獣っ子と始めた異世界便利屋ただいま適当に営業中!~この店長最強すぎ注意~

秋風 椛

序章

出会い

 今、目の前に――獣っ子がいる。


「……」


 今朝、昼の買い出しに出掛けるために、マンションの自室から出ようと玄関の扉を開けたら、この子がニコッと微笑みながら立っていた。そして、ご近所さんの目を気にして放置する訳にもいかず今に至る。


「私の顔に何かついてますか? 」


 艶やかな茶色い短髪に耳。金色の瞳。ふわふわした尻尾を持つ獣っ子と、マンションの自室にあるベッドの上に座って向かい合わせ――となればやる事は一つ。


「お願いがあります」

「駄目です」

「まだ何も言ってないんですけど……」

「どうせ、耳か尻尾を触りたいと言うのでしょう?バレバレです」


 思いっきり見透かされていた。


「私が貴方にお願いがあって、このゴミ箱の様な部屋に来たのです」

「なんですか? お願いと同時に俺を泣かせるのが目的なの?」


 えぇ確かに汚いですとも衣類は散乱し、曜日を間違えて捨て損ねたゴミ袋が二袋と挙げればキリがない。だって一人暮らしですもの!醍醐味の一つでしょうよ、部屋を散らかしても何も言われないこの……んー鎖から解き放たれた感じ? が 絶妙なんだよ! と心の中で力説していると『冗談ですよ』と苦笑いをしながら、少女は懐から一枚の紙を取り出し提示する。


「……ごめん。解読不可能なんだけど」


 所々破れた紙になにやら文字がびっしりと書いてあるのだが、まるでミミズが這ったかの様な汚字の為、全く内容が理解できない。


「えぇ! 読めないのですか!? この世界の言葉で書いたと言っていたのですが……」

「まぁ君が口頭で読み上げてくれればいいよ」

「読めませんよ?」

「良かっ――は?」


 今なんて言った……読めないだと? 頭の中が綿あめの如く真っ白になり思考回路が働くのを辞め、目が点になる。


「それは……なんで?」

「お母さんに書いて貰ったのと、私が読み書き全く出来ないからでーす。えへへー」


 後頭部を撫でながら苦笑いしている。


 もしかして……こいつ――馬鹿じゃね?


「じゃ、じゃあなんで喋れるの?」

「それは私が天才だからですっ!」 


 その場で立ち上がり腰に両手を当て、食材を切るのに使えそうな程に平な胸を張りながら誇らしげな顔をしてやがる。ははは、殴りてぇ。握り拳を作りそうになるが自制心を保ち顔を引きつらせる。


「本当の理由は何かなぁ?」

「お友達に教わりました! 読み書き出来なくても案外簡単に喋れる様になったんですよ? 凄くないですか!?」

「わぁー凄い凄い。」


 機械のように無機質な声色で発声し、適当な拍手を送る。



「でさ?そろそろ名前と来た理由を教えてくれない?」

「そうでしたね、私はリリアナ・シュナンテ。よろしくお願いします。そして、理由ですが……私と一緒にお店を開きませんか?」


 ――は?


 会ってまだそんなに時間は経っていないものの、会話をしている内に一つ確信した事がある。こいつはさっき自身を天才だと言っていたが、どうやらあながち間違ってないらしい。何故ならこいつは……人の思考回路を停止させる天才と言っても過言ではないからだ。


「そんな急に言われて、うん! 開く開く! ってなると思う?」

「ならないんですか? 上手くいけばお金ガッポリですよ? 億万長者ですよ? まぁで開くので、この世界では使えませんけど」

「………何その異世界ってラスボス級のパワーワード」


『気づいてしまいましたか?ふふ』と言った感じに、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながらベッドを降りてトイレの扉の前に行き手招きをしている。

 

「そこはトイレだ! 便座は和式だが何故かウォシュレットが付いていて、もう古いんだか新しいんだかよく分からんが……ト・イ・レだ! 決して異世界になんか繋がってないぞー」

「トイレ愛好家なんですか?」

「何故そう思った」

「なにやら情熱的になっていたので」


 はぁーとため息をつく様を見たリリアナが『まぁとりあえず見ていてください』と扉を開ける。



 トイレは見事に俺、九条愁也くじょうしゅうやを裏切った。





































 
















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