第254話 脱出

「ただいま。待たせたな」

「ヘンリー隊長。何をしていらっしゃるのです? クレアは良いのです?」

「プリシラ、違うッス。きっと師匠は、クレアにも特訓をしてあげているッス。拘束され、身動きが取れない状況で精神的に責められ、溶岩の熱で……」


 プリシラもドロシーも何を言っているのだろうか。

 プリシラはともかくとして、ドロシーに至っては喋っている内容すら理解出来ないのだが。


「何か誤解しているみたいだけど、サラマンダーなら元の状態に戻してきたぞ」

「流石に、ヘンリー隊長の足が早いと言っても、その冗談は笑えないのです。ここからだと、まだかなりの距離が残っているのです」

「いや、本当なんだよ。だよな、ラウラ」


 小脇に抱えたままのラウラに目をやると、


「……ん、確認した」


 面倒臭そうにはしているが、一先ず同意してくれた。


「という訳だ。今すぐクレアの所へ戻るぞ」


 小首を傾げるプリシラを促し、相変わらずユーリヤを背中におぶさり、ラウラを小脇に抱えたままで走りだす。

 猛ダッシュでドワーフたちが居た場所へ戻ると、


「おいっ! 今すぐ七番炉の調整を頼むっ!」

「マズイぞっ! 五番炉に亀裂が入ったらしい!」

「待て待て! それより、固まりかけていた溶岩を何とかするのが先だっ! 排出が間にあわねぇぞっ!」


 ドワーフたちが右へ左へと大慌てで走り回っている。


「これは……どういう状況なんだ?」

「……聞こえてくる話から推測すると、兄たんが火の精霊力を強くし過ぎた」

「え……それって、結構マズイのか?」

「……炉が壊れたら、とてつもなくマズイ。けど、壊れなかったら性能向上に繋がる」

「じゃあ、ちょっとだけ火の精霊を弱めに行って来ようか」

「……ううん。今更変な事しない方が良い。調整したのが、またやり直しになる」

「つまり、現状のまま何とか乗り切ってもらうしかないのか」


 一先ず、慌ただしいドワーフたちの邪魔にならないようにしつつ、クレアが居そうな場所をラウラに教えてもらい、


「クレア!」

「ヘンリー様っ! ……もう解決してくださったんですか?」

「あぁ。全速力で行ってきたぞ」

「ありがとうございます。……もう少し、私の事を考える時間が長くても……」

「ん? 何か言ったか?」

「いえいえ。何にも言ってませんよ?」


 無事にクレアと再会した。

 といっても、牢屋などに入れられている訳でもなく、鍵すらかかって居ない家に居た訳だが。

 とりあえず、クレアを無事に救出した訳なのだが、今度はドワーフに聖銀を鍛えてもらわなければ。


「ラウラ。この騒動は、どれくらい待てば収まりそうか分かるか?」

「……んー、良くも悪くも、明日の朝には収まるはず」

「ん? 良くも悪くもっていうのは、どういう意味だ?」

「……明日の朝には、炉が持ちこたえて調整が済むか、炉が壊れているかの、どっちか」

「そ、そうか。じゃあ、一先ず明日に改めて来るか」


 そう言うと、プリシラとヴィクトリーヌが露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

 まぁそうなるよな。


「ラウラ。確か、ドワーフ専用の地上へ一瞬に出られる装置があるんだよな」

「……? 兄たん、何言ってんの?」

「ほら、さっきサラマンダーが居た所で教えてくれたじゃないか。一瞬で、あっという間に遠くへテレポート出来る装置があるって」

「……あー、そういう話ね。うん、ある」


 ラウラが俺の言いたい事を察してくれたようで、話を合わせてくれた。

 というか、実際そういう出入り口とか、装置とかが必要だと思うんだよね。

 でないと、不便過ぎる。


「じゃあ、一旦街へ戻って明日訪れようか。勝手に姿を消すのはマズイと思うんだけど、誰に話を通しておけば良い?」

「……誰でも良いと思うけど、誰も話を聞いてくれないと思う」

「あー、この状況だもんな。じゃあ、手紙を置いておくか」


 小さな荷物袋から取り出す振りをしながら、空間収納魔法で便箋とペンを手にすると、火の精霊力を強めた事とクレアを連れて行く事。それから、明日の朝に再び訪れる事をしたためた。


「じゃあ、クレアが居た場所にこの手紙を置いておけば良いかな」

「……待って。ラウラちゃんからも一言添えておく」

「あぁ、そうだな。俺がラウラを振り切って逃げたと思われても困るし、ラウラからもメッセージを記しておいて貰えると助かる」

「……ん、書いた」

「ありがとう。じゃあ、皆一旦戻ろうか」


 小脇に抱えたラウラに教えてもらい、適当な人気の無い場所へと案内してもらうと、


「……ワープ・ドア」


 小声でこっそり魔法を使い、地上へ繋がる扉を作る。

 全員で地上へ戻ると、既に陽が落ちかけて……って、かなりの時間を土の中で過ごしていたんだな。


「……凄い。あっと言う間に地上……これが、外の世界……」


 初めて見る外の世界に感動しながらも、やっぱり歩こうとはしないラウラを連れて街へと戻ると、簡易の小屋では無く、ちゃんとした宿でぐっすり休む事にした。

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