第55話 正義

あのドアホぉーがぁ……



メサイアもたまらずその場から飛び出した。



殴りつけた拳で再び女性の髪を掴んだ前掛け野郎が掴み上げた瞬間



吊される人達の合間から御見内が飛び出し、エプロン野郎共の前へと現れた。



怒りに満ちた表相



御見内は女性の髪を掴む手を手刀で打ち払い、断ち切るや強く握り締めた拳を



右のストレートを鼻筋へとブチ込んだ



バカッ



鼻の折れる鈍い音が鳴り



鼻血が垂れ、それを両手で押さえるエプロン野郎



「な…なんだおまえ」



突然現れた御見内に片割れのエプロン野郎が手に持つ鉈を振り上げた



それを目にした御見内がすかさずストレッチャーを蹴り押すや



ストレッチャーがそのナタ持ち前掛け野郎に激突、そのまま壁に激突し、挟まれた。



「んぐぉぉ」



両手で抑える合間から鼻血が幾線にも垂れ落ち、悶えるエプロン野郎に急接近した御見内



御見内「解体だと?二度とそんな卑劣な行いが出来ないようこの場で俺がおまえ等を消してやる…覚悟しろカス野郎共」



御見内がエプロン野郎の両手首を掴み、離すと同時に強烈なチョーパン(頭突き)を折れた鼻へとブチ込んだ



「んがぁ」



そしてもう一発



バコッ



骨が砕け完全に変形された鼻



そして掴んだ手を交差させ、懐に入り込むや、御見内は背負い投げの要領でそのエプロン野郎を容赦無く投げつけた。



受け身を許さぬ殺意を込めた投げ技



エプロン野郎は顔面から直下で床へと投げつけられた。



そして顔面から叩きつけられ



グニャリと折れ曲がる首



その間 ストレッチャーと壁に挟まれたもう1人のエプロン野郎が再度ナタを振り上げた時



後続で飛び出して来たメサイアがストレッチャーを足で押さえつけた。



そして素早くマカロフが抜かれ銃口が向けられた。



メサイア「おっと そのままストッピングだ 動くなよ」



ナタを振り上げたままピタリと動きを停止させたエプロン野郎



メサイアがナイスフォローに入る中、へし折られた首、胴体が倒れた。



瞬殺したエプロン野郎を見る間も無く、横たわる女性を通り過ぎ



片割れのエプロン野郎へと近寄って行く御見内



打根が垂らされ、揺れている。



メサイア「おい…無茶す…」



するとメサイアが途端に口を噤んだ



なんちゅう恐ろしい顔しやがって…



そう…御見内の顔は今…



怒りによってまるで鬼神の様な表相に変わっていた。



そしてメサイアさえも無言でスルーした御見内がエプロン野郎の前へと近寄り、顔を覗かせた。



御見内「一回しか言わないからな…まずはそのナタを捨てろ」



1秒…2秒…3秒後



すると



エプロン野郎の肩にいきなり打根が刺し込まれた。



御見内「聞こえなかったか?二度は言わねぇぞ…よ~くヒアリングするんだな」



グリグリ掻き回される打根



「がぁぁ」



エプロン野郎は痛みに顔を歪ませ、言う通りにナタを投げ捨てた。



すると打根が引き抜かれ、シーナイフを取り出した御見内



御見内「次はそこに右手を置け」



一瞬躊躇したエプロン野郎



2秒としない内



今度は上腕付近に打根が突き刺された。



「ぐぁぁ」



御見内「なんだぁ? テメェーには通訳でも必要なのか?スムーズに進めてぇんだから ちゃっちゃと言う通りにやれ」



先ほどよりも激しくグリグリと掻き回される打根



エプロン野郎は言われるがままにストレッチャーへと右手を置いた。



御見内「よーし じゃあ次は なぁ おまえハンドナイフトリックっていう遊び知ってるか?」



首を横に振るエプロン野郎



御見内「いわゆる度胸試しに近い遊びだ」



すると指と指の合間に思いっきり叩きつけられたナイフがストレッチャーに突き刺された。



御見内「質問を変えよう… すぐに答えろよ… おまえは拷問して苦痛になる表情を見て それがそんなに楽しいのか?」



「……」



すると 御見内が引き抜いたシーナイフを人差し指へと突き刺した。



「がぁあああ」



御見内「生憎俺はこのゲームが下手クソなんだ しかもおまえがすぐに答え無いから手許が狂ったぞ」



詰められた指が切り離され、流血する。



御見内「なら己で苦痛を体感するのは好きか?」



エプロン野郎はすぐに首を横に振った。



御見内「そうか…ならこれから俺がする質問には全て正直かつ迅速に答えるんだな 分かったか?分かれば返事をしろ」



メサイアが扉を閉め内鍵を閉めた。



小刻みに頷く解体人



御見内「よし ぱっぱっぱっぱ答えろよ まずはこの施設の事を教えろ ここには全部で何人いる?」



御見内がシーナイフを振り上げた。



それを見るなり痛みをこらえながらエプロン野郎が即答した。



「全部で250人近くいる」



御見内「奴隷を抜いたら?」



「解体人、拷問人、纏いに研究者合わせて40人近くいる」



メサイア「じゃあ拷問、解体人だけなら?」



指を折り数えるエプロン野郎



「1、2、5 俺を入れて7人から8人」



御見内「なら研究者は?」



「教授を入れて5人…」



メサイア「っとなると黒はそこそこか…奴隷を抜けば数的に大した事ないな…」



御見内「何故ここの人達にこんな酷い仕打ちを 何で生きたままバラすんだ?それはバスタードとやらの部品に使用してるのか?」



「は はぃ その通り」



メサイア「やっぱりな 俺の当たりだ じゃあ人形作りの目的はなんだ?」



「そこまでは分からない 俺達はただ上から言われてやむ終えず解体してるだけなんで…」



御見内「ふふ 何だと?今やむ終えずとか言ったか?この残酷な行いをしょうがなくやってるって言いたげだな… 俺には楽しげにやってる風にしか見えないが… ちなみに麻酔はしてるのか?」



「はい?」



御見内「麻酔だよ 肉を裂くのに麻酔はしてんのかって聞いてんだ」



「い… いや してないです…」



御見内「麻酔無しに腕を切られてみろ…どれ程の痛みと苦しみなものか…それは指を切られるより遥かに苦痛を伴うだろう それをおまえ等はイかれたサディズムで愉快に楽しく行ってきたんだ…」



御見内のまなこが狂気へと変わり打根の切っ先が前掛け野郎へと向けられた。



御見内「おまえもこの人達同様に痛みを味わえ」



「ヒッ ヒッ~」



恐怖でエプロン野郎の面が急激に青ざめていく



御見内「俺が献身的にそれを手伝ってやろう どんな痛みか 自分の身で体感するといい… 苦しみ悶える人の表情を焼き付けたその眼… もうおまえにそれを見る視覚(資格)は無いな まず手始めにおまえのその眼を奪おうか」



「ヒィーー」



マジな殺意



狂気の目に変わる御見内が小槍を突き刺す寸前に



メサイア「おっと 待て待て待て待て…先走んじゃねえ まだこいつは殺すな」



メサイアにより手首が掴まれ制止された。



メサイア「ったく 勝手な事すんじゃねえよ ここの誰よりもおまえの方がイかれてんじゃねえかよ 聞きたい事があんだからまだ早まんじゃねえ」



振るう寸前の小槍が下ろされた。



メサイア「おい こいつがマジな事はもう分かったな?  俺がいなきゃ おまえはこれから逆拷問を受けて殺されるだろうに  じゃあ質問を続けるぞ 最近 俺等と同じ黒いのがとっ捕まらなかったか?」



「黒いの? っとは…」



記憶を手繰る前掛け野郎にメサイアが吐き捨てた。



メサイア「よ~く思い出せ 知らないならお前に用は無いぞ 額に大きめのホクロ、手首に鎖模様の刺青が入った奴だ」



「し… 知らないそんな奴は」



メサイア「はぁ~ そうかよ じゃあもういい 死ねよ」



メサイアがマカロフを突きつけ、トリガーに指を添えた。



「う… 嘘じゃない…本当だ そんな奴ここに送られて来てないです…そもそも虐待は奴隷にしか行ってないんだ… 本当に嘘は言ってない」



メサイア「俺の目を見て言え それは本当か?」



エプロン野郎の口にマカロフを突っ込み問い詰めた。



「ほんほぉーれす」



メサイア「こいつ… 嘘はこいてないかもな」



それを見ていた御見内も感じ取った



本当のようだ…



御見内「あぁ」



メサイア「他に裏切り者や密入者が収監されるような場所は?」



「あふ」



メサイア「あぁ?あ…」



口に含んだ銃口を抜き



「ない」



メサイア「良かったな まだ望みはあるぞ もしかしたら捕まっちゃいないかもなしれないしな ちなみに音信不通からどれくらい経つ?」



御見内「2~3日って話しだ」



メサイア「逐一報告入れてた奴がパッタりか……って事は何らかの事情で何処かにまだ潜んでるか… まぁ これで生存の希望は広がった ここを隈無く捜索するか?」



御見内「勿論だ」



メサイア「じゃあこいつはもう用済だな」



御見内「あぁ」



「ちょっと待って 正直に全てを答えた」



御見内「だから? 拷問で苦しまず楽に逝けるだけありがたく思え」



「殺さないでください… お願いします…」



御見内「命乞いかよ……なぁ 知ってるか?この地球上の生物の大半が人を忌み嫌ってるんだ この世にとって人間の存在は害でしかない…つまり不必要な存在なんだよ… つまりこの地球にとって邪魔なんだよ俺達の存在は… だから邪魔な俺達を淘汰する為 消す為にゾンビと言う存在がこの世に現れたんだ…」



メサイア「はっ?何だその話し…まじか?」  



御見内「俺達が今こうして生き残ってるのは単なる運だけじゃない…今の所まだ生かされてるだけだ 不必要な奴…邪魔な奴は今後も排除され 淘汰するまでこうやって選別されながら減らされてんだ…」 



メサイア「なんだそれ?言ってる意味がよくわかんねぇーし ちゅーかなんか全てを知ってるみたいな口ぶりだな」



御見内「あぁ ちょっと前に色々あってな… この運命(さだめ)はもう変えられないそうだ… だがな…この絶対的な破滅の道を必死で拒み、変えようとしてる者達がいる…元の暮らしを取り戻す為 平和で穏やかな生活を取り戻そうと頑張ってる者達がいる… 俺も同じ事を願ってる内の一人だ」



メサイア「…」



御見内「そんな中 こんな危機的状況に追い込まれてるってのに… 助け合う所か勝手に自滅の道へと突き進んでいる馬鹿共がいる そう… それがおまえ等みたいな奴等だよ おまえ等みたいな奴が破滅の道に拍車をかけてんだ 命乞いする者を平気で手に掛けるような極悪非道な輩から 私欲の為、口封じの為…簡単に人を殺す輩 お前等みたいに性根の腐ったサイコキラーがいるせいで絶滅に向かって猛加速され、ゾンビの数を増やしてるんだ このままでは本当に止められない所まで行っちまう さだめを打ち破る微かに見えて来た光明も…救えるかもしれないこの世界も…テメェー等のその歪んだ衝動のせいで破綻しちまうかもしれねぇーだよ 簡単に命を奪うようなおまえらだけは… 俺は絶対許さない… そんな奴は俺がこの手で殺してやる」



メサイア「ハハハ ちゅー事は もっと突っ込んで分かり易く言うと…おまえらみたいな悪い奴はみんな死ねって事だな」



御見内「あぁ 矛盾してるとでも言いたいか?確かに矛盾してるさ…だがお前等みたいな悪党を殺せば善良な命が10人分救えるなら俺は迷い無く消すだろう これが俺の正義だ」



メサイア「だそうだ ありがたいお言葉も聞けたし、あの世でしっかり反省してきな、じゃあこのまま騒がれても困るしお役目ご苦労さん そろそろ死にな…」



メサイアがマカロフをエプロン野郎の額へと押し当てた。



その時だ



御見内「いや ちょい待て そいつをまだ殺るな」



メサイア「あぁ?」



今度は逆に御見内によって殺害が制され



何か思いついたような表情を浮かべた御見内がエプロン野郎へと口にした。



御見内「気が変わった おまえ その服を脱げ」

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