第146話 乱闘

指パチが坑道に響き渡り、まるで合図を待っていたかのようにスペツナズ兵等が散らばった。



それから四方を立射や膝射の構えでたちまち取り囲み



エレナはキョロキョロと鋭い眼差しで周囲に視線を向けた。



村田「まさかここにきて裏切られるとはな… クソッタレめ…」



村田も月島の額に照準を合わせ、銃を向けつつ辺りを見渡した。



すると



「諦めろ」



暗闇の中から声が響き、一足遅れてヴァジムが姿を現し、その背後からゲオルギーとポリーナも現れた。



ヴァジムがベレー帽を取り、髪をひと掻きしながら近づくその背後で笑みを浮かべるポリーナが口にした。



ポリーナ「Oх~ Я теперьвмоейтуман(あら~ もうネタ明かしちゃうんだ)」



ゲオルギー「ククク Вовремянашегообезьяна(中々上出来な猿芝居だったな)」



ヴァジム「もう逃がさんぞ」



村田「く…」



月島「ふふふふ …だそうだ 二度と日の目は見れないな…」



月島の後ろでヴァジム達が立ち止まった。



ポリーナ「ハァ~ Вокоренадеемояполуитьотзтожуткоеместо(さっさとこんな気味悪い場所から離れたいわ」



ゲオルギー「Это тоже потребовалось время(手こずり過ぎなんだよ)」



ポリーナ「какие…(何よ…) Я ничего не знаю(何も知らないで)」



ヴァジム「残りは?」



月島「そこの小屋の中だ」



月島が親指で指し示し、懐から拳銃を抜いた。



月島「やっとこ ここまて来て残念だが素性を明かした以上はここで死んで貰う」



村田「やってみろ テメェーも道連れだぜ」



エレナ「ねえ 月島さん… って事はもう一人の三ツ葉って男もグルなのよね?」



月島「あぁ~ 三ツ葉か… いや 奴は違うな」



エレナ「さっき俺達って言ってたわね? 他にも裏切り者が紛れてるのよね?」



月島「あぁ いるよ もう一班の方にな」



村田「何?」



月島「向こうもそろそろタネ明かしされたかもな… 人形の暴走… UMAの存在と思わぬハプニングが巻き起こったが それ以外ほぼほぼ筋書き通りに事は運んでいる」



エレナ「結局何を企んでるの?」



月島「世の中何が正義で何が悪なのか… 実に曖昧で希薄でおかしなものになっていた 世界… いや人間社会そのものが私欲を尽くす権力者によって作られたルールに支配され 全てが腐っていた」



エレナ「…」



月島「それを全て壊してくれたのがゾンビの存在だ まっさらな世界に戻してくれた 言わば我々にとっては救世主たる存在だよ これから理想の国家を作りあげる良ききっかけを作ってくれたんだ カザックはその使命を遂行しこの国に理想郷を作りあげる」



村田「馬鹿が湧いてきやがった 使命だと? 散々罪なき人々をテロ行為で虐殺してきたくせに何を言う ただのテロリスト集団なんだよカザックなんてのは そんなイかれた集団が何を血迷って理想国家を作るだと ふざけるな テメェー等はゾンビよりも腐ったゾンビ以下の連中だぜ」



月島「何かを変えるには代償や犠牲はつきものだよ 我々は権力者共に度重なる意志表示を幾度となく行ってきた 警告をな それを無視したのは奴等だ その報いで犠牲が増えた 虐殺を招いたのはむしろ権力を持った人間の愚かさだよ」



村田「話しにならねぇ~ 女 子供まで巻き込んでおいてそんな詭弁で片付けるな! イかれてるよテメェー等は」



月島「まぁ どう思おうが勝手だ」



エレナ「それで日本を乗っ取ってロシアに差し出すつもりなの?」



月島「差し出す? 肌の色 民族の違いなど関係無い 私達は私達でよりよい国造りを共にしていくだけだ! ヴェチェラフ大佐、山吹と共にな そこでまず初めにやらなければならないのがゾンビの諸君に消えて貰う事 共存は不可能だから御役目を果たした彼等彼女等には即刻いなくなって貰う必要がある、その為の道具が…」



エレナ「バスタードね つまりバスタードはゾンビ狩りの機械化集団…根絶やしにするまで自動で勝手に駆逐して回る便利な道具って訳ね」



月島「その通り 読みがいいな そしてもう一つ邪魔な存在がいる」



人差し指を立てた月島



月島「それはおまえ達だ」



その指を村田へと向けた。



月島「ZACT この国で新たに建国するには貴様達の存在が邪魔なんだよ」



村田「へっ… 裏切りの次はザクトに喧嘩売るつもりかよ 怪しげな邪教徒の集団と最強特殊部隊とは言え、たかだか一部隊に過ぎない戦力で、仮にも現在一国を統治するいち軍隊に宣戦布告するってか 随分と舐められたもんだな」



月島「知らぬだろうが先ほどスクランブル騒ぎがあった 狙いは横須賀港近海に停泊する米空母 ついさっきそのブリッジにロックオンアラームが刻まれたばかりだ 意味は分かるな?」



村田「何?」



エレナ「…」



月島「みくびってるのはおまえ達の方だ こちらにはまだ他にも手札があるぞ」



すると



月島の肩が掴まれ



ヴァジム「よせ それ以上は語るな」



月島「ふっ ついお喋りが過ぎたな… でも まぁいいじゃないか どうせこいつらはここで死ぬんだ」



村田「チッ 最悪な状況だな どうする?」



エレナ「こんな所で死ぬ訳には行かない… 絶対に」



ヴァジム「Убить парня в(中の奴を始末しろ)」



ヴァジムの指示で3名の兵士が小屋へと近づき出した。



村田、エレナがその兵士等に銃を向けると、ヴァジム、ゲオルギー、ポリーナ、月島が同時に銃口を向けてきた。



月島「おっと 早まるなよ 殺す前にまだニ三尋問したい事がある そこでじっと仲間の死ぬ所でも見てろ」



兵士等が音をたてずにドアへと近づき、扉の両サイと前方にそれぞれ着いた。



そしてアイコンタクトを交え、ドアノブを握りゆっくりと回した。



いつでも発砲可能なAKを構え、開くと同時に1名の兵士が突入



その時だ



ドスッ バコォ



入口から兵士が急にはじき出され、接触、地面に倒れ込んだ



その直後 室内から現れた御見内



突発に何やらスローイングされた。



紐付きの小槍、それが月島目掛け飛ばされたのだが直前にそれは弾かれた。



月島「フッ」



月島の前に出たゲオルギーがそれを防いでいたのだ



村田「おみない!」



御見内「悪事の全容聞かせて貰ったぞ」



御見内が倒れた兵士の1人に銃を突きつけた。



御見内「そんな計画叩き潰してやる」



月島「見えざる手に導かれたレール、崇高なこの筋書きにデウス・エクス・マキナ(どんでん返し)などありえない…」



御見内「あっそ 生憎俺は無神論者だからな そういったたぐいは信じない 信じるのは常に真実と現実のみだ ならばそのレールとやらを破壊してやるよ」



月島の背後にいるヴァジムにある無線が入ってきた。



ヴァジム「То, что…(えぇ…)  Еще нет……(まだです)




……Я понимаю(分かりました)」



ポリーナ、ゲオルギーが目にすると



ヴァジム「От полковника(大佐からだ)」



月島「正義感にかられるのは結構だが おまえ如きに何が出来る? この波は…」



御見内「止めてやる 防波堤でシャットアウトだ」



御見内が言葉を被せた。



ヴァジム「С инструкцией и положить конец миссии быстро и оставить.(速やかに任務を終息し離脱せよとの命令が入った)」



ポリーナ「И не верьте что парень голову с вами(ならあいつの首を持ち帰らないと)」



ポリーナが大型ナイフを取り出し御見内を目にした。



ヴァジム「月島 大佐より任務完遂後 速やかに帰還しろとの命令が入った そろそろ終わらせ すぐに離脱する」



月島「分かった …だそうだ」



ヴァジム「Убрать быстро, чтобы снять.(速やかに片付けて撤退)」



ヴァジム「殺せ!」



一斉に村田、エレナに銃口が向けられ



ナイフを握り締めたポリーナが御見内目掛け、踏み出そうとした



瞬時



ゴォォオ~~



再び地揺れが起こり



壁や天井から数匹ものデスワームが突然現れてきた。



穴と言う穴から芋虫とミミズの合体したような不気味なフォルムが次々飛び出してくる



ここは奴等の住処…



人のいざこざなど奴等には皆無



その巣に迷い込んだ人間は皆奴等にとってかっこうの食糧にしか過ぎないのだ…



「グェェェ~」



隆起した地面が破裂、身体をくねらせ、鳴き声をあげたデスワームが土を撒きあげた。



横槍で出現したデスワームの群勢に

うろたえ辺りを見渡す月島や兵隊達



だが その出現と同時に目の色を変えた2人がいた。



それは御見内、エレナの2人だ



御見内はまず突きつける銃の引き金をひき、側にいる2人の兵士にすぐさま銃口を向け、間髪入れずにひいた。



パス パスパス



額に穴が開く3人の兵士等の膝が落ちると同時に今度はエレナ等を取り囲む兵士等にMPを向けていた。



またエレナも89式小銃で不利な位置にいるスペツナズ兵等に素速く狙いを定め発砲



タァン タン タン タァァン タタン



エレナ等を円周する兵士等が次々と的撃ちされ、崩れていった。



あっという間に取り囲んでいた兵士達を倒した2人は一瞬視線を交わし



御見内は次に月島へエレナは辺りのデスワームへとそれぞれ銃器を向けた。



「グェェェ~」



一間遅れて村田もデスワームに銃を構える



その直後 地面から伸びたデスワームが容赦無く襲いかかってきた。



「ぐぁあああ」



兵士の胴体にかじりつき、背骨をへし折りながら身体が折り畳まれ吸引



丸飲みされる



また頭部から丸飲みした兵士の足が激しくバタつく光景



また



タタタタタタタタタタ



発砲を受けるも足元に食らいつき



「わぁぁぁあ~」



発砲しながら引きずられ、口の中へと吸い込まれていく兵士の姿



デスワームはエレナにも襲いかかってきた。



円形の気色悪い口で食いかかる寸前



タタタタタタタタタタ



口内に弾丸が撃ち込まれデスワームは怯んだ



エレナ「村田さん 私の背後について そこら中から襲いかかって来るわ 互いの後ろを守って」



村田「わ…分かった」



パァン パァン



月島「害虫共め 死ね 死ね」



応戦するヴァジムと月島



数匹のデスワームにゲオルギーが抜群のコントロールで手榴弾を口の中へと投げ入れた。



新たに懐から取り出し、両手に握る手榴弾のピンが抜かれた



その2秒後



ボン ボォン 



内部から爆発し、肉片が飛び散った



タタタタタタタタタタ タタタタタタタタタタ



「わぁ~ がはっ」



「グェェェ~」



身体に銃弾を浴びたデスワームからの悲鳴や人の悲鳴、銃声が鳴り響く中



月島に狙いを定めた筈の御見内の手からMPがはじかれていた。



転がるMP



御見内の視線の先には…



不意に横から現れたロシアン美女がいた。



ポリーナだ



そしてポリーナはカタコトの日本語を口にした。



ポリーナ「コンニチワ」

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