第九十七話 ガイアクの最期

「全くあんな化け物を倒せるなんてな。前の俺じゃあ考えられなかったかもな。兄弟が作ってくれた装備のおかげってなもんだ!」


 完全に消滅したガイアクを見ながらハザンが言う。その顔からは興奮冷めやまぬといった感情が読み取れた。


 手にした装備が自信にも繋がっているようだな。しかも性能におんぶに抱っこではなくしっかり使いこなしての勝利だ。尤も私やメイも含めての勝利だが、しかしハザンの力も大きいと言えば大きいだろう。わざわざ兵器級の魔導具を使わずに済んだしな。メイにしても本気を出せばまぁ1人でもやれない相手じゃなかったが、あまりやりすぎると色々問題が出るかも知れないし。


 何よりすぐとなりにアンジェもいるしな。

 

 つまりハザンのおかげでいい感じの火力で決着がついたということだ。勿論アンジェの協力も大きい。


「うむ、ハザン、お前は十分に役立ったぞ!」

「お、おう、しかし何だろうか? 素直に褒められた気がしないのは?」

「気の所為ですよ」

「お、おう……」

「私も凄いと思うぞ」

「お、おお! 貴女に褒められるなんて光栄だぁあ! うぉおぉおぉぉお!」

 


 ハザンが雄叫びを上げた。さっきから本当どうしたのか。


「しかし本当に凄まじいな。あんな化物私が騎士団を率いてやってきていてもきっと倒せなかっただろう」

 

 噛みしめるようにアンジェが語る。しかしちょっと大げさな気もするがな。ガイアクの形態は悪魔の中ではそこまで脅威に至るものではなかったし。


「アンジェのあの光斬撃も凄かったじゃないか。戦いようにもよるが十分やれると思うぞ」

「い、言わないでくれ! 何か叫んだが方がいいのかと思ってつい!」


 アンジェが顔を真っ赤にさせた。どうやら本来名前のある技ではないようだ。


「いやいや、貴女に相応しい可憐で美しい技だったと思うぜ」

「……そういえば、あのサウザークリティカルとは一体?」

「おうよ! 俺の考えた必殺技だ!」


 自分を指差して技をアピールした。そして何故かチラチラとアンジェを見ている。


 ハザンの反応はよくわからんが――


「エドソン殿、とにかく私も急いで戻ってこのことを報告しないといけない」

「あぁそうだな。なら戻るとしようか」


 アンジェは領主の抱える騎士なわけだしな。というわけで私たちは魔導車に乗って町に戻ったわけだが。


「なんと無事だったのか! して、あの、あ、悪魔というのは?」

「問題ない。私たちで……いや主にハザンとアンジェ殿が主体になって倒した」

「へ?」

「おおハザン殿とアンジェリーク様が!」

「流石は冒険者として名高い破斬のハザンと王国軍の騎士にも引けをとらないとされる麗騎士アンジェリーク様だ!」


 街に戻るなり兵に囲まれて質問を受けたわけだが、そこで私はアンジェリークとハザンの功績として大きく取り沙汰されるよう持っていった。


「お、おい? いいのか?」

「私は正直そこまでのことをしていないのだが」

「問題ない。ただしだ――」


 ハザンが耳打ちしてきてアンジェも驚いているが私はそれを肯定した。メイのこともあるし、私たちが表舞台に立つのはあまり芳しくない。それよりも――


「ただ、俺が悪魔を倒すことが出来たのは、ここにいるエドソンが所属する魔導ギルドによるところも大きいのさ。魔導ギルドが提案し作成された、この魔導装備がなければ悪魔を倒せるどころか俺の命だって危なかった」

「……確かに私も魔導具に助けられた部分が大きい」

「なんと、そんなことが……」

「魔導ギルドって潰れる寸前のギルドだと聞いていたが違ったのか……」


 私が望んだのは魔導ギルドの功績にしてもらえないかということだった。アンジェの反応が気になったが私はここは大丈夫と判断した。そして実際アンジェはそれを認めてくれた。


 まぁ実際嘘はないからな。今回の活躍には魔導具は必須だったし。


 こうして騎士のアンジェと冒険者ハザンの活躍であると同時に魔導ギルドが率先して作成した魔導の武器と防具の恩恵も大きかったと噂が広まることとなった。


 ふふ、これで魔導ギルドの評判もまた上がるな。


 さて、その後だがガイアクは死亡と判断されるも、その罪が白日の下にさらされ、死後ではあるが爵位は剥奪、土地も、まぁ既に残っていないのと同じだが徴収され、奴隷の権利も消失した。


 まぁ、そのおかげで使用人も路頭に迷うことになるわけで、心配していたようだが、そのへんも含めて纏めてジャニスが引き受けてくれることとなった。奴隷としてでなく人材派遣の要員としてだ。


 勿論シーラとバズもこれでガイアクの縛めから逃れられることになったわけだが――


「今日からこの魔導ギルドでお世話になるバズです!」

「シーラです!」

「「よろしくお願い致します!」」


 というわけで魔導ギルドに2人が派遣されてくることになった。バズもシーラも助けてもらったお礼をどうしてもしたいと私の所属するギルドに派遣されることを願ったそうだ。それはまた殊勝なことだがな。


「バズ、処理は済んだか!」

「は、はいただいま~」

「シーラちゃん、この術式はこうでこうね、後はそうね、この術式は3時間で覚えて」

「ふぇ! 3時間で!?」


 というわけで目も回るような忙しさに悲鳴を上げている。何せハザンの評判もあって更に注文は増えたからな。そしてアレクトはやっと後輩が出来たと張り切っている。


 驚いたことに冒険者までうちのギルドを見に来るようになった。


 これを知ったらドルベルはどんな顔をするやら。そもそもで言えば魔導具のおかげで冒険者ギルドを頼らなくても解決できる仕事も増えたようだから冒険者の仕事も大分減ってるようだけどな。


 まぁ冒険者にしか出来ないような危険な素材採取なんかはどうしても冒険者だよりだろうがな。そしてそういった危険な仕事をしてる冒険者がうちを見に来てくれてるってわけだ。


 さて、そんなわけで魔導ギルドは軌道に乗ってきていてかなり順調とも言える。


 ただ、気になることがないわけでもなく――


「……ガイアクに関しては罪も暴かれ、死んだ後とはいえそれ相応の罰も受けたと言えますが……実はガイアクに協力していたはずのドイル商会に関しては罰金だけの軽い処罰で済んだそうなのです」

「そうか……」


 フレンズがやってきてそんな話を教えてくれた。ガイアクに奴隷を売っていたのはドイルとつながりのある奴隷商だった。そのうえでドイルはあのふざけたチェスをガイアクに販売した。


 それにドイルはガイアクが日常的に奴隷に暴行を働き非人道的な行為に及んでいたことも知っていたはずだ。あいつ自身もそれを認める発言もしていたしな。


 だが、どうやらその辺りは完全に有耶無耶にされ、管理に不備があった程度の話で済んでしまったようだ。


 ……全くしぶといやつだ。しかし、これはやはりあいつの後ろ盾の力が働いているんだろうな――






◇◆◇


「全く、随分と手間を掛けさせてくれたものだ」

「も、申し訳ありません。まさか、ガイアクがあのような化け物になるとは……」

「――それは寧ろ問題ではない」

「は?」

「……まぁいい。それより孤児院の件はどうなっている?」

「は、はい! それは問題ありません。既に種は撒き終え、後は収穫するだけ。望み通りことを進めて参りますので、どうか、どうか……」

「――安心しろ。使えるうちは悪くはしない。だからしっかり頼んだぞ」

「は、はい! お任せください領主様・・・!」

「……ふん。しかしあの女も一緒になって全く面倒なことに首を突っ込んでくれたものだな――」

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