第153話 欺瞞

レディーポジションで壁際に張り付いたスペツナズ兵達



タミルトンが部屋の死体を見渡した。



部隊の主力じゃない…



まだ他にいる… 外だ…



タミルトンが無言でジェスチャーを送り、総員頷いた。



そしてゴーサインが出されるや



勢いよく扉が開けられ一気に放出、左右へとばらけた。



窓から放られ、仰向けで死に絶えた雅史の死体に幾つもの人影が横切り



散開したスペツナズ兵が残りのネズミを探した。



見渡す限り敵の姿は視認出来ない



兵士等はハンドサインを送り合い、それをタミルトンに送ると



タミルトンが指をクルクルと回し、何やらハンドシグナルを出した。



まだ付近に潜伏してる筈だ…



ローラー(虱潰し)で隈無く探し出せ…



そしてただちに殺せ…



タミルトンから殺害指示のサインを受け、頷いた兵士が指をクルクルと回し、連絡のハンドサインを送ると



四方八方に散開しはじめた。



その間 辺りを見渡すタミルトンが小屋の周りを注意深く歩きだした。



妙だな…



足跡の痕跡がこの付近から急に消えている…



移動した形跡が…



何処にも見当たらない…



アンブッシュ(待ち伏せ)や森での追跡術に長けたタミルトンにしか分からない些細な痕跡情報



神隠しにでもあったかの様に赤塚等の行方がここで途絶えている事が分かる



タミルトンは辺りを見渡しながら戸惑いを見せた。



ありえない…



移動してないのか…?



なら 何処に…



タミルトンがローラーで拡散、森の奥へと消えた兵士等を一旦呼び戻そうと口笛を吹かす寸前



背中にある殺気を感じ取った。



そしてゆっくり振り返り、視線を上に向けた時だ



小屋の屋根からMPの銃口を向け、見下ろす海原と目を合わせた。



っと次の瞬間



屋根から飛び降りた赤塚、徳間、太田の3名



赤塚「無駄な抵抗はするな」



あっという間に赤塚等がタミルトンを取り囲んでいた。



屋根に伏せ、身構える海原



右方に赤塚 左方に徳間、太田が降り立ち、一斉にタミルトンへ銃口が向けられた。



タミルトン「…」



徳間「テメェー よくも仲間を… 殺してやる」



怒りに満ちた表情でジリジリ詰め寄る徳間へ



赤塚「徳間 乱すな 冷静になれ」



だが徳間の怒りはおさまらずタミルトンに近づいていく



海原「徳間 聞こえなかったのか やめろ」



赤塚「落ちつけ そいつと距離をおくんだ」



だが額に照準を定めた徳間は2人の指示に耳を貸さず一歩また一歩とタミルトンに近づいていくや



パシュ



徳間の足元付近の枯れ葉に弾が撃ち込まれた。



そして徳間の足が止まった。



サイレンサーを装着した海原による1発の発砲によって



海原「徳間 命令だぞ さがれ」



一喝され我に返った徳間が頷き、数歩後退する。



赤塚「大人しくしてろよ」



タミルトン「…」



赤塚「徳間、太田 中を見て来い まだ生きてるかも知れない」



徳間「分かりました」



太田「はい」



僅かな可能性に賭け、中の様子を見にいった徳間と太田



タミルトンが中に入っていく2人を目にし、海原を見上げ、赤塚を目にするや口を開いた。



タミルトン「Собирается выиграть?(勝ったつもりか?)」



赤塚「…」



タミルトン「Сигнал, скоро мне мужчины(合図ひとつですぐに俺の部下がやってくる)」



海原「主任 こいつ何て言ってるんですか?」



赤塚「知るか」



タミルトンは銃口を向けられながらも淡々とロシア語でまくし立てた。



タミルトン「В то время как они убили…(中の奴等はみんな殺したよ…) Это безнадежно(絶望的だな)」



海原「おい 筋肉マン 何言ってるか分からねぇーよ 黙れ」



タミルトン「Я буду умирать, вы пили…(死ぬんだよ おまえ等は…)」



海原「主任 撃ち殺します」



MPで狙い定めるや



赤塚「待て」



赤塚に制止された。



赤塚「…」



タミルトン「Это есть я еще отчаяния Специального(それとおまえ達にはもう1つ とっておきの絶望を用意してある)」



海原「黙れって言ってるのが聞こえないのか」



タミルトンが余裕な表情で赤塚を目にする



その数秒後に…



タァン



1発の銃声が小屋の中から響き渡ってきた。



突然の発砲音に驚きの表情を浮かべた赤塚と海原



更にその数秒後…



扉が開くや返り血で顔を赤く染めた太田が出て来た。



タミルトン「フクククク」



鮮血を浴びた顔を拭う太田と目を合わせた赤塚



赤塚「太田…」



太田は赤塚を目にするや会釈をし、タミルトンの隣りへとつけた。



海原「おい 太田 な…何してる?」



海原は思わず中腰に起き上がり、太田の信じられない行動に目を点にさせた



まだ状況が呑み込めていない



太田「すいません…」



2人に向け、再びおじぎをした太田に



赤塚「徳間はどうした…?」



すると



太田「すいません 俺が殺しました」



それを耳にした赤塚、海原に衝撃が走った。



耳を疑う海原



海原「はっ? 殺した…? おまえ何をしたかのか分かってるのか…?」



太田「はい… すいません」



唖然とする2人を目に高笑いするタミルトンが口にした。



タミルトン「フハハハハハ Это отчаяние в полном мимики(絶望に満ちた表情だな)」



赤塚「何でだ… 説明しろ」



太田「すいません…」



海原「すいませんすいません五月蝿ぇーぞ どうゆう事なんだ」



太田「私はこのチームが好きです 分隊長 海原さん 徳間にしろ今まで共にしてきた事は本気です ZACTの一員として携わった任務もしかり これは本心です」



海原「答えになってないぞ 何故おまえがロシア人の横にいるのか 何故徳間を殺したのか それを答えろ」



太田「自ら手をかけるのには気が引けましたよ… 徳間には申し訳ないと思ってます すいません」



海原「ロシアと手を組む裏切り者か… テメェーは何者だ?」



赤塚「ずっと俺等を騙してたのか?」



太田「……」



海原「テメェー 答えやがれ」



海原が屋根から飛び降り、鋭い目つきで太田を睨みつけ、MPを身構えた。



タミルトン「ハハハハハハ Чувство предательства коллег соратников и убить?(仲間を皆殺しにされ、仲間に裏切られた気分はどうだ?) Я хотел бы, однако, они попробовали отчаяние(さぞかし憂いに絶望を味わっただろう)」



海原「テメェーもさっきからうるせぇーぞ 木偶の坊」



赤塚「太田 どんな理由があろうと許される事じゃないぞ」



太田「分かってます 今まで騙してた事は謝ります 同時に感謝もしてます ですが… それもこれまでです」



太田がMPを赤塚に向け身構えた。



太田「御二方にもここで死んで頂きますので」



プュュュュ~~~~



すると 隙を突いたタミルトンが口笛を吹いた。



顕在な音色が響き渡り、合図が送られるや



すぐさま枯れ葉を踏みしめる足音がカムバック



四方からスペツナズ兵等が戻って来るのを目にした2人



赤塚「海原 撤退するぞ」



海原「チッ したいのはやまやまですが」



タミルトンもAKをコスタ撃ちの構えで取った。



太田「すいません ここで逃がす訳にはいきませんので 観念して下さい」



四者四様 銃口を向け合う中



タミルトンの部下達が引き返してきた。



そして木々の陰から依託射撃の構えを取り、赤塚、海原が完全に包囲されようとしている。



海原「主任 こうゆうのを絶体絶命のピンチって言うんですよね」



赤塚「あぁ さっきのランナー戦よりもヘリの襲撃よりも断然ピンチだな」



海原「俺等 ここで終わりすか?」



赤塚「諦めるな」



太田「諦めて下さい 抵抗しなければ苦しまずに一撃で楽にしますので」



海原「クッ ザクトの面汚しが」





タミルトンがハンドサインを送るや配置についたスペツナズ兵等が赤塚、海原両名に向け銃を構えた。



タミルトン「オオタ…」



タミルトンよりおまえが手を下せのジェスチャーが送られる



太田「俺が?」



タミルトンが頷き



太田が軽い溜め息をつき、赤塚に照準を合わせた。



太田「分隊長 申し訳ございません サヨウナ…」



太田が引き金をひく直前



パスッ



木陰に待機するスペツナズ兵の後頭部が突如撃ち抜かれ



パスッ  パスパス



次いで眉間、額を撃ち抜かれた2名のスペツナズ兵が倒れた。



次の瞬間



赤塚、海原、太田、タミルトンの耳に1人の男の声が届いてきた。



「太田 何をしてる?」



その言葉で一斉に振り向いた



その先には…



ザクトのチームリーダー



麻島がいた。



麻島を見るなりAKを向けたタミルトン



またそれより先にタミルトンに向けていたMPの引き金が海原によって引かれた。



パスパスパス



太田「くふ…」



だが弾を受けたのは太田、胸を数ヶ所撃たれ吐血した。



タミルトンが咄嗟に太田を盾に利用していたのだ



タミルトン「フッ」



海原「なに」



にやついたタミルトンは太田を投げ捨て、その隙に木の陰へと逃げ込んだ



赤塚「来い」



同時に裾を掴み、海原を小屋の陰へと引きずった。



パスパスパスパス



スタンディングポジションでMP5SDを連射する麻島



「ぐぉ」



また1人スペツナズ兵が片付けられた。



また赤塚、海原も小屋の角から身を乗り出し、発砲に転ずる



パスパスパスパス パスパスパスパスパスパス



森の中での銃撃戦



タタタタタ タタタタタ



バシュ パシュ



小屋のベニヤ板が砕け散るその死角で…



赤塚「敵の数分かるか?」



海原「いえ 分かりません ただ まとう隊長が既に4人消してくれた事は確かです」



赤塚「海原 隊長と合流するぞ」



海原「賛成 分かりました」



そして掩蔽(えんぺい)から飛び出した海原が援護射撃を行った。



パスパスパスパスパスパスパスパス



乱れ撃ち、敵が陰に隠れるのを確認すると



海原「今です 行けます」



赤塚も飛び出し、2人で麻島の元へ向かおうとした その時だ



仰向けで倒れ、まだ生きている太田の姿を目にした赤塚



赤塚が太田に駆け寄った。



赤塚「おい」



口から血を吐き出しながらパクパクと何か喋ろうとしている太田の首が抱き上げられる。



海原「主任 そんな奴ほっといて…」



赤塚「……なんだ?」



何かを必死で言おうとしている太田の口元に耳を傾けると



太田「か… ゴボ… すい… ゴッ…ま…せん…でし…」



そして途中で力尽きた太田は目を開けたまま帰らぬ人と化した。



その間 海原が木の陰から身を乗り出し、撃ってこようとするスペツナズ兵を見つけるや先に発砲



パスパスパス



幹に弾が食い込み、兵士が隠れた。



赤塚はそっと太田をその場に寝かせ



パスパスパス パスパス



海原「主任」



赤塚「あぁ」



そして2人がその場から立ち去る



次の瞬間



幹の陰からいきなり姿を現した大男がストック(銃床尾)を振り回してきた。



尻尾(バット)の打突が振るわれ、海原はすかさずそれを銃身でブロック



後ろに弾き飛ばされ背中がつけられた。



タミルトン「クックッ」



それから赤塚に銃口が向けるや



ガチン



サイレンサー部でそれを弾き上げた赤塚



タァン



弾は逸れ



赤塚が右のストレートを頬に打ち込んだ



しかし怯む事ないタミルトンが今度は赤塚に掴みかかってきた。



衣服が掴まれ、持ち上げられるやブン投げられた。



投げ飛ばされた赤塚が地面に落下すると同時に銃口が向けられ



腰撃ちからの発砲



タタタタタ



だが… 素早く横に逃げ込んだ赤塚は木の裏に回避した。



タミルトンはすぐに標的を変え、海原に腰撃ち姿勢で銃口を向けるや



座射で狙っていた海原を視認



貰った…



タタタタタ



タミルトン「ぐっ」



左肩に被弾しつつからくも遮蔽物の木陰へと回避したタミルトン



外しただと…



海原も木の陰へ隠れた。



タミルトンが潜んでいるだろう木をチラリと目にした海原のわずか数センチ横で…



バシュ



いきなり銃穴が開かれた。



木の間を発砲しながら移動するスペツナズ兵の姿だ



敵はタミルトンだけじゃない…



他にも兵隊が数名いる…



海原は身を伏せ木から木へ移り行き、直ちに辺りを見渡した。



ザァ  タタタ  タァン タタタ



兵隊アリの数は…



1匹… 2匹…



タミルトンを警戒しながら観察する海原



3匹か…



あのマッチョを含めた4名…



すると その背後から狙う人影



海原が見落とした1名のスペツナズ兵が忍び寄り、完全バックを取られた海原の後頭部に狙いを定めていた。



そして引き金に指がかけられた時



パス



一発の銃弾が眉間を貫通した



ドサッ



海原が振り返った先にスペツナズ兵が倒れていた。



そしてもう1人



海原の元に男が近づいてきた。



麻島「海原」

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