『41、巫女姫の神託』
食事を終えた俺たちの下に3人の人物が近づいてきた。
先頭を歩いているのはプリスト教皇猊下。
その後ろに50代くらいの女性と7~10歳くらいの少女がいる。
3人は俺を囲むような位置に座り、プリストが先頭を切って口を開いた。
「改めて教皇のプリストです。皆様には神託のことでお話が」
「はあ・・・僕についての神託か何かですか?」
神託とは、巫女の中でも最上位に位置する巫女姫しか聞くことが出来ない神の声だ。
巫女姫は別名を聖女ともいい、強い光属性を持つ巫女がなれる役職である。
今の巫女姫、マイセスで17代目だったっけか。
「部分的にはそうですね。マイセス、神託について説明を」
そう言って脇に控えていた少女を見やる。
「分かりました。――初めまして。巫女姫のマイセスです」
「え・・・あなたが巫女姫なの?」
フローリーが信じられないといった声を上げる。
みんな同意見なのか、特に咎める声も無い。
当のマイセスは全く表情を崩さずフローリーの方を向いた。
「ええ。私がイルマス教の第17代目巫女姫、マイセス=ロームよ。ちなみに10歳ね」
そう言って一礼する。
優雅で洗練されており、彼女が巫女姫であることを認めさせるには十分だった。
「しっかりしていますね。素晴らしいと思いますわ?」
「確かにあなたには配慮というものが足りませんからね。淑女に年齢を聞くなど・・・」
「誰が淑女なのかしら。私には分かりませんわね」
フローリーと火花を散らし始める巫女姫マイセス。
俺たちも喧嘩している2人を宥めつつ、それぞれ自己紹介を済ませる。
「それで、一部が王子と関わっているという神託とは何ですか?」
一通りの顔合わせが済んだ折り。
フェブアーが尋ねると、マイセスは顔を引き攣らせた。
「それが、王子に関係する部分以外は分からないんです」
「どういうことですか?神託が分からないって・・・」
ボーランが訝し気な声を出す。
普通、神託というのは人々の指針となるため、分かりやすく伝えられる。
万が一にも解釈間違いがあってはいけないからだ。
それなのに、『神託が一部分からない』というのは違和感を感じる。
「はい。神託はいつも暗号で送られてくるんです。こちらから神界には伝えることが出来ないので、何とか解読するしか無くて」
「なるほど。神託を解読する人には相当な責任がかかりますね・・・」
疲れたようなマイセスにフェブアーがボソリと呟いた。
「そうなんですよ!間違えたら私たちのせいになるんですから!」
50代くらいの女性がいきなり声を上げる。
今にも愚痴大会が行われそうな雰囲気を変えたのはやはりボーランだった。
「その暗号とはどんなものだったのですか?」
遠回しに“王子が関わっているなんて解読ミスじゃないの?”というニュアンス。
マイセスたちが聞き逃すはずもない。
「神託は、『Gの4を連れた5の1と旅をし、9の敵を滅せ』です」
意味が分からず、固まる俺たち。やけに数字が多い神託だな。
しばらく全員が押し黙った後、マイセスが挑むような視線を向けてきた。
「どうですか?皆さんは解読出来ましたか?」
数人の眉がピクリと上がったのを俺は見逃さなかった。
みんな、かなり怒ってますな・・・。
「Gというのはグラッザド王国のことですよね。あなたたちがここにいるんだから」
「4を連れた5の1というのは、4人を連れた5歳の第1王子ってことだよね」
カルスとフローリーがそれぞれ答える。それにしても厄介で、よく出来た暗号だな。
「数字の意味が全部違うんだね。最初の4は人数を表している」
「5は年齢、1っていうのは順番よね。――ホントだ、全部違う。」
マイセスが驚きの声を上げるも、俺は自分で発見した理論に自分で躓いていた。
「それじゃ、この9は何なんだろう?」
「人数でも年齢でも順番でもないもの・・・。確かに思いつかないわね」
「私も思いつきません。いやはや・・・神託は難しい」
プリストと50代くらいの女性が早くもギブアップの意を示す。
俺を含むグラッザド王国の面々やマイセスも首を傾げたまま進展はない。
「セテンバーのことじゃないかしら?」
フェブアーの発言に全員が硬直し、発言者に視線を向ける。
特に解読できるかもと思ったイルマス教の方々の食いつきっぷりが半端じゃない。
「なぜそう思ったのですか?その根拠は」
「彼が領主になった時、予算が金貨9枚しか無かったそうです。しかし、戦争で荒れ果てた領地を見事に復活させ、お金の使い方を皆に問う、“9枚の復興劇”として有名なんですよ」
金貨9枚ということは日本円で90万円ということだ。
確かにドク郡の大きさから見れば、少ないと言わざるを得ない。
「なるほど。9は枚数を示しているということですね」
マイセスは、神託を解読出来たからか、清々しい顔をしている。
だが、一抹の悔しさは隠しきれていない。自分で解読できるようになりたいのだろう。
「つまり、ドク郡まで旅をしてセテンバーなる人物を滅せば終わりということですか」
「もちろん王子たちと一緒にね」
プリストと50代くらいのおばさんが神託をまとめた。
しかし俺たちは慌てる。
裏の目的がある以上、イルマス教の関係者を連れていくわけにはいかない。
セテンバーを滅すということは、外国の人間に不正の断罪を見せるということにも繋がる。
それは王国の人間としては避けたいのが本音だ。
「あの・・・今回はちょっとした事情がありますので遠慮したいと・・・」
フェブアーが申し訳なさそうに断ろうとした。
そんな彼女を一睨みした後、プリストは笑顔の仮面を張り付ける。
「そうですか・・・。でしたら明日までお待ちしましょう。その事情とやらを解決してください」
「神託は絶対です。旅の支度が整いましたら私、シスター長のキリサまで」
プリストと、50代くらいのおばさん改めキリサが有無を言わさぬ口調で釘を刺した。
要するに、『お前たちと旅をする以外の選択肢は無い』ということである、
「分かりました。善処はしますが、結果は保証しかねます。隣国が関わっていますから」
俺はそう言い残すと、詮索される前に大広間を立ち去った。
後ろから必死についてくる足音が聞こえてくる。
部屋に入ると、俺は真ん中の布団に倒れこんだ。両脇にボーランとカルスも転がる。
「かなり面倒だな。神託とか訳の分からないもので邪魔されたくないんだけど」
「同感だね。しかも奴らのせいでもう1日滞在することになったし」
ボーランが憎々しげに吐き捨てた。
一応、他国の王子がいることを盾に取ったが、あれは捕縛しているだけで仲間ではない。
そのことをイルマス教に知られたらアウト。
断罪の旅に、もれなく巫女姫という邪魔者がついてくることになる。
彼女の護衛と称してキリサとかいうシスター長がついてくることも安易に想像できた。
あの人、何か不気味な印象を受けるし、同行はしないでいただきたい。
「明日は決戦の日だよ。ここはグラッザド王国だしイルマス教にデカい顔はさせない」
「国民を救うためなら教国にだって反抗して見せますよ」
カルスが胸をドンと叩いた。とても勇ましいセリフと行動である。
「皆、立って。ボーランはフローリーたちを呼んできて」
ボーランは小さく頷き、隣の部屋に向かう。
少しの後、俺たちの部屋にグラッザド王国側の5人が集まった。
「皆、僕たちの国の恥を外国に見られていいと思う?」
「ダメですね。断固、拒否するべきです」
カルスが強い口調で言うと、残りの3人が我が意を得たりと頷く。
「この5人の力で教国の同行を阻止しよう。国のためなら神も拒否して見せるよ!」
「「「「はい!」」」」
4人の声が重なり、闇に溶けていく。
「・・・ゴメンね。あなたたちには賛成できない」
誰かの悲しい呟きも、闇に溶けて消えていった。
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