第28話 興味

600平米にもなる豪邸



庶民には手の届かぬ夢の様な邸宅が人里離れたこの山林の奥地にあった。



どこぞのデザイナーやら建築家やらによって設計されただろう独創的なデザイン、立方体の多様な組み合わせによって量塊感が表現されてる見事な外観だ



室内から漏れる光に照らされたデザイン調のコンクリートとスクラッチタイルが絶妙にマッチされ、際立ったコントラスト



重なるフォルムが水平ラインを引き締め近代的で高級感溢れる邸宅が闇夜でエレナを手招きしているように思えた。



エレナは物陰に隠れながらその御殿へと近づき、中を観察した。



外に厳重な警備は見当たらない…



それ所か外には人っ子1人見当たらない…



このまま室内に侵入するのはたやすそうだけど…



実際 中には敵が何人いるのか…?



それは不明…



中の状況はここからでは詳しく分からない…



やはり入らないと…



さて どうしよう…



こんなデカい家だが



流石に正面玄関からは無理よね…



と なれば…



エレナが家宅侵入の経路を探ってる時。



1階の応接室らしき部屋の明かりが灯された。



カーテンもされぬ丸見えな部屋に数人の男達が姿を現した。



その中には…あの赤いマントを羽織った男の姿も…



そこね…



暗闇を忍び足で近づくエレナが壁に背をつけ



応接室内の会話に聞き耳をたてるのだが



当然内容までは聞き取れない



隣に位置するリビングの窓ガラスに手を伸ばすも当然鍵が掛けられていた。



エレナはその場から移動、その隣りの部屋の窓ガラスにそっと手を伸ばした。



すると



窓ガラスが開かれた…



静かに開かれたその窓から土足で侵入に成功させたエレナは暗闇の中を進んだ



イグサの匂いが籠もる和室らしき部屋、畳の感触を踏みしめ、ソッと襖を手にし開けた



そしてそのまま廊下へと出ようとした時



気配を感じたエレナは手を止めた。



廊下に人がいる…



そして微かな話し声が聞こえてきた。



チッ… これじゃあ無理ね…



他のルートをあたらないと…



そして 諦めたエレナが振り返ろうとした時



「お前 そこで何してる?」



突如背後から男の声



エレナが振り向くと外には人影が見えた。



そいつはゆっくりと和室にあがり込み



「盗っ人か…?はたまたレジスタンスの子鼠か…? どっちにしろ きさんが来るべき場所では無い… つまりここに入り込むなんぞ自殺希望のアホって事だ」



見つかってしまった…



「セキュリティーカメラの存在にも気づけなかった… それを見落とし、うっかり過った行為に及んでしまった貴様が悪い… 正体は知らぬがただで帰す訳にはいかんな 罰として」



「死ね…」



視界不明瞭な暗闇の中



突如 男が襲いかかってきた。



ガチン



首筋スレスレで止まった刃物の切っ先



男の顔も分からぬままエレナはトミーガンの銃床で男の手首を受け止め、刺殺を免れていた。



エレナ「くっ…」



力比べでは非があるエレナは眉をしかめる。



「ほ~ その声 きさん 女かぁ 殺し甲斐がある」



突如暗闇の中パッと灯された光



エレナが懐中電灯のライトを当て、男が光の眩しさで一瞬たじろいだ隙に…



エレナがタックルを決め、押し倒した。



畳を転がる懐中電灯



男と共に畳に倒れ、エレナが起き上がると同時に男も起き上がり、その場から同時に離れて、距離を取った。



真っ暗な和室の中、床に転がる懐中電灯が微かに辺りをライトアップ、そのほのかな明かりに照らさたスーツ姿の男が映り、エレナはその男の顔を視認した。



七三分けのヘアースタイルにモダンクラシックなスーツ、黒の革手袋をはめる男



一見やり手のリーマンを思わせる姿だ



そう……こいつは世界的悪名高いバリバリタカ派の武装テログループに所属し、国際警察機構(インターポール)から一級指名手配を受けていた男



凶悪犯罪者の中でも1つ頭の抜け出た超凶悪犯罪者



万頭 満だ



本来はボマー(爆弾魔)だが…



今、万頭が手にしてる武器は爆弾ではなく研磨され、切れ味抜群な刃 コンバット用のごっついボウイナイフ



そんな危険人物がエレナの前に立ちはだかった。



エレナはすぐに射撃の構えをとり



トンプソンの銃口を万頭へと向けた。



エレナ「そこでストップ  動くと撃つわよ」



万頭「フッ…… おいおい それは本物か…? 温室な日本人のきさんなんかにそんな代物が扱えるのか?」



エレナ「えぇ…勿論 これはあなたのお仲間から贈呈された代物 なんなら試してみる?」



万頭「ほ~ 言うじゃないか この国でそうそう貴様みたいな女が日常で銃を手にしてる姿を拝めるなんてな… ゾンビさまさまな乱れた現界に勇ましい女だな… 最高だ 俺は平和ボケしたこの国が心底嫌いだったからな…」



エレナ「…」



万頭「それが嫌で俺は危険を求め、世界へ飛び出した… 世界はいいぞぉ~危険に満ち溢れてて実に面白愉快だ 毎日が生きるか死ぬかの退屈させない日々 終始緊張感に包まれたあのドキドキハラハラ感… 世界中にはそれを味わえる場所がいくらでもある…いくらだって犯罪が溢れてるんだからな なら最も危険な街は何処だかきさんに分かるか?」



エレナ「知らないわよ そんな事どう…」



万頭「いいから答えろ」



エレナ「さぁ~ 私は日本から出た事ないからウトイけど… ニュースで頻繁に取り上げられてた情勢の不安定な中東諸国なんかじゃない…」



万頭「あぁ 確かに中東地域は全般的にヤバい街で溢れている イラク、アフガン パレスチナ シリアにイエメン 宗派の対立による紛争、内戦の激化した戦場… 近辺の現界は怨みや憎悪、死臭の臭いしか漂っていなかった… あそこは死と恐怖のワードに支配された一流の危険地帯だったな まぁ日中からドンパチやらかす紛争地域だ… 戦争中だから当然ちゃあ当然だな… だがな…世界には内戦や紛争とは違った意味でもっと戦慄を覚える危険な街が存在するんだよ… そう…言うなれば身に付けている安物の腕時計欲しさに持ち主を殺してしまうような…貧困からくる犯罪… 生きて行く為に人を殺す…そんな純粋で本質的…人の真の恐ろしさや残虐さが体現された犯罪都市 悪と言う名に染まった危険な街がな…そんなパラダイスはどこだと思う?」



エレナ「犯罪都市がパラダイスですって? 病気ね…しかも重度の… そんなの知らないわよ… 知りたくもない つ~かマジそんな話しどうでもいいんだけど」



万頭「いいから言い当ててみろ 当てたら今夜だけはその命見逃してやってもいいぞ」



エレナ「はぁ? あんた 状況お分かり?不利なのはあなたの方なんだけど…」



万頭「なら ほんの一時ぐらい付き合え さあ 答えてみろ」



エレナ「はぁ~ そうねぇ 昔 バックパッカーの旅行記の本を読んだ事があるんだけど その中で著者が南アフリカのヨハネスブルグとケニアのナイロビが世界1治安の悪い街、または違う意味で世界1寒い街だって書いてあったのを読んだ事があるわ… 後はブラジルのリオデジャネイロとかサンパウロ、マニラ ホンジュラスなんかも危険だって」



万頭「ほぉ~ ヨハネスとナイロビか…確かにいい線いってる あれはイカレた街だった… 夜間は10メートル移動するのにタクシーで移動しないと90%強盗にあい、拒めば殺される…確かに一昔前のヨハネスブルグはゾクゾクしたな 別名 リアル過ぎる北斗の拳 死にたい奴はヨハネスへ行けのキャッチフレーズもあった程だからな…だがな…残念だが今言ったどれも 時代はかわっちまった 治安は良好しちまったよ あの悪名高いヨハネスもナイロビも以前と比べて治安がよくなり過ぎちまったな…」



エレナ「…」



なんなのこいつ… 調子狂うわね…



ホントにこいつが国際指名手配犯…



万頭「…しょっぱい街になり下がっちまったんだ… 他にも信じらんない事にあの神の街と言われてた大犯罪都市リオデジャネイロでさえも今では急速に治安が良くなってしまっている でもなぁ~ 代わりはまだまだ他にも沢山あるぞぉ… さぁ 他にもどこか危険な街を言ってみろ」



エレナ「ふざけないで あのさぁ~どうしてこの状況であんたと仲良く危険な街当てクイズなんかしなきゃならないのよ…私はそんなの興味がないって言ったでしょ  そんなのいいからさっさとかかって来い…」



万頭「そうかい… ではっ 早急にその引き金をひき…俺の眉間に当ててみるか?銃声があがればきさんは100%外の連中に捕まり命は無い… どちらにせよ 貴様にここから助かる道は無い… もし それがあるとすればそれは俺が出した問いに見事に正解させる 今回だけは特別に見逃してやってもいいと言ってるんだ… 何も進んで若い命を粗末にしなくともよかろう…… 死にたがりなら話しは別だがな…」



エレナ「さっきから何分けわからない事言ってるの?勘違いも激し過ぎだし なに私が死ぬ前提で話しを進めてるのよ? 死ぬのはどう見てもあんたの方よ そしてもう1つ間違ってるのは 私は捕まらないって所よ  さぁ そのナイフを捨てて手をあげろ さもなくば今言った事を証明する」



万頭「ほぉ~ ハハハ 強気な女だ 久しぶりだな脅迫なんぞ 生温いジャパンもここまでイカツクなってくれれば安心だ、バイオレンスにサバイバルホラー、アドベンチャーなどが融合した ハラハラの愉悦に事欠かない戦国時代の華やかな舞台到来… 素晴らしいぞ… ゾンビの出現で危険度水準が世界均一になったから 日本はどうだ?って思って帰ってきたが やはり帰国して正解か 」



エレナ「あのさぁ~ どうして私が出くわす男ってああだこうだとお喋り好きな奴が多いのかしら… はぁ~ また1つエレナブックに書き加えとかないとね… 私ね…ゴチャゴチャお喋りな男ホント嫌いなの」



万頭「フッ 俺はお喋りが大好きだがな… まぁよい そう言うなら仕方がない お喋りより遥かに好きな事を行うとするか… 人を殺すという興をな…」



ニヤけた万頭がボウイナイフを光らせ、ノーモーションからの一歩を踏み出した。

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