第127話 絶念

コーキュートス(下水処理場) 第2ラボトリー



柊「これで全部再起不能だ」



御見内等によってあらゆる装置や機器が滅茶苦茶に壊され



壊滅状態となるラボトリー



これでもうおぞましい人形の製造は行えない…



もうバスタードと呼ばれる怪物が生み出される事は無くなった…



野々宮「これだけやれば大丈夫でしょう さぁ すぐに皆の所に戻りましょう」



コクンと頷く御見内



臼井「いや まだある バスタードの今までの実験データから遺伝子操作の設計図、サンプルデータなどのあらゆるデータがまとめられた重要ファイルがまだ残ってる…」



野々宮「それはマズい それはどこに?」



臼井「その先のラボにあるパソコンの中だよ… 誰ぞに引き継がれでもしたら厄介だ 絶対に破棄しとかねば」



臼井が指さす先…



野々宮「この先の部屋か…」



4人は扉を目にした。



そう…



御見内等は第1ラボを通り、ここへ来た 



そしてこの扉を封鎖した。



つまりこの先には追いかけて来た奴隷共がわんさかいる事になる…



野々宮「ちなみに他に出口は?」



臼井「無い その扉だけだ」



野々宮「御見内さん このドアの向こうには町民達がうようよしてる筈ですが… まだいると思いますか?」



野々宮が扉へと近づき聞き耳をたてるが重厚な扉、覗き窓も無く奴等の存在を確認する事が出来なかった



御見内「えぇ 諦めてくれてればいいんですが 多分わんさか徘徊してるでしょう どっちにしろここを戻るしか無いです」



野々宮「ですね… 臼井さん そのデータ破棄に要する時間はいかほど?」



臼井「デスクトップとノートパソコンが…何台ある?」



柊「確か 合わせて7~8台」



臼井「柊と手分けして本体ごとぶっ壊すから30秒 いや1分は欲しいかな」



野々宮「あ デリートじゃなくて力技でね…それなら俺等も一緒に出来るから数十秒でいける… 問題は突破か… 御見内さん 2人を守りながら切り抜けられますか?」



御見内「やるしか無いです 行きましょう」



野々宮「オーケー 臼井さんは俺と 柊さんは御見内さんにピッタリついて下さい この扉を開けた途端 奴等が襲いかかって来ます 2人は貼りついての行動を」



臼井「分かった」



柊「はい」



野々宮「頭を撃ち抜ければまだ楽なんですが いかんせん相手はゾンビみたいなれっきとした人間 かなりのハードミッションになります」



御見内「えぇ 致命を与えず 無力化 至近距離で早撃ちしながらの2人の防衛… 群集は確か200人近くはいたかと… いまだかつてない厳しい試練になりそうで…」



野々宮「はい 身震いしますね… データファイルを破壊し群れを突破します みんな用意はいいですか?」



臼井、柊は顔をこわばらせながら頷き、御見内、野々宮が立射の構えで扉の前に出た。



息もつかせぬ シューティングコンテストになりそうだ…



一気に4人に緊張が走り



野々宮「扉を開けて」



柊がサササと動きテーブルに置かれたリモコンを手にボタンを押した。



するとロックが解除され、緑色に点灯したランプ



通常の自動開閉扉へと戻り



ウィィィィィ



扉が開いた。



その開かれた途端御見内の目に映ったのは室内を無作為に徘徊する町民等の姿だった。



そして 作動した扉に数人の町民が気づき



「∞¤℃ÅХ¥♀∑∮∝⊗」



1人の町民が騒ぎ声をたて、一斉に町民等が4人に振り向いた。



イかれた視線が突き刺さる



ざっと見渡して、室内には4~50人



4人を目にした1人の町民がハチェット(手斧)を振り上げた



そしていち早く襲いかかろうとした



その時



タン



肩が撃ち抜かれ、体躯が反れてハチェットを床に落とした。



先制の弾丸を放ったのは御見内



タン



引き金がひかれ



またも肩に着弾



町民は身体を捻らせ、回転しながら後ろへと倒れ込んだ



その初発の発砲音を合図に…



「∝ро@?★※♢⊿♪♭」



意味せぬ言語で喚く町民達が一斉に4人へと向かって来た。



こんな厳しい状況だろうと…



こいつらは感染してる訳じゃ無い…



洗脳が解ければ…



あくまで人間…



殺す事は出来ない…



野々宮、御見内が連射機能を3点バースト(3発発射)に切り換えた



タタタン タタタン タタタン タタタン  タタタン タタタン



竹槍、大型鎖カッター、木製バット、これも武器?4本柱の立派なトロフィーを振り回し襲い来る町民の太腿に着弾



こぞって転倒させた。



だがその後ろから押し寄せる奴等



押し切られる



4人は並ぶデスクやら機器、テーブルの後ろへと周り込み、それらを障害物がわりに発砲と移動を行っていく



「@Х@&!★◐■〒♯」



タタタン タタタン



御見内「柊さん 早くパソコンを壊せ」



御見内の前に中国の混天截(こんてんせつ)と呼ばれる特殊な槍のような長物を持った町民とクラブ(棍棒)を持った町民2名



御見内目掛け、それらを振り下ろしてきた。



御見内は咄嗟に後ろへと下がり、その打撃を回避



ガシャー



混天截が長テーブルを叩きつけ、テーブルが真っ二つに折られた。



回避した御見内はすぐさま前に飛び出し、銃口を肩に押し付けるや



連射機能レバーをセミオート(単発)へ切り換え



タン



零距離発射させた。



同時に腹部に前蹴りをかます



ボゴォ



またクラブ野郎の手首を掴み、引き寄せつつ足を引っ掛け、転ばせるや



バコン



顔面にサッカーボールキックを打ち込んだ



蹴り飛ばされた町民は数人を巻んで倒れ込み、顔面を蹴られた町民はノックアウト



その間 柊はノートパソコンを床におもいっきり叩きつけ破壊する



御見内「柊さん これを使え」



床に落ちた棍棒を蹴り渡し、それを受け取った柊が今度はデスクトップの液晶モニター目掛けフルスイングした。



ガシャ~



御見内はすぐに振り返り再び発砲に転じた。



タタン タタン タタン



発砲しながらキャスター付きの椅子を蹴りつけた野々宮



マレーシアのサーベルの一種 パカヤン、日本の古代武器袖溺(そでがらみ)と呼ばれる3m程の長柄を手に襲いかかる町民に滑る椅子が接触、バランスを崩し、後続もろとも軒並み倒れ込んだ



臼井「こっちからも来たぁ~」



今度は背後から襲いかかって来る2人の奴隷の姿



ツルハシと刺身包丁を所持した奴隷が2人に迫って来た。



野々宮「くっ…」



野々宮は振り向きざまにMPを発射



タタタン タタタン



肩に命中させた。



1人は肩を撃ち抜かれ、ツルハシを落とし、崩れ落ちたのだがもう1人は喉元から胸部にかけ貫かれていた。



口から血反吐を垂らし、目を開けたまま沈んでゆく町民



くっ… しまった… 射殺してしまった…



臼井「わぁ 前からも」



野々宮「クソ」



野々宮はうっかり1人を殺(あや)めてしまった事に動揺を見せ、それを悔やむ間もなく



次々群がって来る奴隷等に追い込まれていた。


一方



ガシャー



資料や書類の収納された棚が倒され、ほんの数秒でも時間稼ぎの障害物を作る御見内



その隙に柊と共に発砲しながら後退していた。



手足を撃ち抜かれ、戦力外となる奴隷の数は早くも15を越えたのだが



まだまだ勢い止まらぬ血走った奴隷達は室内に沢山いる。



カシャ



素早くマガジン交換がなされ、発砲される。



タタタン タタタン



五鈷杵(ごこしょ)と呼ばれる金剛杵 その両端に鋭利な刃物を仕組ませ改造された密教法具の武器



それを手に向かってきた町民の上腕にヒットさせ、そいつは膝から倒れ込む



ガシャー



御見内の後ろでは柊によって滅多打ちにデスクトップが壊された。



タタタン タタタン タタタン



次は鍬やゴルフのパタークラブを構え向かって来た奴隷を狙い撃ち



見事肩や太腿に的中



2人を床へと這い蹲らせた。



それと同時に



ある物をブンブン振り回す奴隷



それはソマイと呼ばれる南アメリカの投擲武器



先端に重りのついた紐を頭上でブンブン振り回す奴隷に目を止めた御見内



すると



投げ縄の様に加速がつけられたその武器が放られた。



ブン



御見内の瞳に回転しながら飛来するそれが映る



ブンブン



回転運動で投擲武器が飛んできた。



やべ…



御見内はとっさに身を屈めそれを回避



ガシャー



後ろの標本らしきガラスにぶつかり中の液体やら物体が飛び散った。



あぶね~じゃねえか…



タタタン



そいつは即座に両膝を撃ち抜かれ、横たわる



ガシャー



御見内の背後では…



ガシャー バリン



デスクに置かれたノートパソコンに棍棒の強打



キーボードは潰され、画面が割られる。



それから柊は隣りに置かれたノートパソコンにも渾身の強打をかまし、真ん中からへし折った。



これで4台め… 次…



重要ファイルの詰まったCPUを求め、柊が室内を見渡した時



負傷した身体を引きずり、まだ諦めずに攻めてこようとする奴隷の姿や



発狂声をあげながら床を這い蹲(つくば)る奴隷の姿



「じぎゃヵがががが~」



「■!#●▽§※♯≧⊕∪」



また… 元気な奴等を目にした…



奇声や不明な言葉で室内に重奏で響き渡らせ…



「#∞ζ〒〒※ℵ♯#●●∂■」



充血したキチガイな眼球と目が合った柊



目に力は無く ゾンビや感染者に似た生気無き瞳…



柊「ひぃいぃ」



全身に寒気が走った。



そしてそいつはノコギリを振り上げ、柊に向かってきた。



柊「わぁぁ」



すると



タタタン



柊に迫る寸前そいつの鎖骨部が撃ち抜かれ、膝を落とし、倒れ込んだ



タタタン タタタン



前方で応戦する御見内によって迎撃されていたのだ



次々襲いかかって来る奴隷達に御見内の発砲は止まらない



一方



「ΜΦζΘℓ€ℵ∂∮∞∬∽」



自転車のチェーン、火かき棒、アイゼン(雪山登山用靴に装着する滑り止め)を腕に巻きつけ振り回しながら…



荒っぽく棚や機材に身体をぶつけつつ、野々宮目掛け向かって来る奴隷共に



タン タン タタタン



野々宮も連射した。



ピキュ



火かき棒が弾丸に弾かれ、空を舞い、アイゼンの刃が砕け身体がよろける



またチェーンを振り回す奴隷の腹部に着弾し、床に伏し、静かに倒れ込んでいく



室内に混雑した奴隷達



撃っても撃ってもまた1人また1人とめまぐるしく襲いかかって来る。



気を抜けないハイテンポな銃撃戦、 既に使用済みなマガジンが6倉にまで達し、床に捨てられていた。



タタタン タタタン



今度はカヤックのパドル、クリケット用のバットを所持した奴隷が野々宮へと迫る中



その横では…



恐怖で立ち竦む臼井がいた。



野々宮の側でただ茫然とその様子をうかがっていた。



向かいのテーブルにはデスクトップが見える



ただちにそれを壊しにいかねばならないのだが…



臼井は震えで身動きが取れないでいた。



タタタン タタタン



パドルが粉々に粉砕され



クリケットのバットも砕け散る



そして銃弾を受けた2名が倒れ込む



動け… 動け…



ガチガチに震える足腰を何度も叩く臼井



「Q①ΨγβЖ㎏㎜%」



ナックルダスター(メリケンサック)鉄パイプ、バタフライナイフ、大型スパナなどなど



凶器を手に向かって来る新たな狂人を狙い撃つ野々宮の側で何も出来ない己に嫌気と無力さを感じてはいるが…



殺意剥き出しのこの修羅場で全然足腰が言う事を聞かない…



タタタン タタタン



野々宮の的確な射撃でナックル野郎、バタフライ野郎の手足に命中させ、鉄パイプ野郎、スパナ野郎を次々と沈めていく



野々宮「いつまでもここに留まるのは危険だ そろそろ移動しないと」



野々宮が振り返るやガチガチに固まり顔が強張る臼井を目にした。



野々宮「…」



こんな状況… 無理もないか…



「■♧⇩♂∞∝♀∴∵√」



安らぐ暇も無く新たに詰め寄る奴隷に野々宮は迎撃に集中させ、トリガーを引いた。



タタタン タタタン タタタン



あまりの恐怖に心拍数は増加し、臼井は若干のめまいを起こしていた。



よろめき、転びそうになる身体を棚にしがみつき、持ちこたえた。



こんな過酷な状況とはいえ…



俺だけボォ~と突っ立ってる…



ただの役立たずだ…



このままじゃいかん…いかん…



動かなければ…



動け…  動け…



太腿をガンガン叩き



顔をブルブル振るい



気合いを入れる臼井



そしてガクガクに震える脚を一歩前に踏み出そうとする。



すぐ目の前にあるデスクトップに向かって…



タタタン タタタン タタタン



本来健康体な臼井にとって歩行などたやすい行為



だが今の臼井にとってはこんな簡単な事がまるでリハビリの第1歩の様な心境



立ち竦む脚を動かすのがこんなにも困難になるなんて生まれて初めての経験だ



恐怖で身体が動かないとは正にこの事だと身を持って経験した今



それを打ち破ろうと懸命に勇気を振り絞り、手を伸ばし、一歩を踏み出す



動き出そうとする臼井を野々宮が発砲しながらチラリと視線を向けた。



その意気だ…



ちゃんとバックアップはしてやるから…勇気を出せ…



野々宮が見守る中



狂人共が襲い来る中



臼井が一歩を踏み出し



動いた…



それからもう一歩



向かいのテーブルに手を伸ばした。



その時だ



ブンブンブン



耳に届いてきた回転音



臼井の目に飛んで来る手斧が映った。



自分目掛け飛んで来る手斧がスローモーションに映り、再び硬直し身体を凍りつかせた。



ブンブンブン



すると突然臼井の肩が押され、突き飛ばされた。



尻餅をつけ視線を向けたその先には野々宮の姿



グサッ



野々宮「ぐぅ…」



臼井「あ…ああ…あ…」



野々宮の左肩に手斧が刺さっていた。



臼井を庇い薪割り用の小型の手斧を受けた野々宮



深々と肩に突き刺さる



そして2人の目に…



5人の奴隷が新たに手斧を投げ入れようとする瞬間を目にした。



ブンブンブン ブンブンブン



5つの斧が放られ、5つの回転音を轟かせ



それが投げつけられた。



飛んで来る斧をただただ見つめる臼井に…



野々宮が覆い被さり背中を向けていた。



すると



グサッ グサリ グサッ



2本の手斧が臼井の横を掠め、後ろの棚へと突き刺さる



臼井「え…」



突然の出来事にまだ呑み込めず頭を蒼白させる臼井の目に…



飛び込んできたのは…



野々宮の背中に突き刺さる2本の手斧だった



臼井「あ……なんて事……だ…」



野々宮「か…かは…」



自らを庇い盾となった野々宮の両膝が落ちた その時



後頭部に突き刺さったもう1本の斧を見た。



臼井「あ…ああ…」



大量に血が流れ



ポタポタ床に垂れ落ちた血の雫



野々宮の身体が力を無くし、そのまま臼井へと持たれかかる。



臼井「う…うわぁぁあああ」



臼井が大声量な悲鳴声を挙げた。



その声を聞いた御見内と柊が振り向くや



その視線の先に計4本の斧が刺さった野々宮の姿を捉えた。



御見内「な…」 柊「嘘だ…」



この後頭部への斧が致命となり…



臼井の懐にもたれ、目を開いたまま…



野々宮分隊長が… ここに散った…



そんな時 同時に奴隷の動きにある異変が見られた。 



ピッピッ ピッピ ピッピ



突然ホイッスル(笛)の音が鳴り響き



1人の奴隷が両手にフラッグを持ちバックしながら入室してきた。



ピッピッ ピッピッ ピッピッ



それからその笛の音に合わせ入ってきたのは



運動会でお馴染みの騎馬戦の型をとる奴隷達の姿



土台に3人、その上に跨がる1人の4人組の人の騎馬だ



上に跨がる奴隷の額にはハチマキが巻かれ、物干し竿に包丁をガムテープでグルグル巻きに取り付けた手製の槍を持ち、もう片方に鍋のフタを手にしている。



ピッピッ ピッピッ ピッピ



そして騎馬がもう1組…



こっちは野球審判員用のマスクとプロテクターに身を包み、手には長柄の槍 中世欧州のアールシュピースを持っている 



ピッピ ピッピ ピッピッ



更にもう1組



ピッピ ピッピ ピッピ



笛のリズムに合わせもう1組と次々入室



ピィーーーーーーピッ



合わせて横一列に整列された6つの騎馬隊が現れ、止まった。



ダンボールで作られた鎧、小学生が作るのより遥かにクオリティーの低い鎧を身につける者から



実際戦国時代に使用されただろう本物の古びた甲冑に身を包む者など



中国の抓子棒(そうしぼう)、チベットのダング、インドのドゥ・サンガ



それぞれ世界各国の骨董スピア(槍)を手にし現れた。



その後から続々雪崩込み、入室してきた奴隷の数



ざっと50名



柊の手から棍棒が落とされ絶望する



柊「終わった…」




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