第284話 火酒の味見

「ここが最高の火酒の生産地らしい」

「余り栄えた街ではないんだね」


 レーヴェリーの街にはマーガレットと訪れているが、その時は魔物を憑依された人たちを治す事を優先していて、火酒については未だ情報収集出来ていない。

 なので、アタランテとヴィクトリーヌ、ラウラとユーリヤの五人で街の人に話を聞き、小さな酒蔵を教えてもらった。


「ここ……だよな?」

「えぇ。街の人たちが言うには、ここね」


 最高の火酒を作って売っているにしては、少し小さ過ぎるような気もするが……まぁとにかく入ってみるか。


「いらっしゃいませー!」


 酒蔵に隣接している酒屋に入ると、可愛らしい女の子が出迎えてくれる。

 ……俺と同じくらいの年齢に見えるんだが、やっぱり店を間違えているのか!?

 若干不安になりつつも、とりあえず聞いてみると、


「火酒ですか? 殆どを帝国軍に持っていかれてしまいまして……今あるのは、これだけなんですけど」


 あった。

 封のされた大きな瓶が二十ほど。

 いや、店員さんが火酒だと言っているだけで、中身が本物かどうか、本物だとしても旨いのかどうかが俺には分からないが。


「すまない。試飲させてもらっても良いか?」

「はい、大丈夫ですよ。どうぞ」


 随分と小さなコップに、透明の液体が注がれる。

 これが火酒?

 特に匂いも無さそうだし、普通の水にも見える。


「じゃあ、先ずはアタランテ……頼む」

「ま、任せて。私は、お……お酒の味くらい分かるんだから」


 アタランテが、そう言いながらジッと火酒を見つめ、固まった。

 もしかして、アタランテはやっぱり酒を飲んだ事が無いんじゃないのか?

 一旦アタランテを止めようとした所で、火酒を一口で飲み干す。


「アタランテ……今ので味なんて分かるのか?」

「……貴方。これぇぇぇ……」

「えっ!? アタランテっ!? アタランテーっ!?」


 アタランテが目を回して倒れてしまった。


「あの……火酒は一気に飲むような物では無いんですけど。まぁ、試飲用のグラスで、普通のグラスよりも更に小さいので大丈夫とは思いますが」

「そ、そうなのか」


 店員さん……出来れば、もう少し早く言って欲しかったんだが。

 一先ず、倒れたアタランテを抱きかかえた所で、


「ふっ……ただ酒を飲んだだけで目を回すなんて、まだまだだな」

「ヴィクトリーヌ! いけるのか!?」

「当然だ。我はもっとシュワシュワして、刺激のある物を、いつもビン一本飲んでいるからな。こんな小さなグラス程度、余裕だ」


 ヴィクトリーヌが試飲用のグラスに手を伸ばす。

 その言葉に店員さんが反応し、


「いいですね。スパーリング系を飲まれているのですか?」

「スパーリング? いや、そんな名前では無かったな。確か……レモネードって名前だったか? まぁそれはさて置き、いただこう」

「えっ!? お姉さん!? レモネードはお酒じゃなくて、ただのジュース……あ! あぁー……お客さん。この二人をちゃんと連れ帰ってくださいね?」


 そのまま視線が床に向けられる。

 いや、アタランテは怪しいと思っていたけど、ヴィクトリーヌもかよっ!

 連れて帰るのは大丈夫だけど、火酒の味見って、どうすれば良いんだ!?


「……仕方ない。ラウラちゃんが飲む」

「お嬢ちゃん、ごめんなさいね。これはお酒だから、お子様には飲ませられないのよ」

「……待って。ラウラちゃんはこう見えて成人。お酒も飲めない事はない」

「あの、お兄さんですかね? 妹さんを止めていただけませんか?」

「……違う。ラウラちゃんは、兄たんの未来の妻。子供じゃないし、なんなら夜に……」


 あ、危ねぇっ!

 ラウラは何を言うつもりだったんだよ!

 俺の手の中でモゴモゴ言っているラウラに視線を合わせ、優しく諭す。


「ラウラ。店員さんが困っているじゃないか。無理を言っちゃダメだぞ」


 ジト目のラウラが何か言いたそうなので、口を覆っていた手を離すと、


「……無理じゃない。ラウラちゃんは大人の女。お酒も飲めるし、子供も作れる」


 く、空気を読まずに言いやがった。


「へ、へー。お、奥様なんですねー」


 ほら、店員さんがドン引きしてるじゃないかっ!

 どうすんだよ、この空気。


「と、とりあえず、その大きな瓶をあるだけ買おう」

「えっ!? これを全部ですかっ!?」


 驚く店員さんを他所に、こっそり瞬間移動で目を回してしまった二人を屋敷へ。

 マーガレットを呼んで治癒を頼み、再び酒屋へ戻る。


「ところで、この大瓶はどこへ配達すれば良いですか?」

「いや、大丈夫だ。そのまま持ち帰る」

「はい?」

「あ、いや……そうだな。この店の外までは運んでくれ」

「は……はぁ」


 会計を済ませ、沢山の大きな瓶を店外まで運んでもらうと、空間収納を使い、そのままドワーフたちの元へと直行した。

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