第十二話 チンピラあらわる
「全く腹の立つ!」
「そのお気持ち、よくわかります。それに、これで逆に良かったかも知れません」
「ん? 良かった? どういうことだメイ?」
「はい。先程話されていた魔導具は恐らくどれもこの街で売るには過ぎた代物です。あの場で現物を見せていたら、相当な騒ぎになっていたと思われます」
「……そうか? 無限収納リングなど、ちょっと腕の立つ魔導具師なら簡単に作れるだろう?」
「……ご主人様の基準は少々世間一般と齟齬があるようにも思えます。とりあえず少なくともこの街ではそういった類はお見せにならないほうが懸命ではないかと思われます」
そうなのか……まぁ人里については私よりもメイの方が詳しいからな。言われたとおりにしておいたほうがいいのかもしれない。
しかし、やはりあの冒険者ギルドというのは気に入らんな。昔からそうだが、受付嬢の態度といいどことなく傲慢さが感じられる。
「おい、お前らちょっと待てよ」
「ところでこれからどうしますか?」
「そうだな。勢いで出てきてしまったが、魔導具が売れないことには資金調達の宛が」
「てめぇら無視してんじゃねぇぞ!」
はぁ、何かギルドを出てから妙なのがついてきたとは思ったんだがな。
「全くうるさい連中だな。一体何のようだ?」
「は、お前なんかにようはねぇよ」
「そうか、ならいくぞメイ」
「はいご主人様」
「待て待て待て待てコラ!」
ようがないから先を急ごうと思ったのになんだこいつらは?
「俺らはそっちのエロそうなメイドにようがあんだよ!」
「へへ、姉ちゃんイケてるよな。俺ら一目見た瞬間気に入ったぜ」
なんだ、この低能を絵に描いたような頭の悪そうな連中は?
しかし、よく見るとこいつらはさっきギルドの一階で野次を飛ばして来た連中じゃないか。
なるほど、それでメイと一緒にいるのが見た目子どもの、自分で言うのも虚しいが、私だけと見て粉をかけてきたわけか。
全くどうしようもなく単純な連中だな。以前から冒険者には何か勘違いした連中が多かったが、300年経っても何も変わらないどころかより悪化しているように感じられる。
「ふん、とにかくガキは帰ってママのミルクでも吸ってるんだな。さぁ、一緒に来いよ」
……相手は眼鏡を掛けた軽そうな男、唇の分厚い人間にしてはデカい男、そして鶏のトサカのような小柄な男、合計3人か。
「メイは私の専属メイドなんだがな」
「あん? ふざけんなよ。ガキが生意気なんだよ。俺たちがおとなしくしているうちにそのメイドおいてさっさと消えな」
「そうだ。ぶっ飛ばされんうちにな」
「おいおい、ガキ相手に容赦ないなケケッ」
私のことを子どもとして見ているとして、それでこいつらは冒険者として恥ずかしくないのか?
いや、愚問だったか。全部が全部ではないが、冒険者には素行の悪いものや著しく常識が欠如した連中も昔から多かった。
「……お前たち、そんなにメイと遊びたいのか?」
「へぇ、メイって言うのか。いい名じゃん」
「ぜひとも色々楽しませてもらいたいねぇ」
「そうか。なら連れていけるものならやってみるといい。メイも適当に遊んでやれ」
「はい、ご主人様」
「はは、なんだ物分かりいいじゃん。なら、ほら、こんなガキほっておいて俺らといいとこいこう、いッ! いてててててェ! な、なな、何をぎゃぁあァ!」
メイの肩に腕を回そうとしたメガネの男は、そのままメイの手で引き倒され、関節を決められた。
あぁ、アレは痛いな。
「何してやがる! 女だからと下手に出てやってれば調子に乗りやがって!」
大柄な男がメイに掴みかかった。
「な!」
だがメイは川の流れのような流麗な動きで男の腕を受け流し、バランスを崩した男の足首を掴み、片手ずつ男ふたりを掴んだままブンブンと振り回した。うん、流石戦闘もこなせるメイドロイドだな。
「おい、なんだあれ?」
「メイドが大の男を2人まとめてぶん回してるぞ」
おっと通行人に流石に見られたか。ちょっと目立ってしまっているかもな。
「メイ、適当なところで止めてやれ」
「はいご主人様」
そのままメイが手を放し、放り投げられた男2人は地面に落下し気絶した。
「て、てめぇ、なんなんだこら!」
「あぁ、まだ1人いたか」
鶏冠頭がメイをにらみながら叫んだが、肩は震えてるな。
「もう止めておいたほうがいいぞ」
「ざ、ざけんな! おい女、それ以上動いてみろ! このガキをやるぞ!」
懐からナイフを取り出し、私に向けてきた。やれやれ、どうしようもない奴だ。
「ご主人様」
「あぁ大丈夫だ。こいつは私が何とかするよ」
「はぁ? てめぇ、このナイフが見えねぇのか!」
「見えてるよ。そうだな。そっちがナイフなら私はこれだ」
「……な、なめてんのかテメェ!」
私も懐から一本の棒を取り出した。伸縮可能な細い棒だ。長さは30cmぐらいまで伸びる。
「ガキがそんな弱そうな棒で何が出来るってんだ!」
これはこれで結構丈夫なんだがな。尤もこれで重要なのはそこじゃない。
「そのナイフは鉄製だよな?」
「あったりまえだろが! 切れ味抜群だぜ!」
「そう、それはご愁傷様」
「……何?」
私はその場で棒を振ってみた。キョトンとした顔で鶏冠頭が見ている。どうみても届かないのに何をしてるのか? と思ったのだろうが。
「え? ぎゃ、ギャァアァアアァアアァ!」
男の悲鳴がこだました。私の棒から伸びた電撃がナイフに命中し、そのまま感電したのだ。
「鉄は電撃をよく通すんだよ。知らなかったかな?」
「ご主人様、もう気絶しています」
む、そうか。しかし良く効いたな。これは
電撃は特に金属によく通るのも利点の一つだ。こういった連中は何かしら金属を身に着けているものだからな。尤も電撃を無効化する術式なんかもあるので油断は出来ないが、この程度の冒険者がそれを所持しているわけもない。
「さて、馬鹿は放置していくか」
「はい、ご主人様」
メイも加減したし、しばらくすれば目を覚ますだるう。尤もわりと多くの人に見られている以上、冒険者としての面子は丸つぶれだろうがな。
さて、ごろつき冒険者も排除したわけだが、うむ。
「……しかし、出てきてしまった以上、もうこの街で魔導具を売ることは不可能かな……」
正直言えば300年経っても変化が全く感じられない以上、さっさと別な街に移動するという手もある。都会にいけば私のまだ知らない画期的な魔導具が見られるかも知れないしな。
「その件ですが、実は一つあてがあります」
並んで歩きながら気持ちを吐露した私に、メイが告げてきた。300年自宅の研究室に引きこもっていた私だが、その間もメイは街にやってきて必要なものを買い揃えたりしたようだ。
尤もまとめ買いが基本な上、食材などは屋敷で自給しているので頻繁という程ではなかったようだがな。事実メイの知識も10年前のものだ。
とは言え、私より詳しいのは確かだし、メイの知識を頼るのは悪くないだろう。
「それでそのあてというのは?」
「はい。以前、ご主人様が余った材料で作られたと申されていた鞄の事を覚えておりますか?」
余った材料……そういえば数十年前に材料が勿体無いからと作成した
「そういえばそんなものもあったな。あぁ、思い出してきた。確かメイが何かに使うからと持ち出していたな。掃除にでも使ったのか?」
段々記憶がはっきりしてきた。確かメイが部屋にやってきてあれを探して持っていったんだったな。
「いえ、あの時私はせっかくなので街で売ってきますとお伝えしたのですが……」
「うん? そうだったか?」
そのあたりは記憶が曖昧だな。確か既に他の作業に入っていたから無意識で返事してしまったかも知れないが。
「しかしメイ。お前も無茶をしたものだな。あんなガラクタ、買い取ってくれるところなどないだろう?」
「いえ、それが売れたのです。追加注文まで頂いたのでそれも作成していただいた筈ですが……」
「え? そうなのか? しかし、あんなものが売れるのだな……」
正直あれを追加で作った覚えがあまりないが、頼まれて無意識で作成してしまったのかもな。あんなものちょっと腕の立つ魔導具師なら眠ったままでも作れる代物だが。
「そのマジックバッグであれば、以前街に来た時に登録を済ませていますので売却が可能です」
「そうなのか? しかしあんなものもう残ってないだろう?」
「いえ、あの時はとりあえず必要な分だけ売却したので後3つ在庫がございます。
そうだったのか……メイは本当自然とそういうことをしてくれているのが嬉しいね。本当に気が利く。
ならば、と私とメイは改めてその店にいくことにした――
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