第三十話 ギルドの査定
「た、大変です! アロイの森にいたはずの大量のプラントドッグが、ま、全くいなくなってます!」
「朝調査にいきましたが、まるで消えたようにって、なんじゃこりゃーーーーーー!」
ギルドのドアが勢いよく開かれた。かと思えば、森に調査に向かっていた連中が飛び込んできてそんな事を抜かしてきた。
更にその内の一人が山になったプラントドッグの山を見て驚きの声を上げた。当然だ、これだけの量を見ればそうもなる。
だが、これが結果的にこのエドソンというガキの言っていることが正しいことを証明してしまった。
私の目の前では小生意気なガキが得意顔でこっちをみていた。イラつく!
だが、これは仕方ないか。だけどな……。
「……どうやったかはしらないが、それは本当に森で倒してきたようだな。だがお前らは冒険者ではない。討伐したからと報酬は支払えんぞ?」
「そんなもの最初から期待してないさ」
「そうか。ならその遺体はこちらで処理しよう。おいお前たちこれをすぐに――」
「は? 何を言っているのだ貴様は。渡すわけがないだろう」
なん、だと? 私はこのガキを改めて見やるが、その時には既にプラントドッグの山もウドルフの遺体もなくなっていた。
「馬鹿な! 貴様、今のをどうした!」
「全部片付けたさ。倒したことは証明されたんだ問題ないだろう? それにこれは本来の仕事じゃない」
本来の仕事ではないから素材になる遺体を渡さないだと? くそ! なんてやつだ!
「ご主人様。それはつまりついでに狩ったアーマードボアやネイチャーディア、レイジーラビットの素材も渡さないということになりますか?」
「当然だな」
「な、なんだと!」
どれも高値で取引されている素材持ちの魔物じゃないか! それを持っているというのか! しかも出す気がないだと? ふざけやがって!
そもそもこいつ、一体あれだけの遺体をどこにしまった。そうだ、大体からしてアレをあれだけ出せたのがおかしいのだ!
「答えろ。あの遺体を貴様はどうやって出し入れしている?」
「何故それを答える必要がある?」
「義務だ! ギルドに所属するものならば、ギルドからの質問には答える必要がある!」
「ならばますます関係ないな。そもそも私たちは冒険者ではない」
くっ! 確かにそのとおりだ。こいつらはそもそも魔導ギルド所属、確かに言うことを聞く必要がないが……。
「忘れたのか? 貴様らは我々のギルドが仕事をくれてやっているからこれまでもやってこられているのだぞ? 何も言わないと抜かすなら、いつ仕事を取りやめて借金を支払ってもらってもいいんだぞ?」
「ふん、借金ね。だが、それを支払うべきは果たしてうちなのかな?」
何? なんだ、何を言っているんだこいつは?
「とにかく、今後どうするつもりか知らんが、今回はしっかり依頼として請けたんだ。採取したアロイ草は見てもらうぞ」
……とことん食えないガキだ。こんなちびっこい癖に、妙に頭が回る。
しかし、アロイ草か、そうだな。先ずはそれを確認してそこから責めていけばいいか。どうせ何を持ってこようとまともに受け付ける気はないからな。
「判った。そこまで言うなら見てやろう。だが前みたいに殆ど駄目になっているみたいなことは勘弁してくれよ?」
「お前らの目利きが確からならそんな心配は無用だ」
とことん口の減らないガキだ。
「それで、ここに出せばいいのか?」
「あぁ……いや、待て念の為こっちへ来い」
まさかと思うが、また馬鹿みたいな量を出されても面倒だからな。
素材の解体と保管を目的とした倉庫へ連れて行く。
「ここでいいんだな?」
「あぁ、出してみろ」
私がこいつを促すと、早速目の前にアロイ草の山が出来上がった。一体なんなんだこいつは……。
「これ、一体どれだけ採ってきたんだ……」
「ざっと2万束ってところだな」
「2万……」
こいつ、限度ってものを知らんのか……大体それを一体1日でどうやったんだ!
だが、これは逆にしめたものと言えるか。当然このアロイ草を真面目に審査する気はない。今回はそうだな、まともなのは20束だったとでもしておくか。
そうなれば足りない分の80束と残り19980束がペナルティーの対象となる。金貨にして200枚以上の借金を負わせることが出来るのだ!
「判った。これからチェックするから受付で待っているんだな」
「ここで見ていていいか?」
「駄目だ! 素材のチェックはギルド職員のみでやると決められている。数が多いから運ぶのは手伝ってもらったがここから先は我々の領分だ!」
そこは断固否定させてもらった。もしかしたらこの段階で文句を言ってくる可能性もあるが、倉庫に入れた時点で納品扱いだ。それで文句を言ってきたら仕事に支障をきたされたことを理由にペナルティーを与えることが出来る。
「……判った。なら待ってやろう。だが、この量でそんなすぐに終わるのか?」
「あぁ、そこまで待たせはしないさ」
無表情ではあったが、一応は納得して引き上げていった。随分とあっさりだな。ま、ここでゴネても意味がないことぐらいは生意気なガキでも判ったか。
「うわ、これ凄い量じゃないですか。この調べるだけで2、3日掛かっちゃいますよ?」
「問題ない。これは後回しで結構だ」
「え? いいんですか? それなら助かります」
「あぁ、急いでないからな」
魔導ギルドの連中が離れた後、このアロイ草に気がついた査定人がやってきた。だが、いますぐ調べる必要もない。前みたいに500束程度なら調べてからでも問題ないがこの量だからな。
どうせ結果は変わらないのだから、1時間ぐらいしたら戻るとしよう。査定人にも別な査定に移ってもらったしな。
「査定が終わったぞ」
「随分と早いな」
「うちの査定士は優秀だからな」
適当に時間を潰した後、カウンターに戻って奴らを呼んだ。そして早いのは当然だ。ロクに調べてもいないのだからな。
さてと。
「それで結果だが、こちらで調べた結果……持ち込まれた20000束の内、素材として認められたのは20束だけだ」
「えぇえええぇええ!?」
ふん、アレクトの奴が随分と驚いているな。はは、いつもながら期待から落胆に変わる瞬間が面白くてたまらん。
「判ってると思うが今回の依頼は最低100束の採取だ。それに満たない以上、依頼は失敗。つまりペナルティーが課せられる。先ず足りない分の80束分、それに余計な19980束を調べた手間賃合わせて銀貨20060枚分だが、まぁ私も鬼じゃない。端数は切り捨てて銀貨2万、金貨にして200枚分で勘弁してやろう」
いかんいかん、そんなことを語りながらも口角が吊り上がりそうになる。全く、折角張り切ったというのに逆に仇となるのだから馬鹿な連中だ。
「さて、前回の分と合わせてこれで随分と借金が増えたわけだが、お前たちはこの責任をどう取るつもりだ?」
「何が悪かったと言うんだ?」
「は? そんなもの決まってるだろ。大体今だってそうだ! 貴様のふてぶてしい態度はなんだ! いいか? お前たちはまさに今我々のギルドに借金を!」
「馬鹿が、そんな事を聞いているのではない。私が言っているのは、我々が採取してきたアロイ草の何が悪かったのかということだ」
……チッ、面倒なことを持ち出すガキだ。
「そんなもの全部に決まってるだろう」
「全部だと?」
「そうだ。お前らみたいな初心者にはよくあることだ。きっと無造作に乱暴に適当に毟ったのだろう。だから根本から駄目になり葉もぐちゃぐちゃで誰が見てもひと目で判るほど状態が酷かった。あれで20束でも無事なのがあったのが不思議なぐらいだよ!」
「そんな筈はない。私たちはしっかりと採取した」
「ふん、お前たちが何を言おうと目利きのプロがそう判断したのだ。大体口でならなんとでも言える。全くこれだから魔導ギルドの連中は、腕がない癖に口だけは達者ときた。大体実力もないのに量だけ採ろうとするからこんなことになるのだ! 言っておくが私は温情で端数を切ったが、あれだけの量を駄目にした以上、別な責任に問われる可能性は十分にあるのだぞ! 今なら私が内々で済ませてやってもいいがこれ以上ごねるというならどうなっても知らないからな!」
ふぅ、これだけ脅しておけばもう文句の言いようもないだろう。そもそもギルドに納品した時点でこいつらには調べようがないからな。
「なるほど、ところで改めて聞くが私たちの持ってきたアロイ草は誰が見てもひと目で判るぐらい状態が酷かったと、そう言うのだな?」
「くどい! 何度も同じことを言わせるな!」
「そうか、ふむ、だそうだがどう思われますかなロート氏?」
は? ロート?
「ふん、全くとんでもない話だな。おいお前! 今の判定一体どういうつもりで出した!」
「え? え? え? えええぇええぇえええぇえええ!」
思わず我を忘れて大声を上げていた。なぜならカウンターに、そう今の今まで3人しかいなかった筈のカウンターの前に、いつの間にか4人目の人物が姿をみせていたのだ。
しかもこの老人、私の記憶が正しければ……。
「何故、何故薬師のロートがこんなところにいるのだ!」
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