第204話 ル○ンダイブ

「ソフィア。ソフィアってば」

「待って。さっきのは、ちょっとした気の迷いなのよっ! ウチはそんなに安くないんだからっ!」


 ソフィアは一体何の話をしているのだろうか。

 気の迷い? 安くない?

 ソフィアは貴族令嬢なのだから安い訳がないし、気の迷いを起こしていたのは俺の方なのだが。


「ソフィアは何を言っているんだ? それより、早く俺の家に行くぞ」

「だから、さっきのはウチがちょっと雰囲気に流されちゃったっていうか……ウチは、男の人の部屋へ簡単に行くような女じゃ無いんだからっ!」

「え? 来てくれないのか?」

「だ、だって、いくらアンタとウチの仲とは言っても、まだ何も、ちゃんと言葉で伝えて貰ってないのに部屋へ行くなんて。その、ウチは初めてだから、未だ心の準備が……」

「初めてなのは俺だって同じだ。顔に出していないだけで、正直、俺の方がソフィアよりも緊張していると思うぞ」


 なんせ、貧乳美少女のソフィアをあの父親に会わせるんだ。

 最悪、殺さない程度に父さんを吹き飛ばす事もあるかもしれないと思っている。

 いや状況によっては、むしろソフィアが父さんを殺しかねないな。

 ソフィアが得意な火の精霊魔法に対抗するため、何かしら水の防御魔法とかを準備しておくべきかもしれない。


「え? でもアンタは、その……周りに女の子がいっぱい居るじゃない」

「それとこれとは話が違うだろ。こんな事、ソフィアにしか言ってないってば」

「そ、そっか。そうよね。えっと……よ、よろしくお願いします」

「こちらこそ。というか、これに関してはソフィアの方が大変なんだからさ。俺に出来る事があれば何でも言ってくれよ」

「う、うん。じゃ、じゃあ……お互い初めてって事で、お手柔らかに」

「あぁ。じゃあ、行くぞ。ソフィア」


 ソフィアが家に行かないと言い出した時は困ったが、何とか来てくれる事になって良かった。

 一先ず、テレポートを使うため、ユーリヤを抱っこからおんぶに変え、ソフィアをお姫様抱っこしようとしたのだが、


「や、優しくしてね」


 変な事を言いながら、ソフィアが抱きついてきた。

 テレポートに優しいも優しくないも無いのだが、一先ず屋敷の中庭、扉の前へと移動する。


「御主人様、おかえりなさいま……あー、そちらが噂の方ですね?」

「噂? ワンダ、噂って?」

「いえいえ、何でもないんです。お嬢様、屋敷の中でメイドが控えております。どうぞ、中へ」


 微笑むワンダに促され、ソフィアが俺から離れてくれたのだが、何故か俺の手を握っている。

 これが貴族のエスコートなのだろうか。

 貴族のマナーだとかルールがさっぱり分からないので、一先ず左手でソフィアと、右手でユーリヤと手を繋ぎ、ワンダに扉を開けてもらって中へ。


「お帰りなさいませ、御主人様」

「ノーマ。ソフィアを――こちらの御令嬢をゲストルームへ案内してくれ」

「畏まりました。ソフィア様、こちらへどうぞ」


 ノーマにソフィアの事をお願いすると、ソフィアが一瞬不思議そうな表情で俺の顔を見つめてきた。

 そうか。普通は、教えを乞う父親を待たせておくのが当然で、ゲストであるソフィアを待たせるのは間違いか。

 礼儀作法がまだまだだな。ソフィアが許容してくれるのであれば、統治以外にこういった事も教えて貰わないとな。


「すまない。急いで父親を呼んでくるから、少しだけ待っていてくれないか」

「……あ! そ、そうね。お父様に紹介してもらうのよね。順番は守らないとね」

「あぁ。本当は今すぐにでもしたいんだが……悪い」

「き、気にしないで。ウチもすぐするつもりだったけど……その、少し冷静になるわね」


 ソフィアが今すぐ統治の話をしようという気になっているので、開発部屋まで走る時間も惜しんで、テレポートで移動する。


「父さん。昨日話した、領主代行の仕事についてレクチャーしてくれる人が来たから、早く……」

「おぉ、ヘンリー。良い所へ来たな。これをお前にやろう」

「いや、だからそんな事をしている時間は無いんだってば。もう屋敷で待って居るんだって」

「まぁ待て。父さんが今回作ったこのマジックアイテムは、今のヘンリーに足りない物を補ってくれるんだ」


 俺に足りないもの? 何だろう。貴族の礼儀作法を教えてくれるマジックアイテムとかか?

 もしもそうなら有り難い話なのだけど、今はソフィアを待たせているから早く移動したいのだが。


「父さん。それよりも急いで……」

「良いから。一度見れば、この有用性がお前にも分かるはずだ。ここで父さんが実演するから、よく見ておくんだ」

「……一回だけだからね。とにかく早く」

「わかった、わかった。まず準備だが、この腕輪型マジックアイテムを腕に着けるだけ。たったそれだけだ。この状態でジャンプし、左右の掌をくっつけ、同様に左右の足の裏をくっつけると……どうだっ! 一瞬にして服が外れ、全裸になる事が出来るんだっ!」

「……で?」

「いや、だから。ヘンリーとアタランテちゃんが夜に夫婦の生活を営み易くするためにだな、父さんが頑張って、一瞬で服を脱げるマジックアイテムを作ったんだ」

「そんなの要らないから、早く服を着ろっ! 父さんのせいで、わざわざ講師を呼んで来たのに待ってもらっているんだよっ!」


 満足げに、全裸で何も隠そうとせずに仁王立ちしているバカ――もとい父親に早く着替えるように言っていると、


「御主人様。ソフィア様がお待ち……」

「よーし、ノーマ。ノーマは何も見てない。見てないぞー。ほら、ゆーっくり目を瞑って、深呼吸。このまま暫くじっとして、十秒程くらい記憶を消そうねー」


 ノーマが俺を呼びに来てしまったので、猛ダッシュで俺の身体を使って視界を塞ぎ、何も見えないようにするためそのまま抱きしめる。

 くそ親父のせいでノーマにトラウマが植え付けられたら絶対に許さないからなっ!

 ソフィアが帰った後で父親を一発殴る事に決め、着替えが終わるまで、ノーマの記憶から余計な物が消えるように念じながら、頭を撫で続ける事にした。

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