第14話 私が助ける?

 私はこれ以上、話を聞くかどうか迷っていた。


 人それぞれ事情があるし、睡眠薬を大量に飲んだことから明らかに自殺しようとしていたはず。それに精神的ケアは病院が精神保健福祉士を依頼しているだろうし、すでに面会していることだろう。変に私が介入してしまえば、その人のケア方法が無駄になるばかりか受け付けなくなることだってある。それくらい精神ケアが必要な患者は全てのことに繊細になっているのだ。


 救命医として様々なケースの患者に触れることが多いことから私も精神科の勉強は積んでいる。しかし、専門でなければわからないことなど山ほどある。だから私はこれ以上深入りすることはやめようと思った。


 私は少し空いた気まずい間を埋めるため、会話を終えるために話しかけようとした。


「そ……」


「ダメだよ」


「え? なんでゆいちゃんが?」


 私は市ヶ谷さんとはおそらく何も関係のないゆいちゃんが声をかけてくるとは思いもせず、表情は変えなかったが内心混乱して慌てふためいていた。


「ダメだよ。話をしないと。

 あの男の人は、かおるちゃんが助けないといけないんだよ」


「いや、いけないって……


 あの人は私と今日初めて会った人だよ? 受け持った患者さんならともかく、なんの予備知識もないのに変なことを言ってしまったら、あの人だけでなく、ケアする人やご家族、その周りの人たちに迷惑をかけてしまうんだよ?」


「大丈夫だよ。そんなことにはならないから」


「なんで大丈夫だってわかるの?」


「わかるから。でもちょっとだけ時間が必要だから、できるだけ話を長く続けていてね」


「まあ、ゆいちゃんがそう言うなら……」


 私はいつの間にかゆいちゃんのことを信頼していることに気づいた。


 人というのは不思議なものだ。最初は怪しい存在であったとしても、接触する回数が増えたり、言っていることが正しかったり、当たっていたり、自分が得をすると、その存在を認めるか、信じてしまう。人が集団で生活し、数千年生存できた要因はこういう部分が備わっていたからであろう。そこに騙されるという要因も含まれているのが玉にキズだが・・・


 何はともあれ、ゆいちゃんを信じて、市ヶ谷さんとの会話を続けようと思った。

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