第25話 押迫

時同じくして



美菜萌vs魁木



美菜萌「ハァ ハッ ハ」



乱れた呼吸



片膝を付け、脇腹と右肩に傷を負った美菜萌がいた。



その負傷する美菜萌が肩の傷口を押さえながら苦痛の表情で見上げる



その先には戦闘中にも関わらず何やら携帯電話でくっちゃべる魁木がいた。



この私が…



お喋りしながら… 片手間で相手されるなんて…



武道を志す者として… 交じわす者として…



何たる侮辱…



舐められてるものね…



益々この男許せない…



しかし… この男 強いのもまた事実…



そんじゃそこいらの男子になら負けない自信はあるのに



この私が押されているのは確か…



これ程の手練れにも関わらず



幾多 奴等とやり合ってきたが



顔を見るのも 名を聞くのも初めて…



まさかこれで下っ端って事はないよね……?



とにかくこの下賤男には…



負けられない…



魁木「ちょ 待てよガキの回収まだ済んでねぇし… はぁ?まじかよ?勝手に先走って解放すんな馬鹿…… あぁ 分かったよ」



携帯を切り、仕舞い込んだ魁木が美菜萌に目を向けた。



魁木「ったくよ あぁ~緊急事態発生だわ 予定変更 おまえを拉致って愉悦と快楽に溺れる予定だったんだが、急を要すんだわ 従って惜しぃ~がここで死んで貰うぞ」



魁木は自分のムスコを弄り、また鉤爪を美菜萌へと向けた。



どこまでも無礼で下品な男…



私を殺すだって… 馬鹿にするな…



痛みをこらえ、ゆっくり立ち上がった美菜萌がデッキブラシを構えた。



魁木「おいおいフラフラじゃねえかぁ まだやる気かよ?…次は肩と腹だけじゃ済まねぇーよ あ~ そうだなぁ それじゃあ この肉棒ちゃんに代わってこいつをその穴にブチ込んで殺してやる…」



チッ… ふざけるな…



柄部のフィンガーリングに中指を嵌め、鉤爪を一回転させた魁木はガッシリと掴み、トドメを狙う態勢で身構えた。



魁木「おまえ… 確か懲りずに無駄な抵抗を続けている弱小レジスタンスの美菜萌ってやつだろ?」



美菜萌「…」



魁木「高潔で勇ましい乙女が1人いるって聞いたがおまえの事だな ハハ…おまえの組織も無駄な悪足掻きでご苦労なこった あ~ そうだなぁ 冥途の土産ってやつ 死ぬ前に1つ言い事を教えといてやるよ…」



剣道 下段の構えで魁木を黙視する美菜萌



両者2~3歩踏み込めば捉えられる打間に空気が張り詰めた。



一瞬だけでいい… 隙さえ作れれば…このディスアドバンテージ(不利)をひっくり返せる…



1発で逆転出来る…



魁木「代表が理想のお人形さんの完成に成功したそうだ あ~ お人形さんっても分かんねぇーか 生活反応 いわゆる生きた状態で切り取った各々のパーツを繋げ…」



ドヤ顔の自慢気に語り始めた魁木がまばたきで目を閉ざした。  その瞬間



床に落ちた一枚のバスタオル



そのバスタオルを素早く巧みにデッキブラシで拾い上げ、それを魁木へと投げつけた。



バサッ



一瞬の目眩まし



バスタオルで顔が覆われ、視覚を封じられた魁木が慌ててバスタオルを剥がすや



魁木「クソあま」



バスタオルを剥ぎ取った時



目前には既にデッキブラシを振りかぶった美菜萌がいた…



美菜萌「せい」



ゴルフのスイングの様に魁木の股間目掛け強烈な一打を浴びせた。



魁木「はうっ」



美菜萌「私…ペチャクチャお喋りな男の人 嫌いなんです」



そして クルッと半転



勢いをつけ渾身の一打を魁木の顔面にブチかました。



バキッ



鼻に直撃を受け陥没、後ろに倒れた魁木が後頭部を強打させた。



完全にノビ、ピクリとも動かなくなった魁木



美菜萌「ハァ ハア ハッ うっ」



デッキブラシを投げ捨て



5人の輩共を撃退した美菜萌が見下ろしながら脇に覚えた激痛から傷口を押さえ込んだ。



手のひらにこびりつく鮮血



そう深くないが唾つけてほっとく程浅くもない傷



美菜萌「つつ…」



美菜萌はバスタオルを身体に巻き、スコップを拾いあげた。



そしてみんなの所へ戻ろうと振り返った時…



廊下の先から七海と早織が血相を変え走って来た。



七海「美菜ぁ~」



早織「美菜ちゃん」



美菜萌「2人共 どうして戻…」



早織「おっかないお化けが入口にいるんだよ」



美菜萌「え?」



七海「いいから美菜もあの露天の壁から登って外に逃げるよ」



美菜萌「あ… でも私まだ着替えが…」



七海「そんなのいいから」



美菜萌「え?ですが裸だし…棒も」



七海「あんた命と裸とどっちが大事なの…?タオル一枚つけてるんだからいいじゃない」



美菜萌「あ…は…はい え エレナさんは?」



七海「大浴場で今 応戦してる いいから早く逃げるよ」



美菜萌の腕を掴んだ七海が強引に連れて行くさなか



後ろを振り向く美菜萌の視界に



追いかけて来たクリス



その数秒後に後退りながらエレナの姿が見えてきた。



早織「2人共早くぅー こっちだよ」



施設内から気温がぐっと落ちた夜の外界へ飛び出した早織と七海



ゴツゴツした岩石で作られた浴槽からは温泉らしい硫黄の湯気が立ち込める露天コーナーに出た2人が紅葉や楓が植えられた花壇に足跡をつけ、竹製で囲まれた柵を見上げた。



早織の横についたクリスも一緒に夜空を見上げ



早織「お姉ちゃん ホントにここから上がるの?高くて無理だよ 違う出口探そう…」



七海「もうこっからしか逃げる場所ないの 先にお姉ちゃんが上がるから ちょっと美菜ぁ~ 何やってんの?早く行くよ」



廊下を見詰める美菜萌に叫ぶが美菜萌はジッと動かずその先を凝視していた。



七海「もぉ~ 何やってのよ 早織 ここで待ってて すぐに壊す物探して来るから」



ジャンプするがギリギリ手の届かぬ高い塀



七海は何度もチャレンジを繰り返す



廊下で佇み、美菜萌の瞳に映ったエレナの背中



エレナがゆっくりと後退しながらこちらに近づいて来るのが見えていた。



その歩調は恐る恐る…



その様子からエレナが何かに追い迫られてるのはあきらかだった



美菜萌はその先から迫る何かに全意識を傾け、凝視していた…



陰から踏みしめる音が鳴り…



何かが来る…



美菜萌も警戒態勢を取った。



そして、猛々しい気配と主張するかの様な足音をたて…そいつは廊下の陰から姿を現した。


美菜萌「エレナさん」



美菜萌が後退するエレナに近寄り共に目にした。



美菜萌「え?……あれって…」



エレナ「例の実験体よ…」



ダラリと前に垂れ、息絶えた2つの頭部



全身赤い血で染まる巨体がユッサユッサと2人との距離を縮めて来た。



露天入口まで後退したエレナが早織へ向け



エレナ「ねえ早織ちゃん ちょっとその黒いの頂戴」



ジャンプしやっと掴んだ七海が塀を必死によじ登って行く中



早織がドラムマガジンをエレナに手渡した。



グチャ グシャ 



通路に倒れる町民を片っ端から踏み潰しはじめる人形



早織「いやぁぁぁ 来たぁぁ」



露天に逃げ込む早織



エレナ「美菜萌さん 行って 私が時間稼ぐからその間にみんなと一緒に逃げて」



早織「早織こんな高い所登れ無いよ 七海お姉ちゃんが柵壊すから待っててって言ってたけど…恐いよ待てないよ 早く2人も逃げようよ」



チラッと竹製で囲まれた塀を目にするエレナ



エレナ「美菜萌さん 早く 早織ちゃんを連れて早く外に逃げて」



バコォ 「じぎゃゃゃ」



グチャ グシャ



美菜萌「私も…」



エレナ「いや 美菜萌さんの出る幕無しよ 奴を物理的に倒す道具はこれしかないんだから」



カチャ



ドラム式マガジンが装填されトンプソンを構えた。



美菜萌「エレナさんを置いてなど」



エレナ「行って」



エレナが美菜萌を一喝した。



グシャ 「うぎゃゃゃ」 ブチャ



美菜萌「分かりました あの2人を安全な場所へ連れたらすぐに戻って来ますから その間 御武運を」



軽く頷いたエレナ



美菜萌は脱出に動き、エレナは戦闘に意識を集中させた。



美菜萌「さぁ 早織ちゃん お姉ちゃんが肩車するから、ここから上がって」



早織「エレナお姉ちゃんは?」



美菜萌「あのお姉ちゃんは強いから大丈夫 さぁ お姉ちゃんの肩に乗って」



早織「うん…」



それから意識を失って倒れる魁木の顔面に強烈な踏み下ろしがなされ…



グチャ



そんなスプラッター音を鳴らし…



エレナの前で立ち止まった。



惨劇に目を背ける事なく直視したエレナが鋭い目つきで血塗れ人形を見据えた。



さぁ…来るがいい



おまえの相手は私よ…



第2ラウンド



エレナvsバスタード レベルD



無惨にも踏み殺した屍共を踏み越え



エレナへとジリジリ詰め寄る戦慄のマクロ(巨大)な図体



掴まれればひとたまりも無いだろう2つのぶっ太い腕が伸ばされ、破壊の対象物は完全にエレナへと向けられた。



こんな奴に1掴みでもされたら私は終わる…



頭が撃ち抜かれても…



2つの頭部が死しても…尚動くこの体…



他人同士の各パーツを繋いで完成された残忍無垢な継ぎ接ぎ人形



やはり頭と身体は連動しない個別…



しかも身体中銃弾を受けても尚立ち上がり向かって来る強靭な肉体



無闇に撃った所でこの突進は止められそうに無い…



このまま捕まってボールの様に握り殺されるか…身体中引きちぎられて殺されるのがオチだろう…



こいつの動きを止めるにはどうする…?



ジリジリとトンプソンを身構えながら通路を後退するエレナの背が壁につけられた。



塀を跨ぐ美菜萌がチラッと視線を向けるとその先には壁に阻まれ追い込まれたエレナと両腕を伸ばしエレナに迫る人形の姿がガラス越しに映っている。



美菜萌はその光景を目にし、息を呑んだ



2人の距離2~3メートル



追い詰められたエレナに人形がもう一歩踏み入れた時



捕まる訳にはいかない…いくら撃っても死なぬなら…



恰好な射撃の的になって貰うだけよ…



エレナが目つきを変え、引き金に指を添えたトリガーが押された。



パパパパパパパパ パパパパパパ



そして銃音と共に手を伸ばす五指が弾け飛び



右の掌は跡形もなく粉砕された



パパパパパパ パパパパパパパパパ



それから銃口が移行され



一点集中で撃ち抜かれた左の掌も手首から一気に消滅された。



どう…?これで私を捕まえる事は不可能よね… なら次は…



今度は人形の下部へと銃口が向けられ



パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ



120連装のフルオート射撃を受けた足首の肉、骨が瞬く間に砕かれ、弾け散っていく。



人形の膝は落ち、屈折した



まだまだよ‥



更に銃口はもう片方の脚へと向けられ



パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ



連射された弾丸が人形の足首、スネ、太ももに食い込み、風穴をあけていった



同様に破壊され、支えを失った人形が前からドスンと音をたてて倒れ込み



四つん這いになった。



そしてジャンプしたエレナがうつ伏せた人形の背中へと飛び乗るや



同時に人形の背中へ銃口を突きつけていた。



一瞬で形勢を逆転させたエレナ



小さな声でボソッと言葉を吐き捨てた。



エレナ「さぁ リーチよ このエレナ様を舐めるな」



そして…



パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ



畳み掛けの銃撃で動きが鈍り、弱り始めた血塗れの人形が床を這いながら徐々に活動が低下していく



またエレナはある物に目を止め、発砲を停止、それに手を伸ばした。



さぁさぁ トドメよ…



息絶えた魁木の遺体横に転がる鉤爪を拾い、エレナはそれを振り上げた。



そして それを人形の背中におもいっきり突き刺した。



杭を打つが如く床まで到達された鉤爪が突き刺され



人形の弱々しい匍匐前進が止み



人形は活動を停止させた。



美菜萌「早織ちゃん ちょっとそこで待ってて」



早織「え?う…うん」



一部始終を目にしていた美菜萌が塀を降り、エレナのもとへ駆け寄る



美菜萌「エレナさん やりましたね すごい…よくこんな奴を…」



エレナ「一時は私も駄目かと思ったけど…なんとか…」



沈黙された人形の骸をエレナと美菜萌が見下ろしながら美菜萌がエレナにたずねた。



美菜萌「人のパーツをくっつけて1つの人形を作り上げるなんて…こんなの同じ人間が行ったなんて思うだけでゾッとします…こんなの悪魔の所業としか思えません」



エレナ「えぇ…そうね… これ…怪物なんかじゃないよ…れっきとした奴等の犠牲者の1人」



美菜萌はエレナへ目を向けた。



美菜萌「犠牲者ですか…確かに…」



エレナ「これがあと何体あるのか…一体何人の人が犠牲になってるのか…人の命を何だと思ってるのか…心底許せない… 絶対に奴等は倒さないとならない相手ね」



美菜萌「えぇ これはあの組織の頭である山吹の首をとらない限り永遠に続きます 全てはあの男です あの男は悪魔に憑りつかれてますから」



エレナ「すぐにその頭を…エクソシストして祓ってやるわよ」



美菜萌「クシュン」



エレナ「あ ごめんね そんなタオル一枚の格好じゃ風邪ひいちゃうね 早く着替えてきて…私は先に行って七海さんと合流しとくから 車で待ってます」



美菜萌「すいません 分かりましたすぐに着替えてきます… う~寒です」



その頃…



七海「はぁ はぁ」



何か鈍器…鈍器はないの…



竹の塀を壊す道具を探す七海がある用具室らしき倉庫を発見



七海「あ よしよし あったあった」



ここなら何か叩く物ぐらいある筈…



七海がその倉庫の扉のドアノブへ手を掛けた  その瞬間



急に七海の口が押さえ込まれた。



同時に後ろから身体が羽交い締めにされた。



黒き衣を纏ったもう1人の黒フードの姿だ



「ククッ 危ねぇ~なぁ~ レイディーがこんな時間に何してる? この俺様が特別保護してやろう」



七海「んんん」



「連れが戻って来るまで暇なんだよ……相手しろ  死にたくなければあんま抵抗すんなよ」



ドアノブから手が離れていき



七海がその場から連れ去られようとしていた。


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