわぁああ」



腰を抜かした臼井に振り下ろそうとした時



ドカァ



海原が脇腹にタックル



ガシャ~


押し飛ばされた奴隷はテーブルの残骸にぶつかり横転させた。



海原「立て」



臼井の襟首を掴み、立ち上がらせると2人は玄関口に視線を向けた。



冷気と共に入り込む無数の足音



煙りが晴れてきたエントランス内に…



バコ



メテオ野郎の顔面に右のストレートを叩き込んだ御見内も



村田、青木も



御見内、青木、村田、海原、臼井の5人が目を向けた先には…



視界が晴れたロビー内に…



破壊された玄関口から多数の男達が入り込んできた。



20人以上はいる…



どいつもこいつも下半身丸出しな半裸状態のクレイジー野郎共…



ウィィィィ



機械音を鳴らし幾つもの電動切断工具を所持した集団が前に出て来た。



ローレディで拳銃を構える青木がそっと御見内の背後に近づき



青木「倍以上いる… 多勢に無勢だぞ これでも殺生無しと… おまえはその信念を貫く気か?」



御見内「射撃に自信が無いならそいつを貸せ 俺がやる」



青木「どっちにしろ弾が足らねぇよ あと5~6発あるかないかだ」



村田「海原 使え」



灰掻き棒を拾い、海原へ投げ渡すと

奪ったバスターソードを身構える村田



ウィィィィウィィィィ



ディスクグラインダーやパワーカッターなどの回転刃を目にする2人



臼井「ヤバいぞ これ」



受け取った灰掻き棒を構え



海原「あぁ」



海原、臼井がジリジリ後退る



「げっひしししししし」



「へへへへ」



床に散らばるガラスの破片を気にもせず裸足で踏みしめる奴隷達



目が据わる者や虚ろな者、充血した者からイってる者まで普通じゃない若者たちが立ち止まり5人を見据えている中



青木「どうする? まさかこれ全部相手にするか?」



御見内も床に落ちた鉄熊手を拾い、構えた。



御見内「やるしかないだろ」



っとは言っても… 数が多すぎる…



どうあっても不利な状況に御見内が厳しい表情を浮かべた時だ



ピィーン



5人の背後でエレベーターの到着音が鳴った。



その音に5人が振り返るや



エレナ「…」



美菜萌「みんなぁ~ 乗って下さい」



EVから飛び出てきたのはエレナ、美菜萌、麻島、マツ、石田、吉川、佐田等7名



小銃を構えるエレナ、マツ、佐田、石田



サブマシンガンを構える麻島、吉川



そして



麻島「乗れぇぇ~」



麻島の呼び声で御見内達が一斉に動いた。



マツ「なんて事だ…」



折角の新居地が…



破壊された玄関口やエントランス内を目にし唖然とするマツ



5人は息の合った同タイミングで動き、マツ達の元へ逃走を図った。



すると



奴隷達も一斉に動き、一挙に押し寄せてきた。



ウィィィィィィィィ ウィィィィウィィィィ



回転刃を作動させ、追って来た電動工具部隊



臼井「うわっ 来たぁ」



開いたエレベーターを手で押さえる美菜萌



石田がボタンを押し、もう一機のエレベーターを呼び出した。



また吉川が肩に掛けたバッグから小銃やサブマシンガンを取り出し、御見内等に配り出す。



サブマシンガンを受け取った村田、海原



御見内「みんな 聞いて…」



御見内も小銃を受け取り、命を奪わないよう… 手足を撃つよう皆に呼び掛けようとしたのだが…



その間も無く



バスターソードを投げ捨て、構えた村田



麻島「撃てぇ」



村田「殺っちまえぇ~」



麻島、海原、村田によって即座に銃撃が開始された。



御見内「殺すなぁぁ~」



タタタタタタタ タタタタタタタ タタタタタタタタタタタタタタ



銃火が散り、銃弾が放たれ、御見内の呼び掛けは銃音に掻き消された。



ディスクグラインダーを構えた奴隷の顔部にめりこんだ弾丸



奴隷の首が反り返り、倒された。



タタタタタタタ タタタタタタタ



またパワーカッターを振り回す奴隷の喉元も貫かれ、吐血と共に膝を着かせた。



瞬く間に銃殺されてゆくその光景に愕然とする御見内の横に着けた青木が言葉を吐き捨てた。



青木「隊長等の行動は間違っちゃいねぇ~よ むしろ正しいぜ」



パァン パンパン



そして青木もマカロフを発砲した。



マツ「乗れぇ 退避するぞ」



マツが小銃を構えながらエレベーターに乗り込むと臼井、佐田、美菜萌、エレナが乗り込んだ



ピィン



続いて2機目のエレベーターが到着し、扉が開くと



石田「来ました 退避しましょう」



海原「先に行け 後から行く」



海原が扉を足で押さえた。



石田が頷き、エレベーターに乗り込み



エレナ「道 乗って」



エレナが御見内の腕を掴み、エレベーターに引き入れた。



マツ「先行くぞ すぐ2階の弾薬庫前で合流だ」



麻島、海原、吉川がオーケーサインを出し



マツ「おまえも早く乗れ」



青木が弾の尽きたマカロフを捨てバッグから小銃を取り出すと



青木「俺も残るよ」



マツ「……閉めろ」



1号機の扉が閉められ、上昇された。



エレベーター前に残ったのは麻島、村田、海原、吉川、青木の5名



麻島「何が起きたんだ?報告しろ」



タタタタタタタ



海原「ロケランです 弾頭のタイプからして… RPG」



吉川がエレベーター内に入りストッパー代わりを務める



吉川「海原さん 代わります」



海原「あぁ 頼む」



村田「砲撃によって倉敷が殺られました」



タタタタタタタ



麻島「洗脳された町民がいるという事は奴等か…」



海原「はい おそらく」



村田「退避の必要はねぇよ このままみんな殺っちまえばいいんだ」



「うげぇぇえ~」



改造BB弾銃を撃ってくる奴隷



血に染まる白のフリルレースのエプロンに鉈を構える町民



鍬を振りかぶり迫って来る全裸の狂人



ゾンビと遜色なさすぎなイかれた形相の民に撃ち込まれていく銃弾



タタタタタタタ タタタタタタタ



胸部、腹部に穴が開き沈んで行く



1人また1人と着実に掃討して行くさなか



麻島「吉川 弾だ」



エレベーター内に入る吉川がバッグからマガジンを取り出し麻島に手渡した。



カチャ



そして麻島がマガジン交換し、再びサブマシンガンを構えた。



その時だ



ブシュュュ~



麻島の目に…



煙尾つけた



玄関先からロケット弾が飛来して来るのが映った。



麻島「伏せろぉ~」



ドカァ~~



迫り来る奴隷達のド真ん中で爆発



数名の奴隷の身体が爆風で浮き上がり、吹き飛ばされた。



再び煙りが巻き上がり、包まれた視界不明瞭な中



麻島「大丈夫か?」



村田「うす コホッ ヤロー 家来諸共かましてきやがった」



海原「カハッ こっちも平気です 青木 無事か?」



青木「あぁ 全然平気だよ」



麻島「吉川 大丈夫か?」



次の瞬間



ブシュュュュュュュュ~



立ち込める煙りの中を一直線に向かって来る4発目のロケット弾が発射された。



そして吉川の目前にロケット弾が現れるや…



ドカァ~~



エレベーター内で爆発



黒煙と爆炎を吐き出し



麻島、村田、海原、青木の身体が吹き飛ばされた。



破壊されたエレベーターの中には無惨な吉川の死体



そこからモクモクと湧き出る濃い煙にエントランス内は包まれ、飛散した4人の咳き込む声のみが聞こえてきた。



麻島「コホッ コホ」



海原「ケホ ゲホ…」



仰向けに倒れた海原が起き上がろうとするや左腕に感じる痛み…



海原「うっ…」



右手で触れると腕にはパイプ椅子の鋭利な破片が深々と突き刺さっていた。



村田「ってぇ…」



また直撃は免れたものの爆風に飛ばされ全身を強打した村田



新築のエントランスは4発の砲撃によって廃墟へと早変わりしてしまった。



青木「うぅ……」



海原「うぐぅぅぅ」



海原が突き刺さったパイプを抜き取り



濃煙に巻かれた4人の声のみが小さく聞こえる



その外では…



ロケット弾を使い切ったのだろう…



月島がランチャーを投げ捨てた。



月島「フククッ」



そして懐のホルスターからシグ・ザウエルP229を抜き



さぁ… 何匹生き残ってるかな…



脚部のホルスターから刃渡り30センチ越えのビッグナイフ、ハンターボウイナイフが取り出され入口へと近づいて行った。



麻島「ゴフゥ」



腕で口を塞ぎ、起き上がった麻島が呼び掛けた。



麻島「コフ みんな生きてるか? 返事しろ」



村田「カハッ ガハッ 何とかです」



麻島「海原ぁ」



海原「はい こっちも生きてます 負傷しましたが 大丈夫です」



麻島がエレベーターへと歩み、排出する煙りの中を覗くと原形を留めぬ吉川の死体を目の当たりにした。



クソ…



麻島「コホッ コホッ」



そして隣りのエレベーターの呼び出しをおこなった。



だが砲撃の影響だろう 故障し、一切エレベーターが作動しない



麻島「起きろ 階段で退避する」



村田「うす いてぇ…」



海原「ゲホ コッ はい 吉川は?」



麻島「駄目だ 殺られた」



煙を掻き分け非常階段へと通ずる扉前まで移動した3人



麻島がノブを握ると



海原「青木は?」



その言葉でピタッと手が止まった。



レジスタンスの奴がもう1人残っていた…



麻島「2人は先に行け 青木を連れたらすぐに行く」



海原「私も一緒に行きます」



麻島「おまえは怪我をしてる いいから先に行け 行ってすぐにバリケードの準備に取り掛かれ」



海原「う… 分かりました」



麻島「行け」



村田「行くぞ」



そして村田、海原の2人は扉を開き、非常階段を駆け上がって行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



青木「ぅ…う…」



うずくまる青木



青木はエレベーター付近から10メートル以上も飛ばされていた。



うずくまる青木は胸を強打したようだ



胸部を押さえ、口を押さえ、痛みと苦しみに1人悶えていた。



ってぇ~… 何なんだよ一体…



一瞬にして瓦礫と化した惨状



煙に覆われた戦場を薄目で眺めていると…



物音が聞こえてきた。



ジャリ ジャリ…



その音はガラスの破片を踏みしめる音



また



ガシャー



何かを蹴飛ばし、どかす音…



おそらくこの足音の主は…



ゾンビや感染者、奴隷のものとは違う…



ロケットランチャーを撃ち込んできた主のもの…



青木はそれを容易に想像する事が出来た…



そしてその音は真っ直ぐこちらに向かってくる



ヤバい…



青木は胸の痛みを堪え、音をたてぬよう立ちあがった。



銃は…?



手から離れた小銃を探すが視界不十分なこの状況



青木は銃を諦め摺り足で後退しはじめた。



充満する煙の中、前方に目を凝らしながら、そぉ~とバック移動でエレベーターを目指す途中



その足下に



カラン



踵にビール瓶が接触し、蹴飛ばされた。



しまった…



ゴロゴロと音をたて転がるビール瓶



次ぎの瞬間



パァン パン 



煙のカーテン先からパッパッとマズルフラッシュが光り、発砲された。



青木は慌てざまに身を低し、残骸と化すテーブルの下へと逃げ込んだ



クソ…



そして撃たれてないか… ボディーチェックで全身を触った。



大丈夫… クソ… クソ… それより武器 武器 武器…



小銃も拳銃も失い、懐を探す青木の手にはプッシュダガーナイフのみ



これじゃ駄目だ… 他に… 何か武器 武器 武器 武器



残骸の陰から辺りを探していると青木の目に一本の灰かき棒が映った。



あった… あれでいい…



胸の痛みも忘れ、必死な四つん這いで移動、落ちた鉄棒に手を伸ばした時だ



テーブルを踏み台にジャンプした人影



煙の先から人影が飛び出してきた。



月島「ひゃ~ 見っけぇ 死ねやぁぁ~」



ハンターナイフを握り締め



四つん這いの青木に襲いかかって来た月島の姿



そしてジャンプからその無防備な青木の頭部へナイフが突き刺されようとした寸時



もう1つの人影が飛び出してきた



その人影によって…



ドカッ



空中で月島の胸板に跳び蹴りが入れられた。



空中で迎撃され、弾き返された月島の体



月島「くっ」



そして月島がテーブルに尻餅着くと同時に



シュ



半転された身体から



ドカッ



今度は腹部に高速のスピニングソバットが打ち込まれた。



直打で受け、月島は背中から倒れ込み、転げ落ちた。



青木の眼前に現れたのは麻島隊長だ



麻島はすかさずサブマシンガンを構え、煙りの中に消えた月島目掛け発射させた。



タタタタタタタ



すると



微かに映る人影が移動、飛び込み前転で遮蔽物へと逃げ込むのが見えた。



麻島は射撃を止め、青木の襟元を掴むや起きあがらせた。



そして小声で口にする。



麻島「負傷してないか?」



青木「う… うん あぁ」



麻島「ひとまず退くぞ 来い」



救出に来た麻島と共にエントランスを退避、非常階段を駆け上がって行った。



残骸の遮蔽物に隠れる月島が立ち上がった。



パンパンと服をはたき



月島「麻島め~~」



そしてまだ煙が晴れぬエントランス内を歩きだした。



多くの奴隷達の死体が転がる中



瓦礫をどかし、爆死した死体を確認しはじめる。



髪を持ち上げ、焼けた死体を確認



足で焼けただれたツラを確認にしていく



いないなぁ…



「ぅ… う…」



そして虫の息な奴隷を見つけるや



パァン



表情1つ変えず、トドメを刺す月島の胸ポケに…



ブゥゥ~ ブゥゥ~ ブゥゥ~



バイブする携帯



月島「あぁ」



万頭「そっちの状況はどうだ?」



月島はハンターナイフを脇に挟み、携帯電話片手に周囲を見渡した。



月島「もっと死んでるかと思ったが大して無いな 連れて来た使いっパシリの死体ばかりだ」



万頭「ターゲットを殺してないだろうな?」



月島「あぁ 俺としては死んでる事を願ってたんだが残念ながらここにはいないようだ」



万頭「こっちは輸送ヘリ、車両共に全て破壊した これで簡単には逃げ出せない それともうじきサタナキアに保管されてた例のバスタードも到着する 一旦こっちに戻って来い」



月島「バスタードかよ… はぁ~ もうあれいいわぁ~ 化け物の人形は勘弁して欲しいね 生憎こっちはそのポンコツ人形に何度も殺されかけたんだ…」



万頭「そう嘆くな 俺だって同感なんだ 趣味じゃない まぁ今回はBランクだから制御は確実みたいだ ちっとはマシな操り人形が到着する お! 噂をすればだ とにかく今すぐ戻って来い」



月島「分かった」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



マンション前道路に佇む万頭の前に



ピー ピー ピー



バック音を鳴らし進入して来た1台の大型トラック



「オーライ オーライ」



AK突撃銃を肩に掛けた黒フードが誘導を行い、万頭の前に停車された。



「代表の命令によりバスタード1体をお持ちしました」



万頭「あぁ ご苦労 どれどれ 今回のはどんだけ醜い顔なのか拝見する」



運転席からもAKを手にした黒フードが降り立ちトラックのハッチを開けはじめた。



「捕縛ターゲットの顔写真とかありますか?」



万頭「ある訳ないだろう」



「ですよね 敵味方の識別及びマンキャプチャにはターゲットの顔認識が必要なんですが」



そしてハッチが開かれ万頭が中を覗いた。



万頭「音声じゃ駄目なのか?」



「音声でも可能です」



万頭「ならおまえが同行しそいつに指示を送れ」



「はい 分かりました」



パソコンらしき機器と装置が置かれ女性らしき身体が明かりに照らされていた。



身体中にプラグやコードが繋がれ



派手な色調のブラジリアン水着姿



月島「女タイプか」



月島もやって来て中を覗いた。



万頭「ちょっとはマトモそうな人形だな」



月島「あぁ どんな美人なんだ」



そして黒フードが室内照明を点灯させた時



2人の目に映ったのは…



セクシーな水着を着た女の身体



だが 首から上は中年のハゲたおっさんの首が取り付けられていた。



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