第20話 会議

2時間後…



営業所ビル 2階 会議室



ホワイトボードに貼られたむつ市内の地図



その前に立つ美菜萌がある説明をおこなっていた。



美菜萌「…はい そうです もしこの情報が正しければ前任の潜入人や半田氏から受けた情報とも合致します ここなら地下3階までありますので」



マツ「その下水処理施設と廃物工場までの距離は?」



美菜萌「はい 監禁されているだろう廃病院がここですから… 下水処理場はここから南東に約6キロの場所… この位置になります」



美菜萌が地図に○のマーカーを記入



美菜萌「…そしてそこから約5キロ程先の山奥に廃棄物処理施設があります… 3カ所共だいぶ前に閉鎖された廃場です」



席にはマツを筆頭に斉藤、阿部、ポン吉、川畑、根城、御見内の7名が着席



急遽作戦会議が開かれていた。



川畑「そんな所に隠れていたのか…場所が特定されたのは朗報だけど…でも特攻かけるにはもうちょっと正確な情報が必要だと思うなぁ~」



斉藤「正確な情報?情報ならこれ以上ないでしょ 場所さえ分かれば俺は明日にでも仕掛けるべきだと思いますけど… チンたらしてたら場所を移されるかもしれないし」



ポン吉「俺も斉藤さんに賛成です こっちには今ライフルと散弾銃もあるんで またとないチャンスかなと」



川畑「だけど… 失敗したらどうする? 失敗すれば俺達も危ない所か腹いせに… また人質に取られた者達が見せしめに殺されかねない」



斉藤「そんな事ビビってたら一生何も出来ませんよ どれか1カ所でも叩いて奴等の1人、2人人質に取れば人質を交換するカードにもなるし、人質を守るカードにもなるじゃない… 俺達にこまねいてる時間なんてないんだし… それにそうこうしてる間にも酷い拷問を受けて苦しめられてる人がいるんだから… 殺されてる人だっているんだから… すぐに救出に向かうべきだ」



川畑「まぁ そうなんだが… やはり俺は賛成は出来ない…もう少し半田からの詳しい情報を待つべきだ…」



斉藤「マツさんはどうなんですか?」



腕組みするマツから静かに口が開かれた。



マツ「あぁ…… 確かに斉藤の言う通り 多数の人質を取られてる今…俺達には一刻の猶予もない…すぐにでも踏み込みたい所だ…」



斉藤「ですよね じゃあ何処から行き…」



マツ「踏み込みたい所なんだが… その前に1つやらなきゃならん事がある」



皆がマツに視線を向けた。



斉藤「何ですそれ?」



マツ「奴等にこの場所を嗅ぎ付けられた… まずはみんなを安全な場所に移動させなければ危険だ… そっちが先だ」



斉藤「引っ越し? いやいやマツさんまでそんな悠長な事を さぁ踏み込んで もぬけの殻だったじゃ笑えないっすよ… たった今町長を含む仲間達が殺されたんですよ… みんなかたきうちしたくないんすか?」



川畑「そんなのしたいに決まってるだろ… 俺だって悔しいし悲しい…でもなぁ~ マツさんの言うとおり今はやるべき順序ってもんがあるんだよ… 今は上の人達を安全な場所に移す事の方が大事に決まってる」



斉藤「…んだよそれ」



川畑「頼むから今は冷静になれ斉藤」



その時だ



突如御見内が席から立ち上がった。



マツ「どうした?」



御見内「実は皆さんに1つまだお話ししてない事があるんです」



斉藤とポン吉が顔を見合わせ



斉藤が背もたれにもたれ溜め息まじりな吐息で御見内を目にした。



御見内「実は…奴は殺される間際に拠点が4つあるって言ってたんです」



ポン吉「はぁ?」



川畑「え?まだあるの?」



御見内「そうです… 話しだと4箇所あるって口走ってた…」



根城「…」



斉藤「まじかよ?なんで今まで黙ってたんだ」



マツ「それを聞き出す前にあの女に消された…だろ?」



御見内「えぇ その通りです だから詳しい話しは分かりません… ですが丁度いいです… 踏み込むのはもうちょっと待って欲しいんです まずは皆にアジトを安全な場所に移し、万全な準備を整えて欲しいんです」



斉藤「新入りがでしゃばって何仕切ってんだよ」



マツ「斉藤 やめろ」



斉藤「チッ」



マツ「分からないな… 何が丁度いいんだ?」



皆を見渡す御見内が斉藤とマツを見ながら口にした。



御見内「その整えてる間に… 俺がその廃こうばに潜入します…」



川畑「え?」



美菜萌「…」



美菜萌が驚きの表情を浮かべる



川畑「ちょ ちょっと潜入って…あの潜入?」



御見内「はい」



斉藤「潜入ならもう半田さんがしてるだろうに」



御見内「えぇ その半田さんって方に直接接触し、同行して確実な情報をゲットしてきます」



マツ「駄目だ 目立ち過ぎる…危険だ」



御見内「この争い どうすれば俺達の勝ちだか分かりますか?」



斉藤「そんなの決まってんだろ 簡単だ 組織をぶっ潰し、人質を救出する事だろ」



御見内「もっと具体的に言うと…」



斉藤「具体的?知らねー」



川畑「あ トップの首だね」



御見内が人差し指を向けた。



御見内「そうです… この戦い…その組織の頭を…ネクロマンサーとか世迷い言をほざいてる 山吹って男の首を殺(と)れば終わりだと思ってます」



会議室に静かなどよめきが起こった。



川畑「潜入して何するつもり?」



御見内「正攻法で立ち向かっても多勢に無勢は否めない ならまずは敵を把握しておきたいんです…奴等の目的…内情…力…何もかもね…」



根城「でもそれ相当危険だよ…」



御見内「4つ目の秘密基地も俺が突き止めてきます」



あんぐりと口を開けたポン吉



御見内「可能なら俺が内部から1人づつ敵を潰してみせます」



美菜萌「…」



斉藤「敵を内部から潰してく? 大した自信じゃねえか」



御見内「俺が必ずや好機を作りますんで、ゴーサインを出しますんで それで内と外からの同時攻勢に出るんです… これでどうですか?」



すると



マツ「御見内 山吹は確かに度し難い程のイカレポンチだ だがな…奴は馬鹿では無い… 手強い上、その取巻もまたしかりだ… 奴等をあなどっていないか?」



御見内「…」



マツ「大した収穫も無く、死体で返ってきたんじゃ遅いんだ しかもお前は既に顔がわれている…破局するのは目に見えてるんだよ…したがって それは駄目だ 認める訳にはいかん」



マツは首を横に振りながら御見内の提案を拒否した。



斉藤「なぁ~ そりゃそうだろ ガキのお使いじゃないんだぞ なんであんたがそこまでする? これは俺達の問題なんだぜ 本来よそ者のあんたの出る幕じゃねぇーよ」



御見内「今回はある意味似ている…… 実は少し前に… ある凶悪な奴等とバトった事があるんです…このゾンビパニックに興じ…無法と化した事をいいことに何の罪も無い人達を遊び半分で殺すような下衆を極めた野蛮な奴等とです…」



マツ「…」



御見内「奴等の様に理性を保つ必要の無いこの世界でタガの外れた人間がどんどん増えてきてます 内に秘めたサイコパス…殺しの快楽を覚えたシリアルキラーまで… そんな奴程怖いものはないと身をもって実感したんです… また同時に…こうゆう奴程俺は許せないです」



斉藤「…」



御見内「確かに俺は余所者かも知れませんが この件に関わった以上 喧嘩売られた以上この殺戮集団を放ってはおけない… この世に征服者などいらない… そんな輩(やから)許せない だから目には目をです  連れのエレナだって俺とおんなじ意見ですよ」



戦意みなぎる口調でそう口にした。



御見内「こんな組織壊滅してやる…そう誓った以上思いは皆さんと同じなんです」



ジィーと合わせる視線から御見内の本気、やる気、自信が伝わってきた。



マツ「おまえ… 何だその自信ありげな目… やり遂げる自信があるのか?」



御見内「勿論です あります ですんで潜入を認めて下さい」



マツ「潜り込めば命の保証など無いぞ」



御見内「当然 承知してます」



マツ「アシストも不可だ」



御見内「分かってます…」



マツ「何が起こるか分からんぞ」



御見内「はい」



マツ「それでも潜行したいんだな?」



御見内「そうです…やらしてください」



マツは背をもたれ人差し指で数回テーブルをポンポン叩いた後 口にした。



マツ「いいだろう 好きにやってみろ」



斉藤「え?」



川畑「ちょ…マツさん…」



マツ「ただし…非常に厳しい事を言うが…死んだ時は その時は自業自得だったと己の浅はかさを恨め いいな?」



口角を緩めた御見内



御見内「はい ありがとうございます」



斉藤「まじかよ…?」



マツ「っで…いつこころみる?」



御見内「明日の朝日がのぼる前にでも…」



そして御見内がある物をテーブルの上に置いた。



それは黒い外套(マント)



金髪が身に付けていたフード付きの衣だ



御見内「…潜入します」



これから御見内の敵内部への潜入がおこなわれる



御見内「その前に すいませんが1つ2つ程お願いがありまして」



マツ「何だ?」



御見内「知ってる限りの情報があれば教えて下さい 特に奴等のツラなんかを」



すると



マツ「美菜萌」



美菜萌「はい」



美菜萌がボードに貼られた地図を剥がし、代わりにある1枚の写真を貼りつけた。



美菜萌「御見内さん これは山吹の写真です。本名 山吹幻史(やまぶきげんし)…年齢不詳 この組織を統括する代表と呼ばれている男です 調べだと恐らく元生物学に精通した研究者で黒魔術にとり憑かれたマッドサイエンティストです」



外人を思わせる彫りの深い顔



山吹を映し出す写真に御見内は視線を向けた。



こいつが山吹か…



待ってろ…すぐに壇上から引きずり下ろしてやるからよ…



美菜萌は更に数枚の写真を貼っていった。



美菜萌「それから続いてこれらが現在知ってる限りの山吹を取り巻く、俗に言う幹部クラスと言われる者達の写真です まず一番右側の男が…」



流行りのバブルマッシュに耳にはピアス ジャニーズかホストにいそうな今風な甘いマスクの若者の写真が貼られていた。



美菜萌「本名 若竹…下の名は分かりません 年齢は20代前半 この男とは以前戦闘を経験しています この男は武人です 私が思うに種類はフィリピン武術 カリ(別名アーニス)と思われます… 格闘戦の際は一番気をつけなければならない相手かと… 続いてその隣が…」



バッチリ七三分けでキメられたヘアースタイル



外套の下からチラリと見えるモダンクラシックなスーツに身を包んだ男の写真があった。



美菜萌「…名は万頭(ばんどう)満(みちる) 38歳 この男はある国際テログループ、カザックに属し、世界各国で爆弾によるマスマーダー(大量虐殺)の犯行を行ってきた凶悪な犯罪者です、インターポールが血眼になって探していた第一級国際指名手配犯… だった男です」



御見内「国際テロリスト?何故そんな奴がここに…?」



美菜萌「詳細は不明です… ですが大物である事は間違いありません 大変危険な人物です 顔をよく覚えておいて下さい それから続いてこの男…」



見るからに危なそうな人相



美菜萌「…明神 剛(みょうじんたける)41歳 最凶のシューターでロシア製のドラグノフ狙撃銃を所持してます 正直大半の仲間がこいつによってシューティングされ命を落としてます 言わば組織一番のスプリーキラー(大量殺人鬼)かもしれません… そしてスプリーキラーと言えばもう1人…」



写真には…



先程交戦した見覚えある女の顔があった。



美菜萌「姓は不明 名は冴子 年齢も不明です 経歴は麻酔医、解剖医とされてますが本当の事は分かっておりません この女にも多くの仲間が殺され…前者とこの女の2人にも注意して下さい 最後にこの兄弟…」



顔中吹き出物だらけ、豚の様に太り、醜い面構えの2人組が写真に映し出されていた。



美菜萌「右がマルオ左がマルモ 一卵性の双子の兄弟で 通称マル兄弟と呼ばれています 人並み外れた怪力の持ち主で残虐行為で快楽を得るサディスティックな変態兄弟です…以上が今の所 顔のわれてる幹部クラスの面子達です」



マツ「どうだ?このラインナップ?どいつもこいつも一筋縄ではいかなそうだろ… これでも行くのか?」



国際テロリスト犯に最凶シューター… 女医に… 変態怪力ブサイク兄弟… そしてネクロマンサーか…



美菜萌「御見内さん…ちなみにこれはあくまでも顔のわれてる幹部に過ぎません そんな奴等が50人いると言われてます… 他にもまだ素性のわれてない危険人物がゴロゴロいるんです…またそれに加えて…洗脳され操られた町の人達もです」



確かにヤバそうなモンスター級ばかりのようだが…



フッ… おもしれぇ…



所詮は人の子…



御見内「えぇ… 勿論行きます 50人って事は既に3人死んでるから…残りは47人ですね…」



御見内「予定通り明日こころみます…それでもう1つだけ頼み事があるんですが…」



マツ「なんだ?」



御見内がマツと美菜萌に目を向けた。



所変わって… 同刻



営業所内 4階 従業員仮眠室



七海「…はい…はい…分かりました…えぇ 大丈夫です ぐっすり寝て…あ 今 目が覚めたみたいです はい はぁーい了解です」



七海が内線電話での会話中



ベッドで横になるエレナが目を覚ました。



早織「七ちゃん エレナお姉ちゃんが起きたよ~」



エレナがパチリと目を開くや、ジッと覗き込む少女の顔が視界に飛び込んで来た。



七海「どう?具合は?」



エレナ「う… えぇ なんとか… ここは? あ!奴等は?」



七海「大丈夫 ここは私達のアジト内よ 敵さんは彼氏さんがちゃんと追っ払った」



エレナ「そうですか…良かった…」



七海「ちょっとした麻酔薬で眠らされたようね ちょっとした神経痛や筋肉のこわばりはあるけど身体に後遺も異常も見られない 少したてば直に治るから安心して」



早織「だって 良かったねお姉ちゃん」



エレナ「フフ ありがと ずっと看病してくれてたの?」



早織「うん 早く元気に起きますようにってね ワンちゃんもず~といい子にお座りして早織と看病してたんだよ」



早織の隣りであるじの安否を気遣うクリスが尻尾をフリフリしていた。



エレナ「そぉ~ 嬉しい~」



エレナが手を差し出すや



ベッドに両足を乗せ、クリスがエレナの鼻や口をペロペロと舐め始める。



エレナ「うぅ~ん やめてぇ くすぐったいよ」



早織「ハハハ」



そしてエレナが起き上がろうとするや



エレナ「いてて」



早織「もうちょっと寝てなきゃ駄目だよ」



七海「少し痛む? あ そうだぁ~ ねぇエレナさん 最近温泉なんて行った?」



エレナ「温泉?いえ」



七海「じゃあいい所があるのよ ホテルと合体したスーパー天然温泉が八戸にあるんだけど 美菜萌も誘って女だけで温泉でも行っちゃおうかぁ なんて考えてるの」





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