第122話 勝利

下水処理場(コーキュートス)



御見内vs若竹



バコォ



強烈な右フックが若竹の頬にヒットされた。



劣勢続きな御見内だったが徐々に手数を増やし、当たりはじめた打撃



スピード、テクニックは相手が優るもののスタミナとパワーは御見内の方が上



スタミナ切れを起こしはじめた若竹のスピードも同時に落ちていた。



手数は互角となり



今では御見内の方がそれを勝りはじめた



脇腹への右ショートフック



これはガードされる



次いで左のフック



若竹が反応し即座にガードするや



これはフェイント



御見内は再び脇腹へ右のフックを打ち込んだ。



若竹「ぐぅ」



顔を歪ませ、一瞬若竹の体躯が弓なりに屈折した。



それから御見内は胸倉を掴むや引き寄せつつ頭突きを喰らわせた



ゴン



続けて 首に両腕を回しロック



首相撲のポジションを取るや



みぞおちにピンポイントな膝蹴り



そしてもう一発



2発が急所へ食い込み、数瞬の呼吸困難に陥った若竹は悶絶した。



若竹の上体が自ら前へと屈んだ時



とっさに首相撲を外し



シュ



御見内が右のアッパーカットを放った。



首が跳ね上がり、若竹が豪快に倒れた。



御見内「はぁ はぁ はぁ」



ザザザァ…



背中を滑らせ倒れ込んだ若竹が顎を抑えながらジタバタともがく



呼吸の乱れた御見内はその間に息を整えつつ、床で暴れる若竹を眼下に態勢を整えた。



すると



若竹「うぐぅぅ~ うおおぉぉ」



無口でニヒルだったあの若竹が突然仰向けから咆哮をあげはじめた。



若竹「うぐぅぉぉぉおお~」



御見内「はぁ はぁ はあ」



そしてバタバタ暴れる脚と咆哮が止み



若竹が上体を起き上がらせた



顔を上げた時… その顔は血だらけで白のパーカーが真っ赤に染まっていた。



若竹「グフ… なぶり殺す」



ボソッとそう口にし、若竹がよろめきながら立ち上がった。



御見内「はぁ はぁ はぁ」



御見内は肩で息しながらゆっくり構えを取る



いいのを貰い過ぎた…



ダメージ的にも… 体力的にも…



次で…



それに奴のダメージも相当…



やつのダメージが深い今こそが…



最後のチャンス…



次でキメる…



ラストラウンドに勝利の望みをかけ



御見内が意を決した。



さぁ…来い! カリ野郎…



振り絞った闘志を燃やし、目つきを変えた御見内に



若竹がゆっくり数歩前に進むや、いきなりダッシュで向かってきた。



若竹「らぁ~」



そして いきなりの飛び膝蹴りから…



バシッ



X字を描くチョップ



若竹「ぐぉおおお」



それから貫手 裏打ち 肘打ち フック 



だが



これらに武術の洗練された動きは無かった。



ただの荒れ狂う力任せな手数



本能剥き出しな連続打だ



御見内はこれらを弾き、かわした。



すると



若竹は御見内の両肩に掴みかかり、今度は噛みつく仕草



耳へかじりつこうとした その時だ



バコ



若竹の鼻筋にチョーパンのカウンターが入れられた。



若竹「ぐぅ」



直撃を受け、仰け反り、手が離れるや



バチン



すかさず若竹の両耳がビンタされた。



強烈な鼓膜打ち



三半規管の機能が一時的に乱れ、耳鳴り… それに伴い感覚がパニックを起こした若竹



甘ぇ~よ… ここは何でもありのストリートだぜ…



喰らいな…



ここから御見内の猛撃開始



若竹「ぐぅぅわ」



両耳を押さえ、若竹が怯んだ隙に、素早く背後に回り込んだ御見内から…



振りかぶられる拳



これは試合じゃねぇ… 殺し合いだからよ…



そして



ボゴ



鈍い音をたてハンマーパンチの強打が後頭部に当てられた。



こういった反則技もありだぜ…



ようは勝てばいい…



若竹「かはっ」



後頭部への危険打 ラビットパンチだ



そして背後から金的を蹴り上げ、ギドニーブロー(背後からの背中攻撃) ピポッドブロー(こめかみ)延髄へと連続打撃



俗に言う反則技のオンパレードを若竹にブチ込んでいった。



卑怯だろうと… 何だろうと…



それを全てまともに受けた若竹が悶絶しながら前のめりに屈み、御見内が後頭部にそっと手を置くや



ようは何でもありだからよ…



そのまま顔面を床に押し当てた。



バゴン グニョ



何かの潰れた音が鳴り



ダイレクトに顔面から叩きつけられた若竹は途端に動きを止めた。



御見内「はぁ はぁ はぁ」



おねんねしたか…?



うつ伏せで完全静止する若竹から御見内は後ずさり、距離を取った。



劇的な逆転打を決め、その一部始終を目にしてきた臼井、柊



崩れ落ち、沈黙した若竹を見て御見内の勝利を2人は確信した。



柊「やったぁ… 倒した」



そして歓喜の表情へと変わり、御見内の元へと駆け寄った。



柊「凄い凄い ホントにあの若竹さんを倒せるなんて」



臼井「ハハ あんさんに賭けた俺の目に狂いはなかったな」



すると ぐらつき倒れそうになる御見内の身体を



臼井「お~とっと 柊 おまえはそっちの肩を持て 大丈夫か?」



柊「はい」



両肩を貸して御見内を支える2人



御見内「モノホンの武道家が相手だぜ……骨が折れるっちゅーの フゥ~~」



柊「そりゃ そうですよ 今まで何度も見てきたが誰1人としてあの人に触れる事さえ出来なかったんだ それをガツンとノックアウトしたんだから…  あなたはただ者じゃあないね」



御見内「ハハ 別に… ただ者だよ俺は あ~ ありがと もう大丈夫だ」



臼井「ホントかよ? ふらついてるぞ」



御見内「あぁ 平気だよ」



その時だ



若竹「うぐぅうう」



臼井、柊の背後から突如若竹の唸り声が聞こえてきた。



2人が振り返るや



そこにはよろよろ立ち上がろうとする若竹の姿が映っていた。



柊「え?」



臼井「まじか…」



ほぼ無意識に近い状態



武道を心得る者の不屈の精神か…?



この状態からまだ再起するのかよ…?



2人が歓喜から一変、顔をひきつらせた



その時だ



2人の間を割って



いち早く御見内が飛び出していた。



流石だ…



たが ここはもう…



前に突っ込みつつ右の拳を振りかぶった御見内



いい加減死んどけ…



若竹が振り向くと同時に



渾身の力を込めた拳が放たれた。



バコン



右のストレートが顔面に炸裂



若竹の身体が後ろに吹き飛ばされた。



それから仰向けで倒れた身体に…



御見内がニーオンザベリーで乗り掛かりマウントポジションを取った。



そしてその状態から追い打ちの拳が振り上げられ…



それを振り抜く 寸前



ピタッと拳が寸止めされた。



若竹は既に気を失い、口から泡を吹いてノビていたのだ



御見内「はぁ はぁはっ ハハ」



終わったぁ…



御見内もようやく安堵の表情を浮かべ仰向けで寝ころんだ



カリの達人若竹を見事に撃破した御見内がしばしの休息で目を閉ざした時



それも束の間…



インカムにあの交信のやり取りが流れ込み、御見内は耳にした。



麻島「赤塚 無事か?」



赤塚「私達はなんとか… ですが輸送バスが襲撃を受け、30名近い救出者と… 7名が犠牲に…」



目を見開き起き上がった御見内が無線のやり取りに集中した。



麻島「赤塚よく聞け それはロシアの武装ヘリだ 恐らく例のスペツナズだと思われる まともにやり合って勝てる相手じゃない 今どこにいる? お前のモニターカメラが故障して映像が途絶えた…」



スペツナズだって…?



赤塚「現在1階にいます これからどうすれば?」



麻島「皆の所へ戻れそうか?」



赤塚「やってみます」



麻島「まずは合流しろ」



大変な事態が起きた…



このやり取りで赤塚班がスペツナズの襲撃を受けてる事を知った御見内



そして施設の奥から慌てた様子で野々宮が戻って来るのを目にした。

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