第56話 誅罰  

御見内に言われるがまま服を脱ぎ始める解体人



メサイア「おいおい 野郎のストリップ劇場なんか目が腐るぜ 何すんだ?」



御見内「全部脱いだら そこでくたばる馬鹿の分も脱がせろ おまえは見張ってろ」



メサイア「シカトかよ…?はいはいはいはい 仰せのままに」



すると御見内は倒れた女性の元へと近寄り、優しく抱えるやそっと壁に座らせた。



先程の狂気に満ちた目とは別人のような優しいまなこで見下ろし、しゃがみ込んだ御見内が女性の耳元でそっと呟いた。



御見内「俺達はここを離れるけど少し待っててくれ」 



舌を引き抜かれ、失語する女性が何かを言おうとしてる…だが言葉は出ない…



口をパクパクと動かす事しか出来なかった。



御見内「ザクトって言う治安維持組織と一緒に必ず助けに来るから心配いらない だから希望を捨てずに待っててくれ」



御見内の言葉で動かす口が止み、女性の表情は再びやわらいでいった。



すると タイミング良く御見内の無線に受信反応



耳元でエレナの声が入って来た



耳を押さえながら立ち上がった御見内に



エレナ「ザァ ちょっとみちぃ~ 私に何の相談も無しに何やってんのよ?ちゃんと説明しなさい ザザ」



第一声から鼓膜が破れそうな程の大声量かつ凄い勢いの怒鳴り声が聞こえてきた。



御見内は思わず耳に装着した無線機を取り外し、それを遠ざけた



小型無線機から漏れるヒートアップした声がガミガミな擬音で再び入り、御見内は焦り顔でそれがおさまるのを待った。



エレナ「ザザ ちょっと聞いてるの?何か言いなさいよ あんた私に言ったわよね どんな些細な事でも相談するって 私にはもう心配はかけないって ちゃんと約束したよね?しましたよね?なのにこの嘘つき 嘘つきウソツキ嘘つきうそつき嘘つき~ しかも温泉に行かせたのもあんたの作戦なんだってぇ…ヒドいよ… っで 私に用って一体何?ザァー」



御見内「こりゃ まいったな…」



タジタジになる御見内がふと見ると微笑む女性を目にした。



御見内「おっかねぇー女なんだよ」



そして苦笑いする御見内が再び無線機を装着させた。



御見内「エレナごめん 今回の件は謝るよ でもその件は後にしてくれ 緊急事態なんだ」



エレナ「ザァ なによ緊急事態って?ザザ」 



御見内「これから言う事をよく聞くんだ まず純やか岩渕さんに連絡を取って欲しい すぐにザクトを呼べないか頼んで欲しいんだ」



エレナ「ザァァ ザクトを?どうしたの?ザァー」



御見内「この争い…思ったよりも複雑化しそうだ… 俺達みたいな小さな民兵では解決出来そうにない問題なんだ… しかも放っておけば日本全土を脅かす存在にもなりかねない あまり頼りたくはないがザクトの力が必要なんだよ」



エレナ「サザ どれくらい必要なの?ザザ」



御見内「多ければ多い方がいい」



エレナ「ザザ 分かった これから連絡してみるね どれだけ兵隊さんを送って貰えるかは分からないけど頼んでみる ザザ」



御見内「頼む なるべく多くよこす様に頼み込んでくれ それと出来るだけ戦闘経験のある精鋭部隊を送って貰うように話してくれ 例の拷問施設に大勢の人達が隔離され虐待を受けている まずはその救助にザクトの力を借りたい」



エレナ「ザザ 分かったわ… じゃあ折り返し連絡するからちょっと待ってて ザザ」



御見内「エレナ待て まだ話しは終わってない もう一点奴等の裏にロシアの軍隊が隠れてる事が分かった…しかも これには万頭って奴が所属していたカザックも絡んでるくさいんだ… だから派兵には軍事訓練を積んだ者が絶対になる 岩渕さんには相手はスペツナズだと…そう伝えるんだ」



エレナ「ジィ え?ちょっと待って…ロシアの軍隊にテログループ? マジなの? ただのイかれたオカルト集団じゃないわけ? ザァー」



御見内「あぁ 俺達レジスタンスだけではどうにも荷が重過ぎだろ…それともう一点ある… どうやら特異がここにも現れたかもしれない…しかもあの化け物女みたいな奴がだ…」



エレナ「ザァ それってまさか…理沙の事言ってる…?ザザ」



御見内「あぁ これはまだ未確定なんだが…嫌な予感がプンプンするんだよ」



エレナ「ザァ それは大変 またあんなえげつない女が現れたらたまったもんじゃないわね ザザ」



御見内「その通りだ 北海道の渡航はしばし見送りになりそうだ…」



エレナ「ガァ うん その事なら平気よ 一難去ってまた一難は私達慣れっ子じゃない…まずはこの問題をきっちり解決しましょ ザザ」



御見内「かたじけねぇー」



エレナ「ザァー それにお説教がまだよ ちゃんと無事に帰ってきてね ザザ」



御見内「あぁ 予定変更だ 人探しを終えたらすぐにそっちへ戻るよ」



エレナ「ザァ 了解 じゃあこの件は帰ってきたらで すぐに作戦会議を開けるよう準備しとくわ 本当に気をつけてね ザザ」



御見内「分かってる じゃあ後程」



メサイア「なぁ ザクトって あのザクトの事か?おまえもしや軍人なのか?」



御見内「違う どう見ても善良な一般人にしか見えないだろう それより…」



とうに脱ぎ捨てた血みどろの前掛け



パンツ一丁の解体人が脅えた表情で突っ立っている。



御見内「おまえを殺すのは止めにした おまえが今後どうなるかは知らんけどな… そこへ横になれ」



解体人が身体を震わせながら御見内の指示に従い、ストレッチャーへと横になった。



メサイア「何する気だよ?」



御見内「ちょっと寄り道しようか  こいつには水先案内人になって貰う」



メサイア「はぁ?」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



ギーギー



進む度 耳につく車輪の軋み音が鳴るストレッチャー



それに乗せられ、寝かされたパンツ一丁の解体人がいる



「ぐぎぁぁああ 止めてくださぁああああ」



断末魔の叫び声が近づいて来る通路を



そのストレッチャーを押す血まみれに汚れたエプロンと衣服を身につける2人の姿があった。



そう 解体人へと変装した御見内とメサイアの2人だ



下水処理プラント 第1沈殿池施設



メサイア「おまえふざけんな 何でこんな所来なきゃ行けねぇんだよ 正気かよ…」



御見内「感動のご対面と行こうぜ」



メサイア「おまえは知らないからそう言ってられんだ あの双子はヤバ過ぎる…三度の飯より拷問好きなイかれっぷりなんだぞ とっ掴まれば終わりだぞ 逃げられないんだぞ」



御見内「じゃあ掴まらなければいいんだよ」



メサイア「簡単に言うなアホ さっきから何がしたいんだよ?人探しじゃねえのかよ…ここに用なんかねぇだろ」



御見内「拝みたいんだよ ここの責任者がどんだけ醜いツラしてんのか…」



2人が進む横には濾過装置が停止された大きな沈殿池が見える



排水管からは今だ汚水がチョロチョロと流され、ドデカいプールの様な沈殿池へと垂れ流されていた。



汚水の悪臭と腐敗臭、血の臭いが混じり合い、奥に進むにつれ臭いがきつくなっているのだが



慣れたと言う表現よりも、とうに鼻が麻痺した2人はその臭いに屈する事無く今では平然とした顔つきになっている



泥色で不溶性の異物が大量にプカプカと浮く溜池を抜けた2人は更に奥へと進んで行った。



すると 横には新たな水槽が見えプレートにはエアレーションタンクプラント(生物反応分解槽)と書かれた文字



比較的水質も浄化され、多少汚れは残るものの水らしい透明度を持った水槽



第1段階で濾過された汚水がこの第2段階となる水槽で、バクテリアによって分解されてるのだ



飛び回る蠅の数も増えて来た通路を蠅を払い除けながら進んで行く2人



そして複数の通路へと別れる手前でストレッチャーが止められた。



それから御見内が尋ねた



御見内「双子の所まで案内しろ」



「ここを直進です…この先に第2沈殿池があ…あるので それをもっと先に進んで下さい…消毒処理施設の手前まで来たらその手前に地下へ行く階段があ…あります その地下の一室にい…います」



メサイア「地下かよ…不気味じゃねえかよ おまえフかしてたらしょうちしねぇーぞ 溜池に顔突っ込んで溺死させっかんな」



「う…嘘はつ…つきませんよ」



再びストレッチャーを押し進める御見内



数メートル程進んだ その時



ある部屋の前でストレッチャーの車輪が止められた。



ドアには重力濃縮槽コントロール室の札



そして円形の小窓からは中の様子が伺えた。



その部屋では今拷問の真っ最中…



両腕を縄で縛られた町民、その町民の背中を力強く何度も鞭で打ちつける姿が見られた



そんな光景が御見内の目に映し出された。



咥え煙草の黒フードによりキャットオブナインテイル(九尾の猫鞭)でメッタ打ちにされているのだ。



バチン バチン



鞭が打たれる度



「があぁぁぁぁ もう止めへぇ~ぎゃあああああ」



耳を塞ぎたくなるような痛みと苦しみに満ちた叫び声を上げる町民



しかも…



何発叩かれればこうなるのか…?



背骨が剥き出しになる程背中の肉は削ぎ落とされ、裂傷が酷い…



メサイア「うわ~ ありぁ~ ひでぇ~」



直視に耐えきれず目を背けたメサイア



すると



御見内「こいつを見てろ」



メサイア「おい 待て待て待て」



御見内がメサイアの制止を振り切り中へと入って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



重力濃縮槽コントロール室 10時31分



掻寄レーキ7運転ボタン、シャフト4運転ボタン、アーム4操作ボタン、回転分離操作ボタン、水槽底清掃運転ボタン



様々な専門的ボタンがある今では使われて無い操作盤



その操作盤に新鮮な血飛沫が降りかかった。



ビシィン



「ぎゃあああああ お許しををを」



音に合わせてリズムに乗る黒フードが煙草の煙りを吐き捨てた。



小さなテーブルに置かれたかなり年式の古いラジカセからはJPOPミュージックが流され、その隣りに置かれた空き缶に灰を捨て、一旦吸いかけの煙草を置いた。



ミュージックにノリながらテーブルを人差し指で数回叩き、グルーヴを感じた黒フードが音に合わせ、振り返りざまに鞭を振るった。



バチン



「ぎあぁぁあああ」



9つに分かれた革製、その一本一本にトゲトゲがついた鞭は振るわれる度に肉を裂いていった。



町民のガクガクと震えた脚部には背中から垂れた流血で真っ赤に染まり、床も円形の血で染められている。



バチン



鞭打音が鳴るや必ずあがる町民の悲鳴



ラジカセから流される音にビートを合わせ、打音と絶叫を盛り込んでいる黒フード



バチィ



「ふぎやゃゃゃややや」



そしてノリノリで再び煙草を吸おうと手を伸ばすも…ここにある筈の煙草が消えていた。



「ん!」



すると



御見内「たばこか?」



黒フードが振り向いた瞬間



額にたばこが押し付けられた。



ジュュュ



肌の焦げる小さな音が鳴り、グリグリ根性焼きで、額で消されたたばこの火



「やちぃぃぃぃ」



鞭を手放し、両手で押さえる黒フードがバランスを崩して尻餅をついた。



その間にキャットオブナインテイルを拾い上げた御見内



「あっつ…なにしや…」



そして次の瞬間



鞭が振るわれ



黒フードの顔面へモロに打たれた。



「ぐわぁぁ」



たった一発で顔面が血みどろとなった黒フード



片目は潰れて失明し、癒えるのに時間がかかりそうな深い傷が一瞬で顔に刻まれた。



「ぐぅ」



そして黒フードが顔面から手を離した瞬間



御見内は冷酷な目つきでもう一発鞭を顔面に放った。



バチン



「ぎゃあああああああああああああああああああああ」



顔面を押さえ、のたうち回る黒フードを御見内は見下ろしながら狂気の笑みを浮かべた。



御見内「お!おまえの絶叫の音色はいいな そっちの人のとは違って俺を不快な気分にさせない」



「ううぅぅぅ」



両目共に失明し、辺りを手探る黒フードの頭が突然足で踏みつけられた。



御見内「SMごっこは十分楽しんだかよ?」



ナインテイルを投げ捨てた御見内の袖からずり落ちてきた小槍が握られ



御見内「辞世しろ」



顔面修羅場な黒フードのこめかみに

小槍が突き刺された。



ぐったりと横たわり、息の根が止められた黒フード



御見内はシーナイフを取り出し、縛られた縄を切断



町民を自由にし、床へそっとうつ伏せで寝かせた。



骨が飛び出る程の打鞭の傷痕



酷過ぎる…



掛ける言葉さえも見つからず、無言で立ち上がり



部屋をあとにした。



メサイア「おい おまえ まさか片っ端から拷問の各部屋に入って消してくつもりなのか?」



御見内「正解 そして最後に待望の中ボスとの初対面だ」



メサイア「誰も待ち望んでねぇーよ それにしても俺を巻き込むわ、身勝手だわで そりゃあ彼女も御立腹にさせるわ…」



御見内「フッ さぁー いいからどんどん行くぞ」



メサイア「ふぅー へいへい」



深い溜め息をついたメサイアが御見内の後へと続いた。



次に見えてきたのは長さ50メートルにも及ぶ巨大水槽 第2沈殿池



装置が機能しない溜池はただのデカい水槽になり果て、ボウフラとは違う見たことも無いような無数の害虫が水槽の中を漂っていた。



そして20~30メートル程直進した時



コントロールルームが右手に見えて来た。



汚泥脱臭、焼却設備室と書かれたプレートの部屋



すかさず部屋へと近づき小さな小窓から中を覗くや



この部屋でも只今拷問実行中のようだ



中には黒フードと白衣の解体人が1人づつ、長テーブルに手足を縛られ寝かされる奴隷が2人見られる



御見内は目を凝らし、中の様子を伺った。



1人の寝かされた奴隷の腹の上には特殊なガラスケースが被された一匹のネズミ



その特殊なガラスケースの上部にバーナーの火が当てられ、内部が熱せられていく



徐々にケース内が熱くなり、熱さを感じたネズミがぐるぐると徘徊、逃げ場を探し始めるのだが…閉じ込められ、逃げ場を失うネズミ



ケース内はたちまち熱さを増し、もがき始めたネズミは必死に熱さから逃れようと逃げ場を求め、穴掘りの習性から…



腹の皮膚を引っ掻き回し、下を目指し、身体を掘り始めた。



いくら小動物とは言え、無抵抗な腹部は引っ掻き回わされ、激痛と共に傷ついていく皮膚



熱さから逃れようと必死なネズミの穴掘りで奴隷は凄い形相で喚き始めた。



「かぁあああ 頼む がぁあああ」



一方



椅子に縛られ固定された町民の両脚が水槽に浸かっていた



解体人がその水槽に棒を突っ込むや



たちまち町民の身体は硬直し、歯を食いしばり、身体を仰け反らせた。



引きつらせた目、言葉が出せない程の苦しみに堪え忍ぶ形相



水槽には棒でつつかれ、刺激を受け、威嚇の通電を発する電気うなぎが数匹いた。



連続的に発電され続ける800ボルトの電気攻撃



気絶はしなくとも、駆け巡る感電により身体は硬直し、無力化される



エコな自家発電所から絶え間なく送電され、プルプル身体を震わせながら苦しむ表情を浮かべた町民の姿



その光景を目にした御見内が迷いも無く扉を開けるや、入室して行った。

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