第198話 ヘンリー専任教師

「おはようございまーす。魔法学校からヘンリー君の専任教師として派遣されてきた、パメラですっ! 十七歳、独身ですっ! よろしくお願いしまーっす」

「チェンジ!」


 屋敷に入ると、地雷臭のする女性がいきなり挨拶してきた。

 魔法学校の専任教師と言っているから、これがフローレンス様が言っていた、俺を出席扱いとするために、四六時中行動を共にするという教師だろう。

 なんていうか、最近行動を共にする女性が増えてきたからか、何となくヤバい感じを察する事が出来るようになった気がするのだが、とにかくコイツはヤバい。


「もぉー、ヘンリー君ったらー。いきなり何を言い出すのー? そんな事を言われたら、先生悲しいよぉー」

「いや、はっきり言わせてもらうけど、アンタ十七歳って嘘だろ」

「そんな事ないわよー。ほら、肌だってピッチピチよ。ピッチピチ」

「二十歳以下で肌アピールをする奴なんて居ねーよっ!」


 この屋敷に居るメンバーで、ユーリヤやワンダ、イロナなどの長寿組を除けば、二十歳のマーガレットが最年長なのだが、わざわざ来て貰う程でもないので、次点となる十九歳のジェーンを呼ぶ。


「主様。どうされました?」

「ジェーン。ちょっと、そこに居る人の隣に並んでくれ。……ほら、比べると一発だろ。この肌が綺麗で、見た目も声も可愛くて、胸が大きいジェーンが十九歳だ。一方……」

「ストップ! そこまでよっ! 確かに先生は十七歳ではないわ。でも、少しくらいサバ読んだって良いじゃないっ! 何か文句あるの!?」


 うわぁ。この女、開き直ったよ。というか、初対面で嘘を吐くなって。こんな所で年齢誤魔化して、何になるんだよっ!

 残念ながら、この先生は見た目が悪い訳ではなく、むしろ美人な部類に入るのだろうが、全身から残念なオーラが溢れ出ている気がするんだよな。


「ちなみに、どれくらいサバを読んだんだ?」

「うるさいわねー。そんなのどうだって良いでしょ。それより、これから暫くずっと一緒に居るんだから、仲良くしましょうね。ヘンリー君」

「……三十二歳くらい?」

「そんなにいって無いわよっ! 二十七よ、二十七。魔法学校で神聖魔法を専攻して、シスターとして教会に仕えたのが運の尽き。神に仕えるには清い身体でないといけないと言われ、この歳まで男性とお付き合いした事がないのよ!? このままじゃ、一生独身だと思って教師になったけど、同僚は皆結婚していって、私だけが取り残されていく……この気持ちが分かる!?」

「いや、その気持ちは分からないけど、俺が何となく嫌な感じがする理由が分かったよ。俺の母さんと二つしか違わないからだ」

「……は? 何それ。ヘンリー君は、会って早々先生にケンカ売ってんの!? 夜這いするわよ!?」


 怖い。怖いよ。

 こんな人と一緒に過ごさなくちゃいけないのか!?

 というかこれ、魔法学校側の嫌がらせか、もしくは使えない教師を押し付けただろ!

 マジでどーすんだよ、こんな人。


「主様。排除してもよろしいですか?」

「いや、待ってくれ。一応、これでも魔法学校の教師らしいんだ」

「一応じゃないもん。ちゃんと正式な教師だもん。ぷんぷん」


 口でぷんぷんって言う人、実際に居るんだな。

 ドン引きを越えて、むしろ感心していると、開発小屋に居たと思われる父さんが屋敷に入ってきた。


「おぉ、ヘンリー。丁度良い所に。ちょっと手に入れて欲しい材料があるんだが……って、この人は?」

「初めまして。ヘンリー君の専任教師として、魔法学校から派遣されたパメラと申します」

「そうですか。いつも息子がお世話になっております。では、私は用事がありますので、これで……」


 何故か父さんがまともな挨拶もせず、逃げるようにして屋敷から出て行こうとするので、その腕を掴んで逃がさない。


「父さん。急にどうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも無い。ヘンリーには見えないのか? あの残念なオーラが。絶対に近づいてはいけないタイプの女だぞ」

「あ、やっぱり父さんでもそう思う?」

「当たり前だ。父さんの見立てでは、二十代後半で胸はDランク。がさつで掃除が出来ず、汚い部屋で一人酒を嗜むタイプだな」

「え……何その見立て能力」

「父さんの血を引くヘンリーも、経験を積むことでこの力をきっと得られるようになるはずだ。さぁ、先ずはおっぱいのランクを見極める事から始めよう。昨日荷物を運んでくれたワンダちゃん……彼女のおっぱいランクは分かるか?」

「そこのダメ教師がDだから……Eランクか?」

「甘いな。ワンダちゃんは、あの女性と同じDランクだ。確かにパッと見はそこの女性の方が大きく――Eランクくらいに見える。だがあれは、少しでも胸を大きく見せようと、周囲の肉を寄せているに過ぎない。よって、おっぱい審査員の私の判定は、Dランクとなる」


 なるほど。二十代ともなると、そんな技を覚えてくるのか。

 元々パメラとワンダは同じくらいの大きさの胸なのに、見栄えのテクニックでEランクに見せかけてくるのか。


「……って、何の話だよっ!」

「そうですよっ! さっきから先生を無視して、一体何をしているんですかっ!? ……いいんです。どうせ先生は、二十七歳にもなって結婚していない、行き遅れなんです。このまま一生独身で過ごすんです。えーん」


 う、うぜぇ。

 とはいえ、パメラはこんなのでも正式に魔法学校から派遣されてきた教師だ。

 何か対策を考えないと、ストレスでやられてしまう。

 下手な泣き真似をするパメラを前に、俺は頭を抱える事になってしまった。

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