第26話 阿鼻

七海「乱暴はし…」



「黙れ 騒がず歩け」



背後から首もとに押し当てられた冷たいナイフの感触



七海「ヒィ」



岩石に置きっぱなしの高速釘打ち機



露天に置いて来てしまった武器を浮かべ



戦闘経験が無いに等しい七海は反抗する術(すべ)も力も武器もない



ただ悔やむ手ぶらな両手を挙げながら黒フード男の言われるがままに前進を余儀なくされていた。



そしてライトバンに連れて行かれた七海が乱暴に後部シートへと押し倒された。



「抵抗組織のクソアマがぁ このナイフでマ○コにピストン運動されたくなければ大人しくしろ」



馬乗りで鋭利な刃物を七海の首筋へと添え



七海の耳元で男はにやけながら囁いた。



「代わりにこいつを入れてやるからよ」



七海は恐怖で唇を震わせ、自分に覆い被さる男の没義道(もぎどう)な暴挙を許そうとしている。



唇を噛みしめ涙を浮かべながら片手でズボンのベルトを外し、これから婦女暴行しようとする男を黙って見ている事しか出来ないでいた。



七海は己の非力さを痛感した。



怖い…… 誰か助けて……



「そうそう…それでいい…喚かれるとやりずらくてしょうがない」



半分までズボンが下げられ



ナイフで頬をポンポンと叩く男がフードを剥ぎ取り、七海の首筋を舌で一線になぞった。



悪寒が全身を駈け巡り、嫌悪と恐怖に包まれた七海がとっさに顔を背けた。



「なぁ 何でこんな非道い事するのか…なんて思ってんだろ?過去にお前等女には随分と苦い思い出を受けたからな…お前等女達は少し調子に乗りすぎてたって事だ こんな世界になる前は…何かあればやれ猥褻だ…やれストーキングだ しまいにはちょっとした事でもやれハラスメントだとかぬかしやがってよ……うっとおしい世の中だったよ…ストーカー規制法 迷惑防止条例 ついにはハラスメント防止強化条例なんかまで制定されやがってよ…何でもかんでも防止 禁止 防止 禁止 防止だぁ… だいぶお前等女達は法に守られて、デカい面しやがってよ… ある痴漢にしたてられ冤罪で全てを失った奴がいてさ そいつは何を言っても聞き入れられず逮捕されたわ…しかも結局その女の勘違いで潔白が証明されたもののその後の擁護の方は何一つ無いときた……きっとその女のせいだ…その男はいつか女共全てに復讐してやろうと心から誓ったらしい この恨み どう晴らしてやるべきか…ってな」



男が七海の下着へと手を突っ込んだ



「…それが今ではどうだ…そのクソッタレな法令は…」



そして荒々しくその下着を引きちぎり、破り捨てた。



「…ボン お望み通り消えて無くなってくれたわ… お前等を守る壁は全て崩壊したんだよ…ならお前等は今どんな立場に置かれてるのか教えてやろう… もうお前達メス豚はなぁ~……」



見下すイカレた視線に耐えきれず七海はまた目をそらした。



「…おい ちゃんと聞けよ…なぁ おまえバーリートゥードって知ってるか?これは総合格闘技で用いられる反則ありの格闘技って意味なんだけどポルトガル語で何でもありって意味なんだよ 縛られる事の無いこの世界はまさに何でもありのバーリィートゥードなんだよ したがってお前等は血に飢える無頼野郎の溜まりに溜まった欲求を満たす為の恰好の餌にすぎないんだよ… 要はこの乱世でお前等は皆 慰安婦だって事になるな ハハハ 嬉しい世の中になった このルールなき自由な世界に万歳だ」



七海の髪の毛を鷲掴みにし、持ち上げたその頬に舌で一線を描きながら男は話しを続ける。



「俺を恨むのはお門違いだからなぁ 恨むんならこんな世界に変えたゾンビ共を恨めや」



犯される… いや… 助けて…



七海の目から溢れた滴が頬をつたって垂れ落ち



上に跨がる狂気と化した男に視線を向けた。



すると いきなり七海の口へ布のような物が詰め込まれた。



「そうそう 舌噛んで自殺なんかされたらたまんねぇー 精子の溜まったケダモノは基地にもいっぱいいるからよ お前はこの後基地に連れて行く これからたっぷりサービスに励む事になるだろうから死ぬんじゃねぇ…ハハ まぁ生き地獄を楽しめよ クソアマ」



七海「んぐぐぐ」



いや…



ジタバタ暴れ始めた七海の身体を力づくで押さえつける男



「クソアマ 暴れんじゃねぇよ 殺すぞ」



車体が激しく揺れ



七海の股が強引にこじ開けられると、全開に勃起された肉の棒が濡れぬ膣内へと挿入されようとした



いや~~~~~~~~~~



その時だ



男の耳元である囁き声が聞こえてきた。



「もう1つ私の大っ嫌いな奴がいたわ…これ加えとかないとね…あんたみたいなクソ強姦魔を…」



男がギロリと視線を横へ向けるや



そこには不適な笑顔を向けるエレナがいた。



「なっ」



フードが掴まれ、車内から引きずり出された男は七海の身体から一気に引き剥がされた。



それから外へと転げて放られ、顔を上げた時



パン  パン  パン  パン



4発の銃音が夜の街に鳴り響き



「ぐぅ」



黒フード男の右肩、左肩、右膝、左太股の4箇所に銃弾が浴びせられていた。



漆黒の夜景に響き渡った銃声…



街の随所で眠っていたゾンビや感染者がその音で目を開かせ…



目を覚ました…



「うぐっ…」



4股に弾を受け、しゃがみ込んだ黒フードの男にゆっくり近寄る人影



エレナは近づきながら口を開いた。



エレナ「男にとってsexは性欲を満たす行為の1つに過ぎないのかもしれない……でも女は違う…心から好きな相手と心から抱かれなければ満たされないものなのよ…無理矢理なんてのは言語道断 あんたにとってはたかがワンナイトラブですむかもしれないけど彼女にとっては大人だろうと子供だろうと今後一生心の傷として残ってしまう許すまじき行為よ…私の目の色が黒い内は女を力づくで犯そうなどと…そんな愚かな行為は絶対に許さない」



月明かりに照らされたエレナが足を止め、男の前で立ち止まった。



エレナ「そんなに満たされたいのなら満たしてあげるわよ…鉛弾でね」



トンプソンを男の額へと押し付けた時だ



着替えを終えた美菜萌と早織が現れ、ライトバンへと駆け寄った。



また男はトンプソンに目が触れ、慌てた口調で言葉を吐いた。



「お…おまえ…なんでその銃を?その銃をどこで…?」



エレナ「あら これ?これは御覧の通り…中にいたあんたのお仲間さんからしっけいしたのよ」



「あいつらがまさか死んだ…?」



エレナ「ご想像通りよ」



「な…ならバスタードはどうなってる? 気持ち悪ぃ~人形もいた筈だ…」



エレナ「それも私が既に駆逐したわ」



「く…駆逐だと?馬鹿な…嘘をつくな いくらレベルDのポンコツ人形とは言え生身の女如きに破壊などありえん…」



すると エレナはある物を男の足元へと投げ捨てた。



エレナ「それは例の人形に取り付けられていたパーツよ…お返しするわ」



制御装置を目にした男は言葉を無くし、エレナを見上げた。



こんな女に…魁木等が…あの人形さえもやられただと…



エレナの背後へとつけた美菜萌も共に男を見下ろした。



「マジかよ…全滅だと…フ…フ…」



エレナ「……」



「フフフ ハハハハハ 驚きだな… だがいい気になるなよレジスタンス…ただのレベルD1体を壊しただけだろ」



エレナ「レベルD…?あの奇妙な実験体の名ね レベルDとは何?教えろ」



「実験失敗で廃棄処分されるDランクの欠陥品って事だ」



Dランク…廃棄される欠陥品…



エレナ「あんた達…よくもあんな酷い真似をして 欠陥品ですって…一体何の実験を行っているの?言え!」



「ハハハハハ… 企業秘密だよ まぁ強いて言えば ホラーゲームの名作にバイオハザードってのがあっただろ……あれって確か企業が生物兵器を製造してただろ…ハハハハハ まぁ それを模倣したオモチャ作りって所だな ハハハハハ」



人の命を… 何だと思ってる…



複数の人の命を奪っといて…オモチャの製造だと…



エレナ「もういいわ…耳が腐りそう…おまえみたいな外道は…未来永劫この世から消えろ」



エレナは目つきを変え、引き金に指を添えるや



うぅぅぅぅぅううう



タッタッタッタッタッ



「新年あけましてハッピーハロウィン…お年玉袋に奮発してキャンディー2個入れてあげましたよ…死ぬほど喜ぶ顔が早く見たいいいいいぃ」



「ブゥン ブゥン ブゥン ブゥン ティリリリッリリ ティリリリッリリ」



うゎううううううう~



辺りから響き渡る奴らの足音や唸り声、独り言が聞こえて来た。



美菜萌「エレナさん マズいですこれ…」



笑いを止めた黒フードが一瞬にして焦りの表情を浮かべた。



「お…おい…待て…手足が全く動かないんだ…さっさとそいつで俺を射殺してから行け ここに放置しないでくれ」



エレナ「さぁ それはあんたの都合でしょ 知らないわ あんたがどうなろうと…殺さないであげるから…そこで奴等に食べられながら反省でもしなさい」



男に背を向けたエレナ等はライトバンへと乗り込むや



エレナ「この車 頂くわね でわっさようなら」



「ま…頼む…行くな ま…待ってくれぇぇ…行くなぁぁぁぁあ」



駐車場へ侵入する感染者やゾンビと入れ違いでライトバンが道路へと飛び出し走り去って行った。



手足が負傷し動けぬ、残された黒フード男は完全にゾンビや感染者によって囲まれ、男へと接近して来た。



ガチガチ歯を鳴らせ、ガタガタ震わせる黒フードがその周囲へと目を配るや



正面から迫り来る感染者を目で捉えた



「く…くるなぁぁああ~」



感染者は黒フードに飛びかかり身体へと食らいついた。



「うぎゃゃゃゃ~~」



それから次々に男へと飛びつく感染者やゾンビによりあっという間に人集りができあがり



「ぐぎぁぁあああああ」



男の阿鼻叫喚が夜空に鳴り響いていった。


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