第336話 全てはおっぱいの為に

「ヘンリーっ! ほらっ! 今も誰かとイチャイチャしてるじゃないっ!」

「はい? フローレンス様……一体何の事ですか?」

「何を話しているかまでは分からないけど、何となく雰囲気で分かるのよっ!」


 フローレンス様が、意味不明な事を言いつつ、纏う黒い魔力が更に大きくなる。

 そして、


「お兄さんっ!」


 突然背後からマーガレットに抱きつかれた。

 抱きついてくれるのは嬉しいが、こんな時じゃなくても……と思ったら、


「マーガレットっ!」


 マーガレットの下半身が、床から生えていた黒い顎に、食べられている。

 今までは、前から大きな球体が飛んでくるだけだったのに!


「ヒールっ!」

「大丈夫だよ。私は魔を滅する聖女だからね。闇に対して耐性があるから。だけど、神聖魔法で支援するのは難しいかも」

「分かった! 分かったから、マーガレットは何とか自身に治癒を……」


『ヘンリーさん! 彼女は多分大丈夫です。ただ動けないだけで、命に別状は無さそうです。それより、ヘンリーさんの方が危険です。あの攻撃を受けたら、おそらくヘンリーさんだと即死かと』


 アオイから指摘を受け、フローレンス 様に向き直ると、気合いを入れ直し、集中する。

 定かではないけれど、フローレンス様の中に魔王らしき何かがが居て、俺たちの仲間を攻撃してきている。

 アオイの言う通りだ。

 俺は何を躊躇っていたんだろう。

 今倒さなければ、俺の仲間たちが、俺の大切な女の子たちが、未だ見ぬ可愛い美少女たちが、命の危機に陥ってしまうんだっ!


「はっ!」


 聖剣を上段に構えると、フローレンス様に向かって走りだす。

 俺は、この数日で悟ったんだ。

 大きいおっぱいも、小さいおっぱいも、皆違って皆良い!

 この世界のおっぱいを守る為、俺は魔王を倒すっ!

 だが、


「聖剣が……弾かれたっ!?」


 黒い魔力の塊が、フローレンス様の前に壁のように立ち塞がり、斬りつけた俺の剣を弾く。

 これまで使っていた愛剣よりも、段違いの斬れ味だというのに。


『雑念が多過ぎるからですよっ!』

(雑念なんて、一つもないっ! 全身全霊をかけ、おっぱいの事だけを考えて剣を振るったのに)

『一切の雑念無しに、胸の事だけしか考えていないからですよっ!』


 その直後、黒い魔力を避け、回り込むようにしてフローレンス様へジェーンが近付き、


「主様の敵と認識しました。排除します」


 得意の連撃を放つ。

 しかし、


「剣がっ!? きゃあっ!」

「ジェーンっ!」


 俺と同じように、ジェーンも黒い壁に阻まれた。

 だが俺と違うのは、ジェーンの持つ剣が吸い込まれるようにして闇に飲み込まれ、ジェーン自身は大きく吹き飛ばされる。


「大丈夫です。それより、お借りしていた剣が……申し訳ありません」

「ジェーンが無事なら、剣なんてどうでも良い」

「……ヘンリーっ!」


 呼ばれて見てみれば、刃も柄も、全てを真っ黒に染めた剣――おそらくジェーンが持っていた剣をフローレンス様が手にしていた。

 そして、


「この期に及んで貴方は……バカーっ!」


 片手剣を両手で持つフローレンス様が、無茶苦茶な振り方で剣を振ると、黒い斬撃が飛んで来る!


「くっ! ……らぁぁぁっ!」


 聖剣で受け止め、弾き返そうとしたが、受け流すのがやっとだった。

 最初の勢いをそのままに、俺の横を飛んで行った斬撃は、床や壁を削りながら後ろへ飛んで行く。

 そんな重い一撃を、


「バカバカバカバカーっ!」


 狙いも定めず、乱発してきたっ!

 瞬間移動でジェーンの元へ行くと、抱きしめ、マーガレットの前に。

 ジェーンを床に座らせると、そこから全力で斬撃を受け流す。

 十を超えたところで数えるのを止めたが、俺の周囲はグチャグチャで、俺の後ろ――座り込むジェーンと、床に半身を埋め込んだマーガレットだけが無事だった。


「はぁ……はぁ……どうしてヘンリーは、その二人を守るのよっ!」

「俺の仲間だからだっ!」

「……じゃあ、私は……」

「だから、仲間を傷付けようとする者は許さない。それが例え、フローレンス様……いや、フロウでもっ!」


 そう言って剣を構えると、


「やっと……その名で呼んでくれたわね。ヘンリー」


 先程まで、ずっと怒っていたフローレンス様の表情が、突然穏やかになる。

 何だ? 一体何なんだっ!?

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