第257話 暴走ヴィクトリーヌ

 朝目覚めると、いつものように視界へユーリヤの明るい茶色の髪の毛が……映らず、代わりに褐色の足が映っている。

 何だこれ……と視線を動かして行くと、頭と足が上下逆さまになり、大の字で眠るラウラの身体があった。

 こ、こいつ……どれだけ寝相が悪いんだっ! あと、やっぱりパンツは履いてくれっ!

 ユーリヤは、いつも俺の胸の上で寝ているのだが、ラウラに蹴飛ばされたのか、それとも足が嫌で自ら降りたのか、俺のすぐ横で抱きつくようにして眠っていた。


「にーに、おはよ」

「おはよう。ユーリヤ」


 俺が起きたからか、ユーリヤも目覚めたのだが……とりあえず、俺の胸の上に乗るラウラの足をどけ、無防備に曝け出された身体に毛布を掛ける。

 ユーリヤを着替えさせ、髪の毛に櫛を入れ、俺も着替えて……って、ラウラは全く起きないなっ!


「ラウラ、そろそろ起きろ」

「……」

「ラウラ。朝だ」

「……」

「ラウラ」

「……んむー、痛い」


 揺すっても、毛布を取っても起きず、ほっぺたを引っ張ってようやく起きた。


「ラウラ。寝起きが悪いのは百歩譲って仕方がないとして、どうして俺のベッドで寝てるんだ? ラウラのベッドは向こうだろ」

「……んー、夜トイレに行ったからー? 間違えた? ……そんな事より、お腹空いた」


 ラウラに年相応の女の子の振る舞いを求めるのは無理なのか? と諦めかけていると、


『あ、私がヘンリーさんに対して思っている気持ちを理解してもらえましたか?』

(何がだ? 俺はラウラみたいな側面は無いと思うんだが)

『いえ? ある特定の行動については、言うだけ無駄だと諦めましたよ?』


 何故かアオイに呆れられてしまった。

 アオイの言いたい事は全く理解出来なかったが、とりあえず皆で朝食を済ませた後、理由を説明して皆で露店へ。

 ラウラが一枚も下着を持っていない事を告げると、プリシラとクレアが張り切って服や下着を見繕ってくれたので、着替えさせてドワーフの国へと戻る。

 もちろん昨日と同様に適当な場所へ移動し、ワープ・ドアの魔法を使って、ドワーフの技術で作られたマジックアイテムだと言いながら中へ。

 置き手紙を残した、クレアが軟禁されていた部屋へ戻ると、


「貴様っ! よくもおめおめと戻ってこれたなっ!」


 リーダー格らしきドワーフが顔を真っ赤に染め、物凄い剣幕で迫ってきた。

 これは炉が直らなかったパターンか。


「すまない。俺に出来る事であれば何でもしよう。本当に申し訳ない」

「謝って済む事かっ! ワシの命よりも大切なのに、キズものにされたんだっ! 絶対に許さんっ!」

「それに関しては、そちらの言う通りだ。俺には謝る事しか出来ん」

「くっ……今まで大事にしてきたのに、こんな若造にたった一日で……貴様っ! 覚悟は出来ているんだろうなっ!」

「あぁ。殴って気が済むなら、好きにしてくれ」


 俺のせいでドワーフの大事な炉を壊してしまったんだ。

 それに、何とか炉を修復してもらって、聖銀を鍛えて貰わなければならないのだから、殴られてドワーフたちの気が済むのならば、それで良い。

 そう考えて前に出ると、ボディに強烈な一撃が飛んできた。

 最悪、ドワーフ全員から攻撃されるのではないかと思っていたが、どうやらこの一発だけらしく、相変わらず怒りの表情のまま口を開く。


「これから貴様には、古来よりドワーフ国に伝わる三つの試練を受けて貰う」

「ライマー様!? それはつまり、この人間を許すという事ですかっ!?」

「……許す、許さないの話では無い。事実は事実として受け止めるしかないであろう」


 別のドワーフが、先程俺を殴ったドワーフ――ライマーと呼ばれた者に、驚愕しながら問いかける。

 だが、そのライマーの回答に誰も反論しないあたり、やはりこのドワーフが一番上の立場なのだろう。


「俺がその試練を受ければ、今回の事は許してもらえるのだろうか」

「……先程別の者に言った通り、許すとか許さないとかという話ではない。だがこの試練は、よそ者を受け入れる為の大昔からのルールだ。これをクリア出来なければ、全てを忘れて諦めろ」


 なるほど。炉を壊してしまった事に関係無く、そもそもドワーフに鍛冶を依頼するためには試練をクリアしないといけないのか。

 炉の修理に時間が掛かるとしても、修理後にすぐ聖銀を加工してもらうために、試練を突破しておくべきだな。


「分かった。受けよう」

「……本当に試練を受けるんだな? 男に二言は無いな?」

「もちろんだ」


 ライマーが怒りから一転して、真剣な目で見てくるが、その瞳を真正面から受け止める。

 おそらく試練というからには、厳しい……命に関わるような内容なのだろう。

 それが三つ。

 だが魔族を倒し、人々を守ると決めたんだ。

 必ずクリアしてみせよう。

 そんな意気込みを込めて、ライマーの言葉を待って居ると、ヴィクトリーヌが割り込んできた。


「待ってくれ。今回の事は我も……」

「うるさい! その男が受けると言ったんだ。関係無い奴は引っ込んでろ! これはドワーフに伝わる大事なしきたりだ。これに関わって良いのは、当事者とその家族のみだ!」

「……そ、それならば、我はこのヘンリーの妻である。ならば、関与する権利があるという事になるであろう」


 ……って、ヴィクトリーヌ!? ヴィクトリーヌさん!?

 マジで何を言っているんだ!?

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