第二十六話 アロイ草の採取
さて徒歩で行ける距離だし、魔導車に頼らず歩きで森までやってきたわけだが。
「……お前、体力ないなぁ」
「わ、私、基本あまり外を出歩かないタイプなのでぇ」
アレクトは杖をまさに杖にして既に息も絶え絶えでフラフラだ。30分歩いただけだぞ?
「魔導ギルドの所属者には体力がないことも多いようですからね」
「そうは言ってもな。大体お前、これまでもギルドの仕事を請け負って採取にきていたんだろ? そんな体力で良く魔草が抜けたな」
「は、はい。魔法は植物を操れるのが少し出来るので、それで……」
なるほど。魔草を採るのは魔法でやったわけか。しかしそうなるとなおさら解せんが。魔法で採取した魔草に問題があるとは思えん。
「とにかく、アロイ草を見つけてしまえば採取は私がやります。今回は群生地を教えてもらいましたし……」
「何だお前は。まさかあんな話を真に受けていたのか?」
「ふぇ?」
「アレクト様。あの男は契約書でもあのような偽装工作を施した相手です。群生地など親切心で教えるわけがないと考えるのが普通かと」
「えええぇ! 私を思ってのことではなかったのですか?」
「お前の頭はとことんおめでたいな」
「むぅ、さっきからお前お前って失礼です! 私の方が年上なのですから!」
メッ、と子どもをしつけるように言われてしまった。くっ、私のほうが実際は1000歳は上だと言うのに。
「ならアレクトだな。わかったわかった」
「呼び捨て!」
「とにかく、その群生地は一旦置いておいて、あのギルドに一泡吹かせるためにも効率よく採取しないとな」
「効率よくですかぁ。でもこの森は他の冒険者もアロイ草採取に良く来るので、見つけるのは結構大変ですよ」
「それでも500束は手に入れたんだろ?」
「はい、あの時は運がよくてぇ」
運ね。まぁそれでもこの女で500束も見つけられたなら、私ならその10倍、いや100倍は余裕だろうな。まぁ実際はそこまであるかという問題もあるが。
「とにかく先ずはアロイ草の場所を確定させるぞ」
「はい。ではとりあえず、どこから。あ、でもエドソンくんはお姉さんから離れたら駄目ですよ。危険だからね」
「だから子ども扱いするな! たく。それと動く必要はない。この場ですぐにわかる」
「ふぇ? どういうことですか?」
「こういうことだ」
私はポータブルMFMを起動させた。半透明の画面が頭上に現れやたらとアレクトが驚いていた。この程度のことで何を大げさな。
「こ、これは一体なんですか?」
「魔導具だよ。これで周囲の地図を表示したんだ」
「しゅ、周囲の地図を!? な、なんですかそれぇ。私、こんな魔導具知りません。一体どこで手に入れたのですか? もしかしてダンジョンから手に入れたアーティファクトですか?」
「ばかいうな。あんなアーティファクトなどという低レベルな道具と一緒にするな」
「て、低レベル? アーティファクトが?」
アレクトが目をパチクリさせた。信じられないものを見るように私を見下ろしている。
何かおかしなことを言ったか? アーティファクトというのは冒険者が趣味で潜るダンジョンで時折手に入る過去の遺物だが、その殆どが古代人の作成した魔導具だ。まぁ冒険者の中には魔法の力が込められた武器なんかを見つけて得意がるのもいたが、そのどれもが実用性に欠ける骨董品程度の性能しか有していない。
趣味で集めるならわからんでもないが、あんなものを魔導具として利用するものなどいやしないだろう。ましてやそんなものとこれを一緒にされるのは心外でしかない。
「これは私が作ったものだ。どうやらこのあたりではまだ普及してないようだが都会にいけば当たり前に溢れてる程度の代物だぞ」
「ふぇ、そ、そうなんですか。私も行ったことがないですが、都会って凄いんですねぇ……」
まぁ私もまだ行ったことはないのだがな。きっとそうに違いない。
「さて、それじゃあ頼む、アロイ草の生えてる場所を表示してくれ」
『承知いたしました。魔導データーベースから検索致します』
「しゃ、シャベッターーーー!」
いちいちうるさい女だな。
「全く少しは落ち着け。音声案内ぐらい普通だろうが」
「そんな普通知らないですぅ……」
「ご主人様。そもそもこの魔導具が浸透していないわけですから」
むぅ、そう言われてみればそうか。全くいちいち説明するのは面倒なんだがな。
「とにかくこれがあれば、周囲の地形を把握し、アロイ草の生えてる場所はすぐにわかるってことだ」
「何か便利すぎて怖いです……」
何を言うか。便利なことの何が悪い。大体この手の魔導具がしっかり普及すれば魔草採取の危険も減る。魔物の居場所も判るからな。その分魔物の被害だって減るのだ。
「さて、検索完了したようだぞ」
「これで判るの?」
「あぁ、◎で表示されてるのが全てアロイ草だ。ふむ、やはりアロイ草を採取に来ている冒険者はそれなりに多いのだな」
「そんなことも判るのですかぁ?」
「判る。◎に群がるように表示されてる白い点は知的生物だからな。この場合は人、冒険者とみて良いだろう。なんなら大体の強さも判るぞ?」
「……何かすごすぎて頭がついていかないですぅ」
「いや、そんな目をうるうるさせて訴えられても……」
全く、特に難しいことも言っていないだろうに。
「それではご主人様、このアロイ草を早速私が採取してきますか?」
「いや、こんなのを我々だけでいちいち採りに行っても時間の無駄なだけだ」
「え? でも魔草は勝手に歩いてはこないよ?」
そんな可愛そうな物を見るような目で見るな! たく、とにかく私は腕輪から今回みたいな時に役立つ魔導具を取り出す。
「今回はこれを使う」
「……今、どこから出したのですか?」
「この腕輪だ。無限収納リングだよ」
「む、げん? え? え?」
「あぁもう、それはいい! とにかく腕輪の中に色々入ってるんだよ。そしてこれが私が作成した小型魔導人形の
「へぇ~可愛い! やっぱりお子様ですね。うふふ人形遊びなんて」
「遊びじゃない! この人形たちに魔草を採取させるんだよ!」
「うふふ、何か初めてエドソンくんが子どもっぽく思えました。でもこれはお仕事ですよ。おままごとをしている場合ではありません」
人差し指を立ててまるで子どもを相手するように振る舞うその姿にイラッと来るぞ。
「とにかく、いいからそこで見ていろ」
私は腕輪から次々と魔導具の人形を取り出していった。
「もう遊んでる場合じゃないのにぃ、仕方ないですね少しだけですよ? 一つ借りますね」
「いいから触るな!」
「ひぃ!」
私がどなるとアレクトがビクッと跳ねた。全く余計なことをするなと。
「ふぇ~ん、メイさんのご主人様お子ちゃまなのに怖いです」
「ご主人様はあれでわりとエスっ気がありますからね」
「子どもなのにそれは少し将来が心配になりますね。しっかり育てないといけません」
「黙れ」
こいつはいつまで私を子ども扱いする気だ。というかメイはメイでなんだそのエスっ気って! そんな風に認識されてたの!
「はぁ、とにかくお前たち整列だ!」
私が命じると腕輪から取り出した人形たちが私の前で列を組んだ。
「よし! 番号!」
「1!」「2!」「3!」「4!」「5!」
「よし、省略!」
「「「「「「「「「「50!」」」」」」」」」」
うん、全部で50体だ。それを一つ一つ聞いてもいられないからもういい。
「しゃべるんですかこの人形……す、凄いです!」
「だから魔導具だと言ってるだろう。いいか、これは簡単にいえば小型のゴーレムみたいなものだ判るな?」
「ゴーレム、確かにそう言われてみると……でもゴーレムってもっと泥人形みたいなイメージです」
それは昔ながらのゴーレムだな。単純な命令しか聞けない上、素材そのままといった無骨な出来のゴーレムだ。今となったら欠点だらけで使い道を探すほうが難しい。
「この魔導人形は文字通り7つの型に変身して活動できる。全て語るのは割愛するが、今回はとりあえず探索者モードだ」
私が命じると人形たちが探索者らしい姿に変身した。このモードだと指定したものを探索したり採取したりが楽になる。
他にも戦闘用の戦士モードや魔法が得意な賢者モードなどがあるが、これらのモードは必要に応じて臨機応変に変化出来るのも特徴だ。
「よし、手分けしてこの地図に表示されてるアロイ草を採ってくること。ただし西のこの辺りは行く必要はない。あとは他の冒険者とはかぶらないように、魔物に出くわしたらその都度対処し素材は剥ぎ取って持ち帰ってくれ」
「「「「「「「「「「ラジャー!」」」」」」」」」」
よし、これでアロイ草についてほぼ問題なしだろう。
「あの、どうしてここだけ省いたのですかぁ?」
アレクトが不可解そうに聞いてきた。私が地図から探索させなかったところだな。
「忘れたか? そこはあのギルド職員が教えてくれた群生地だ」
「あ! そういえば。それで、行かせなかったのですね」
「そうだ。そして、そこにはこれから私たちでいくのだ」
「ふぇ? い、いくのですか?」
「そうだ。こうやって折角教えてくれたのだし。どんな罠を仕掛けてくれたのか、敢えて乗ってやろうじゃないか――」
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