第163話 褐色巨乳エルフ

「お、お兄ちゃんっ! エルフ……ダークエルフが居るよっ!」

「どっちの方角だ?」

「うーんと……あっち!」


 森の中を切り開いて作られたような街、フォレスト・タウンの東側に到着すると、ルミが西の方角にエルフが居ると言う。


『私も、エルフらしき魔力を西方向に感じます』

(なるほど。二人とも西だっていうなら間違いないだろう。すぐに行ってみよう)


 方角が分かっているので聞き込みも不要だろうと、大通りをルミと共に歩いて行く。

 流石に街の中で爆走する訳にはいかないので、街の様子を見ながら西へ向かっているのだが、木材を扱う職人が多い街というだけあって、木で作られた建物が多い。

 ブライタニア王国では、石……というか煉瓦で作られた家が多い印象なので、他の国へ来ているのだという実感が湧く。

 とはいえ、すぐ隣の国だし、髪の色や肌の色が違う訳でもなくて言葉も同じだが。


「西側の門が見えて来たな……って、あれ? 西側に森らしきものが全く見えないんだが」

「あ、あれ? でも、向こうからダークエルフの魔力を感じるんだけど」

「分かった。この先の街道が下り坂になっているんじゃないか? だから街から森が見えないだけで、あの門まで行けば眼下に森が広がるんだろ」


 黒い森という名称で、ダークエルフが住処としている場所だ。

 おそらく陽が射し込まない程に葉が生い茂った森で、魔物も凶悪な奴が現れるのではないだろうか。

 そんな事を想像しながら歩みを進め、街の西側、西門へ到着した。


「……森、無いな」

「……森、無いね」


 西門からの景色は、平らな道が真っ直ぐに伸び、その先から右に大きくカーブしている。

 というのも、森の中みたいだった街の東側とは異なり、西側は平原となっていて、その上街道が曲がる少し先が海だ。

 はっきり言って、森らしきものは影も形も無い。


「お兄ちゃん。でも、エルフの魔力はあっちから感じるんだよー」

「うーん。だが、森が無いんだよな」

「とりあえず行ってみようよ。魔力は感じるんだし」

「そうだな……あ、分かった! これはダークエルフが大規模な隠蔽魔法を使っているんじゃないか? 本当はあの先に黒い森があるのに、海に見えるとか」

「それならルミが気付けると思うよ? というか、ルミにも海にしか見えないんだけどさ」


 黒い森とは何なのだろうか。

 何かの隠語とかか?

 ダークエルフが隠れる為に、何か条件を満たさないと入れないとか?


『私も未だに西からエルフらしき魔力を感じていますが、隠蔽しているようには思えませんが』

(なるほど。でも、森が視界に全く映らないんだけど)

『んー、あくまでも可能性ですが、実はどこかに地割れが有って、その下に森が広がっているとか』

(あー、隠している訳ではなくて、自然の要塞的な感じか。あの海側が崖になっていて、横穴の洞窟から中に入れるとか)

『それなら、地上に森が見えないのに、依然としてエルフらしき魔力を感じられるのも納得出来るかと』

(わかった。じゃあ、とにかく二人が魔力を感じている方角へ行ってみよう)


 視界にはただの平原の中の街道にしか見えないが、一先ず近づいてみようとルミに告げ、念のため周囲を注視しながら歩いて行く。

 目を凝らして見ても、アオイに魔力的な何かが無いかを聞いてみても、やはり普通の平原らしい。

 結局、街道がカーブしている所まで来たものの、何も手掛かりらしき物を見つける事が出来ず、ルミとアオイが魔力を感じるという方角に向かい、街道を外れて歩いて行く。


「お兄ちゃん。どんどんダークエルフが近くなっているよ」

「けど、森なんて全く無いし、この草むらの先は……砂浜か」

「お兄ちゃん、何か変な匂いがするよー?」

「あぁ、これは潮の香りだ。海が近いから、風に乗って海の匂いが漂っているんだよ」


 森に生きるエルフらしく、ルミは海を知らないらしい。

 しかし潮の香りが示す通り、この先は砂浜なので、断崖絶壁の横穴が森に繋がっている……というのも無さそうだし、海がすぐ傍にあるこの場所で、地下の森というのも考え難い。

 一体、どうなっているんだ!?

 いろんな可能性を考えている内に、最悪の可能性に気付く。

 ……まさか、既にロリコン魔族によってダークエルフの村が襲われて居て、俺たちを罠にはめるために、瀕死のダークエルフを海に置いて居るのか!?

 それを見つけた俺たちが、ダークエルフを助けようとした所を攻撃してくるとか。

 もしも俺の予想通りだとしたら、このまま砂浜へ入るのはマズい。

 砂地は足を取られて機動性が落ちてしまうので、空を飛ぶ魔族の方が圧倒的に有利だ。

 所々にある大きな岩を足場にするにしても、跳び乗れるような大きさではないし、どうしたものか。

 一先ず、一旦歩みを止めようとしたのだが、その前にルミが砂浜に向かって走り出す。


「お兄ちゃん! この大きな岩の裏に……」

「ルミ、待つんだっ!」


 前を行くルミを止めようと、走って追いついた所で、


「いらっしゃーい! ダークエルフの海の家、お二人様ご案内でーす!」


 岩の陰から、水着姿の褐色巨乳エルフ……ダークエルフのお姉さんが笑顔で現れた。

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