第98話 戯言

円陣が組まれ中心に弾薬入りのバッグが置かれた。



赤塚「弾が切れた者は各自ここから補充しろ」



「うううううううぅぅ」



「あぁ~う~あ~うぅう」



ガサ ガサ



赤塚がドットサイトを覗き、木々の合間へ狙い澄ますや



「うぅう ううううううう」



ボロッボロのハーフパンツにアロハシャツ姿の醜悪な面相のウォーカーが幹に手をかけ、身を乗り出してきた。



「うわあおあおあぉああお~」



パスッ



赤塚が引き金を引き、殺された銃発射音



眉付近に被弾したゾンビの吐声が止み、地べたにしゃがみ込んだ



これを皮きりに、そこら中から奴等が姿を現し、隊員等が一斉に四方へと発砲した。



パパパパパパ  タタタタタ タタタタタ パパパパ タタタタタ



川畑が1体に水中銃で狙いを定め、発射した。



1本の銛が放たれるが、その銛は木に突き刺さり、外れる。



川畑「外れた」



川畑が2本目を装填しようとするや



斉藤「バタさん そんなの効率悪いから 早くライフルに変えてよ」



タタタタタ タタタタタ パパパパ



川畑は2本目を装填し、同じ標的に再度放ったが これも外す



タタタタタ



その直後



その標的の頭部が弾け飛び、脳味噌が外に排出された。



斉藤「これで分かりましたか? そんなの早く仕舞って 早くこっちに」



川畑「チィ」



川畑は舌打ちし、仕方なく小銃に持ち替えた。



「ううううううう ううううううう」



タタタタタ タタタタタ



パスパスパスパスパスパス



掠れた様な小音で放たれた銃弾



ブシャャー



ゾンビの頭部が急激に反り返り、伏していく



タタタタタ タタタタタ



弾切れを起こし、弾薬の補充を行う隊員



タタタタタタタタタタ タタタタタ



「俺にもくれ」



「どっち?」



パパパパ タタタタタタタタタタ



「MP」



「はいよ」



MP用のマガジンが投げ渡される



「おい こっちも弾が切れた 俺にもパス」



「どっち?」



「89」 「ほら」



タタタタタタタタタタ タタタタタタタタタタ



「弾切れた ついでにくれ」



タタタタタタタタタタ



「チィ っで どっちだ?」



「MP用」



投げ渡され



「なぁ 弾が無くなった そこの弾…」



「自分で取れ 俺は雑用じゃねえ」



タタタタタタタタタタ



斉藤「阿部さん 右側右側」



タタタタタ



小陰からフラフラと現れたゾンビの頭が弾けた。



阿部「くそぉ 照準器で狙ってるのに何発か外した… 結構ムズいな」



谷口「俺もだよ 標的がノロいこいつらでこれじゃあ先が思いやられるよ それにしても数多いな… ちょっとした町レベルじゃん こんな森になんでこんなに…」



タタタタタ タタタタタ



斉藤「これから野外イベントでもあんじゃないすか…」



その時 斉藤の耳に…



「カルネアデスの板カルネアデスの板カルネアデスの板~」



響いてきた。



斉藤「チッ 面倒くせぇ~奴まで来たぞ」



「2 6 2の法則は集団生活を送る全ての生き物に当てはまる法則なのだぁ~~」



この意味不明な戯れ言をたれながら襲いかかって来る厄介な奴



その身が滅びるまで猛ダッシュで走り続けるランナー



感染者までも群れつつある。



「主任 ランナーです」



1人の隊員が赤塚の隣りへと着いた。



この男は皇居警備2課時代からの元部下であり、唯一直々の部下である海原



パパパパ パパパパ パパ



赤塚「分かってる あの耳障りな大声を聞けば嫌でも分かる」



パスパスパスパスパスパスパス ガチ ガチ



赤塚が弾切れを起こし、弾薬補給で円陣の中へと入った。



そしてバッグからマガジンを取り出す



海原も陣内へ続き、マガジン交換を行いながら口にした。



海原「主任 奴等が来ます 早急に移動しましょう 一箇所に居座るのは危険です それにウォーカーなど亀の様な動きなんで相手にするだけ労力の無駄です 弾と時間の無駄なんで 移動を」



タタタタタタタタタタ パパパパ



カチャ



赤塚「だからもう主任って呼ぶなと言っただろ 今は隊長なんだから分隊長と呼べ」



タン タン  パ パパ パパパパ



海原「はい 負傷者が出る前に、前進あるべきです」



すると



青木「へぇ~ 流石はザクト ゾンビ殺害のプロフェッショナルなだけはあるね 俺も賛成だよ」



2人が振り向く先には佇む青木の姿があった。



青木「こんな奴等相手にしてもラチあかないからさぁ 放っておくのがベストだよね」



赤塚「おい おまえ何してる?」



青木「へ?」



赤塚「この状況下…何故銃を手にしてるのに撃たないんだ? 何をぼぉ~と突っ立てる」



青木「あぁ これはいざと言う時我が身を守る為だよ それに俺はガイドだからさぁ 建物に入ってから案内するのが俺の役目…戦闘は約束の内にないから」



赤塚「他人事か? 聞いた話しだとおまえ…以前は例の組織の者だったそうだな?」



青木「あぁ そうだよ それが何か?」



赤塚が急に青木に詰め寄り、青木の耳元で口にした。



赤塚「おいガイド よく聞け… 俺のチームに危害をくわえてみろ その時は真っ先に貴様を撃ち殺してやるからな それだけはしっかり覚えておけよ… 分かったら協力しろ」



青木「お~ 怖」



赤塚「海原 隊を動かす 感染者、ゾンビに注意しつつ目的地まで前進するぞ 皆に伝えろ」



海原「了解 ただちに」



タタタタタタタタタタ



木陰から2体のゾンビが現れ、銃撃をかいくぐって接近してくるや



美菜萌「私が行きます」



長棒を構え、美菜萌が飛び出した。



斉藤「おい 美菜 陣から出…チィ」



阿部「ちょ 美菜ちゃん 危ないよ 撃つの止めて あの子に当たる」



慌てて隊員等の銃撃を止めさせる2人



美菜萌が目つきを変え突進



1体の胸部へ長棒のひと突きを入れた。



ザザザァー



死人は突き飛ばされ、木の葉の上を倒れて滑らせる。



その間 もう一体に目を付け、突っ込む寸前



美菜萌へ腕を広げて襲い来るゾンビ



だが すかさず胸部に長棒が当てられ、突進がくい止められた



「うぁぁああああおおお」



ゾンビは興奮状態で美菜萌を捕まえようと腕を伸ばし、グイグイ前に出ようとするがリーチある長棒によってそれは防がれ、身動き取れずにいた。



っと 次の瞬間



美菜萌は突如長棒の押し当てを放し、ヒラリとゾンビの背後へ周り込んだ



急にいなされ、勢い余ったゾンビが前のめりで倒れ込むや



ボゴ



鈍い音をたて、後頭部に力強い一打がくわえられた。



一線に陥没し、頭にめり込む長棒



そのままうつ伏せた屍人から発声は止んだ



「うぅぅううう」



背後から先程突き飛ばしたゾンビの呻き声が聞こえてきた。



美菜萌はそれを耳にするなり、長棒をしっかり両手で握り締め



半転、反動をつけ



バチコン



思い切りゾンビの頬をはたいた。



腐りかけの皮膚、弱った筋肉、脆くなった骨



ゾンビの首は2回転ねじれ



跪(ひざまづ)いて、カラの塊と化した。



2体を瞬殺で沈めた美菜萌



それを目にした数人の隊員等がざわついた。



「今の見たか?すげぇーな あのお姉さん…」



「あぁ なんか かっこよかった…」



それを聞いていた斉藤があたかも自分の事のように自慢気に話しに割って入った。



斉藤「美菜萌はあの若さで剣道有段者であり棒術の達人だから… まぁ 棒持たせたら負けなし 接近戦ならそこいらの男じゃ勝ち目ないんじゃないかなぁ~」



「へぇ~ そりゃあ すごいなぁ~」



斉藤「でしょ~ 凄いんだよ彼女は」



美菜萌「隊から勝手に出てしまってすいませんでした」



美菜萌が戻り、ペコリ、一礼した。



斉藤「いいよいいよ~ こうゆう時もあるって」



阿部「あれ? そう言えば美菜ちゃん 銃はどうしたの?」



美菜萌「私 射撃は大の苦手でして… これでいいって断ったんです」



阿部「え? 駄目だよちゃんと持ってこないと」



美菜萌「はい…でも私はこれで…いいかなって…」



斉藤「まぁ いいじゃないっすか阿部さん こんな事もありますって」



阿部「いや ないし 美菜ちゃん接近戦は2、3体が限界なんだから…集団で来られたら対処出来ないよ」



斉藤「だから阿部さん まあいいでしょ 俺等の銃があるんだし」



その話しの最中に…



海原「おい すぐにここを離脱する 感染者と遭遇する前に隊を前進させるぞ 渋谷 太田 徳間は俺としんがりを務めろ 左右後方を見張りつつ隊を援護する」



「はい」 「はい」 「りょーかい」



斉藤「え?あ 移動するんだ」



阿部「あの めっちゃ 周りゾンビだらけなんすけど」



海原「えぇ 前進の障害のみで出来るだけ辺りのゾンビは無視します 発砲は主に感染者のみでいきます」



谷口「無視って…そんな大丈夫?」



海原「だから ここに集結する前に速やかに移動するんです さぁ 行きましょう」



阿部「あ…はい 分かりました」



隊が動き出し



斉藤、阿部、谷口、美菜萌、海原達も動き始めた その時だ



斉藤が後ろを振り返った。



阿部「どした?」



斉藤「あれ…そういえば あの感染者達の声…止んでません」



阿部「え? あぁ 確かに」



「うううううううぅ」



辺りにはゾンビの呻き声のみで今まで急速に近づいてきてた感染者達の戯れ言がピタリと止んでいた。



それを耳にした美菜萌、海原が後ろへ振り返った時だ



大木のすぐ裏手から…



あの声が聞こえてきた



「カルネアデスの板~ 昨日給料全部競馬ですっちゃいましたのん 一文無しで空腹で餓死寸前まで追い込まれまして このままじゃ死んじやうと懸念しましてスーパーでハーゲンアイス、高級焼肉弁当、食後用に果物の詰め合わせ、ゲームやりながら食べる用のポテチと明日の朝用にコーンフレークと牛乳、菓子パンを少々万引きしました。 死ぬかもしれなかったし これカルネアデスの板ってやつ適用されますよね?僕の行為って全然免除免除ですよね 食して一命を取り留めましたし、贅沢も出来たしカルネアデスの板万歳 万引きバレてもこれからこれからこれ使おうかと思ってます ちなみに無罪な感じでいけますよね~」



大木に手がかけられ、幹をひっ掻く不気味な指つかいを一同は目にした。



「マン喫行ったらやっぱ男は押忍空手部は読むべきだろ 高木さんのバトルを目に焼き付けてからおとといきやがれってんだにゃろめ~」



感染者御一行 到着



出遅れたB班に襲いかかる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る