第45話、グノーム神殿の化け物

 グレゴに続いてたどり着いたのは、グノーム人らが地の神を崇める神殿のある空間。

 だがそこに踏み入れた慧太らが見たのは、石造りの荘厳なる神殿の外観ではなく、それを覆いつくさんばかりに侵食する巨大な植物とも怪獣ともつかない異形だった。


「何だ……これは……!?」


 慧太は息を呑んだ。マグバフルドやジャンクヤードのカニモドキなど大きな敵と対峙してばかりだが、それら以上の大きさを持つ化け物だ。一番高いので十ミータメートルは超えているだろうか。

 無数の歯を生やした花のような頭が七、八本。茎とも首にも見える長大なそれが球形の胴体から伸び、さらに無数の触手がいたるところに伸びている。その体色は緑と紫のまだらで、見た目が毒々しい。口のある頭の花のような部分は赤や白など頭ごとに異なるようだ。目は見当たらないがびっしり生えた歯を持つ頭は自在に動き……近くにいるグノームの戦士を丸呑みにした。


「おのれぇぃっ!!」


 グレゴが吠えた。手にしたツルハシのそれを斧型の物に付け替えると、勇敢にも巨大怪物めがけて突撃した。


「ツヴィクルーク、だ……」


 慧太らを神殿まで導いたグノーム少年が言った。セラが銀の鎧を発現させ、口を開いた。


「それが、あの化け物の名前ですか?」

「ナー、わかンネーけど、ありゃ伝説のツヴィクルークに違ぇネエ!」

「ツヴィクルーク……」


 その名を慧太は呟いた。動物と植物のキメラ――目の前のそれは、小学の頃遊んだRPGに登場する植物系のボスモンスターみたいだ。

 神殿のまわりでは、グノームの戦士たちがツヴィクルークに立ち向かっているが劣勢……どころか壊滅寸前だった。触手に足をとられ、花つき頭に飲み込まれたり――


「光の弾、敵を貫け……!」


 セラが光弾の魔法を唱えた。具現化したのは三つの光の球。光弾はグノーム戦士を喰らいつこうとしていた花付き頭の一つに命中、仰け反らせた。

 そこへグレゴが走り、仲間を捕らえる触手をその斧で両断する。


「しっかりせい!」


 助けた仲間を引っつかみ、安全圏に逃れるべく後退する。すぐに二本、三本と別の触手が捕らえるべく伸びてくる。慧太は走る。


「旦那!」


 グレゴを手伝ってグノーム戦士を引っ張る。セラがアルガ・ソラスを手に、伸びてくる触手を切り落として援護した。

 空間の入り口まで後退することで、ようやくツヴィクルークの攻撃範囲から逃れられたが、一人のグノーム人を助けた一方で、神殿を守るべく戦っていた戦士はあらかた化け物に飲み込まれてしまった。


「くそぅ……!」


 グレゴが怒りを露にした。彼をここまで連れてきたグノーム少年はガタガタと震えている。


「ツヴィクルーク……ツヴィクルーク……!」

「オマエは集落へ走ってこのことをおさに伝えるンダ。行けッ!」


 ドンと、荒々しく背中を叩き少年を送り出すグレゴ。青ざめた顔でコクコクと頷いた彼は走り去る。それを見送り、セラはグレゴを見た。


「これからどうしますか?」

「むろん、あの化け物を倒すンダ!」 


 グノームの戦士は眼光鋭く、ツヴィクルールを睨む。


「仲間たちがあのまぁるい腹の中に飲み込まれてる。今なら、まだ助け出せるかもしれン」


 確かに――慧太は頷いた。


「あの顔ついた花みたいな奴、歯はあるけどもっぱら飲み込んでた」


 首だか茎だかを滑り台をすべるが如く、飲み込まれたグノーム人が通過していくのを慧太は見ている。ツヴィクルールの腹の中でグノーム人たちは生きている可能性はある。……あとはあの化け物の消化スピードがどれほどのものだが、外からでは判断がつかない。


「助けるなら、早いほうがいいよな」

「同感です」


 セラは凛とした表情で、ツヴィクルークを注視する。


「問題は、どうやってグノーム人を助け、あれを倒すか……」

「そんなモンは決まっとる。あの胴体を裂いて、仲間を助ける。そのあと、ツヴィクルークの首を全部切り落とす」

「先に首を切り落としたほうが早くないかな?」


 慧太は提案したが、セラはかすかに首を横に振った。


「あの首を落としている間に、まわりの根――触手が絡んできます。……それに気のせいかもしれませんが、触手の数が増えているような……」

「マジかよ……」


 慧太も化け物を見つめ、眉をひそめた。


「気のせいかな……あいつまわりを侵食して大きくなってないか?」

「ワシにもそう見えるゾ!」


 グレゴは唸った。


「これ以上、のんびりしとるわけにはいかンゾ!」

「……あの花付きの頭と触手を何とかしないと近づけない」


 慧太は少し考える。


「セラ、あの光の一撃で奴の頭をまとめて吹き飛ばせるか?」

「聖天でですか?」


 せいてん、と言うのか。慧太は思ったが黙っていた。セラは顔を曇らせる。


「……頻繁に動かれるとまとめては無理ですね。半分くらい落とせれば御の字かと」

「半分でもよしとするべきか。……グレゴの旦那。あんたが巻いているのは爆弾だよな?」

「グノーム特製の穴掘り爆弾ダ」

「それ仕掛けないと爆発しないタイプ? 衝撃で爆発するか?」


 グレゴの身体に巻きつけられたベルトにある角ばった爆弾を見やり問えば、グノームはポンと胸を叩いた。


「ぶつけて爆発させることもできるゾ」

「オーケー、それなら使える」


「おーけー?」とグレゴとセラが顔を見合わせる。慧太は頭の中で考えをまとめた。


「じゃあ、聞いてくれ。作戦はこうだ――」

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