第七十一話 姐御

「あぅうううぅう! こんなのもう無理です~~~~!」

「落ち着け。いいじゃないか、これまで暇だったのにこんなにも依頼が殺到しているんだぞ。こういうのは稼げる時に稼ぐんだ」


 と、言っては見るがアレクトもわりと限界に近いか。今来てる依頼は量産ではなく、それぞれ別々の目的で来てるものだ。商業ギルドの許可を得られないと販売に踏み切れないからな。


 とは言え、これだけ依頼が多いならそろそろギルドに行ってもいいと思うが、なにぶん忙しない。

 

 この上で、ブランド化になり販売用の魔導具も作っていくとなるとより忙しくなるのは明白だな。


 そのあたりも含めて考えないと、とりあえずメイにはアレクトが好きそうな甘いお菓子でも作ってもらい気持ちを落ち着かせておこう。


 あいつの利点は単純なところだ。今はパニクっているが紅茶とお菓子で一息つけば大分落ち着く。


 さて、私は私でもう出なければいけない。この間ハザンに協力してもらい素材を集め、更にこの依頼に役立つ魔導具も出来たからな。


「私は現場に行ってくる。メイ、頼んだぞ」

「はい、行ってらっしゃいませご主人さま」

 

 そして私はギルドを出て約束の場所に向かった。見ると空き地に、布を捻って額に巻きつけた屈強な男どもが集まっている。


 だが、そんな男たちの中で1人だけ女性の姿があったわけだが。とは言えやはりこういう場所にいるだけあってかなり逞しい。女性にしては肩幅も広く日焼けした肌が眩しい。


 そんな唯一の女性が私を振り返り、のっしのっしと歩いてきた。タンクトップのシャツにダボッとしたズボンといった出で立ち。

 

 美形だが、静観な面構えであり、姐御肌な印象を受ける。とはいえ、女性らしい部分もそれはそれで目立つと言うか、タンクトップから零れ落ちそうな大きな双丘は少々目に毒だ。


 とは言え、依頼のあった大事なお客様だからな。

まずは挨拶でも。


「おい! ここはわっぱがままごとする場所じゃねぇんだよ! これからこっちも忙しいんだ! とっとと帰ぇんな!」

「……はい?」

「たくよぉ、おいヤス! お前もしっかり見張っとけ! それとなんだか、まのぬけただがあんぽんたんだがいうギルドの手ってのはどうなってんだい!」

「姐御、魔導ギルドでさぁ」

「あぁ、それだそれ。約束は今日じゃないのかい!」

「8時の鐘のなる頃だからもうすぐっすねぇ」

「……ちょっといいか?」

「鐘の音って、んなの鳴る前から来るのが常識だろ! 現場舐めてるのかい!」

「おい、聞いてるのか?」

「あん、なんだあんたまだ居たのかい! 子どもの遊び場じゃねぇって言ってんだろが! さっさと出ていかないとその尻蹴っ飛ばすよ!」


 な、なんて女だ。見た目男勝りだなとは思ったが、男よりずっと言動が荒々しい。


「別に遊びに来たのではないぞ。お主たちは筋骨建団なのだろう?」

「そうだけど、子どもに知ってもらってもね」

「だから私は……とにかく私は魔導ギルドからきたのだ。依頼されたからな。今も話していただろう?」

「何! じゃあ何かい、あんたがかい? は、ははは! なるほどそうかいそうかい」


 ふむ、見た目通り豪快な笑い方だが、わかってくれたのだろうか?


「おいヤス! ちょっと来な」

「へ、へい!」


 姐御と呼ばれてる女が男を呼びつけた。長い顔の男だが、妙にビクビクしている気がする。


「この、馬鹿野郎!」

「ぎゃふん!」


 そして、男の後頭部を思いっきり金槌で殴りつけた。な、なんて粗暴な女なんだ。


「お前! あたいを舐めてんのかい! こんなわっぱを呼んで一体何の役に立つってのさ!」

「ひ、ひぃ、で、でも、木こりのキッコリから頼りになるって!」

 

 あぁ、依頼を持ち込んだのはこのヤスだったのか。あのキッコリから聞いて依頼に来たという話だったのだがな。


「キッコリに? あの旦那がそんないい加減なことを言うとは思わないんだけどねぇ。あんた! 大工の経験はあるのかい!」

「そんなものはない」

「やっぱり役立たずじゃないかい!」

「ひ、ひぃ!」


 ヤスが首を絞められて呻き声を上げている。このまま放っておいたら息の根止まりそうだな。


「勘違いしてもらっては困る。私は確かに大工の経験などないが、そもそも今回の依頼は別に私が自ら手助けするというものではない」

「は? 何言ってるんだい? うちは使える手が欲しいんだよ。最近調子にのって単価を吊り上げてばかりの冒険者ギルドより役立つと聞いたからお願いしたつもりなんだけどね」

「それは間違いがないが、ところでお主が棟梁なのか?」

「あぁそうさ。何だい? 女が棟梁じゃ不満かい?」


 ふんっと鼻を鳴らし後ろで纏めた髪を掻き上げた。本当に勝ち気そうな女だ。


「私はそんなことは気にしない。ただ確認しただけだ。ならこのまま話を続けさせてもらうが、とりあえずこの場所に新しく建築するということでいいんだな?」

「あぁそうさ。材料もこの通り用意しているけど、あんたじゃこの石を運ぶのも無理だろう?」


 石ねぇ。確かに空いた土地の角に石が積み重なっている。これは建材のつもりか?

 一応はコンクリート製のようだが、予め作っておいた石材をただ積み上げていくだけのやり方なようだ。どこの原始人だ。


「それを使うつもりならなしだ。そんなものを使っていたら出来損ないの建物が無駄に増えるだけだ」

「な、なんだって! あんた! あたいたちのやり方にイチャモンつける気かい!」

「あぁつけさせてもらおう。依頼は少しでも良い建物が出来るようにすることだからな。まぁだが安心しろ初回サービスだ。できるだけ費用も頑張らせてもらうさ」


 私の回答に女棟梁は満足していないようだ。腕を組みムスッとした顔で私を見下ろしている。


「あんた、そこまで言うからにはあたいたちが満足行くような何かを用意しているんだろうね」

「勿論だ。先ずは建材の見直しからだ。まぁその石ころも廃棄するのは大変だろう。後で再利用の手助けをしてやる」

「言うじゃないか。なら一体何をするってんだい?」

「先ずはこれだ」


 私は腕輪から一通りの道具と材料を出してその場におく。


「なんだこれは?」

「これから全く新しいコンクリートを作ってもらう。そのための材料だ」

「これがかい?」


 並べたのはスケルトンの骨を加工した粉。それにゴーレムの石を細かく砕いたもの。すりつぶした魔草を混ぜた水だ。


「それとそこにある石材は全て砕くぞ」

「おいおい、砕くって、そんなの簡単に言ってるんじゃねぇぞ」

「これだけの石を砕くのにどれだけかかると思ってんだ?」

「それなら問題ない。これから作るコンクリートに関してはただの技術の提供だが、こっちもそれだけでは商売にならないからな。だからこういったものも用意した」


 そして腕輪から彼らの目の前に新たな魔導具を並べていくが。


「「「「「「な、なんだこりゃーーーー!」」」」」」


 職人たちが一斉に驚き、女棟梁も目を丸くさせている。


「お、おいおい! これは一体なんなんだい!」

「ふむ、よくぞ聞いてくれた。これこそが建築用騎乗ゴーレムの――ブリギッドだ!」

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