第170話 逡巡
ガリ ガリガリ ガリ
ピンポピンポピンピピポピポピポ~~~ン
「うぅぅ~~」
バン バンバン
「奥さぁ~~ん いい加減借りた金期日までに返しましょ~よ 借りた物は返す 約束はしっかり守る 学校でそう習わなかったんですか? おぃ ババァ~ 出て来いやぁ~」
バン バンバンバンバン
ピポピポピポピポピポピポ~~~ン
玄関を引っ掻く音が鳴り、啜る声やバンバン扉を殴打し、どなる罵声が聞こえてきた。
そんな扉を隔てた玄関では…
御見内vs幼児型特異感染者
「マァーマー へぇーり~ へぇーりぃ」
御見内を見るなり思い出したかのようにプックリお腹を擦り、空腹を訴える仕草
やるしか無い…
腹をくくった御見内は戦闘モードに入った。
「へぇ~り~ へーり へぇーりぃ」
そして打根を身構えた矢先
襲い来ると思いきや幼児感染者は四つん這いでハイハイをおこないだし、グルグルと廊下を回りはじめた。
「マァンマンマンマンマンマンマンマァ~」
予測出来ない唐突な奇行に脱力しかけた その刹那
今度はいきなり急加速でハイハイしながら向かってきた。
そして
「マァァァ~マァァァ~」
飛びかかってきた。
ガァン
御見内は咄嗟に幼児の喉元を掴み、受け止めるや、勢い余って背中をドアにうちつける
襟元をガッチリ掴んできた幼児は足をばたつかせ
「へぇ~り~ ないない ばぁ~~」
口をあんぐり開けた。
「ヘリヘリ ばぁ~ マンマン バァ~~」
ベロをかき回す感染者を寸間で防いでいる御見内
御見内「くっ」
とても幼児とは思えぬ怪力に御見内の顔は赤らんだ
目玉をグルングルン回し食らいつこうと暴れる口からネバネバな唾液を撒き散らし、肉に食いつこうと興奮
御見内の顔前わずか数センチの距離で生え揃ったばかりの乳歯をガチガチ鳴らし、競り合っている。
「バイバイ バァ~ ガチガチガチ」
幼児感染者の喉輪を両手で掴み、何とか凌ぐ御見内
数センチの距離で拮抗するもそろそろ腕がもたない…
御見内がサイドに視線を向け
ガシャ~
体躯を逸らし、側面の下駄箱に幼児感染者を押し付けた。
ガシャ~ バリーン
下駄箱の上に置かれた花瓶やら箱やら色々な物が音を立てて散乱、落下する。
「うぅあああああ~」 「わあぁあああぁぁああ~」
ガリガリガリ
「貸した金返せよ 貸した金返せよ 貸した金 はした金なんでしょ」
バンバンバンバン バンバン
玄関先ではその音に反応してか一層外が騒がしくなってきた。
御見内は幼児を押し付けつつ、身体を半転、そのまま反動で投げつけた。
砲丸投げのように勢いよく飛ばされた幼児は舞い、落下、廊下をゴロゴロ転げる
だがすぐに起き上がり、再び向かってきた。
「へぇ~り へぇーりバァ~~」
両手を振り回し、ベロを回転させながらおぼつかない足取り
しかし… やはり幼児とは思えぬ歩行スピードで…
再び飛びかかってきた。
「マァンマンマぁぁあ~」
っと同時に
バコン
幼児感染者が空中で頭をはたかれた。
御見内が手にしていたのは自転車の空気入れ、それを咄嗟に拾いカウンターで合わせていたのだ
打ち落とされた幼児は顔面を床に打ちつけるもすぐに顔を上げ、御見内を見上げた。
次の瞬間
グサッ
幼児の脳天に今度は小槍が突き刺された。
「マァァァ~……ん…ま…」
途端に発声が止み、激しい眼球運動も停止、幼児感染者は安らかな眠りへとついた。
御見内「ふぅ~」
一息つき、振り返った御見内は下駄箱から散乱したある物を目にした。
この箱は見るからに…
そしてその箱を開けた。
中にはドライバーは勿論の事、スパナからキリ、ペンチに大小様々なレンチから釘、彫刻刀まで揃っている
あったあった これだ…
適当に数本のドライバーを手に取り、トンカチや彫刻刀も掴みあげる
お目当ての品は手に入った…
少し余計な時間を食ったな…
さて… 早急に引き上げるとしよう…
立ち上がり玄関に視線を向けた御見内
さっきよりもザワザワしている
バンバンバンバンバンバン
「うぅぅ……うぅ」
「居留守を使ってんのはバレバレなんだよ 利息分の1億円 今日は回収日だからよ キッチリ頂いて帰るからなぁ~」
御見内が覗き穴から外の様子をうかがうと
6~7体程だった筈の奴等が数倍にも膨れていた。
しかも玄関だけじゃなさそうだ…
御見内は台所へと向かった。
そして外の様子を見ようと格子付きの小窓を少し開いた途端
「うぅああわあぁぁあ」 「ああぁぁあああぁぁあ」
無数の汚い腕が中に伸びてきた。
裏手にも奴等はひしめき、いくつもの顔が御見内を覗いてくる
「奥さぁ~ん ねぇ奥さん はい 回覧板で~す」
「う~ん 今年の町内会の催しものはどうしようかねぇ~ クリスマスも近いしぃ… チキン おぉそうだ 子供達とチキン作りでもしようか 子供達に生きた状態から殺させて、血抜き、皮剥ぎ、丸焼きと… おぉ そうだ もしくわ 豚や牛の屠殺場見学もいいな 知ってるか 畜場に運ばれてきた牛や豚はこれから自分達がどうなるのか既に察して気が触れるんだぜ 牛さんなんか涙を流してトラックから降りるのを拒むんだ スーパーで売られる肉がどのよにして解体、加工されて並ぶのか? 誰がこの吐き気を催すような汚い仕事を請け負っているのか… これこそ世の中に貢献した仕事の一つ 食べ物のありがたみを知る一つ 少々刺激が強いが社会見学にはうってつけだし、言う事聞かない悪ガキがいたら屠殺用の電気バトン使えるしな よし 今年の町内イベントは屠畜場にて子供1人を生贄にバラし体験、その後はその人肉を使ってバーベキュー大会にでもしよう きっと盛り上がるぞぉ~」
チッ… 裏まで群れてやがる…
家を囲まれたか…
御見内は勝手口からの脱出も諦め、後ずさった。
こいつらは公園や駅前にいるハトと同じ
餌をあげるもんならあっという間に群らがって来る
俺の存在が嗅ぎつけられたとなれば時間が経つにつれ数は増える一方だ
かといってハケるまでジッとしてる時間は無い…
収拾つかなくなる前に脱出せねば…
御見内が2階へと駆け上がり
さっきの中学生ゾンビの部屋だろう一室へと入っていった。
入るなりこの家一番の激臭
強烈な臭いに流石の御見内も鼻を覆った。
部屋は散らかり放題、ベッドの上には切断された両脚が放置されていた。
骨が露見する程腐敗が進行するこの臭いの元から充満した部屋に入るなり御見内は窓を開け、静かにベランダへと飛び出た。
ベランダは丁度、正面玄関や庭に面し見渡し絶好な位置
そんな一眺出来るベランダに出た御見内が下の様子をうかがった。
1…2…3、4…
数えるのを途中で止めたくなるくらい玄関には奴等が貼りついていた。
また庭にも両手ではおさまらない数の奴等がうろつき…
その先の農道や畑の中にもうっすらと奴等の姿が見えた。
この家に向かってユラユラ歩行で近づいて来るのが分かった。
御見内は手すりから身を乗り出しエレナ達がいる建物へと目を凝らした
はっきりとは見えないが道沿いの街灯に照らされたシャッター前に奴等が群がってる様子は無い
御見内「ふぅ」
ひとまず安心した御見内は再度周囲を確認した。
「オイ ババァ こっちはアケジュウ(利息1日10割)の真っ当な取り立てしてんだ 年利36500%で納得して金借りたんだろぉ 1億くらいさっさと払えや」
「奥様~ 横田さんちの旦那と昼顔しまくってるふしだらな奥さ~ん 回覧板ですよぉ~」
「…今年のイベント場所は隣り町の精肉加工工場に決まりだ、来週までにその工場押さえとけ それと生贄にする子供のリストを明日までに用意しとけ 選別は俺がやる 警察に手を回さないとならんから早くしろ」
馬鹿みてえに大声張り上げた間抜けは…
感染者は3匹か…
楽勝だな…
っとなれば…
この数ならまだ何とかいける…
ここを飛び降り、真っ直ぐ突っ走れば突破はたやすいだろう…
あとは追って来る感染者を始末すればいいだけ…
だが… 御見内は飛び降りを躊躇し、険しい表情を浮かべた。
一つだけ問題がある…
俺がこのままあの病院に戻ればイコール同時に奴等をゴッソリ引き連れる事になる。
みんなを危険な目に合わせる事となる…
それだけは避けたい…
かといって いつまでもここに滞在する訳にもいかない…
どうする…?
奴等にバレずにあそこまでたどり着くのは難しい…
どうする…?
時間が経つにつれ奴等はどんどん集まってくる…
ここに居れば居るだけ… このままじゃ本当に抜け出せなくなる…
行くべきか…否か…
早く決断しないといけない…
手すりをギュッと握り、迷っている御見内の目に
真っ暗な一般道の遙か先
ん?
遠目にヘッドライトの明かりが映り込んできた。
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