第二十二話 エドソンVSハザン

「何故今の話から戦うという結論にいたるのかわっぱりわからんぞ」

「こいつらはお前らから金品を奪われたと言っている、そっちはそっちで先に手を出してきたのはこいつらだと言っている。意見が分かれたなら後は力と力で決着をつけるほかないだろう」

「何だその結論。どれだけ脳筋なんだ」


 正直呆れて物も言えん。全く付き合ってられんな。


「いくぞメイ。こんな連中と話していても時間の無駄だ」

「はいご主人――」


 だが、途中まで言いかけたメイが弾かれたように振り返る。私もすぐに体を後方へ向けたが、メイはハザンが振り下ろした大剣片手一本で受け止めていた。


「――一体、どういうつもりでしょうか?」

「何、あいつらの言っていることが本当か知りたかったんだが……まさか片手で止めるとはな。確かにかなりの腕だ」


 そしてハザンが後方に飛んで刃を地面に触れるぐらいまで落とした。


「お前、今のは洒落になってないぞ……」

「おっと少しはやる気になったか? ただの生意気なガキならそれで済まそうと思ったが、しかしメイドが本当に強いとはな。驚きだ」

「ご主人様を狙ってたのですよ、絶対許せません」


 確かにメイは私を庇う形で攻撃を受け止めていたが、メイでなければ剣は私に向けて振り下ろされていただろう。


 尤もだとしてもあの程度じゃ私の服を解れさせることすら出来んだろうがな。


「メイ、正直に言ってくれ。あいつは私を殺そうとしたのか?」

「……いいえご主人様。その点だけは、ギリギリで止める程度の力ではありました。ですが万が一ということは十分有り得る話です」


 やっぱりな。ハザンは馬鹿っぽいし明らかな脳筋だが、狂人ではなさそうだし。


「へぇ、そこまで判るのか、大したもんだ。だが、エドソンだったか? お前はどうなんだ? 俺に随分と好き勝手な事を言っていたが、お強いメイドさんに守られてるだけの弱虫の泣き虫ちゃんなのかな?」

 

 安い挑発だ。こんなものに乗る必要もない。ただ、冒険者ギルドには色々と思うところがあるのも確かだ。

 

 全く、嫌になるが、自信に満ちた傲慢な鼻の一本や二本へし折ってやるのも悪くないか。


「判った。私が相手しよう」

「ご主人様、宜しいのですか?」

「大丈夫だ。メイは見ていてくれ」


 私はメイを下がらせ、このハザンという男と対峙した。


「先に言っておくが私は魔導具を使うぞ。それが私の戦い方だからな」

「構わないさ。俺だって武器を使うんだ」


 大剣を構え直す。斜めに振り上げた状態で一見すると胴体がガラ空きだな。尤も誘いなんだろうが。


 だとして、あまり意味はないか。なぜなら私のベルトには仕掛けがある。


「いくぞ!」

「むっ!?」

「な、早い!」


 取り巻きの驚く声が耳に届く。ハザンも面を喰らっているかもしれない。何せ既に私はこの男の背中を取っている。


 手には電撃棒スタンロッド。この電撃で意識を奪う。


「ぐ、グオオオォオオオォオオオオ!」

「兄貴ーーーー!」


 棒から伸びた電撃がハザンを蹂躙する。これで勝ちは――。


「む、うぉおおぉおお!」


 だが、この男、かなりのタフガイだった。電撃を受けながら腰を回転させ、大きく踏み込み、私との距離を詰めて大剣を振ってきた。


 まさかそうくるとはな。私はすぐにベルトに手をかけ、別の場所に移動した。


「あぁ! また消えて別の場所へ!」

「はぁ、はぁ、くそが!」


 肩で息をし、ハザンが叫んだ。ふぅ、しかしまだこれだけ声が出るとは、これは電撃棒じゃ厳しいかも知れない。


「……お前、魔導具といいながら、随分ととんでもない魔法使ってくれるじゃないか」


 ハザンが私に体を向け、そんなことを言ってくる。しかし、それはあまりに的外れな話だ。


「私は魔法なんて使ってないぞ」

「ふん、別にごまかす必要がないだろう。全く転移魔法をここまで高速でとはな」


 やれやれ、またえらく見当違いな話をしている。


「違う、今のは魔導具だ。瞬間移動テレポートベルトといって、ベルトに触れて念じれば、指定した場所までの空間を折り曲げ、瞬間的に移動出来る。そういう魔導具だ」

「空間を、曲げ? なんだそれは? そんな魔導具聞いたことないぞ?」


 やれやれ、次元に干渉出来る魔導具も伝わってないのか。やはり複雑な魔導具は大きな都市でないと広まってないようだな。


「いいさ。とにかく、武器はこれに変えさせてもらう」


 腕輪から私は新しい魔導具を取り出した。そしてベルトにホルスターを固定させる。


「……なんだその、杖の出来損ないみたいのは?」

「これはリボルバー回転式魔銃だ」


 外ではマイフルを使っていた私だが、あれは大きさ的にこのような町中で扱うには不向きだ。取り回しを考えるとある程度広いスペースがあるのが理想であるし最も効果的なダメージを与えるなら相手と距離がそれなりに離れていることが前提となる。


 つまり相手との距離が近い場合は扱いにくい。それの解消法がまったくないわけでもないが、とにかくそのような欠点を解消するために作成したのがこのリボルバーだ。


 この武器はマイフルに比べると小型で片手でも十分扱うことが出来る。しかし小型でもしっかり銃口にマイフリング処理は施されているし、マイフルよりは小さいサイズだが魔弾も扱える。


 小さい分マイフルより多少威力は落ちるし射程距離に関してはかなり短くなるが、とにかく扱いやすい。弾丸は回転式の弾倉に込められており最大装弾数は6発だ。


「……なるほどな。だがそんな玩具にやられる俺じゃないぞ?」


 む、玩具だと?


「ほぅ、どうやらお前もとんだ食わせ物だったようだな」

「は? 何がだ?」

 

 今更とぼけても無駄だ。全く瞬間移動ベルト程度で驚いて妙だと思ったが、知ってて敢えて言っていたんだな。このリボルバーを見て玩具と判断した。


 実際これはマイフルが使えない時の護身用に作成したものだが、判る人間が見れば玩具みたいなものだろう。


 つまりこのハザンという男はもっと強力で近代的な魔導具を知っているということになる。

 ということはやはり私が作成した物以上の魔導具も存在するということだろうな。


「それで、どこで見たのだ?」

「いや、言ってる意味がわからんのだが?」


 何だ今更とぼけるのか? 

 ふむ、やはり最新の技術に関しては色々と情報が制限されているのだろうか?

 

 しかし、そう考えればこの街の魔導技術が遅れているのもよくわかるというものだな。


「とにかく、準備が整ったなら再開だ!」

「何だ待っててくれたのか? 脳筋の癖に律儀だな」

「お前、性格悪いって言われるだろ?」

「一度も言われたことないが?」


 いい性格してると言われたことはあったかな。


「全く、とんでもないガキだな。だが、そんな玩具で俺を倒せると言うならやってみろ!」


 大した自信だ。全くもって試し打ちのしがいがある。魔物相手なら撃ったことがあるが、人相手には初めてだからな。


 向こうは私を殺そうなどと考えてはいないようだし、そこは調整するつもりだ。とりあえず先ずは様子見で弾はDK弾でいいだろう。


 これでもマイフリングの効果で形状変化程度なら可能だ。照準を合わせ、トリガーを引いた。

 

 発射された弾丸は一直線にハザンの胴体に吸い込まれていくことあろう。その際に弾頭が花のように開くよう調整されている。


 これにより衝撃は大きいが殺傷力は減る。ハザンほどの相手なら、この程度全く効かない可能性も高いが、どの程度の反応を示すかで次の手を決め――


「ぐぼぉおぉおぉお!」

「あ、兄貴いいぃぃぃいいいィ!」

「え?」


 弾丸が命中し、ハザンがくの字になって後方に吹っ飛んでいた。そのまま派手に地面を転がり、持っていた大剣も手放し、動きが止まった後はピクピクと痙攣していた。


「……ご主人様、少々やりすぎでは?」

「え~……」


 まさかの結果だよ! まさかマイフルより威力の低いこれで、ここまで見事にやられるなんて想定外だよ!

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