第156話 ダークエルフ

 ダークエルフ……高い魔力を持つエルフが更なる力を求め、邪神などを崇拝するようになったとされる、エルフであってエルフではない種族。

 高い魔力は破壊の力を生み出し、素早い動きに加えて、毒や呪いといった物も使ってくる。

 精霊の力で姿を消し、影からの暗殺や、痕跡を残さない毒殺などを得意とする事で有名。

 尚、元は同じ種族であったエルフはもちろん、人間やドワーフなどとも一切交流を持たない。


 以上が俺の知る……というか、俺が想い描いて居るダークエルフ像だ。

 魔法学校の先生とかに聞くとまた違う答えが帰ってくるかもしれないが、少なくとも士官学校の生徒や魔法学校の生徒だと、殆ど同じようなイメージだろう。


(いや、ダメじゃん。魔族を倒す為にエルフの村へ行ったら、そこに居るエルフから刺されるパターンじゃないか)

『うーん。でも魔族が攻めてくるとわかれば、協力してくれるんじゃないですかね?』

(だけど、ダークエルフだぞ? 下手をすれば、自ら進んで魔族に協力しそうじゃないか)

『でも、そこで倒しておかないと、次はいつ現れるかも分かりませんよ?』

(そうだな。エリーのお母さんも早く救出してあげたいしな)


 とはいえ、ダークエルフの村か。

 毒や呪いを使われた時の為に、マーガレットは絶対に連れて行かないとな。


『ヘンリーさん。マーガレットさんは今日から動けませんよ?』

(……あぁっ! そうだった。まずいな。どうしよう)

『あの、私も神聖魔法は使えますからね? まぁマーガレットさん程ではありませんが』

(いやいや、毒や呪いだぞ!? 聖銀を取りに行ったフィオンの洞窟の事を考えてみろよ。俺自身が毒とか呪いとか幻覚をくらったら、何も出来ないんだってば)

『あー、確かに。あの時は酷かったですもんね』

(マーガレットの作業が終わるまで待つって訳にはいかないし、どうすっかな)

『私以外の誰かが神聖魔法を使えれば良いのですよね? でしたら、魔法騎士隊の方に来て貰えば良いのでは?』

(それもダメだ。今回は国外へ行くから、正規の騎士隊は連れて行けない。かといって魔法学校の生徒では力不足だし……気合で毒を避けるしかないか)


 実を言うと、騎士隊ではなく、学生でもなくて神聖魔法を使える人に心当たりがある。

 が、絶対に来てくれないだろう。

 なんせ、ジェーンが戦っている時に横槍を入れようとしていたから、妨害の為に思いっきり服をひんむいたしな。


『あー、あの教会騒動の時に来ていた、お付きの女性ですか』

(あぁ。やっていた事は良くないが、良いおっぱいとお尻だった)

『ヘンリーさんがした事も大概でしたけどね』


 アオイが呆れていると、暫く黙っていたエリーが口を開く。


「ねぇ、ハー君。ダークエルフって何なのー?」

「えっ? 知らないの?」

「うん。知らないよー?」


 マジかよ。

 俺が小さい頃は、親から「言う事を聞かない子どもは、ダークエルフに襲われる」と脅されたものなのだが、エリーの家はそういうのが無かったのだろうか。

 一先ずエリーを怖がらせないようにしつつ、どうやって説明しようかと考えていると、


「ほっほ、お嬢さん。では、せっかくですのでダークエルフについて、お教えいたしましょう」

「はーい! お願いしまーす!」

「ダークエルフというのはですな、ここから遥か南西にある『黒の森』と呼ばれる程に木々が密集する場所を拠点としているエルフ族の事なのですよ」

「へぇー、そうなんだー。おじいさん、ありがとー」


 サロモンさんがかなりマイルドな説明をしてくれた。

 エリーを無駄に怖がらせるような話が出て来なくて良かったよ。

 しかし、今の話で重要な事を知ることが出来た。

 ダークエルフは黒の森という場所に住んでいるのか。

 それが探す手掛かりになりそうだな。


「南西にある黒の森……これを手がかりにエルフの村を探すか」

「お兄ちゃん。何を言っているの? 手がかりも何も、ルミが居るじゃない」

「……どういう意味だ?」

「同じエルフだし、近くまで行けば大よその場所は分かるよー」


 なるほど。

 流石はエルフというべきか。

 アオイとはまた違う方法で、場所を知る事が出来るらしい。


「でも、ダークエルフの村だろ? 手伝ってくれるのはありがたいけど、危なくないか? 魔族が来るかもしれないし、交流も無いんだろ?」

「だけどお兄ちゃんが居るじゃない。何かあれば、時空魔法で家にもすぐ帰れるでしょ? あと、むしろ交流が無いからこそ、今ルミが行くんだよー」

「交流復活の為に……って事か?」

「その通りっ! という訳で、おじいちゃん。ルミはお兄ちゃんと一緒に行ってくるから」


 おいおい、軽いな!

 魔族が来るダークエルフの村へ行くんだぞ? わかっているのか?

 まぁルミの言うように、最悪テレポートやワープ・ドアで村まで送るが。

 残る課題はエリーの説得だな。

 いくらなんでも、国外にあるダークエルフの村へエリーを連れて行く訳にはいかない。


 ルミがサロモンさんからあっさり同行の許可を得て準備をしている間に、エリーを説得……


「じゃあ、せめて夜はエリーのお家に来てよー! でないと寂しいよぉー!」


 出来ず、ワープ・ドアで毎晩エリーの家へ行き、野宿の代わりにそこへ泊まる事になってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る