第八十一話 冒険者ギルドへ連れて行く
「あ、あのぉ~私はぁ、冒険者ギルドにぃ、行きたいの、ですがぁ~」
「おう、だから俺らがその冒険者だって言ってるだろ?」
「俺ら優しいから、ギルドなんかに行かなくても、直接依頼を聞いてやるよ」
「でもその前に、その体でちょっとだけご奉仕してもらおうかな」
「そんな、こまり、ますぅ」
「あん? 何が困るだ。そんなエロい体しておいて、のこのこついてきておきながら今更困るもクソもねぇだろが」
「どうせお前もそのつもりだったんだろ? ほら、さっさとこんな邪魔なものは脱いでギャァアアァアアァ!」
「ヒギイイイィイィイ、し、痺れるぅうぅう!」
「な、なんだなんだ?」
「はぁ~やれやれだな本当に……」
案の定というかなんというか、道を間違えているどころか、またこんな連中に騙されてついていってしまったスロウに私は呆れた。
思わず手で顔を覆い頭を振る。前もそれで危ない目にあっただろうに。
「あぁ~エドソンくんだぁ~」
「は、エドソン? こ、この餓鬼、知りあいか? てか、これお前がやったのか?」
「そうだが、お前ら本当に冒険者なのか?」
「は、あったりまえだろが! 俺たちはDランクの冒険者よ! 餓鬼、今ならまだ見逃してやる、とっととお家に帰ってママのおっぱいでも吸ってるんだな!」
「はいはい、もう面倒だから、ドーン!」
「へ? ぐべぇ!」
私が右手を広げると、発生した衝撃波でDランクの冒険者とやらた吹っ飛んでいった。ふむ、アレクトが作ったにしては中々効果が高いな。このインパクトハンドは。手袋タイプの魔導具でダイヤルで衝撃の威力を6段階まで調整できる。
ちなみに今のダイヤルの位置は2だがDランク冒険者を吹き飛ばせるなら護身用としてはまぁまぁ使えることだろう。
ちなみの最初に2人を気絶させたのは私も所持していた
さて、こいつらは適当に衛兵に突き出すとして……というか、悪事働く冒険者多すぎだろ! 全くいくら衛兵が入ってくる人間をチェックしてても内側から腐ってたんじゃ意味がないな。
そもそも冒険者ギルドの管理はどうなってるんだ。まぁ、あの胡散臭そうなギルドマスターが長って時点でたかが知れているが。
そしてその冒険者ギルドに向かおうとしているのが、このスロウなわけだが。
「あはは、またぁ、僕に助けられてぇ、しまいましたねぇ~」
「しまいましたねじゃない。全く、前もそうやって騙されたばかりだろうが」
「えへへ、親切に教えてくれるとぉ、言ってくれたのでぇ、つい~」
「ついじゃない! 少しは疑うことを知れ!」
「……だめですよぉ、人を安易に疑うものではぁ、ないの、ですぅ~」
いや、だから疑わなかった結果がこれなのだろうが……。
「よいしょっと、でもぉ、また何かぁお礼をぉ、しないとぉ、いけませんねぇ~」
「いらん! それより時間がないのだろうが」
「え? あぁ~そうでしたぁ、急がないとぉ」
ぜ、全然慌てているように思えないなこの口調だと……一応表情が少しは変化したが……。
「はぁ、とにかく、今回は冒険者ギルドまで連れて行ってやる。わかったらついてこい」
「本当ですかぁ? 何からぁ、何までぇ、本当にありがとう~」
やれやれ、とにかく私はそのまま、このスロウを連れてギルドに向かったわけだが。
「ねぇねぇ、こんなお子ちゃまより俺と遊びにいかない?」
「あははぁ、私ぃ、行くところがあってぇ~」
「え? 超偶然、俺も今そこいくところなんだよ。こんな餓鬼より俺とギャァアアア!」
「あれれぇ?」
「あれれじゃない! 変なやつに声を掛けられたら無視しろ!」
そう注意しつつ、更に先を急ぐが。
「おっぱいでかいねぇ、お前ちょっとこっち、グギャァ!」
「ちょっとそこでお茶しない? 大丈夫その後どっかに連れ込んでなんて、ヒギイィイイ!」
「餓鬼どけ! おいちょっとこっちこ、ぐほぉ!」
こんな感じで、ギルドにいくまでだけでやたらといかにもって雰囲気の男どもに声を掛けられていた。全員排除したが、こいつも一々話を聞こうとするからな……。
「お前、そんなことで本当に大丈夫なのか? 少しは無視したり、必要のない相手の話は聞かないぐらいでないとやってられないと思うぞ?」
「えぇっと、でもぉ、受付嬢は先ずぅ、話を聞かないとぉ、信用はぁ、掴めないですよねぇ?」
「……そう思うなら勝手にしろ。一応忠告はしたぞ。ほら、ここが冒険者ギルドだ」
「ありがとうございますぅ、あ、お礼にぃ、お茶でもぉ、如何ですかぁ?」
「いらん! というかお前は仕事に来たのだろう! いいから早く――」
「ほう、これはまた、久しぶりに見る顔だな」
私がギルドの前で、スロウと話していると、横から声が届く。首を巡らすと、そこにはギルドマスターのドルベルが立っていた。
どうやらどこかから帰ってきたところなようだが……しかしこんなところで出くわすとはな。
「それで、今日はどのような御用かな? 仕事が欲しくなったなら、何か恵んでやってもいいが?」
「あいにくと、今はうちも忙しくてな。むしろ今はこの冒険者ギルドの方が大変なのではないか?」
「大変? あぁ確かにお前たちが何かと雑用の役に立つ魔導具を売りつけているおかげで、面倒がなくなったよ。それには感謝する。お使いごと見たいなものや職人がやるような仕事は本来我々の領分ではないからな」
平然を装ってはいるが、言葉の節々に棘を感じるな。言うほど余裕でもなさそうだ。
「それで、用件は?」
「別に、ただ通りがかっただけ――」
「はいぃ、エドソンくんはぁ、私をぉ、ここまで連れてきてくれたのですぅ」
すると、後ろにいたスロウがドルベルにしっかり答えてしまった。くそ、あまり私と関係があることは知られないほうがいいと思ってごまかしたかったんだが。
「……ほぅ、それで、君は?」
「私はぁ~、今日からぁ、この冒険者ギルドでぇ、受付嬢をやることになったぁ、スロウですぅ。貴方はぁ、冒険者のぉ、方ですかぁ?」
「違う馬鹿! お前、ギルドマスターの顔も知らないのか!」
「ふぇ、ギルドマスター?」
「そうだ。私がこのギルドでマスターを務めるドルベルだが……しかし、随分と出勤が遅いようだが?」
「あぁ、すみませんでしたぁ~実は道に迷ってしまってぇ……本当にぃ、申し訳ぇ、ありません~」
謝罪の言葉を述べて頭を下げる。一応本人は真面目に謝ってるつもり……なんだろうな。あまり必死さは伝わってこないが。
「……スロウ、そうかあの――ふん、まぁいい。とにかくさっさと中に入れ、覚えることは山程あるのだからな」
「あ、はいぃ、ではぁ、仕事に入らせてぇ、頂きますぅ~」
そしてスロウはギルドの中に入っていった。それを見届けて、私もその場を離れようとするが。
「何だもう行くのか? うちの者が世話になったんだ。なんならお茶ぐらいだしてもいいのだぞ?」
「……結構だ。私も忙しいのでな」
「忙しいか。見た目は子どもの割に、しっかりしているようだな。しかし、うちの受付嬢と知りあいとはな」
「言っておくが知りあいというほどではないぞ。迷っていたから連れてきただけだ。勘違いするなよ」
「……ふむ、まぁそういうことにしておいてやろう。まぁ、お前たちとは知らない仲ではない。今後のさらなる発展を祈らせてもらおう」
全く心にもないことを。あまり長居もしたくないのでそのままさっさと離れたが、しかし、あの女も今後余計なトラブルに巻き込まれないといいがな。
どちらにしても私には関係ないが。しかし、冒険者ギルドで受付嬢ね……アレクトやブラはうちに入る新人と思ったようだが、正直言えばうちでは使い物にならないだろうな。
それは言動面もあるが、仕事に対する姿勢が問題だ。冒険者ギルドは気に入らない組織だが、それと仕事は別だからな。
流石に初日からここまでの遅刻はありえないだろう。迷っていて遅刻したなどいいわけに……。
「坊やちょっといいかい?」
「うん?」
考え事をしながら歩いていたら横から声を掛けられた。また妙な男か? と思ったがよく考えたらスロウはもういないしな。
なので振り向いてみたら、そこには白髪を後ろで丸めて纏めた老婆が杖をついて立っていた。
「お婆さん、私に何か?」
「あれま、子どもの割にしっかりした喋り方だね」
驚かれた。そこか……もういい加減子ども扱いにもなれたがな。
「あぁ、それでね。坊や、さっき一緒に歩いていた女の子の知りあいかい?」
「女の子……あ、スロウのことかな?」
「あぁ、それがねぇ、うっかり名前を聞き忘れてしまって」
「凄くマイペースで、やたらと間延びした喋り方をする騙されやすくて、この子この先1人で生きていけるのか? と思わず考えてしまう女のことか?」
「その子だよ!」
やっぱりスロウのことだったか……しかし、だとしてこの老婆に何をしたんだ? 何か怒らすようなことをしたのか?
「いやぁ、実は私が道に迷っていたら声を掛けてくれてね」
……あいつが、迷っている相手に声を掛けたのか?
「……それで、無事にたどり着けたのですか?」
「はっは、いやそれが全然でねぇ。あっちへウロウロこっちへウロウロと、どうやら本当ならわりとすぐ近くだったらしいんだけど、やたらと遠回りしてしまったようでね」
「それは……大変でしたね」
「いやいや、別にそれはいいのさ。確かに結局彼女も迷ってしまったけど、私を気遣って背負ってくれたり一生懸命だったしね。ただ、彼女も今日から仕事なんですよぉなんて世間話がてら話してたんだけど、なんでも日が出る前から家を出ていたらしくてねぇ結局かなり時間をとらせてしまったから間に合ったか心配でねぇ。それにちゃんとしたお礼もまだだったし」
……なるほどそういうことか。
「大丈夫ですよ。彼女は私とギルドに向かいましたし、問題はないです」
「そうかい? なら良かった。それなら、もし今度出会ったら私がお礼を言っていたと伝えておくれよ。それとあの子は怪我とか心配だからね、私はロートの薬店にいるから、いつでも顔だしてと伝えておいてもらえると嬉しいねぇ。それじゃあ」
「……そうですね。今度いつ会えるかはわかりませんが、て、え? ロート?」
「うん? なんだいうちの亭主を知っているのかい?」
亭主……つまりこの老婆があの薬師の爺さんの奥さんってわけか。
なので私が説明すると。
「驚いたね。坊やが噂の魔導具師さんだったなんてねぇ。世間は狭いね本当。でも、それならなおさら丁度良かったよ。それならよろしくおねがいしますね」
そして老婆、ロートの奥さんは去っていった。確かに世の中狭いな。
それにしてもあの女……ただの無責任ってわけではなかったってことか――
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