『18、王都散策④~ショートコントとギルド~』
何だ、アイツら・・・。凄く怪しいんだけど。
通りすがりの人たちも訝し気な表情で、明らかに場違いな2人を見ている。
しばらく観察していると、どうやら道を通る人を残らず尋問しているようだ。
前世でいうところの検問というやつである。
それだけなら問題はないのだが、厄介な事が一つ。
どうやらフェブアー騎士団長を探しているらしいのだ。
「確認させていただきますね」などと言ってフードも剥いでいるため、顔を隠す作戦も無理。
それにしても、これは想定外。
ターゲットがまさかフェブアー騎士団長だとは思わなかった。
もしかしたら俺じゃないかとは思ったけどね。
取り敢えず、近くの路地裏で作戦会議を行うことにし、一旦道を逸れる。
「どうしようか、あの人たち。というか誰?フェブアー騎士団長の知り合い?」
尋ねると、フェブアー騎士団長が露骨に顔を顰めた。
「あいつらは騎士隊の書類担当官です。大方、私のサインか何かが必要な書類があったのではないでしょうか。王子の護衛であることをバラしてもいいのですが、何しろ往来ですので騒ぎになられると・・・」
「確かにそれは困る。出来れば遠慮してほしい」
厄介だな・・・。ギルドとかで休憩がてらにやってもらってもいいが、既に時刻は15鐘。
父上からは18鐘までに帰って来いと言われているため、あと3刻しかない。
書類の量によっては俺が詰む可能性がある。
――何とか穏便に済ませられないものか・・・。
ここでおかしなことに気づき、書類担当官を仰ぎ見る。
「何でサリマ地区に続く道をピンポイントで塞いでいるんだろう。偶然かな?」
その言葉を聞いたフェブアー騎士団長は首を横に振った。
「時間はあと3刻。そろそろお土産を買う時間だと推測できます」
「王子ですので、そのついでにギルドを見るだろうということも」
騎士の1人も補足していく。
うーん。その通り過ぎてぐうの音も出ないな。
何か突破する案は転がっていないだろうか。
そう思いながらあたりを見回していると、とある人物が視界に入る。
特徴を観察しているうちに、一つの案が閃いた。
「よし、ショートコントをやろう!」
ポカンとする4人に案を説明していく。
説明し終わった際には、全員が黒い笑みを浮かべていた。
半刻ほどで準備を整えた俺たちは、書類担当官の前に歩み寄っていく。
「そこの親子連れ、止まれ。貴様らはフェブアー騎士団長か?」
低い声で発される質問。威圧感が凄い。
「誰それ?おじちゃんたち!道を塞いじゃダメなんだよ!」
精一杯の裏声を駆使して、平民の無邪気な4歳を演じる俺。
幸いにも、こいつら2人は俺が王子だと知らないらしい。
「そうだな、ゴメンな坊主。すぐ済むからね」
苦笑いする書類担当官。隣の書類担当官に目配せした。
目配せを受けた書類担当官は、いきなり隣の女性のフードを剥いだ。
俺に正論を言われてイラッとしていたのか、確認もなし。
こちらとしては好都合なのだが。
「キャア!あなたたち、いきなり何をするんですか!」
フードの下から出てきたのは、尖った耳の女性。
正確に言えば、エルフの仮装をしたフェブアー騎士団長である。
厚紙を尖った耳の形にカットし、着色しただけの質素なものだが、一瞥させるだけなので問題は無い。
作戦通り、呆気に取られている書類担当官を尻目にフードを被り直す。
「わ!ご・・・ごめんなさい!」
フェブアー騎士団長の殺気をまともに食らい、ビビる書類担当官の2人。
そこに、地獄の底から響いてくるような暗く、低い声が突き刺さった。
「――不問にしてあげるから早く通しなさい。あと、ここから去れ」
「「ご、ごめんなさーい」」
一陣の風が吹き抜けるがごとく走り去っていく書類担当官の2人。
その姿が完全に見えなくなると、フェブアー騎士団長が大きくガッツポーズ。
「やったわ!#あの2人組__・__#を追い払った!」
「あの2人に何か問題でも?あと偽耳は取って下さいね」
その後の話を大雑把にまとめるとこうである。
あの2人組は若干、強引なところがあり住民からの評判も悪かった。
それでますます不機嫌になり、ますます嫌われていくという負のループを経験。
やむを得ず、ブルート副騎士団長が書類担当官に異動させたのだが、今度は上司のサインを取るために街中まで追っかけてくる、ストーカーまがいのことをし始めていた。
その事でフェブアー騎士団長は随分と苦い思いをしたらしい。
だから、お灸を据える事が出来てて良かったと思っているのだそうだ。
そんな事を話しているうちにギルドにたどり着く。
ギルドは木製で、3階建て。剣が交じり合っている看板が吊られていた。
中に入ると、正面にカウンター、左手にボード、右手に酒場がある。
俺たち5人は空いている席に座り、メニューを眺めていく。
結局、全員が紅茶を頼み、お茶タイム・・・と思ったのだが、謎の男たちが近寄ってくる。
「よう、女!そんなガキと男は放っておいて、俺たちと飲まない?」
見ると、顔が赤く染まっていた。いわゆる酒に酔った冒険者に絡まれるテンプレであろう。
「断る。お主にも連れがいるではないか。そちらに戻れ」
2つ先のテーブルを指さすフェブアー騎士団長。
その横では、騎士たちが射殺すような視線を向けている。
というかフェブアー騎士団長、素だとそんな喋り方だったんだ。
男はその態度が気に入らないらしく、騎士の1人に詰め寄っていく。
「ああん?何だその視線はよ!俺をバカにしてんのか?」
凄く助けてあげたいが、この脳筋、口撃が通じる感じじゃないからなぁ。
即座に実力行使で潰しにくるのは目に見えている。
どうしようかと様子を伺っていると、詰め寄られた騎士が体を反転。男の後ろに回った。
そして男が振り向いた隙を見計らって首に一発手刀を下ろす。
男は泡を吹いてひっくり返り、ピクリとも動かない。
どうやら気絶させたようだ。全員が目を見開き、サッと視線を逸らしていく。
「騎士さん・・・随分強いんだね・・・。頼もしいや・・・」
あまりにも華麗な一撃に驚き、言葉が出てこない。
そんな俺を見た4人が盛大に噴き出し、再び周りの注目を浴びる。
こんなんじゃ、いずれ王子だとバレるぞ!
全員が飲み終わっているのを確認して会計をサラッと済ませると、さっきの書類担当官ばりの速さでギルドを飛び出した。
後から必死の形相で追いかけてきた騎士たちにジトッとした視線を送る。
「あんなに注目を浴びたら僕たちの素性がバレるでしょ」
「「「「ごめんなさい!」」」」
4人が一糸乱れぬ動きで頭を下げた。俺はため息交じりに歩き出す。
「行くよ!いざ、サリマ地区に!」
隊長になった気分で歩いて10分ほど。サリマ地区に到着した。
モダンな街並みが広がっており、今までの街とは明らかに雰囲気が違う。
手頃なお土産屋が無いか探していると、一軒の店を見つけた。
看板には『指輪のお店 フタンズ』と書かれている。
指輪かぁ・・・。そうそう買う機会もないし、お土産にはちょうどいいんじゃないか?
そう思った俺はその店に入ることにした。
「うわぁ・・・凄く綺麗・・・」
店の中には色とりどりの宝石が散りばめられた指輪や、どうやって彫っているのかと思うほど精巧な指輪が並んでいる。
「お主、何用でここに来た?」
しばらく眺めていると、背後から声が聞こえてきた。
驚いて振り向くと、店主とおぼわしき老婆が不機嫌そうにこちらを睨んでいる。
「あ、いや・・・お土産を買おうかなと思いまして・・・。すっごく綺麗ですね」
微笑みながら言うと、店主は一瞬だけ顔を綻ばせた。
だが、その顔はすぐに引き締められ、不機嫌そうな顔に取って代わっていく。
「出て行け。これから忙しくなるからな」
やがて、一言だけ呟くと老婆は奥に引っ込もうとする。
その態度にイラッとしたのか、フェブアー騎士団長が老婆との距離を詰めた。
「おい、そこの老婆、無礼であろう」
「は?あたしゃいつも通りだよ。忙しくなるんだからとっとと出て行っておくれ」
「その態度が無礼だと言っておるのだ!」
ちょっとちょっと・・・店の中で喧嘩は止めようよ。
俺は事態の収拾を図るべく、ポンポンと軽く手を叩く。
その瞬間、2人が一斉にこちらを振り向いた。
「フェブアー、もう良いから下がって」
抑揚のない口調で言うと何かを感じ取ったのか、苦々しい表情で下がっていく。
「お忙しいところ失礼しました」
丁寧な所作でお辞儀をして、店を退出。
結局、王都の紋章が入った短剣を購入してから帰路についた。
「どうしてあの老婆に何も言わなかったのですか?無礼が過ぎます!」
未だ納得がいかない様子のフェブアー騎士団長。
「あくまでお忍びだからね。それに忙しい時に押し掛けたのはこっちだし」
そう伝えると、一旦フェブアー騎士団長を下がらせる。
あーそれにしても楽しかったー!俺は心の中で思いっきり叫ぶ。
待ちに待っていた王都散策は、短剣と様々な思い出を残して終わりを告げた。
また、いつか来れるといいな・・・。
夕焼けに染まる王城を見ながら、俺は心からそう思ったのだった。
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